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ブロデックの報告書 [文学 フランス]


ブロデックの報告書

ブロデックの報告書

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2009/01/08
  • メディア: 単行本



日本で入手可能な、フィリップ・クローデルの本で、私が読んでいなかった最後の本。
ある寒々しい村で起こった殺人事件の詳細を記録するように、主人公であり語り手であるブロデックが頼まれるところから物語は始まる。

物語が進むにつれて、ブロデックは強制収容所の生き残りであること、この寒村はかつて侵略者に支配されてしまうような感じになったことがあること。その支配者に逆らったものがたどった道、ブロデックの青春時代、恋人との出会い結婚、そして妻が巻き込まれた事件・・・。

とにかく、淡々とした中に非常に厳しい事象が入っている。人間の身勝手さ、周りに流されることで、つまり歯車の中に巻き込まれたと自分を納得することで、非人道的行為を正当化する愚かしさ、とにかく人間の弱い部分が、色々な正当化をされながら語れていく。

常にモヤのかかった感じだが、全ては明瞭に語られていく。

明らかにナチス・ドイツを意識した描写であり、そのナチス・ドイツの台頭を許したのが、我々の心なのだということを、静かにつきつけている書である。

非常に美しい作品だった。

p.75
「自分が残してきたものについてはよく覚えているものだが、戻ったときに何と再開するかはわからないからね。人々が長いこと狂気にとらわれていたときにはとくにそうだ。」

浦島太郎を彷彿とさせる意味の深い言葉。

p.169
「本当は、群衆こそが怪物なのだ。それは、意識のあるほかの無数の肉体からなる巨大なひとつの肉体となって自らを産み落とす。そして、僕は幸福な群衆などないことも知っている。穏健な群衆は存在しない。笑い、ほほえみ、リフレインの背後にさえ、湧き立つ血が、騒ぐ血が、おのずと回転し、その自分自身の渦の中で撹乱されて狂気へと赴く血があるのだ。」

この言葉にこの本の全てが凝縮されているとも言って良い群衆批判の言葉。

p.173
「勝つのはいつもムチだってことをわすれちゃいけないよ、ブロデック、知識なんかじゃないんだ。」

だからこそ、どんなに戦争の悲惨さを訴えても戦争はなくならない。もっと理性的に平和について、戦争について考えなければいけないのではないだろうか。

p.287
「殺しに手を染める者は、相手が動物であれ、人間であれ、自分の行為について冷静に考えることはほとんどない。」

p.298
「どちらが正しいのか、過ぎ去った時を闇に捨てないと心に決めた人と、自分に都合の悪いことはみな暗闇に沈めてしまう人とでは?」

後者のほうが幸せであることは間違いない・・・。
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贋金つくり 下 [文学 フランス]


贋金つくり 下 (岩波文庫 赤 558-7)

贋金つくり 下 (岩波文庫 赤 558-7)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/01/07
  • メディア: 文庫



下巻に入って話は思わぬ展開を見せる。
ローラの祖父が経営する塾に通う子どもたちが、贋金などを使って悪いことをする話へとなっていく。

登場人物が多く、話が色々と展開される割には、一つ一つの話が回収されず、あの二人の関係はどうなった?とか、あの人はどうなった?とか色々不満が残る部分は多いのだが、話は非常におもしろく、主観と客観が混じりながら、時間軸に従ってちゃんと話が進んでいくのでそれなりに分かりやすい。

久しぶりに面白い海外小説を読んだ気がする。
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贋金つくり 上 [文学 フランス]


贋金つくり〈上〉 (1962年) (岩波文庫)

贋金つくり〈上〉 (1962年) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/12/27
  • メディア: 文庫



今年は結構集中的にフランス文学を読んでおり、その流れで、品切れ重版未定になっているこの本を古本屋で見つけ思わず購入してしまった本。

ジイドの本は、『狭き門』『田園交響楽』がかなり面白く気に入っている。
今年に入って『法王庁の抜け穴』『背徳者』と読みかなりつまらなかった。

そこでこの『贋金つくり』を読み始めたのであまり期待していなかった。

しか~し、かなり面白い。
いきなり、私生児が自分の生まれを知ってしまい家出をしようと画策する話から始まり、その友人の兄の女性を妊娠させてしまう話になり・・・とどんどん話が広がっていく。

第三者の立場からの物語描写と、エドゥワールという作家の日記が入り混じってきて、途中からさらにいろいろな登場人物の日記も交じってくる。

ひとつの物語をいろんな角度から描写した重層的にひとつの出来事を描いていく試みらしく、ロックバンドExtremeの「Three sides to every story」に似たコンセプトの本なきがする。

若干男性同士の同性愛、フロイトの夢分析など、当時流行していたであろうテーマも入っており面白い。

とにかく久しぶりに面白い小説を読んでいる気がする。
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パルムの僧院 下 [文学 フランス]


パルムの僧院(下) (新潮文庫)

パルムの僧院(下) (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/11/02
  • メディア: 文庫



後半は主人公ファブリスの、獄塔の管理者の娘クレリアの恋愛話。
クレリアは純粋な娘っぽいが、結局殺人犯であるファブリスの脱獄を助け、父親が決めた結婚相手と結婚することが決まったにもかかわらずファブリスト肉体関係を結び子供まで作り、ファブリスト二度と会わないと聖母に誓ったにもかかわらずその後もファブリスト会い続け、挙げ句の果てには自分の子供の死を招いている。読んでいて気持ち悪い。

しかも殺人を犯したファブリスがちゃんとした裁判を受けないのも意味がわからないし、政権争いのようなものもはっきり言って退屈以外の何者でもない。

これが何故名作と言われているのか理解に苦しむ。駄作以外の何者でもないと私は思う。
正直時間の無駄だった。
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パルムの僧院 上 [文学 フランス]


パルムの僧院(上)(新潮文庫)

パルムの僧院(上)(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/04/11
  • メディア: Kindle版



スタンダールの2作品目、『パルムの僧院』を読み始めた。
とにかくつまらない。ロマン主義文学から自然主義(写実主義)文学への橋渡し的作品と言われたりするらしいが、ロマン主義文学は大好きだが、自然主義文学が苦手な私はとにかく読み進めるのが苦痛でならなかった。

