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リラの花咲くけものみち [文学 日本 藤岡陽子]


リラの花咲くけものみち

リラの花咲くけものみち

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/07/20
  • メディア: Kindle版



2023年7月30日に出版された藤岡陽子さんの最新作を読み終わった。
本のサイズが違うのが嫌で、文庫本が出るまでは購入しない、といつからか決めているのでとりあえず図書館で借りて読もうと思い、図書館に入荷されるのを今か今かと毎日のようにチェックしていた。そしていざ入荷され予約しようと思ったら、何と20件待ち!!!。結局私の手元に届くまで1ヶ月半近くかかった。

今回は、獣医師を目指す女の子の話。相変わらず主人公の生い立ちは結構厳しく、10歳で母親をなくし、その1年半後に父親が再婚。継母が典型的なシンデレラの母的に女性で、先妻のものをすべて家からなくそうとする。主人公聡里が、実の母が生きていた時から飼っていて可愛がっていた犬のパールが自分が学校へ行っているあいだに捨てられたらと思い不登校になってしまう。継母に怯えて暮らす不登校の三年間。母方の祖母、チドリがある日突然家にやってきて聡里のひどい様子を見て、その日のうちに自分の家に連れ帰ってくれ、それから過ごした友達はいなくとも祖母と過ごした幸せな高校生活。色々と葛藤した後に、なんとか合格した北海道の獣医大学。

はじめは人と接することに怯えていた聡里だが、動物を介して段々と友達も増え充実した大学生活を送るようになる。様々な動物の死などを目の当たりにし、獣医になることを何度か諦めようとするが、周りの暖かいサポートでそうしたことを一つ一つ解決していきなんとか前向きになれた時にやってくる突然の不幸・・・。

結構暗く重い話が続くのだが、北海道の大自然の描写や、登場人物たちの優しい性格が全体を暖かいトーンに包んでいる。

とにかく感動的な本。やはり後半は涙がじわっと溢れてきた。人の死と近いところで生きてきた筆者だからこそ、描けるのであろう人の死と身近な人・愛する人を失った人の感情の細かい描写が心をうつ。

pp.192 ~193
「逃げるのは悪いことじゃない。逃げなきゃ死んじまうことだってある。逃げた先で踏ん張ればいいんだ。いま辛いことから逃げたとしても、時間を経て変わることはできる。苦しんだ人のほうが、初めからなんでもできるやつより強いよ。」

彼女の作品が心を打つのは、悲惨な状況に会い何度かその悲惨な状況を回避しながらも周りの人の暖かい支援を受けながらなんとか自分の力で人生を切り開こうとしていく人の姿を描いているからなのだろう。

嘘臭さがない心を熱くする物語が本当に素晴らしかった。

p.203
「還暦を迎えたいま思うのは、時間をかけて力を尽くして築いたものだけが、最後に残るってことよ。仕事もそうだけど、人との関係にしても同じことが言える。」

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空にピース [文学 日本 藤岡陽子]


空にピース (幻冬舎単行本)

空にピース (幻冬舎単行本)

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/02/24
  • メディア: Kindle版



藤岡陽子さんの最新作を読んだ。前作は塾をテーマにした作品だが、今回は小学校をテーマにした作品。彼女の経歴の関係もあるとは思うのだが、看護師・病院もの、弁護士もの、スポーツものが多かったが、最近教育に興味があるのだろうかと思わせる作品が続いている。

話は、東京都内の比較的生活が苦しく、学力に関しても高くない児童が多い地域を舞台にしている。5年生の時問題のあるクラスで、担任が病気になってやめてしまい、そのあとを引き継ぐ形でそのクラスの担任になった澤木ひかりが主人公。とても優しく前向きで物事に真っ直ぐ取り組んでいく姿勢に、とても好感が持てる。周りの先生たちはこの地域・この学校の大変さに諦めムードで、最低限の三年間の任期が終わるのを静かに待っているという感じで、彼女は学校にあまりとけ込めない。そんな中ひとり救いの手を差し伸べてくれる養護教諭の水野。彼女のような存在を常に物語のなかに置くのが藤岡陽子さんの作品を安心して読めるものにしてくれていると思う。

