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貧困と飢饉 [学術書]


貧困と飢饉 (岩波現代文庫)

貧困と飢饉 (岩波現代文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: 文庫



岩波現代文庫の目録をなんとなく眺めていたら、面白そうなタイトルを見つけ、内容を読むと更に面白そうだったので購入してみた。
作者のアマルティア・センは、インドの経済学者でノーベル経済学賞も受賞しているらしいい。

この本の主張は、飢饉が起こるのは、ある地域に食料が絶対的に足りない、FAD(Food Availability Decline)が原因なのではなく、人が食料などにアプローチできる「権原」が不足していることが原因なのだということ。それを様々な場所で起こった大飢饉を例に取りながら論を繰り広げている。

自分も飢饉というと、食料が絶対的に足りていなくて、それを何らかの方法で送り、送られた政府がちゃんと考えて、うまく分配できればなくなるはずなのに、政府が間で搾取しているからなのだろうなあ、とぼんやり考えていたのだが、そうした部分をもっと詳細に、様々な観点から論じている感じだ。

センの言葉を引用しながらこの本を見ていきたい。

p.v (訳者まえがき)
「本書で用いられる「権原」とは、ある社会において正当な方法で「ある財の集まりを手に入れ、もしくは自由に用いることのできる能力・資格」あるいは、そのような能力・資格によって「ある人が手に入れ、もしくは自由に用いることができる財の組み合わせの集合」を意味する。」

すごく簡単に言ってしまえば、飢饉が起こるのは、確かに食料の絶対量が足りないせいもあるかもしれないが、存在するはずの食料にありつける能力や資格が足りない人が多く存在し、その人たちが飢饉に合うのだということ。つまりこれは政治・経済の問題であり、格差の問題なのだということだと思う。

p.12
「この研究で用いられる権限アプローチは非常に普遍的なものであるが、飢餓と貧困の分析には避けて通れないと私は主張したい。にもかかわらず奇妙で異例なアプローチに見えるならば、それは、誰が何を手にすることが出来るかではなく、何が存在しているかで物事を考える伝統にとらわれているためである。」

これは、飢餓問題に限ったものではなく、95%の人(権力者も含む、というより権力者はほぼ皆そうだが・・・)は、目に見えるもの、形あるものでものごとを判断し、「どのように」というようなことは問題にしないのだ。そしてその95%の人間の雰囲気で色々な物事が決まっていくから、社会はうまく回っていかないのだ。

p.p. 264~265
「食料供給と食料への権限とを媒介するものが法である。飢餓による死とは、その社会で何が合法であるかを極端な形で映し出していると言えるのである。」

つまり、権限を持っている者(権力者・金持ち)だけが食べ物にありつき、権限を持っていないもの(貧乏人)が死んでいく、それを社会の法が許しているということだ。

p.278
「公衆が基礎教育を得ていることは、地域の保健医療サービスや一般の医療施設を利用するうえで、重要な枠割を果たしうる。この点に関しては、とりわけ女性の教育が重要である。」

今となっては常識だが、女性の教育が、様々な問題を解決していくのである。

p.295
「権原保護のために最低限の所得を創出することは、様々な方法で可能である。中でも、現金賃金による公的雇用は、効果的な方法となる可能性がある。」

これは、かなり新しい発見だった。確かに、公的な資金を使って、困っている人に職を持ってもらい、稼いでもらうというのはとても良い方法だと思う。日本も考えるべきしてんだ。

最終的には、民主主義と人々の積極的な関わりが、公正な社会を作り、議論を生み出し、貧困と基金を解決していける、という彼の主張に私は強く同意する。

とても刺激的で良い本だった。
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