初めは、主な登場人物を登場させるための説明的なところで、結構多くの小説はこういった類の部分を持ち(ドストエフスキー、トルストイ、ユゴーなど)、そこを読み終えたら楽しくなったり、その部分ですら一応面白かったりするのだが、とにかくよく分からず結構飛ばし読み。

主人公のファブリスが活躍しだしてからはそれなりに読めるようにはなるのだが、ナポレオンを慕ってフランスに行き戦争に参加しようとしたり、貴族であることを鼻にかけ色々なことをしでかしたり、とにかく純粋に行動しているっぽいのだが、やっていること一つ一つが意味がよく分からず全く共感できない。ファブリスの叔母であり、ファブリスにひそかに想いを寄せるジーナも、美しいことはわかるのだが、全く魅力的ではない。

昔の風習なのかもしれないが、人を殺しておいて、逃げてそれが許されているのもよくわからない。

一応名作と言われており、せっかく上巻を読みきったのだから最後まで読む気ではあるが、とにかくつまらない。
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赤と黒 下 [文学 フランス]


赤と黒(下) (新潮文庫)

赤と黒(下) (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/10/05
  • メディア: 文庫



レーナル夫人と涙の別れをし、パリのラ・モール公爵家で秘書として働くことになったジュリヤン。初めのうちはラ・モール家に集まってくる貴族や皇族、ラ・モール家の息子や娘のスノップ的な感覚に嫌悪感を抱いていた。しかししばらくして色々なことに慣れてくると、ラ・モール家の一人娘マチルドと仲が良くなり始め、お互いがお互いを意識しだし、いろいろあった後遂に結ばれる。その後・・・。

ジュリヤンやマチルドのウジウジと一人でいろいろなことを考える描写があまりに長く、しかもあまり応援したくなるような恋でもなく正直あまりの長さにうんざりした。最後になって物語が結構急展開しだしてからは段々と面白くなり、レーナル夫人が再登場してからは結構面白くなっていくのだが、やはり最後まで面白くはなりきらない。

野心に燃える主人公ジュリヤンとよくあらすじなどでは見かけるが、全然野心に萌えている感じもなく、最後まで理解できない人間性であまり入り込めなかった。

世間の評判ほどは面白くなかった。やはりフランス文学はあまり肌に合わないのかもしれない。
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赤と黒 上 [文学 フランス]


赤と黒(上)(新潮文庫)

赤と黒(上)(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: Kindle版



サマセット・モームによる『世界の十大小説』にも選ばれているということもあり、あらすじ等読んでもあまり興味はなかったのだが、フランス文学をいろいろ購入した時に同時に購入。

主人公は貧しい製材小屋の三男坊ジュリヤン。ナポレオン時代の退役軍人と偶然知り合い、その人や町の牧師にラテン語・聖書等の手ほどきを受けたことで、教養が身につき、町長レーナル家の家庭教師となる。そこで、美しく純朴なレーナル夫人と不倫関係に陥る。

フランス文学特有の不倫物語で、正直食傷気味だったが、貴族やスノッブ批判がところどころあり、不倫が何となくばれ、ジュリヤンがレーナル家をでなければならなくなり、神学校へ赴くあたりから物語も動きはじめ、どんどん面白くなっていく。

p.355
「仲間のものから見れば、まぎれもなくジュリヤンはとんでもない悪徳にそまっているわけだった。つまり、権威と模範に盲従しようとしないで、自分で考え、自分自身で判断しているというのだ。」

p.341
「ジュリヤンは羨望に似た気持ちで、注意深く、神学校にはいってくる百姓の小せがれのうちでも、とりわけ無教養な連中を観察した。~中略~彼らの身につけている教養といえば、~中略~小判に対する限りない経緯だけなのだ。」

この辺の皮肉っぷりがとても面白い。
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ペスト [文学 フランス]


ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: Kindle版



全く興味がなかった本だが、コロナが世界中に蔓延し、コロナ禍を予告したような書だということで日本で話題になったので読んでみた。

やはりカフカやカミュといった、一般に不条理文学と呼ばれる作家の作品は合わない。

大変な伝染病に立ち向かう真摯な医師と彼に従う人々。
身近な人の死などを体験し、今までの考えを変える牧師や検察官など多様な人物が登場し様々なテーマが織り込まれているのだろうが、私にはやはり合わず正直若干読み飛ばした。
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法王庁の抜け穴 [文学 フランス]


法王庁の抜け穴 (岩波文庫 赤 558-3)

法王庁の抜け穴 (岩波文庫 赤 558-3)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/06/15
  • メディア: 文庫



新興宗教のような団体からキリスト教に改宗?した人の話に始まり、その親戚の隠し子?の相続問題のような話になったり、金持ちの未亡人が、幽閉された法王を助けるという十字軍的な名目で金を出すことを要求されたりといった挿話が最後は一つに収斂されていくっぽい話なのだが、話が進むにつれつまらなくなっていく。後半に向けてこれだけつまらなくなっていく話も珍しく、最後はほぼページをめくっているだけだった。

かなり読み進めるのがこんなんで、面白くなかった。こんな作品は久しぶりだった。
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背徳者 [文学 フランス]


背徳者 (岩波文庫 赤 558-1)

背徳者 (岩波文庫 赤 558-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1971/03/16
  • メディア: 文庫



アンドレ・ジイドのデビュー作らしい。
『田園交響楽』にしても『狭き門』にしても結構楽しく、私好みの話で、この『背徳者』もかなり期待して読み始めた。

初めは、主人公ミシェルが病気で死にそうな状態。これを妻のマルスリーヌがひたすら看病するのだが、とにかく退屈。段々と体も良くなり、精神的にも余裕が出てきて自然の中に身を置くのだが、このあたりから少年愛的な感じになっていく。

完全に感知し、自分の実家の土地を相続し、そこの管理に乗り出すのだが、これも結構やりたい放題。
最後はマルスリーヌの方が体を壊すが、ミシェルは彼女を「療養のため」ということで田舎へ田舎へと連れ回すが、本質的に彼女のことを考えての行動ではないので、彼女はどんどんやせ衰えていく。

