鳥にさらわれた娘 [文学 日本 安房直子 た行]
ある海沿いの村に、色の白いとてもきれいな女の子がいた。あまりにもきれいなので、村人たちはさらわれてしまわないか心配するほどだった。
ある日、この女の子がいなくなってしまった。色々と捜索するが見つからず、本当にさらわれてしまったのではとみんなが心配した。1週間ほど経って、この女の子は帰ってきた。
女の子によると、海辺で遊んでいると、鳥のシギに、「きれいなものをみせてあげるからついておいで」と言われ遠くまでついて行った、ということだった。シギは海からきれいな珠を持ち帰り、女の子にくれる。日に日にやせ細っていくシギ。いろいろなことが怖くなってきた女の子はシギがくれた色とりどりの珠を持って家に逃げ帰る。
家に逃げ帰った女の子は当然村中の話題になり、シギにさらわれたという話を信じる人と、人間にさらわれて何かされたのではないかと疑る人とがいて、結局彼女と家族は村八分状態になる。
貧乏になってしまって食べるのにも困った女の子は、シギがくれた色とりどりの珠で作った財布を撫でて、「シギさん助けて」と語りかける。すると、シギの絵が書かれた金貨が中に入っている。それをどこかに持って行ってお金に変えようと考え、バスで離れた町へ行く。色々と探し回った挙句なんとかお金に変えてくれる店を見つける。
その後何度か困ると同じようなことを繰り返し食いつなぐ。金貨を変えてくれる店のそばに靴屋があり、虹色の靴が売っている。この店の前を通るたびにその靴にみとれていたのだが、ある日この靴が欲しくてたまらなくなる。シギに頼むとくれる金貨が7枚手に入れば、その靴が買える、ということで、シギに連続で頼み金貨を手に入れる。それをいつもの店に持っていくと、お金に変えなくてもその金貨で買えると言われその靴を買いに行く。
買ってその靴を履くと、何故か足が消え鳥になっていく。いつもの店に戻って訳を聞くと、シギのお金でシギの作ったものを買うとシギになるのだと言われる。その店の主人はあのシギだったのだ。
二人は一緒に、仲間と合流し南の国へと向かう。
共同体の恐ろしさと純愛を描いた、少し長めの色々と考えさせられる作品。
鳥 [文学 日本 安房直子 た行]
ある町に腕の良い耳のお医者さんがいた。
ある日、大体診療が終わりゆっくりしていたところ、少女が駆け込んできて、耳にものが入ったから取り出してくれと頼まれる。何が入ったのか聞いたところ少女は「ひみつ」と答える。
少女はボート小屋で働いていた。ある日時間が過ぎても帰ってこないボートがあり、ずっと待っていると若い男の子がボートに乗って帰ってくる。色々と話すうちに二人は仲良くなる。
そのうち、ボートに乗って二人で遠くへ行ってしまおうという話になるが、少年の母親が許そうとしない。しかしその母親は実は本当の母親ではなく魔女だった。ある日魔女の家にやってきたカモメがあまり綺麗だったので家で飼うことに。しかしメスのカモメがしつこく捕まっているオスのかカモメを救い出そうと外で鳴き続ける。うるさく思った魔女は赤い実を飲ませオスのカモメを人間にしてしまう。その実をメスのカモメもついばむ。
魔女は、自分がカモメを人間にした話をし、また人間の女の子に取られてしまうくらいならカモメに戻してしまおうとしている、と女の子に告げる。今日中に伝えられた秘密を耳の中から取り出さない限り、男の子は人間に戻れない、と告げられ、急いで女の子はこの耳の医者のところにやってきたのだという。
お医者さんはいろいろ試すがうまくいかない。がっかりして帰っていく女の子。しかしお医者さんはこの女の子が実はあのメスのかもめだったことに気がつきそのことを女の子に伝えに必死で走って追いかける。
結構恐ろしい話なのだが、女の子の一途な想いが心をうつ。
トランプの中の家 [文学 日本 安房直子 た行]
9歳の女の子は、3歳の妹あつ子を連れておばさんのところへケーキを持っていくよう母親に頼まれる。おばさんの家は森の道を抜けたところにある。
