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あとは切手を、一枚貼るだけ [文学 日本 小川洋子]


あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7)

あとは切手を、一枚貼るだけ (中公文庫 お 51-7)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/06/22
  • メディア: 文庫



本屋で、違う本を探していたら偶然目に入り、自分が小川洋子Yearであり、文庫本だったこともあり、思わず買ってしまった。

堀江敏幸という名前の作家は聞いたことがあり、なんとなく浮遊感のあるつかみどころのない作品を書く人だ、という印象があり、結構小川洋子さんとの相性は良いのではと思い読み始めた。

形としては、
奇数章:小川洋子
偶数賞:堀江敏幸
となっており、往復書簡のような形となっている。しょっぱなから衝撃的で、女性である「私」は「まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めた」らしい。それに対して、男声側の「ぼく」も目が見えなくなってしまったらしく、現在物事を見ることのできない二人が、過去を回想しながら様々な事象を語り合う。

全14章なのだが、二人の関係を明確に定められるような描写はなく、かつて二人は恋人同士で、一緒に暮らしたこともあるっぽく、よく船に乗っていたということくらいしかわからない。様々な本が取り上げられ、そこからいろいろな話題が展開される。

最後に二人の対談も収録されており、この作品が綿密な計画を練って作られた作品でないことがわかる。まさにそんな感じで、終始「どこに連れて行かれるのだろう」というモヤモヤした感じでずっと読まされることになった。最後のほうで、若干物語は劇的になるのだが、基本はモノローグであり、結構読みづらい。特に堀江側の偶数章は、結構きつい。

もういっかい読むと様々なものが見えてくるのだろうが、もういっかいじっくり読みたい作品ではない。
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ボタンちゃん [文学 日本 小川洋子]


ボタンちゃん 【4歳 5歳からの絵本】 (PHPわたしのえほん)

ボタンちゃん 【4歳 5歳からの絵本】 (PHPわたしのえほん)

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/11/12
  • メディア: ハードカバー



小川洋子さんが初の絵本を出していたらしいということを数ヶ月前知った。が、そこまで興味はなくて敢えて探して読もうとは思っていなかったのだが、今日子ども達と図書館に行ったところ、偶然本棚の前面に置かれて並べられているのを見て思わず借りてしまった。

ある女の子のブラウスのボタンがある拍子で、糸がほつれてブラウスから外れて落ちてしまう。コロコロコロコロ転がって出会ったのは、その女の子が昔使っていた、ガラガラ、よだれかけ、ホッキョクグマのぬいぐるみ。彼らはしくしく泣いている。理由は・・・。

結局ボタンちゃんはすぐにお母さんに見つけられブラウスに縫い付けられる。そして・・・。

小川洋子さん独特の、人々がなかなか目を向けないような部分に目を向け、そこに優しい視線を投げかける物語は絵本になっても変わらなかった。

さすがに、普通の長編の小説ほど感動的なものではないが、ポッと心が暖かくなる作品。
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琥珀のまたたき [文学 日本 小川洋子]


琥珀のまたたき (講談社文庫)

琥珀のまたたき (講談社文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 単行本



小川洋子作品を久しぶりに読んだ。

実の母親に監禁される(外に出てはいけないと言われそれを忠実に守る)子供たちの物語。これだけを読むと非常に暗いイメージを持ってしまうのだが、読んでいて暗い印象は全くない。その閉じられた空間で、しかも限られた姉・弟・弟という三人の人物だけで、ここまで世界が広がっていくのか、とびっくりしてしまうほど広大な世界が広がっている。
しかし閉じられた空間というのはどうしても外部からのちょっとした侵入で壊れやすくなる。
草を狩るためにこの世界に連れてこられたロバ
前の住人に対して営業をかけていた男
彼らが入り込むことで絶妙に保たれていたバランスが見事に崩れ出す。

いつも書いていることだが、特別であること、グローバルであること、外の世界に開かれていることが賞賛されるこの世の中において、普通・平凡であること、同じことを繰り返すこと、閉じられていることなどの、美しさ・愛おしさにスポットをあて、ことさらそれを賞賛するでもなく、そっと読者に提示する、小川洋子さんの優しい世界が私は大好きである。

私が読んだ本は文庫なので、最後に解説が付いている。
大森静佳(歌人)さんという人が書いているのだが、その最後に次のような一節がある。本編ではないが、この作品のすばらしさを非常に簡潔に言い当てている文なので紹介したい。