さらに、キリスト教信者の彼女に対して、無神論者というのかニーチェ思想(とは書いていないが)に影響を受けたミシェルの考えがさらにマルスリーヌを苦しめる。

とにかく、読んでいてあまり気持ちの良い作品ではなく、話の展開もつまらなかった。

私は駄作だと思う。
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ゴリオ爺さん [文学 フランス]


ゴリオ爺さん(新潮文庫)

ゴリオ爺さん(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: Kindle版



サムセット・モームの『世界の十大小説』で紹介されている作品の一つ。
自分の二人の娘を貴族社会の中で、幸せに暮らさせるために、自分の生活や財産を切り詰めながら暮らす、引退した商人ゴリオ爺さんの話。

ゴリオ爺さんと、最後はゴリオ爺さんの最期を看取ることになるウージェーヌが住む下宿屋ヴォケー館の様々な住人たちがそれぞれ良い味を出している。

金はあっても、欲望にまみれ、内面的に腐っている貴族や成功した商人たちに対して、貧しくはあるが、心清らかな人々、脱獄囚ではあるが、真っ直ぐで人々から愛されているヴォートランなどが、対比的に描かれている。

興味深い話ではあるのだが、退屈な描写が多く、結構疲れる本であった。

そしてフランス文学によく見られる描写なのだが、何故結婚している「~夫人」のような人が、夫以外の人と平気で恋愛し、周りもそれを認め、夫もそれを認めるのかよくわからない。以前フランスは、政略結婚をし、本当の恋愛は不倫で行う、といった内容を読んだことがあり、当時からその状況が当たり前だったのだろうが、わかっていてもなんとなく心と体に入っていかない。

私にとってはイマイチだった。
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谷間の百合 [文学 フランス]


谷間の百合 (新潮文庫)

谷間の百合 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1973/02/01
  • メディア: 文庫



同僚から、バルザックの作品は面白い、と言われたのもあるし、結構色んなところで『ゴリオ爺さん』が言及されているのもあり、新潮文庫から出ているバルザック作品『ゴリオ爺さん』と『谷間の百合』を購入した。

まずは、どちらかというとマイナーな『谷間の百合』を読んでみた。
色んな本を読んでいるし、哲学書も何冊も読んでいるのだが、とにかく段落分けの少なさに驚いた。哲学書や学術書であればそれなりに覚悟して読み始めるのでまだ、良いのだが、一応小説ということで、会話文などもあるだろうし、ある程度読みやすいだろう、という先入観もあるのが悪かったのと思うのだが、とにかく会話文が少ない。

主人公の男性、フェリックスが、現在の恋人ナタリーに、「昔の恋の思い出」を手紙にして送ったその手紙という体をとっているからなのか、とにかく自然描写や自分の当時の内面などが綿密に詳細に綴られており、時に哲学的な考察なども入ってくるので結構読みすすすめるのに苦労する。

あとがきにもあるのだが、同じフランス文学、ラ・ファイエット夫人著『クレーブの奥方』、ルソー著『新エロイーズ』に通じる、許されぬ恋をし、そのまま肉体関係にいたらずプラトニックな関係を続けることによる悲劇という感じの書。

ドロドロした恋愛小説や、無意味な性描写が多い小説を好まない私としては、こういった類の小説は好みに合っているはずなのだが、結構どれも読み進めるのが辛い。今回もかなり苦戦した。

前半部の、青年フェリックスが美しいモルソフ伯爵夫人に恋をし、距離を縮めながらもなかなか相手の心に入り込めない箇所や、モルソフ夫人を愛しながらも、ほかの女性と肉体関係を結んでしまうあたりなど、読んでいて一番楽しいはずの部分が何故か結構苦痛だった。

しかし、後半のモルソフ夫人が、フェリックスが悶々としていた時期、どういう想いで生きていたのかが明かされる後半の手紙部分が圧巻で、このあたりから一気に面白くなる。前半部のもやっとしている部分があるからこそ、後半部の真実が見える部分が生きるのであろうが、何しろ辛かった。

もう一度是非読みたい、という類の本ではないが、結果としてはそれなりに楽しめた。
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リンさんの小さな子 [文学 フランス]


リンさんの小さな子

リンさんの小さな子

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2005/09/17
  • メディア: 単行本



Tokyo FM メロディアス・ライブラリーという作家小川洋子さんが後世に残したい文学遺産を紹介する番組で、紹介された本。

紹介された当時、図書館で読みあまりに素晴らしく、そのうち購入しようとしていたら絶版になってしまい、メルカリで最近購入した本。

ヴェトナム戦争の傷跡を引きずる、ヴェトナムからの難民(とは直接的には書かれていないが恐らくそうであろう)リンさんと、フランス人の太った老人バルクさん。この二人の言葉は通じないが心が段々と通じていきかけがえのない友となり、最後は・・・。

恋愛もないし、激しい事件も起きない。物語は淡々と進んでいくのだが、とにかくじわっと心に響く。素晴らしい作品だ。

なんでもない変わることのない日々の生活のすばらしさ、美しい心の通い愛を伝えるこの作品、確かに小川洋子さんが好きであろう作品だと思った。

絶版になってしまったのがあまりにも惜しい作品。何故こういう作品が常に手に入るようになっていないのか。不思議な日本の出版状況である。
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子どもたちのいない世界 [文学 フランス]


子どもたちのいない世界

子どもたちのいない世界

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2006/11/21
  • メディア: 単行本



題名から結構暗いディストピア小説的なものをイメージしていたのだが、全くそんな小説ではない。しかも長編ではなく短編集。

クローデルが愛娘に贈った作品ということもあり、結構読みやすかった。
初めは一人で読んでいたのだが、愛娘に贈った作品ということを知り、ちょっと難しいかもしれないけど、5歳の息子でも楽しめるかな?と思い、読み聞かせをして一緒に読んでいたら、結構楽しんで聞いていた。普通の絵本と違いほとんど字ばっかりなのだが、しっかりと情景を思い浮かべながら聴いており、ところどころ登場する挿絵をじっくり堪能していた。