彼女たち一家は一週間前に森の家へ引っ越してきた。体の弱い妹のために自然の中で暮らすことを決めたという。
森に入って行っておばさんの家へ行った時のために「しばらくこちらにいますから、どうぞよろしくおねがいします」と挨拶の練習をしていたところ、「はいはい、こちらこそ」と後ろから言われ振り向いてみるとそこにはうさぎがいた。いろいろ話しているうちに、そのうさぎはトランプの中のお屋敷から出てきたことがわかる。
うさぎは変な歌を歌ってトランプの中へ消えてしまう。女の子も同じように歌うと妹を置いてトランプの世界へ入り込んでしまう。
妹を置いてトランプの世界へ入り込んでしまったので、急いで戻らなくては、と考え先ほどのうさぎを探す。不思議なお屋敷を探検し、ようやく森で会ったうさぎに出会う。うさぎはこのお屋敷の料理人だった。この料理人のうさぎには恋人がいて、その恋人はこの屋敷の娘さん。
この恋人のうさぎが、女の子が元いた森の世界へ行ってしまっていることに気がついた、女の子と料理人のうさぎは急いで戻る。
すると、トランプの世界へ戻るためのトランプを妹のあつ子が握っており、それを料理人のうさぎが取り返そうとする。色々ともみ合っているうちにトランプは破れてしまい、うさぎたちは帰れなくなってしまう。料理人のうさぎは困って泣き出すが、恋人の娘はあっさり、「この森で暮らしましょう」と言う。そしてこの森で料理屋さんをすることに決める。
女の子とあつ子もおばさんの家へ向かう。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をもじったような、でも全く不条理感はなく心温まる話。
p.160
「森の木というのは、不思議なものね。人の心を、こんなにやさしくしてくれるんだから」
この言葉に、安房直子がこの話に詰め込みたかったことが凝縮されていると思う。
遠い野ばらの村 [文学 日本 安房直子 た行]
ある村に雑貨屋を開くおばあさんが住んでいて、遠い村にいる息子とその三人の孫の話を、色んな人にしていた。しかし、おばあさんはずっと独り身できたので、息子ましてや孫などいないことは皆知っていた。
空想の孫娘のために着物を縫っていたところ、小さな女の子がたずねてくる。父親が作った「野ばら堂のせっけん」を雑貨屋に置いて売ってくれないか、というのだ。快く引き受けたおばあさんは20個受け取ると、1週間後に取りに来るように伝える。せっけんは飛ぶように売れすぐに売り切れてしまった。
次の日に来る女の子におはぎを作ってあげようと、あずきを洗っていると、今度は男の子二人と女の子で約束の一日前にやって来る。まだあずきが固くておはぎは作れないと悩んでいると、女の子はおまじないをかけ柔らかくしてしまう。柔らかくなったもち米とあずきを似ておいしいおはぎを作り、三人に食べさせる。もう遅いから泊まっていきなといい、泊まらせたが次の日布団はもぬけの殻。布団にたぬきの毛が残っており、こどもはたぬきだったことがわかる。
三人の子どもはその後ずっと現れない。ある日野ばら堂のせっけんでシャボン玉を作っている子どもたちに出会い、おばあさんもシャボン玉をやらせてもらう。シャボン玉は風に運ばれ山の方へ。それをおばあさんは追いかけていく。
そこでこだぬき三匹に出会う。おばあさんとこだぬきたちは仲良く話をし、おばあさんは「また来るんだよ」と伝え、たぬきが用意してくれた提灯を持って家に帰っていく。
嘘をついたり、だましたり、というのは一般的は良くないのかもしれないが、心温まる嘘や騙しもある、ということを伝えてくれるほっこりする話。
天窓のある家 [文学 日本 安房直子 た行]
友人の別荘の山小屋風の建物に泊まったある男性の話。
その家には天窓がついていて、その天窓からは、多いなこぶしの木の枝がよく見える。
彼は悲しいことが重なり神経がまいっていて、それを見かねた友人がこの別荘を貸してくれた。