「声の大きいひとの言うことが広く「真実」にされてしまいがちなこの現実において、『琥珀のまたたき』のような物語に耳を澄ませる時間が、どれほど貴重で、愛おしいか。この小説を読んで、私はまた少し、人間を、そして物語というものを好きになった気がする。」
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心と響き合う読書案内 [文学 日本 小川洋子]


心と響き合う読書案内 (PHP新書)

心と響き合う読書案内 (PHP新書)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/02/14
  • メディア: 新書



日曜日の朝10:00~、東京FMで「メロディアス・ライブラリー」という、作家の小川洋子さんとアナウンサーの藤丸由華さんが文学作品を一冊紹介する30分番組がある。2010年頃からテレビなし生活に向けて生活をラジオ中心に変えていた頃に出会った番組で当時かなり愛聴していた。

この番組から生まれた本『みんなの図書室』を番組リスナーにプレゼントする企画があり、応募してみたところ、何と当選!!!。なのでこの本は小川洋子さんのサイン付きで持っている。
その後この本の続編『みんなの図書室2』をブックオフで見つけ購入。かなりこれも面白かった。

そして、この『みんなの図書室』『みんなの図書室2』よりも前に放送されていた番組を本にした作品がこの『心と響き合う読書案内』。全2冊が文庫本なのにたいし、こちらは新書版。しかも既に絶版。ブックオフで気軽に手に入ると思って一年くらい探していたのだが一向に手に入らず・・・。遂にAmazonに頼り、中古で取り寄せる。

番組がスタートしたときのものを書籍化したものなので、かなりの古典・名作ぞろい。かなり自分が読んだことのある本が混じっていたのだが、まったく自分の読み方と違っている作品もあり興味深かった。特に『車輪の下』は非常につまらない作品だと思っていたのだが、小川洋子さんの解説を読み、再読してみたくなった。

小川洋子さんの本に対する愛情がたっぷり詰まった本であり、読書案内の書であると共に、この本自体がひとつの作品として感動できる。

是非、『みんなの図書室0』として文庫化して欲しい。と共に、『みんなの図書室2』以降に放送されたものも『みんなの図書室3』『~4』とどんどん出していってもらいたい。

ちなみにこの番組は2007年の7月から始まっている。
2007年07月~2008年06月 までが『心と響き合う読書案内』
2008年07月~2009年06月 までが『みんなの図書室1』
2009年07月~2010年06月 までが『みんなの図書室2』
ということは、あと7~8冊はこれから出せる。

若い世代に対する読書案内の書、読書へ導く書として是非、シリーズ化して出版してもらいたい。

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みんなの図書室2 [文学 日本 小川洋子]


みんなの図書室 2 (PHP文芸文庫)

みんなの図書室 2 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/11/17
  • メディア: 文庫



私は小川洋子のファンである。とはいえ、彼女のすべての本を読んだわけではない。中公文庫、講談社文庫、文春文庫、新潮文庫などの長編を中心に10冊強くらいしか読んだことがなく、短編集やエッセイなどはそこまで読んではいない。とはいえ、彼女の描き出す世界観がとても好きで、読むといつも、メインストリームを歩くことができないお祭り嫌いな自分も、自身をもって生きていていいんだと励まされる。

そんな彼女を知ったのは、東京FMで日曜の午前10:00から放送されている、メロディアス・ライブラリーを聴いたことがきっかけっだった。ちょうどその前後で中嶋朋子さんのラジオ番組もやっており、そこで、小川洋子さんの『猫を抱いて象と泳ぐ』という本を猛烈に勧めており、すぐに購入して読み、とても感動し、他の様々な作品も読むようになった。

ちなみに題名からもわかるように、『みんなの図書室』という一巻も出ており、これは、ラジオ番組に本のプレゼントコーナーに応募したら、なんとサイン本があたってしまったのだ。

と前置きが長くなったが、簡単に言えば、古今東西の名作本を小川洋子が彼女独自の視点で紹介する本だ。一巻を読んだ時は、読書意欲を掻き立てられ、そこで紹介されていた本を結構買って読むことになってしまった。今私は購入して読んでいない本が山ほどあり(いわゆる積ん読)、この本を読むことで新たに読書意欲を刺激されたらどうしようと思いつつ、昨晩全く寝られなかったので、軽い本をと思い、この本を読んだ。結構自分が読んだことがある本が多く、新しく読んでみようと強く思う本はなかった。

しかし、こうした本を紹介する本を書くときでも、小川洋子さんの視線はとても優しい。
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シュガータイム [文学 日本 小川洋子]


シュガータイム (中公文庫)

シュガータイム (中公文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1994/04/01
  • メディア: 文庫