5年で学級崩壊という話だったので、凄まじいクラスなのかと思って読み始めたが、そんなことはなく、素直な子も多く、結構真面目に授業にも参加している子が多いという設定。クラス運営の大変さ、というより、一人ひとりが持つ大変さに焦点を合わせたかったのだろうと思う。

結構凄まじい家庭環境で育っている子が多く、読んでいて辛くなる部分も多いが、最後はほろっとしてしまう美しい最後となっている。ミステリーの要素も混じっておりかなり楽しめる作品となっている。

p.53
「彼の手からゲーム機を取り上げて名前を呼ぶと、ようやくその目がひかりを見る。反抗的な光が宿っているのは、ゲームを中断されたからだ。この恨みがましい目にも、これまで何度か遭遇してきた。婚の時ひかりは、ゲームを開発した大人たちに憎しみを感じる。こんなにおもしろいものを作れば、子どもが夢中になるのは当たり前ではないか。感情のコントロールが未熟な年少者に与えるには危険すぎる玩具ではないか。大人たちの金儲けのために子どもの貴重な時間を奪わないでほしい。」

p130
「『あなたがこの世で見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい』
 インド独立の父、マハトマ・カンディーの言葉だ。」

p241
「グエンくんは努力ができる人だよ。努力はきっと報われる。たとえいますぐ報われなくても、あなたの人生のどこかで、あの時頑張っておいてよかったと思える時が来る。だから絶対に諦めないでほしい。」

本当に良い作品だった。早く文庫化して欲しい。
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トライアウト [文学 日本 藤岡陽子]


トライアウト (光文社文庫)

トライアウト (光文社文庫)

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫



藤岡陽子さんの三作目の作品『トライアウト』を読み終わった。
そもそも私はあまりスポーツ選手を物語にしたような作品が好きではない。甲子園で優勝しプロでもある程度活躍し、今は戦力外通告を受けてしまった選手と女性記者の物語というあらすじを読んでも、正直言って読みたいと思わなかった。

藤岡陽子作品を新作以外は全部読んだいませっかくなので読んでみようと思い読んでみた。
素晴らしい小説だった。ボロボロ泣く系のものではなかったが、まっすぐ生きることの大切さ、前を向いて生きていこうと感じさせてくれるストーリー全てがよかった。

登場人物は相変わらず優しく真っ直ぐな人ばかりで、惹きつけられる人々ばかりだった。華やかな世界で生きることの裏側も描かれており、心理描写なども素晴らしく、プロを志す若者たちに是非読んでもらいたい作品だ。

p.246
「辛い時はその場でぐっと踏ん張るんだ。そうしたら必ずチャンスはくる。チャンスがこない人は辛い時に逃げる人なんだ。」

p.280
「何やるにも本気でやれって。自分に言い訳できないくらい本気でやれって」

p281
「私は誰よりも頑張っている。誰よりも頑張っているというこの気持ちが、私を強く生きさせてくれるんだ。」

まっすぐひたむきに生きる人をそっと励ましてくれる素晴らしい作品だ。
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この世界で君に逢いたい [文学 日本 藤岡陽子]


この世界で君に逢いたい (光文社文庫 ふ 23-6)

この世界で君に逢いたい (光文社文庫 ふ 23-6)

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/08/06
  • メディア: 文庫



与那国島、京都、東京をつなぐストーリー。前世と凶悪犯罪など様々なことが織り込まれた話になっている。書評などを見るとスピリチュアル系で受け入れづらいなどというものも見るが、全くスピリチュアルでファンタジー的な要素はない。以下の言葉が筆者のこの物語で伝えたかったことを示していると思う。

p.231
「だがどうしてかいまは、目に見えない世界を人は信じなくなっている。人への想いも未来もなにもかも、本来は目に見えないことばかりだというのに。」

ある一人の少女の死を悔やむ様々な人の気持ちが細かく描かれており、その悔やむ人々を支える様々な人たちの優しい心も読んでいて心地よい。

かなり残忍な感じの犯罪が描かれているが、温かい雰囲気に満ちた作品。ジワっと涙が出てくる佳作。
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メイド・イン・京都 [文学 日本 藤岡陽子]


メイド・イン京都

メイド・イン京都

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2021/01/07
  • メディア: 単行本



題名にあまり惹かれず読まないでも良いかな、と思っていた作品だが、彼女の作品をほぼ全て読みすすめてきたので、せっかくなので読んでみようと思った本。かなりよかった。『おしょりん』含め藤岡洋子さんの作品は題名で買ってみようと思わせる本が少ない気がする。しかし読むとかなり面白く感動的だ。彼女の作品の真髄である内面を重視した作品作りということなのか・・・。