ぼんやり天窓から外を眺めていたところ、こぶしの木についていた花の影が布団の上で揺れた。その影を何とはなしに触ってみると、何と影が銀色に変化してしまう。さらにそれをつまみあげるとその花の影がつまめてしまった。あまりの驚きに「うわあ、お母さん、すごいよ。」と叫んでしまう。彼は3ヶ月ほど前に母を亡くしていた。
その後彼に不思議な声が聞こえるようになる。「かえして、かえして、影をかえして」という。見上げるとこぶしの木が天窓から見え、こぶしの木に「ねえ」と呼びかけてみる。すると、こぶしの木が言葉を話して答えてくれた。そして自分の影をかえしてくれ、と頼まれる。返すことを約束し会話は終わる。
しかし実際返すとなるともったいない気がしてしまい、結局それを持ったまま別荘から逃げ帰る。途中「かえして、かえして、影をかえして」という声にひたすら追われながら。
自分の家に戻り少し元気を取り戻し、お守りに花の影を首に下げてからはみるみる回復し仕事も順調に進み、結婚までし、子供にも恵まれ自分の家も持つ。
そんなある日、山小屋の持ち主に会い、こぶしの木が病気になってしまって、あの小屋を取り壊すことを耳にする。
こぶしの木が自分に生気を与えてくれてたことを知り、彼は申し訳ない気持ちでいっぱいになる・・・。
昔話的な、自然が人間に与えてくれる力を優しく物語で描いた作品。
天の鹿 [文学 日本 安房直子 た行]
再読
鹿撃ちの名人である、清十という漁師がいた。ある日立派な牡鹿を見つけ撃とうとするが「通してくれ。かわりに、たくさんお礼をしよう」「すばらしい宝ものをあげるから」と言われ鹿を殺さず鹿についていく。
鹿の背に乗って離山まで行き、鹿の市まで連れて行かれる。そこで金貨一枚をもらい、鹿の市で売られているものはすべて金貨一枚と交換できるから一時間で買い物をして帰ってくるよう言われる。
清十さんは紫水晶の首飾りと交換して家に帰る。
彼には三人の娘がいる。一番下の娘は一度病気をした時に、鹿のきもを食べて治った経験がある。
その後娘たちも鹿に出会いそれぞれ鹿の市に連れて行ってもらう。
一番上の娘は、美しい花柄の絹の反物と交換するが、帰り道花柄がすべて飛び散ってしまう。
二番目の娘は、高価なものと交換しようと思っていたが、あたりの暗さにビビって結局ランプを購入する。しかし最終的にランプは地に落ちて壊れてしまう。
三番目の娘も、同じように鹿の市に連れて行ってもらうが、この娘だけは山を超え大変な思いをしている鹿のことを心配したり思いを寄せる。三番目の娘が自分のきもを昔食べたことを知り、二人は結ばれ天へと・・・
かなり余韻を残す美しい物語。
てまり [文学 日本 安房直子 た行]
お屋敷のお座敷の奥でお姫様が泣き叫んでいる。遊び友達のふたりの女の子がはしかにかかってしまい一人ぼっちになってしまったのだ。
泣きながらこの間見た夢のことを思い出していると、庭の方から「あんた、どうして泣いてるの」という声が聞こえる。見ると一人の女の子が立っている。そこでこっちへ来るよう言うと、てまりを持ってやってくる。中に鈴が入ったおばあさんお手製のてまりだった。そのてまりをたもとに入れると、機織りをしている女性の姿が見える。
てまりで遊んだ後ふたたびたもとにいれて覗き込むと、今度は菜の花畑が見える。
女の子はかつて夢を見たことがあった。
「あしたてんきになあれ」と下駄を飛ばしていたらその下駄が飛んでいってしまい探していたところ菜の花畑が目の前に広がる。下駄は見つからず諦めて帰ろうとしたところ、綺麗な鈴がついたぽっくりが上から降ってくる。そのぽっくりをさがす声が聞こえてくるが、鈴があまりにも綺麗だったのでその鈴を持って逃げる。そこで夢は終わるが、なぜか鈴だけは手に持ったまま。
お姫様もかつて夢を見たことがあった。
菜の花畑で、鈴のついたぽっくりをなげた夢。