子どもに贈った作品とは言え、さるがクローデルといった感じで、結構風刺が効いており、いろいろな角度から物事、社会を切り取っていてかなり楽しめた。

タイトル作品の大人たちへの子供たちを叱ってばかりいる大人たちへの反抗作品であり無限のループにはまっていく「子どもたちのいない世界」や、美しいはずの妖精が何故か説教される「妖精はつらいよ」、世界平和を目指す「ザジのワクチン」、個性とは何かを考えさせられる「白くなりたかった灰色のロバ」、カバンの中身のものたちの視点で話が展開する「でぶのマルセル」などなど、とにかく色とりどりの物語が並んでいる。

結構オススメ。
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灰色の魂 [文学 フランス]


灰色の魂

灰色の魂

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2004/10/22
  • メディア: 単行本



フィリップ・クローデルという作家をはじめて知ったのは、作家小川洋子さんがパーソナリティをつとめるTokyo FMの「メロディアス・ライブラリ」という番組だった。ここで紹介された『リンさんの小さな子』があまりに素晴らしく、それを読んで以来、ずっと気になっていた作家だった。

今回何故だか覚えていないが、彼への興味が再燃し、絶版になっている彼の諸作品を全部購入してしまった。

そして初めに読んだのがこの本、『灰色の魂』。

まず語り手の「私」が誰なのか、なかなかわからない。そして様々な登場人物が少しずつ紹介されていくのだが、それぞれがどこかミステリアスで、心に傷を持った感じで、しかも一直線に時間が進んでいくわけではなく、現在(語り手が語る現在)と過去を行ったり来たりしながら話は進んでいくので、中々全体像が掴みづらい。

第一次世界大戦時の話で、戦争で負傷した兵士や、戦地に向かう兵士が町に現れることはあるが、直接的に物語のストーリーに関係あるわけではない。

〈昼顔〉と呼ばれる町の酒場(食事処?)の十歳くらいの娘が、川べりで殺害される。
さらに、リジア・ヴェラレーヌと言う、町の外からやってきた皆から人気の美しい女教師がある日自殺する。
その二つの事件に深く関わっていそうなのが、この町の名士で、検察官のデスティナ。彼は昔非常に美しい妻を病気でなくしており、妻が亡くなって以来、一人で孤独に静かに暮らしている。
さらに、語り手「私」の妻クレマンスも、出産時になくなってしまう。

この4つの死、いくつかは奇怪な死をめぐって物語は進んでいく。事の真相に近づきそうで近づかない、そして人の心の闇みたいな部分が少しずつ顕になっていく物語で、一般受けしないだろうが、何かじわっと感じるものがある。

派手な作品でもないし、涙あふれる感動的な作品ではないが、何となく心に残る、そして何度でも読み返したくなる類の作品であることは間違いない。
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ラ・ボエーム [文学 フランス]


ラ・ボエーム (光文社古典新訳文庫)

ラ・ボエーム (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Kindle版



数年前、この『ラ・ボエーム』という本が光文社古典新訳文庫から出されたことは知っていた。オペラや部隊、ミュージカルやバレエの原作本を読むのが好きな私は、当然興味を持って本屋で手にとってみたのだが、何にしろ分厚い(600ページ超)・・・。さらにあらすじ等を見るとあまり面白そうでもないので買わずにいた。

しかし今年、何故かフランス文学をいろいろ読んでみようと思い、色々と本を購入している時にふと目に付き、せっかくだからと思い買っておいた。

ひとつの長編というよりは、同じ登場人物たちが繰り広げる短編集をつなぎ合わせたもので、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズに近い感じの本になっている。

音楽家ショナール、詩人ロドルフ、哲学者コリーヌ、画家マルセルの四人の芸術家を中心に、ロドルフの恋人ミミ、マルセルの恋人ミュゼット、ショナールの恋人フェミィ、その他の登場人物が繰り広げる青春群像激劇となっている。

お金が儲かればすぐに豪勢な食事をし、酒を飲み、お金がなければ金の無心をして、食事をし、家賃を滞納し、とハチャメチャな芸術家たちなのだが、道徳的に悪いことはあまりせず、結構騎士道精神を持って信念を持って行動しているところが読んでいて心地よい。恋愛関係にしても、女性たちが結構奔放に性を謳歌しているのに対し、男たちは結構純愛なのも良い。

4人の登場人物がおり、初めに登場するのはショナールではあるのだが、基本はロドルフ=ミミが主人公的な感じで、マルセル=ミュゼットが副主人公的に多く登場する。

最終的には4人の芸術家は大成していって終わり、それぞれの女性とは結ばれない。

ちなみにこの作品はプッチーニの「ラ・ボエーム」やミュージカル「レント」の原作となっているのだが、プッチーニのオペラの有名なシーン、ロドルフの部屋に火を借りに来たミミが、暗闇で鍵を落としてしまい一緒に探す中でお互い好きになっていく、というシーンは18章「フランシーヌのマフ」に出てきて、これはフランシーヌとジャックという本当にほぼこの章にしか登場しない二人によって繰り広げられる。さらにミミは結構性に奔放で、オペラに登場するような純情な感じの女性ではない。

長かったが結構スラスラ読めたし、それなりに面白かった。
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偽の侍女・愛の勝利 [文学 フランス]


贋の侍女・愛の勝利 (岩波文庫)

贋の侍女・愛の勝利 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 文庫



古本屋でふと見つけ、思わず買ってしまった。岩波では現在品切れ重版未定状態。

「偽の侍女」「愛の勝利」どちらの作品も、身分の高い女性が男性に変装し、自分の想う人の心を確かめようとする作品。

「偽の侍女」の方は、相手の男性が不実であることが早々に分かり、その人を騙して追い詰める作品。
「愛の勝利」は、彼女の想い人、哲学者であるその守護者、その守護者の妹、という男二人と女一人を、様々に変装したり騙したりしながら、全員自分に惚れさせ、最終的にはその想い人と結婚するという話。結局騙された守護者とその妹はどうなったのかは分からずあっけなく終わる。

面白くなくはないが、『マリヴォー・ボーマルシェ名作選』に収録されていた4作品よりは面白くなかった。緊張感も低くもう一歩だった。
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試練 [文学 フランス]


マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2021/05/02
  • メディア: -



マリヴォーの『試練』を読み終わった。
結構短い作品であっと言う間に読み終わった。
相変わらず、シェイクスピアの『まちがいの喜劇』のような感じの作品となっている。

金持ちの貴族が、ある女性を好きになり、結婚を申込みたいのだが、その女性が実はお金目当てなのでは、と疑い、それを確かめるために召使いを変装させ、その女性を試すようなことをする。シェイクスピア作品にもよくあるプロットだし、このマリヴォーのほか作品でもよくある感じはするのだが、今回は読んでいてかなり嫌な気持ちになった。試そうとする本人が、その愛する人を直接騙しているのがやはりどうなんだろうと思う。そんなことをされたら、愛している人だって嫌いになるのではないかと思うのだ。

正直、もう一歩な作品だった。
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偽りの告白 [文学 フランス]


マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2021/01/29
  • メディア: -



久しぶりにマリヴォーの戯曲を読んだ。岩波文庫からも出版されている『偽りの告白』だ。この作品とボーマルシェのフィガロ三部作が読みたくてこの本を買ったようなものなので、かなり楽しみにしていた。

自分の好きな女性を射落とすために、自分の従者をその女性の館に仕えさせ、うまく話しをすすめ、結婚に持ち込む話。嘘と本当の情報を相手にうまく与えながら、最終的に愛するようにさせていく手法はとてもうまい。ボーマルシェに出てくるフィガロ的な役割を、この従者のデュボワが演じている。

面白くなくはないのだが、前に読んだ『恋の不意打ち』『愛と偶然の戯れ』が非常に面白く、この発言の真意はここにあるんだろうなあ、とかがある程度分かるセリフが多かったのだが、正直この『偽りの
告白』は、それぞれの発言・行動の真意がつかみづらく、最終的な目指すべき方向は何となくわかるのだが、このフリが何故そこにつながっていくのというのが非常に見えづらい箇所が多く、ずっとモヤモヤしたまま読ませれている気がした。

ほか作品が面白く、期待が高かっただけに、若干残念な作品だった。
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愛と偶然の戯れ [文学 フランス]


マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2020/09/01
  • メディア: -



マリヴォー作『愛と偶然の戯れ』を読み終わった。
貴族の娘と、息子が、お互い、親が勧める結婚相手の真の姿を見極めようと、召使になりすまし、相手に接近する話。

結局は、貴族の娘と息子、召使通しがお互いを好きになり、ハッピーエンドで終わる。

貴族と平民の壁というものが、絶妙のバランスで話に織り込まれており、その壁を残したまま、心の美しさを引き出そうとするこの戯曲。本当に考え尽くされた素晴らしい話だと思う。

だが、前作『恋の不意打ち』もそうだったが、読んでいるうちになんとなくシェイクスピアを彷彿とさせた。なぜなのだろうか。変装して恋をする、あたりがシェイクスピアの喜劇っぽいのだろうか。

まあ、なんにせよ面白かった。
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恋の不意打ち [文学 フランス]


マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

マリヴォー・ボーマルシェ名作集 (1977年)

  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2020/08/11
  • メディア: -



マリヴォーの『偽りの告白』が読みたくて購入した、絶版本の『マリヴォー・ボーマルシェ名作集』。ボーマルシェのフィガロ三部作は、昨年末から今年の初めにかけて読んだのだが、肝心のマリヴォー作品は読まないままであった。

この夏休みを利用して、遂にマリヴォー作品の初めに入っている『恋の不意打ち』を読み終わった。
女性に酷い仕打ちを受け、「もう二度と恋などしない」と誓う男性主人公レリオとその従僕アルルカン。そこへ、美しい伯爵夫人とその侍女コロンビーヌがやってきて、恋に落ちてしまう。しかし誓を立てた手前なかなかその恋心を自分に対しても他人に対しても認められない。だが、最終的にはお互いの気持ちを確かめ合い、大団円を迎える。

解説等には書いていなかったが、間違いなくシェイクスピアの『恋の骨折り損』をベースにしている作品である。しかし、女性や男性の性質を描いた箇所は本当に二つの性の恋愛における性質をよく言い当てており、すごく納得しながら読んでしまった。特にp14から始まる、レリオとアルルカンの女性論、
p.23から始まる伯爵夫人の「男性が何故滑稽な存在か」論はこの作品の白眉と言える。
岩波文庫の解説にあるとおり、作者マリヴォーは、恋愛心理劇の名手と言っても、確かに過言ではない。

非常に面白い作品だった。


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魅せられたる魂(五) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈5〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈5〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



ついに、ロマン・ロランの二大大作を読み終わった。
男性を主人公にした『ジャン・クリストフ』
女性を主人公にした『魅せられたる魂』
どちらも、自分の魂を大事にし、人生死ぬまで自分の信念を貫き通した人たちだ。
確かに、『ジャン・クリストフ』よりは、主人公アンネットの行動に共感できるところも多く、ストーリーもある程度まとまっていてはいたが、やはり面白いものではなかった。
アンネットと人生をともにした人々がどんどん死んでいき、最後は自分も死んでいく。
しかしそこに押し寄せる感動はなかった。

同じようなフランスの大作で言えば、『レ・ミゼラブル』『モンテ・クリスト伯』が挙げられうと思う。どちらの作品もいつかは再読してみたい、と思うが、このロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』と『魅せられたる魂』は二度と読まないだろう。ナイポールもそうだし、大江健三郎もそうだし、川端康成もそうだが、ノーベル文学賞を受賞した人の作品は非常に読みづらい。なぜなんだろうか・・・。
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魅せられたる魂(四) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈4〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈4〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



4巻を読み終わった。ストーリーも読みやすくわかりやすくなり、思想的にも筆者ロマン・ロランが伝えたいことがなんとなくだが伝わってきて、結構面白かった。1巻は新鮮で、結構面白かったが、2巻、3巻はかなりつまらなく、あとはひたすら流し読みになるのか!?と思っていたので、嬉しい誤算だった。

第一次世界大戦も終わり、主人公アンネットは職を転々とし、外国にまで働きに行きながら何とか食いつなぐ。アンネットの息子マルクは、大学を卒業したものの母親譲りの純粋な潔癖な性格から中々良い食にありつけず、叔母シルヴィの面倒になりながらも、何とかそのひぐらしをしながら食いつなぐ。その叔母シルヴィは洋服店がかなり繁盛し、若い頃の放蕩にも飽きてきて、養子を三人引き取り落ち着いた生活を始める。