先日、電車でちょっと買い物に行ったとき、本を持っていくのを忘れてしまった。100mくらい歩いて気がついた。いつもであれば戻るところだが、あまりに暑い日だったので、戻るのも面倒だった。i-podに入っている文学作品でも聴きながら行こうと思っていたら、残念ながらi-podは電池切れ。正直行きの電車は苦痛でしょうがなかった。

帰りの電車で同じ思いはしたくないと思い、ブックオフに立ち寄り購入したのがこの本。
小川洋子作品は好きで色々と読んではいるが、そこまで興味を惹かれない作品は読んでいなかった。この『シュガータイム』もそこまで心惹かれていなかったので今まで読んでいなかったのだが、何も読まずボーッと過ごすよりは、と思い、ハズレのない小川洋子のこの作品を購入した。

突然過度な食欲を持ってしまった女子大生の日常と失恋を描く。突然過度の食欲を持ってしまった女子大生。その理由がわからないまま、日々の出来事が過ぎていく。背が伸びない弟が自分のそばに引っ越してきたこと、肉体関係をもたない恋人との日々、野球観戦、バイトでの出来事、友人との会話、一つ一つが小川洋子ならではの視線で描かれる。
結局過度な食欲は、彼との別れを感じ取った彼女の心の安定のために必要なものだったのではないだろうか。主人公になんとなく親近感を持ってしまった。そこには、過度なものがあっても、淡々と日々を過ごそうとする彼女の心に近さを感じたからなのだろうか。

彼女のほかの作品に比べると、そこまで胸に迫るものはなかったが、それなりには楽しめた。
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ことり [文学 日本 小川洋子]


ことり (朝日文庫)

ことり (朝日文庫)

  • 作者: 小川洋子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫



小川洋子『ことり』を読んだ。
単行本で発売されたとき、結構話題になったが、あらすじを読んであまり面白くなさそうだったので文庫本になってもあまり買う気はなかった。
が、ここ最近小川洋子作品を続けて読み、やっぱりこの人の作品は面白い!と思い、文庫本化されたということもあり買ってみた。

内容としては、鳥以外とのコミュニケーションがほとんど出来ず、社会で働かないまま死んで行ったお兄さんと、その兄と唯一コミュニケーションがとれる弟、主人公の「小鳥の小父さん」の一生を描いている。

大きな事件が起きることなく淡々と同じ日々を繰り返す、というのはこの作家のいつものパターンだ。その同じ日々の中に変化があり、新しい発見があり、美しいものの発見があり、その一つ一つに向ける視点、視線が本当に優しく美しい。

本来、人間の生活など同じことの繰り返しだ。子供時代は毎日学校に通い同じことを繰り返す。大人になれば毎日同じように会社に行き同じような仕事をする。そうした当たり前の日々の中に色々なものを見つけて人は幸せを覚える。

最近、「グローバル人材」などという華やかな言葉をよく目にする。国際的に活躍すること、人より秀でていいること、特別な何かをすることを、子供達は何故だか知らないが求められる。しかし本当に華やかな人生を送ることが幸せなのだろうか。もちろん華やかな人生を送ることで幸せになれる人はいる。しかし、この地上にいる99%の人は当たり前のことを繰り返し、日々のちょっとした変化に喜びを覚え、ささやかなことに幸せを感じ、人生を終えるのではないだろうか。

こんなことをこの本を読みながらしみじみと考えてしまった。

本当に心を穏やかに優しくしてくれる作家だ。

密やかな結晶 [文学 日本 小川洋子]


密やかな結晶 (講談社文庫)

密やかな結晶 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/08/15
  • メディア: Kindle版



小川洋子作『密やかな結晶』を読み終わった。物語の最初から、「消え去ったもの」「消滅」といった言葉が出てきて、「何?」という思いをまず抱く。しかし、母親と娘が、古いたんすの引き出しから様々な小物を引っ張り出し、それにまつわる話をする。『銀の匙』と同じような平和な感覚がここでやってくる。この不安と平安の絶妙なバランスを保ったまま物語は進んでいく。

ナチス時代を意識しだであろう様々な息苦しくなるような設定は本当に素晴らしい。
昔から、「肉体と精神」というものは、文学や哲学のテーマとして扱われてきた。この物語もある意味、肉体と精神がテーマであるといえる。こういう結論で終わるか、という最後を迎える。結局人を支配しようとしても、精神は支配しきれない。そして支配しようとしたものが最終的には支配されてしまうのだ、ということなのだろうか。