ふたりの夢がつながっていたことをしりにっこりする二人。それから二人はこっそり庭で一緒に遊んでいた。
ある日少女が現れない。再び泣いて少女の名前を読んでいたところ、乳母がそれを聞きつけ、身分の低い少女が入り込んでいたことがわかる。町で少女を探すと彼女もはしかにかかっていたことが分かり、お姫様もはしかにかかってしまう。
病気が治り、おせんに会いたいと思っているがやはり現れない。寂しく思っているとある日てまりが外から投げ入れられる。それをたもとに入れ中を覗き込むと、すでに労働している女の子の姿が・・・。
身分違いの少女たちの友情と別れを描いた美しくも悲しい話。
鶴の家 [文学 日本 安房直子 た行]
猟師の長吉さんが、結婚した夜。「おめでとさんです」と言って知らない女性がやってきて、青いお皿をお祝いにくれる。いったい誰だったのだろう、と二人で考えているうちに、長吉さんはハッとして、実はこの間間違えて撃ち落としてしまった、絶滅危惧種の丹頂鶴だったのではと思う。
恐ろしくなった二人はしばらくこのお皿をしまっておいた。
ある日嫁さんがこのお皿におにぎりをよそってみるととてもおいしい。それ以来このお皿を使うようになり、どんどん長吉さんは太っていき、獲物もどんどんとれるようになり、いつしか家も大きくなり、こどもも八人できる。
どんどん家も栄え、孫もできて、長吉さんはぽっくり逝ってしまう。すると不思議なことに、青いお皿に鶴の絵が浮かび上がってくる。おばあさんは、「あの人のたましいだ」と思うが、家族には黙っている。
ときは経ち、子どもたちが戦争に行くことに。初めは連絡が来ていたがそのうち連絡が途絶える。するとお皿に3羽の鶴が浮かび上がる。おばあさんが息子たちが死んでしまったと嘆いていると、嫁たちはおばあさんが気が狂ってしまったと思う。しかし数日後、それぞれの戦死の報が届く。
その後も家族のものが死ぬたびに鶴の絵は増えていく。それに気がついていたのは孫の春子だけだった。
春子が結婚する日。春子が鶴の青い皿を眺めていると、鶴の羽ばたきと鳴き声がお皿の中から湧き上がってくる気がする。皿は春子の手から離れ床に落ち割れてしまう。すると何羽もの鶴が空へ飛び立っていく。
それをみた人々は、結婚式の日に鶴が何羽も飛び立つなんて幸運のしるしだ、と思う。
殺してしまった鶴に恩返し(?)をされる、なんとも心温まる話。
月へ行くはしご [文学 日本 安房直子 た行]
誕生日に、おばあちゃんにうさぎさんをもらったけい子。おばあちゃんに、満月の夜はうさぎは月にのぼっていってしまうから気をつけるよう言われる。
秋の満月の夜、おばあちゃんの言ったとおりうさぎは窓から逃げて月へ向かっていた。それを追いかけるけい子。コスモスの花たちに、銀のはしごでうさぎが月へ登っているのを教えてもらい、銀のはしごのところへ向かい登っていく。
途中、「パーン」という音がなり、登っていたはずのうさぎたちが消える。振り返ると、銃を手にした猟師の男がウサギを手に持っている。話を聞くと「うさぎ鍋」を作るためのうさぎを取っているとのこと。猟師には二人の娘がおり、二人に一羽ずつうさぎを食べさせたいのでもう一羽必要とのこと。違う場所で、鍋を調理している二人の娘にも合う。
このままでは自分のうさぎを殺されてしまうと思い必死で自分のうさぎを探すけい子。そこへ、黄色い月見草の花たちが話しかけ、「自分たちを摘んでハンカチでもんで、黄色いハンカチにして、それをうさぎの目にかぶせ目隠しすれば大丈夫」という。
はじめは躊躇したけい子だが、月見草の花たちに強く促され実行する。無事自分のうさぎを捕まえ家に連れ帰る。
人間は自然と共に生き、自然の恵みをいただきながら生きていることを優しく知らせてくれる本。地味だが良本だと言える。
月の光 [文学 日本 安房直子 た行]
病気で長いあいだ入院している少女がいる。
ある日彼女に小包みが届く。差出人のところには「月の光」としか書いてない。