そんな状態の中、主人公アンネットが働き出した新聞社の社長チモンと何となく良い関係になる。息子マルクは一次瀕死の状態になるが、偶然隣に住んでいた亡命ロシア人、アーシャの看病のおかげで一命を取り留め、ふたりは恋仲になり、やがて結婚する。

これで、めでたく、皆が平穏な暮らしを初めて大団円を迎えるのかと思いきや、アーシャがロシア革命に関わるようになってしまい、フランスに来ていた重要人物ジャネリジェと知り合いになり、彼がフランスからロシアに変える際、荷造りをしている時、一時の感情に流され肉体関係を持ってしまう。そのことを夫マルクに何故だか告白してしまい、ふたりは絶縁状態になる。

といった感じで、様々な人たちの微妙な恋愛感情をかなり緻密に描くと共に、混沌とした政治状況の中、自分の良心を何とか守ろうとする人々の心の葛藤、思いと行動の矛盾に苦しむ姿なども描いており、とても興味深かった。

この本には珍しい、印象に残ったフレーズを紹介したい。

p.79
「新しい支配者たちは旧支配者に比べて進歩を示していた。彼らは古ぼけた国家主義を見限った、幾世紀このかた父子相伝の、虚栄、怨恨、憎悪、遺伝的自負心などの重い愚にもつかぬ荷物を境界越しに投げすてた。柵を打ち壊し、事業と利得の国際主義の建設につとめた。
 しかし彼らが使い古した腐食した首輪に代えるに、それとは違った仕方で束縛する新しい鎖を持っていることを発見するのに手間は取らない。彼らは牢獄を確証した、がそれは幾百万の人間を入れるためで、単に喜劇のあらゆる役を奪い合っている職業政治家連ばかりでなく、あらゆる端役や、補役や観客さえも、芝居全体を(に???)いれるためである。もう逃れるわけにはいかない。将来の戦争では一般民も、女子も、老人も、不具者も、子供も撲られるように――国際資本主義の模範的牢獄では、めいめいに番号があって、唯一人の独立者も認めないだろう・・・・・・いや!何も乱暴なことはしない! この機構は実に完全なので、それに服従するか餓死するより他に選ぶ途はないだろう。新聞や世論の自由などは昔の空想になるだろう。」

かなり長いがどれも重要な言葉なので全部引用した。古い封建主義的なくだらない伝統を、第一次世界大戦の集結と共に打破したと思われたヨーロッパ社会だが、結局それは新しい軛を呼び込んだに過ぎなかった。自由主義と言われるような、一人ひとりが一見すると自由であるような社会に移る前の、社会は様々なものにがんじがらめにされていたようで、実は心の自由のようなものはあった。しかし、自由主義、イコールではないがほぼ同じような意味として機能してしまう国際資本主義が跋扈することにより、全ての人間が金の奴隷となってしまう。これはまさにマルクスが言わんとしていたことなのではないだろうか。そして、全市民を巻き込む第二次世界大戦を引き起こす。さらにそれが終わっても、メディアの批判を受け付けないような、現在の日本のような民主主義の最先端を行っていると思われているような国の状態に陥ってしまう。

本に書かれている情報から読み取ると、この本は1922-1933年に書かれたようである。つまり第一次世界大戦が終わり、第二次世界大戦までの、あいだに書かれている。このあいだに、まさに第二次世界大戦が起こることを、そして起こった場合の戦争のあり方を予言し、戦後、資本主義の引き起こす人々の奴隷状態も予言し、現在の日本の状況も予言してしまっているとも言える。この箇所を読んだとき、あまりにも現在の状態とぴったりしていたので思わず震えてしまった。

そんな社会で、人々はどう生きるべきか、それを次の箇所で読者に訴えかけている。
マルクと結婚すべきかどうか悩んでいたアーシャに、アンネットが語った詩。

p.317
『わたしはおんみにわたしの心をあたえる、
 わたしはおんみにわたしの生命をあたえる、
 しかしわたしの魂は、おんみに与えはしない、
 この宝はわたしのものではないのだから』

これはアンネットが結婚しようかどうか迷っていたとき、結局相手の男性が言葉では相手の自由を尊重するようなことを言いながら、心の中では、魂までも自分に服従することを求めていることを知り、結婚をやめたアンネット自身と重なる。結局他人は心の奥底、つまり魂を売り渡すことはできないし、してはいけない。だが、上記のような社会では、魂を売り渡して生きざるを得ないような状況になってしまい、ほぼ全ての人が魂を売り渡す。ある意味それに何とか立ち向かおうとしている人たちを描いた作品なのだろう。非常に感動的なテーマであるのだが、彼の理想主義が上手くストーリーに生かしきれていない。

もう少し簡潔にわかりやすいストーリーの中で、この思想を織り込んでいけたら、もっと読まれる作家になっていただろうに、と少し残念に思うのだ。

さらにもう一つ、息子マルクの思想を描いた箇所
p.327
「マルクは未だかつていかなる思想団体にも加わることができなかった。~中略~ いろいろな主義間の争いが彼になんの関係があるだろう――唯物論といい、唯心論といい、社会主義といい、共産主義といったところで!・・・・・・それはいずれも繋いだ犬の首輪なのだ。」

私も常々思うのだ。キリスト教もマルクスも素晴らしいとは思う。しかしそれが団体となった時、どこかで精神性を失ってしまう。純粋さがどこかで欠落してしまうのだ。それはどうしてもしょうがない。社会の中であるものを維持していこうと思ったとき、純粋なだけでは生き延びていけない。維持するためにはお金がかかる。しかしそれに何とか抵抗しようとして必死に生きる人々を描いているのがこの作品なのだろう。先程も書いたが、痛いほど訴えかけたいことはわかるのだが、あまりにもくどくて、わかりづらい。

なんにしろ、後一巻。とても長い最終巻だが、何とか読みきれそうだ。
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魅せられたる魂(三) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈3〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈3〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