結婚を機に今まで勤めてきた会社を辞めて、京都に嫁ごうとしていた美大出身の主人公美咲。しかし色々なことが重なり、婚約者とうまくいかなくなり、一時冷却期間を置いてみようということに・・・。そんな中ふとしたことから、手縫いのT-Shirtsを売ることになり、紆余曲折があり最後は成功へ、というサクセスストーリー。そこに大学時代から美咲に片思いしていた陶芸家の佳太が絡んでくる。主人公級の人の真っ直ぐで真摯な姿勢がこの本でも貫かれており読んでいてとてもさわやかな気分になれる。

藤岡陽子さんの作品のうまさは、主人公の男女がくっつきそうでくっつかない微妙な関係を継続させ、最後くっつくかどうか、というところで終わらせるところだ。しかも二人共不器用ながらもとっても良い人なのでどうしても応援したくなってしまう。

この本を読んでsuper beaverの「正攻法」という曲を思った。

「正攻法でいい、まっすぐでいい、まっすぐがいい
 斜めに構えるせいで、綺麗なもの、見逃してしまいたくないな

 正攻法でいい、まっすぐでいい、まっすぐがいい
 正直者はいつだって、馬鹿のその先を見ている」

この本の印象に残った言葉

p.92
「人の手の痕跡がある洋服を身に着けなさい。そうしたら美咲の人生を豊かなものにしてくれるからね」

p.257
「十川さん、運というものは、どこかから降ってきたりはしません。空が雨や雪を気まぐれに落とすようには、運は降ってきませんよ。運は、人が人に与えるものなのです。人が、人に運んでいくのです。」
 中略
「運を良くしたいと思うならば、人に信用されることです。運は信用に値する人間のもとにしか訪れません。」

どちらもとても良い言葉だと思う。真摯に努力を続けるすべての人たちに送りたい言葉だ。

今回はボロボロ泣く、という感じのストーリーではなかったが、勇気づけられる作品だった。
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きのうのオレンジ [文学 日本 藤岡陽子]


きのうのオレンジ

きのうのオレンジ

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/10/26
  • メディア: 単行本



藤岡陽子さんの面白そうな作品だけを読もうと思って、何冊か読んでいるうちに、出版された順にいつのまにか読みすすめてしまい、2020年10月に出版されたこの本までたどり着いてしまった。

主人公は、30歳代前半という若さで胃がんにかかってしまった笹本遼賀。都内でチェーン店のイタリア料理屋の店長をしている。物語はこの遼賀を、高校時代の同級生で偶然病院で再開した看護師の矢田泉、凌駕の店で働くアルバイトの高那、本当は従兄弟なのだが兄弟として育てられた弟の恭平、そして彼の母と祖母。それぞれが苦しい境遇を生きてきながら、けっして卑屈にならず前を向いて真っ直ぐに生きてきた。その中心にいたのが主人公凌駕。彼の優しさに多くの人間が助けられてきたのだが、本人はそれを意識していない。それを闘病生活を通してみんなが彼に伝えていく。暗く重いテーマなのに最期は爽快感がある。そして彼女の作品を読むといつもそうなのだが最後の50ページはひたすら涙を流して読んでしまった。とてもじんわりと心に染み入る作品だった。

p.162
弱音を吐かない人は、いつだってたったひとりで闘っている。

p.207
人の本気を嘲笑うやつに、頭を下げることはできない。
「浅井がこのままの性根で社会に出たならもっと酷いことになりますよ。自分に非があるにもかかわらず、そのことを上司に叱責されたら、そこでもまたパワハラだと訴えるんですか。悪いのは自分だ、だから叱られて当然だ。そういう思考を身につけないまま社会に出たら、泣きをみるのは浅井自身ですよ。」
世の中には自分の日を認めない人間が多すぎる。自分に不利なことが生じれば、すぐ他人のせいにする。「怖かった」「傷ついた」と訴えれば誰でも被害者の顔になる。

p.270
苦しい思いをして登ってきたからこそ、見える景色がある。


これらすべての言葉、ここに書かれているストーリーが自分の今までの人生を肯定してくれているようで、とても泣けてきた。
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海とジイ [文学 日本 藤岡陽子]