中には、色とりどりの糸の束と糸巻きのような道具と銀の編み棒。
これは「リリヤン」というものを作るためのものだと少女はすぐに気がつく。リリヤンとは簡単に編める一本の棒。
さっそく編み始めると、看護師さんに、細かい仕事は体に毒だからと止められてしまう。
そこでみんなが寝静まった夜、月の光でリリヤンをあむ。数ヶ月過ぎて5m近くなった頃、「おいで、おいで」と誰かに呼ばれる。窓から外を見ると月の光がさしており、窓の下には白く美しい若者がいる。
窓にリリヤンをくくりつけ、ひもをつたって下へおり、少女と若者は二人で走っていき、月が沈む頃ふたりは消えてしまう。
幻想的で美しくも儚く悲しい話。
小さい金の針 [文学 日本 安房直子 た行]
お嫁に来るときに持ってきた、裁縫道具が入ったバスケットを大切にしているおばあさん。裁縫が大好きなおばあさんは裁縫が終わるといつも針さしに刺さった針を数えていた。
小さい針がひいふうみい
大きい針がひいふうみい
ある日、金の針がその針さしに刺さっていた。びっくりしたがそのままにしていると、ある日ねずみの奥さんのものだということがわかる。ねずみは遠くへ引越しするために家族12匹分のくつを縫っているのだという。遂に12足の靴が完成し、針さしに針を刺させてくれたお礼としてねずみはその金の針をプレゼントしてくれた。
おばあさんがその針を使ってみると、ミシンよりも速く縫えてしまう。せっかくなので普段あまり縫わないカーテンを縫う。どんどんぬえてしまうので家中白いカーテンだらけになってしまう。
ある晩おばあさんが目を覚ますとそこは森の中。ねずみの一家とそこで出会う。そこでねずみ一家とトランプ遊びをして次の日目を覚ますと、自分の家に。トランプが一枚あり、裏を見ると「やっぱり金の針を返してください」とある。
ちょっと不思議な愛らしいお話。若干Beatrix Potter的な雰囲気がある。
小さいやさしい右手 [文学 日本 安房直子 た行]
ある森にまものの子どもが住んでいた。おまじないをして右手をひらくと、ほしいものが何でも手の中に入ってくるというまほうを覚えたばかりだった。
この森の入口に母親とふたりの娘が住んでいた。母親は娘ふたりに「ウサギにたべさせる草を刈っておいで。でも草が、かごいっぱいになるまでは、かえってきちゃいけないよ。」といって毎日森に出していた。上のむすめには白パンとよく切れる鎌を、下のむすめには黒パンとさびた鎌を。なぜなら妹は継子だったから。
二人の娘は毎朝そろって出かけるが、鎌がさびている妹はいつも遅くなってから帰ることに・・・。
これを見かねたまもののこどもは、妹むすめにお菓子をあげて、素晴らしい鎌を毎日貸してあげることに。
こうして毎日早く帰れるようになり機嫌よく過ごしていた妹むすめの様子を怪訝に思った母親が姉むすめに聞くと、まものが彼女を助けていることを知る。次の日母親は出かけて言って、むすめに似た声でまものの手を出させ、その右手を切り落としてしまう。
妹むすめに切られてしまったと思い込んだまものは復讐を近い20年間過ごす。
ようやく復讐しに森を抜けていったところ、成長してしまった妹むすめは見つけられない。疲れきっていたところ、お菓子の良い匂い。その匂いに誘われて入っていった家で、まものの子どもはおいしいお菓子をもらう。しかしくれた女性は、妹むすめ。彼女から真実を聞かされどうしようもない気持ちになるが、「ゆるす」ということを知る。涙を流し、ゆるす、ということを知ったまものは、人間にその姿を見られてしまったこともあり、一人前のまものになれない。
何年かたち、森からひとりの白い若者が出てくる・・・。
昔話をアレンジし、非常に感動的なストーリーに仕立て上げた作品。残酷さの中に、優しさが散りばめられている。
だんまりうさぎ シリーズ [文学 日本 安房直子 た行]
「だんまりうさぎ と おしゃべりうさぎ」