三巻を読み終わった。
負傷兵ジェルマンを救った、アンネットは、そのジェルマンに、彼の親友で捕虜となっているフランツとの連絡係を頼まれ、最終的には捕虜フランツの脱走を手伝う。そんなこんなをしているうちに、第一次世界大戦も終わる。
大戦が終わった後、アンネットの息子マルクは大学を卒業し、仕事を探すがなかなかありつけない、といった感じの内容。

正直、ジェルマンとフランツが何故非常に仲がよく、命の危険を犯してまでお互い会いたいのかもよくわからないし、それを助けようとするアンネットもよくわからない。反戦を訴えているようで非常に中途半端だし、マルクが友人たちと色々語り合って、今でいう「自分探し」をしているところの描写も退屈極まりない。後半、かなり飛ばし読みになってしまった。これがあと二巻続くかと思うとぞっとしてしまうが、読み始めたので頑張って完読したい。
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魅せられたる魂(二) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈2〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈2〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



些細なことから喧嘩して別々に暮らすことになった姉妹アンネットとシルヴィ。未婚の母である姉シルヴィは、生きる糧を得るために孤軍奮闘するも、生まれつきの高潔さが仇となり中々良い職にありつけない。そんな中、息子のマルクとの心理的距離はどんどん離れていく。

そんな中、妹シルヴィの一人娘オデットが事故のため亡くなってしまう。そうこうしているうちに第一次世界大戦が始まり、近くにいる男性たちが皆戦場へ駆り出され、どんどん死んでいき、シルヴィの夫も死ぬ。

第一次世界大戦が始まるまでは心理描写なども結構細かったのだが、大戦が始まったあとの描写はただ事件を淡々と述べていくような文体へと変わる。正直起こる出来事の一つ一つがあまり面白いエピソードではないのであまり楽しめない。

取り敢えず2/5読み終わった。これから面白くなることを期待して残りの3巻を何とか読み切りたいところだ。
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魅せられたる魂(一) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



久しぶりに、ロマン・ロラン作品を読んだ。
名作といわれる『ジャン・クリストフ』が非常に読むのが困難で、面白くなく、もう彼の作品は読まなくても良いや、と思っていた。が、色々調べると、この『魅せられたる魂』は、ジャン・クリストフの女性版であり、新しい女性観を提示しており、『ジャン・クリストフ』よりも遙かに面白いという書評を多く目にした。さらにこの本は現在岩波で「品切重版未定」状態であり、偶然古本屋で見つけてしまい、これは買うしかないと思い、半年くらい前に買っておいた本だ。
400ページ以上あるかなり分厚い本で全5巻。それだけで引いてしまうそうだが、長編好きの私としては逆に読む気がぐんぐん沸いてい来る。

そして読み始めた。主人公は裕福な商人階級の金持ちの娘アンネット。父親が死去した後、父親が不倫して作った妹シルヴィがいることを知り、彼女と時間をかけて打ち解けあい、やがて一緒に住むようになる。そんな中、お年頃のアンネットはロジェという、政治家志望の格好いい金持ちと恋愛関係になる。結婚寸前まで行く。しかし、アンネットはここで不安に思う。

100年以上も前の話であり、ヨーロッパの話とはいえ、女性が男性の家に入るという社会風土であった。当然ロジェは、アンネットが自分の家に入り、彼は彼女の全存在を支えていくものというマッチョイムズに支配された考え方でアンネットに迫る。こう書くと、かなりロジェが強引に男性優位的にアンネットを支配下に置こうとしていたかのように思われるかもしれないが、そんなことはない。彼は非常に優しくジェントルに接する。しかし、アンネットはロジェのやさしさの根本に、マッチョイムズ、結婚したら身も心も一体になり、女性は男性に従うものであるという、考え方があるのを見抜く。

これは言葉に書き表すのは非常に難しい。私は男であるが、このアンネットの気持ちが非常にわかるのだ。男女間に関わらず、恋愛関係になると、どうしてもその人のすべてを知ったり、あらゆることを束縛しようとする人がいる。私にはこの感覚が全く分からない。恋愛関係だろうが、婚姻関係であろうが、魂の自由、つまり個人の自由はあくまで尊重されるべきなのだ。相手の自由を尊重することで、自分の自由も尊重される。しかし、相手を束縛しようと無意識に考え行動している人はこのことがわからない。そしてそういう人に限って、自分の自由を尊重するように相手に要求するのだ。こうした人に、「自分の自由を尊重してくれ」と訴えかけてもあまり意味がない。なぜなら、彼らは相手の自由を尊重していないとは、これっぽっちも思っていないからだ。

結局ロジェは、彼女に結婚を断られた直後、一時の欲望にかられ、アンネットと肉体関係を持つ。アンネットはそんな彼を受け入れるが、彼女の体をものにしたロジェは急激に彼女への思いが消えていく。しかし、責任を感じたロジェはあくまで彼女と結婚しようとするが、アンネットは彼の気持ちが覚めてしまったことを知り、あくまで結婚を固辞する。

この、肉体関係を持った瞬間冷めてしまう男性の感覚もわかる。結局これは、先の話ともリンクするが、相手を求める気持ちが、相手の全人格を求めていないということの証左となるのだ。

のちに、妊娠していたことをしり、彼女は未婚の母となる。
ここからまた彼女の苦難が続いていく。

その後、彼女はあるインテリの男性と結婚寸前まで行くが、正直に未婚の母になったいきさつを話すと彼はその潔癖の性格から彼女を拒絶する。このすべてを素直に話すというアンネットの姿勢も非常に心地よい。

ジャン・クリストフは全く共感できなかったが、このアンネットは非常に共感できることばかりで、読んでいてとても面白い。

退屈な描写も多々あるが、今回は最後まである程度楽しく読めそうだ。

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王妃の首飾り 下 [文学 フランス]


王妃の首飾り 下 (創元推理文庫 512-3)

王妃の首飾り 下 (創元推理文庫 512-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫



アレクサンドル・デュマ作『王妃の首飾り』を読み終わった。基本的な登場人物、大きな出来事は大体上巻で出尽くし、あとは、裁判での判決に向けてひた走る感じの下巻だったので、意外とスイスイ読みすすめられた。