海とジイ

海とジイ

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/12/07
  • メディア: Kindle版



香川県瀬戸内海を舞台にした、おじいさんと悩む青年や女性の交流を描いた連作短編集的な作品。

1.海神 わだつみ
トイレでいじめにあい、公衆トイレに行けなくなってしまい不登校になってしまった少年とそのおじいさんの話。

2.夕凪 ゆうなぎ
東京で静かに真摯にクリニックを営んでいた医者と、その看護師の話。70歳の爺さんと50歳前の女性の話で読む前に若干あらすじを読んだときはあまり面白くなさそうと思ったのだが、読んでいるうちにどんどん引き込まれた。権威に屈っせず辛苦を舐めた医者、彼に手を差し伸べた友人、どうしようもないヒモ男、様々な登場人物がそれぞれに面白い。

3.波光 はこう
怪我をしてしまい高校最後の大会に出られず、大学の推薦もなくなってしまった、超高校級の力を持つ長距離選手の高校生とそのおじいさんの交流を通して、正しく真っ直ぐに美しく生きることの大切さを訴えた作品。

短編集ということもあるのか、ほかの藤岡作品に比べると涙ボロボロという感じではないが、なんとなくジワっと来る、人生前向きに正しく生きようと思わせる作品。バラバラの短編なのかと思っていたが、どこかで3ぺんが繋がり合っておりもう一度頭から読みたいと思わせる仕掛けも粋だ。
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満天のゴール [文学 日本 藤岡陽子]


満天のゴール

満天のゴール

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/10/26
  • メディア: 単行本



終末医療、過疎地の医療をテーマにした作品。

10年間幸せだと思って結婚生活を続けてきた専業主婦奈緒は、夫の不倫によって離婚を突きつけられ、京都の過疎地にある実家に戻る。ふとしたことからその過疎地唯一の病院で、看護師として働くことになる。そこで働く施設で育った三上高志という医師と共に訪問医療を行う中で様々な体験をしていく話。

あらすじだけ見るとあまり面白くなさそうなのだが、読み進めるにつれ色々と考えさせられ後半3分の1はひたすら涙が流れてしまった。本を読み終わった後、顔を洗ったくらいだ。

今日本では、病気にかかると手術をしたり、西洋医学的に治そうとアプローチをかける。しかし何もしないで死を静かに待つという選択肢もあるはずだ。そんな問題提起を、過疎地の訪問医療を物語として行っている作品と言える。

今回も心に響く言葉がたくさんあった。

p.32
「人生はどうして平坦ではないのだろう。けっして欲深く生きてきたわけではないのに、穏やかな暮らしが続かないのはなぜなのだろう。」

p.41
「蛇口を捻りコップに水を汲みながら、やっぱり田舎暮らしは不便だと二十四時間灯り続けるコンビニの青白い光が懐かしくなる。でも都会は都会で、誰かの便利のために、誰かが宵っ張りで働いているのだ。誰かがふと飲みたくなった夜中のビールのために、だれかの生活が昼夜逆転する。それは果たして便利という言葉だけで片付けていいのだろうか。」

p.154
「奈緒、一段一段や。仕事の上達は階段を上がるのと同じや。上がるのをやめてしまったらそこから先の景色は見えへんぞ。」

p.277
「知らないみたいだから教えてあげてるんです。たいていの母親はね、子供に救ってもらおうなんて、これっぽっちも思っていませんよ。」

本当に感動的な本だった。
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むかえびと [文学 日本 藤岡陽子]


むかえびと (実業之日本社文庫)

むかえびと (実業之日本社文庫)

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2018/05/18
  • メディア: Kindle版



資本主義に犯された心のない院長の経営する産婦人科で働く、真摯で美しい心を持った助産師たちの物語。藤岡陽子さん特有の、善の心を持った人、悪の心を持った人、という感じの完全なる描き分けが深みがないという感じを持つ読者もいるのかもしれないが、彼女は善と悪を対比させることにより、まっすぐひたむきに生きる善の人の美しい心を描いているのでこれはこれで文学作品の形として素晴らしいものだと思う。