大自然の中で一生懸命働くだんまりうさぎ。彼はしゃべったり歌ったりせず、友達もいない。自分の畑で取れた美味しい野菜を誰かに分けてあげたいと思うが、あげる友達がいないのだ。悶々としていると、スカートをはいたうさぎがやってくる。おもちと何かを交換して欲しいと言われるが、だんまりうさぎはうまく話せない。しかし、そのスカートをはいたおしゃべりうさぎの色々と話をしてくれるおかげで、どんどん仲良くなって、一緒にご飯を食べる。そして二人は仲良くなる。
「だんまりうさぎ と 大きなかぼちゃ」
だんまりうさぎは、自分の誕生日に大きなかぼちゃケーキをつくる。あまりにも大きいので招待状を8枚作るが、招待できる人は、おしゃべりうさぎしかいない。そこでおしゃべりうさぎに、全部の招待状を渡し、誰かを招待してくれるよう頼む。おしゃべりうさぎは、色々な動物を招待してくれてみんなでおいしいケーキを食べるが、最後までだんまりうさぎは今日が自分の誕生日だということは言わない。
何度読んでも良い本だと思う。我々の持つ様々な先入観などを覆してくれる心温まる話。
「だんまりうさぎ と きいろいかさ」
雨ばかりの毎日で退屈していただんまりうさぎは、おしゃべりうさぎに会いに行きたくなる。しかしかさがボロボロ。そこで、黄色いレインコートを分解し黄色い傘を手作りし、おしゃべりうさぎに会いに行くことに。最後は傘でだんまりうさぎの家まで戻り、ふたりで大きなホットケーキを作ってふたりで食べて幸せを感じる。
「だいこんばたけ の だんまりうさぎ」
おしゃべりうさぎがだんまりうさぎをピクニックに誘い、次の日にすべての用意を整えおしゃべりうさぎは、だんまりうさぎの家にやってくる。しかし庭仕事をしたいだんまりうさぎは断る。そこでおしゃべりうさぎはだんまりうさぎの庭仕事を手伝うことに。ふたりでたくさんの大根を引っこ抜き、最後はおしゃべりうさぎがピクニックのために作ってきたお弁当をふたりで美味しくいただくことに。
だんまりうさぎとおほしさま (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 2018/05/23
- メディア: 単行本
「だんまりうさぎ と おほしさま」
夜、星を見上げながら、あるものを育てるだんまりうさぎ。その様子を見ていたおしゃべりうさぎは、何が出来るか興味津々。しばらくして、小豆(あずき)を育てていると知ったおしゃべりうさぎは、それを使ってスイーツをたくさん作ることを提案する。
でも、おしゃべりうさぎが小豆を育てていた目的は・・・。相変わらず心暖まるお話。しかも、やはり普通は食いしん坊=男、地道にコツコツ=女、といったジェンダー・バイアスを壊しているあたりが本当に素晴らしい。もぐらが登場するこの話が次男は気に入ったらしい。
「山の向こうのうさぎの町」
おしゃべりうさぎが、向こうの山で行われるお祭りにだんまりうさぎを誘う。だんまりうさぎもすぐに快諾。離れ離れになるといけないので、手をつないでお祭りに向かう。お祭りにはさまざまなものがあるが、ふたりでわたあめを買う。家に帰って、家族と分け合いたいおしゃべりうさぎは、わたあめを家に持って帰ることに。だんまりうさぎも家で食べることにする。
しかし途中であまりにもわたあめが魅力的すぎて二人共食べてしまう。このまま帰ってしまうのはもったいない、と祭りにもどり、次の日の朝までひたすら踊る。
ふたりの心的・物理的距離がかなり縮まった作品。
ゆきのひのだんまりうさぎ (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 2019/01/17
- メディア: 単行本
「ゆきのひのだんまりうさぎ」
雪が降って、おしゃべりうさぎと会えないだんまりうさぎ。
「ゆきがふったねえ」とただ一言伝えるために電話をしたいのだが、なかなかその電話もできず、いろいろウダウダ考えている様子も、とても共感できた。