フランス宮廷を描いた作品にありがちな、不倫関係の描写も、マリ・アントワネットの高潔な人格のため、あまり生々しくなく非常に抑制されたプラトニックな感じで、しかもそのプラトニックな愛のせいで、傷ついていく様々な周りの人間の模様が描かれており、その恋愛話だけでも非常にドラマティックな感じだった。

前にも書いたが、この作品は、『ある医師の回想』というなが~い四部作の第二作目であり、前作『ジョゼフ・バルサモ』という作品が物語の展開の上で非常に重要な役割を演じている。先に書いた、王妃のプラトニックな愛のせいで傷ついた家族が主人公のようなこの『ジョゼフ・バルサモ』、この『王妃の首飾り』の前に読んでみたかった。

一応歴史小説ということなので、ネットで色々と真相を読みながら同時並行で読みすすめた。その過程で、当たり前だが、歴史的事実と違う部分が多々あることを知り、若干読書意欲が減退してしまったことは否めない。

『黒いチューリップ』『王妃マルゴ』ほど、最後まで熱中して読むことができず、最後の裁判の場面は若干覚めた感じで読んでいた。この場面、もう少し、様々なやりとりを克明に描いていたらもっとドラマティックな感じになったであろうにと思うと、少し残念だ。

長い割には、そこまでおもしろい作品ではなかった。

アレクサンドル・デュマ作品 順位
1. モンテ・クリスト伯
2. 黒いチューリップ
3. 王妃マルゴ
4. ブロジュロンヌ伯
5. 20年後
6. 王妃の首飾り

といった感じか。これで購入しておいたデュマ作品は一応全部読み終わった。
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王妃の首飾り 上 [文学 フランス]


王妃の首飾り 上 (創元推理文庫)

王妃の首飾り 上 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1972/04/07
  • メディア: 文庫



デュマの『王妃の首飾り』を読み始め、上巻が読み終わった。
フランス革命前、マリ・アントワネットをめぐる陰謀の話で、私の愛読書『ヴェルサイユのばら』でこの「王妃の首飾り」事件は結構詳しく描かれていたので、情景を頭に思い浮かべやすく『王妃マルゴ』より文字が小さく、かなり長いのだが、すらすら読み進められている。

本当に実在していたのかよくわからないが、千年以上も生きており、いろいろなことを予言できると嘯くカリオストロ伯、王族に近いところでそれぞれがそれぞれの思いを抱いて動くタヴェルネ一家、ルイ16世の兄弟たち、王族を貶めようとする様々な人民たち、なんだかよくわからないが、運命に翻弄されてそうした陰謀に加担する下層階級の人間たち、そしてこの事件の首謀者ヴァロワ家の末裔と嘯くジャンヌ、とにかく様々な登場人物が出てきて面白い。

しかも、『王妃マルゴ』『ダルタニャン物語』など、フランス王族の歴史をそれなりに小説で追ってきているので、いろいろなことがつながりやすく非常に面白い。

ところで、この話。『或る医者の回想』という大部の4部作の2作目らしい。一作目の『ジョゼフ・バルサモ』という話はこの『王妃の首飾り』にも大きく影響しているので、読んでみたいとは思うが、一般に日本語版では流布していないらしい。

まあ、なんにしろ、この作品を一気に読み切りたい。
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王妃マルゴ 下 [文学 フランス]


王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)

王妃マルゴ〈下〉 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: 文庫



最高に面白かった。
上巻の時の感想として書いた、不倫ネタはほとんど出てこず、不倫をしているとはいえ、ナヴァール国王アンリと王妃マルゴはお互いの不倫関係を認めており、さらに、二人は友情関係にもあり、お互いの危機の時にはお互い助け合うという関係も出来上がっており、さらにお互いの不倫相手との関係が非常に純愛であり、読んでいてとても心地よいものであった。

さらに、国王母カトリーヌと、アンリの争いも、直接的ではなく間接的で、非常に巧みな心理戦、だましあい、周りの人間たちの様々な動き、とにかくすべてが緊張感に富み、面白かった。現王朝ヴァロワ家の内紛がギリシャ悲劇を思わせ、もちろんそれを匂わす単語や章題が巧みに組み込まれているのだが、とても興味深かった。

ダルタニャン物語ほど、冗長なところもなく、非常に引き締まった感じで密度も高く、『黒いチューリップ』とは違う意味で、非常に面白かった。

おそらく日本では絶版になってしまっているのだろうが、せっかくなので市場に流通させてもらいたいと思う。フランスで作られた映画版もみたくなった。
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王妃マルゴ 上 [文学 フランス]


王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)

王妃マルゴ〈上〉 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/01/31
  • メディア: 文庫



私は何かにはまると、それに関するものをいろいろと知りたくなる。昨年、アレクサンドル・デュマの『ダルタニャン物語』にどっぷりつかったことで、デュマの他作品も読んでみたくなり、『黒いチューリップ』『王妃マルゴ』『王妃の首飾り』の中古本たちをネットで手に入れた。

『黒いチューリップ』は前にも記したが、純愛を描いた作品であり非常に面かった。

そしてこの『王妃マルゴ』である。
世界史的にも有名な、新教徒(ユグノー)大虐殺事件:聖バルテルミの大虐殺から物語は始まる。
立ち位置として非常にわかりやすいのは黒幕の国王の母カトリーヌだけであり、後の人物たちは何でも筒抜けのルーブル宮殿の中でお互いの腹を探り合いながら会話をするので、本心がどこにあるのか、いま何が実際起こっているのかが非常にわかりづらい構成になっている。時代も扱っている題材も大きく違うが、そのあたりの雰囲気はヘンリ・ジェイムズに非常に似通っている。

その一方で、様々な恋愛模様を描いているのだが、これがまたすべて不倫。『ダルタニャン物語』もそうだったし、この間読んだ『フィガロ三部作』もそうなのだが、本当に当時の結婚というのは政略や家柄保持のためのものであり、それぞれは自分の心の赴くまま恋愛を楽しんでいたのではないかと思ってしまう。ましてや王族までそうだったとは、というよりは、王族だからこそなのかもしれないが、若干以外である。さらに思うのは、これだけ性に対して乱れていた時に、妊娠事情はどうなっていたのか、といつも思ってしまうのだ。ルイ16世が自分の子供を自分の子供ではないのではないかと思い悩んだのも納得できる。
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