思想性、物語性、叙情性、芸術性、全てが揃った傑作だと思う。『アンネの日記』と合わせて読んでもらいたい。

ブラフマンの埋葬 [文学 日本 小川洋子]


ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/04/13
  • メディア: 文庫



小川洋子作『ブラフマンの埋葬』を読み終わった。
私は小川洋子さんの作品が好きである。
日々の変わらない生活を描いているところ。普段普通に生活していたら目を向けないような部分に焦点を当てているところ。様々な物事に対するやさしい視点。などなど私の生き方に合っているのだ。
とはいえ、彼女の作品を余すところ無く読んでいるわけではない。あらすじなどを読み、面白そうと思えたものを読むようにしている。
この『ブラフマンの埋葬』はあらすじを読んでもそんなに惹かれなかったが、泉鏡花文学賞をとっているということで、他の本と一緒に買ったのだ。
200ページに満たない、中篇(短編?)作品なので、重い本を持っていきたくない日が一日あり、その日に持ち歩いて読んだ。
得体の知れない動物を、ふとしたことで拾い、名づけ、育てて行く過程で、主人公とこのブラフマンの間に愛情が芽生え、その愛情ゆえに悲劇を招く、というストーリー。
主人公の愛情が、ブラフマンから他の者に一瞬移ったときに、悲劇が訪れる、というところが非常にうまいなあ、と思った。しかも、ブラフマンの埋葬場面も非常に客観的で、淡々と描かれており、無駄な感傷を引き起こそうとしていないところが本当に素晴らしいと思った。

『やさしい訴え』『ミーナの行進』『猫を抱いて像と泳ぐ』程、圧倒された感は無いが、『いつも彼らはどこかに』や『人質の朗読会』のような、ふんわりとした気分にさせられる美しい作品だった。

いつも彼らはどこかに [文学 日本 小川洋子]


いつも彼らはどこかに

いつも彼らはどこかに

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: 単行本



 ひさしぶりに小川洋子作品を読んだ。数年前かなりはまって、10冊くらい一気に読んだが、それ以来まったく読んでいなかった。動物好きの妻に、結婚10周年のプレゼントとして送った本なのだが、彼女の文体が妻には合わないらしく、なかなか読み進められず、いつのまにか置き去りにされてしまっていたので、今回読んだ。

 かなり面白かった。彼女の作品全体に言えることだが、これといった大きな事件も起こらない。そして短編集ということもあるのだが、ドロドロした感情なども描かれない。しかし、ページをめくる手が止まらない。なぜなのかはわからないが、とにかく凄い作家だと思う。

 そしていつも感じることだが、彼女の作品は常に、社会の周縁を生きる、敏感で感じやすく、自分の居場所をなかなか見つけられない人々に対して優しい目を向けている。
 自分の与えられた仕事を毎日同じように行い、人を傷つけないよう最新の注意を払いながらひっそり生きる人びとを描いている。彼女の作品には固有名詞が登場しない場合が多い。これにより、逆に読者は登場人物たちの心に、行動に寄り添いやすくなっている気がする。
 お祭り事が大嫌いで、日々落ち着いた心穏やかな生活をしたい私には本当にぴったり来る作品集だった。
 本の帯に付けられた解説文とは結構印象が違い、動物はあくまでもモチーフであり、あくまで人間が主体の短編集。このようにひっそりと暮らす人はたしかにどこかにいるよなあ、そしていて欲しいよなあと感じた一冊だった。
 まだ未読の『ことり』『人質の朗読会』も読んでみたくなってしまった。

人質の朗読会 [文学 日本 小川洋子]


人質の朗読会 (中公文庫)

人質の朗読会 (中公文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/02/22
  • メディア: 文庫



単行本で出たときから気になっており、文庫化されていたのは知っていたが、なかなか買わずにいた作品。
ある国で武装集団に人質として捕らえられてしまった日本人8人が、捉えられている場所で、それぞれの思い出話を紙に書いて発表しあう、という設定。

なかなか発想として面白い。書評などを見ると、ただ8つの短編に、無理やり上記のような設定をつけただけ、というようなものもあったが、それぞれが何らかの形で「死」と結び付けられており、「死」を覚悟せざるをえない状況で自分の過去を振り返り、その思い出を語るとこのようなものになるのでは、という作者の意図は感じられる。

小川洋子特有の、ひっそりと目立たないものに向けるやさしい視点、あまり顧みられることのない繰り返し行われるなんでもない仕事に対する温かい視点、など、「死」をテーマにしているが心があたたまる物語がそろっている。とはいえ、彼女のほか作品に比べるともう一歩の感があった。
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