そこへ、おしゃべりうさぎがやってくる。「わたし、おもいきり、口ぶえ、ふいたの、きこえた?」
という問いかけに対する、だんまりうさぎの心情の描写がとても素敵だ。
p.26
「だんまりうさぎは、ううんと、くびをふって、じぶんは、そのころ、でんわのことばかり、かんがえていたんだなと、すこし、はずかしくなりました。」
このあと、だんまりうさぎが作ったおいしいシチューをふたりで食べる描写もとても暖かい。
「だんまりうさぎはおおいそがし」
年末に風邪をひいてしまって、お正月の準備が出来ていないまま大晦日を迎えてしまっただんまりうさぎ。掃除に夢中で昼を食べることも忘れており、お昼ご飯とおやつが一緒になってしまった。チャーハンとポテトチップスを用意し食べているとおしゃべりうさぎがやってくる。その後二人で掃除をし、窓ふきをするととっても素敵なことが起こる。
「だんまりうさぎはさびしくて」
最後の話は、だんまりうさぎが、おしゃべりうさぎにプロポーズする話。
おしゃべりうさぎのために、ステキな椅子を作り、電話ではなく、手紙で想いを伝えるあたりが、本当に素晴らしい。
二人の結婚式の様子が描かれている裏表紙がとっても愛らしい。
とっても素敵なシリーズだ。
誰も知らない時間 [文学 日本 安房直子 た行]
200年も生きるカメ、自分のありあまる時間に飽き飽きし「まったく、やりきれないよ」と嘆いている。そこに「まったく、やりきれないよ」という人間が通る。漁師の良太というものだった。彼は貧乏すぎて時間が足りないという。そこでカメは自分の時間を分けてあげることにする。夜中の12時のあとの1時間、お酒いっぱいと引き換えに、良太は1時間もらう。
はじめの一日は、網の修繕を行い、次の日から夏祭りに向けて太鼓の練習をする。この1時間はどんなに大きな音を出しても周りの人間の時が止まっているので問題ない。こうして毎日太鼓の練習をし、どんどん腕を上げていく。
お祭りの一週間前、周りの時は止まっているはずなのに、一人の少女がたずねてくる。彼女もカメからもらった時間で、病気の母親がいる島の病院まで海を超えて行っていたのだが、約束の時間に戻ってこられず海へと沈んでしまい、カメの夢の中に閉じ込めらてしまう。
良太は、自分が海の底へ沈んで、カメの夢の中に入ってもいいから少女を助けて欲しいとカメに頼む。カメは何とかするといって夏祭りまで待つよう伝える。
いつもの12時がやってきて良太が太鼓を叩き始めると、村中のみんながやってくる。カメが自分の時間をみんなに与えたことがわかる。そして、カメの夢のなかん閉じ込められていたさちこという少女も姿を現す。
カメの元へ行ってみると、カメは死んでいた。
自己犠牲を描いた幻想的な美しい作品。
だれにも見えないベランダ [文学 日本 安房直子 た行]
ある町に、お金にならない仕事ばかり引き受けてしまう気のいい大工さんがいた。
ある日、猫がやってきて、ベランダをひとつ作って欲しい、と頼まれる。話を聞くとお世話になっている娘さんのためらしい。次の日早速ベランダを作ってあげに行こうとすると、すずめや鳩まで同じ場所にベランダを作ってくれと頼んでくるしまつ。
現地へ行くと猫が待っている。詳しく話を聞くと、その娘さんは、怪我をした猫を助けてくれたり、鳥たちにご飯をあげたりしてくれているらしい。
つくってあげよう、と思ったものの勝手に作っていいものかと悩んでいると、猫が魔法をかけ、外からは見えないようにしてくれるらしい。早速作ってあげて家にかえる。
それから数ヶ月すると、その娘さんから、ベランダのお礼として野菜がたっぷり届く。5月にはいちごが届き、6月にはバラがいっぱい届く。バラの香りに包まれて寝ていると、夜中に誰かが窓を叩く。開けてみると猫と娘さんがベランダに乗って待っている。大工さんはベランダに乗って、雲に向かって飛んでいく。
真面目で気のいい職人さんが、心の美しい女性と結ばれるほっこりする話。色んな単行本に収録されるのもわかる。