出産をする女性たちの様々な思い、命の重さ、出産前診断など様々なテーマを相変わらず描いており、彼女が得意の医療・法律という分野も上手く織り交ぜられ、今作品は若干ミステリー的要素もある。すごく感動して涙がボロボロという類の作品ではないが、結構ドキドキして速く先を知りたいと読書のスピードがあがってしまう作品だった。

p.127
「当たり前ですけど、命って平等じゃないですよね。」
 中略
「生まれてくる段階で、すでに選別されるじゃないですか。生まれるのを許される命と、許されない命があるじゃないですか。そういうこと平気で、人間はしますよね。」

p.137
「助産師をやってていつも思うんですよ。昔々のずっと昔から、女の人はこうやって女の人を労ってきたんだろうなと。昔は男が狩りでいない時なんか、女だけで過ごしますよね。子供を守って。だから女性は本来、痛みや苦しみを分かち合うのがうまいきがします」

p.148
「私はね、自分を必要としてくれる場所にいたいだけなの。私にとっては、それが生きるってことなのよね。だから必要とされるように努力してる。それだけ」

様々なことを真剣に考えさせられる良著だと思う。
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晴れたらいいね [文学 日本 藤岡陽子]


晴れたらいいね (光文社文庫)

晴れたらいいね (光文社文庫)

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/08/08
  • メディア: 文庫



これも看護師の話。夜勤中に地震に見舞われ、意識を失ってしまって、気がつくと、今まで看護していた女性の若い時代にタイムスリップしてしまっていた、という話。しかもその若い時代が戦争中で、場所はマニラ。

私はこういったタイムスリップものがあまり好きではない。SF系作品も好きではないし、あまり現実味がないので苦手なのだが、いろいろな人の感想を見ると結構感動作とあるので、あまり期待せず読んでみた。

現代と過去を比べて、現代を相対化する意味でのタイムスリップ、そして単純に今が戦時に比べて幸せで平和だ、ということを伝えたいのではない仕掛けやセリフがあり、本当に素晴らしかった。

「どうしてそんなに人のために尽くせるの」という主人公の問いに答えた親友の言葉が胸をうつ。

pp.209~210
「怒っているからよ」
   中略
「こんな気持ちを誰にも打ち明けたことはないけれど、私は心底この戦争を憎んでいるの。」
 自分は命が生まれる手伝いをする看護婦だ。だから、命を簡単に懸ける戦争を決して許さない。命を生み出し、そして育むのに、女たちがどれほどの時間と力を費やすのかを、男は知らない。

最高に美しく、最高に力強く、最高に心を打つ文章だ。

『手のひらの音符』とは全く違った種類だが、とにかく素晴らしい感動作だ。最後の50ページはひたすら涙が止まらなかった。この本は是非、手元に置いておきたいと思った。
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おしょりん [文学 日本 藤岡陽子]


おしょりん

おしょりん

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2016/02/15
  • メディア: 単行本



福井県の生野に住む、増永五左衛門が妻むめと、眼鏡工場を作り、発展させていく物語。一応実話らしく、どこまでが実話でどこまでがフィクションかはよくわからない。藤岡陽子特有の涙が止まらなくなるような感動的な場面はないが、しっとりとした味わい深い作品ではある。

だが、わたしはこういう歴史ものがあまり好きではないので、彼女のほか作品程、その世界に入り込んで楽しむというふうにはなれなかった。

妻むめと、五左衛門の弟幸八の淡い恋も少し入っており、この辺が物語にアクセントつけているが、これがなかったら結構読み進めるのが難しい本だったかもしれない。

p174
「ほやけどな兄さん、最後の最後は心のある人間が手掛ける商いだけが生き残るんや」

これはとても良い言葉だと思う。そして、これも実話らしいが、工場の職人に仕事が終わったあと、工場の二回で教育を施していたというのは素晴らしい。

小説として、凄い面白い作品というわけではないが、父の実家が福井県である自分としてはそれなりに楽しめないことはなかった。


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波風 [文学 日本 藤岡陽子]


波風 (光文社文庫)

波風 (光文社文庫)

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/12
  • メディア: 文庫



藤岡陽子さんの短編集。心や体に傷を持つ人々が必死にもがきながら生きる様子を描いた7篇が収められている。

1.波風
2.鬼灯
3.月夜のディナー
4.テンの手
5.結い言
6.真昼の月
7.デンジソウ

1は、男性関係で悩む二人の看護師の話。本のタイトルにもなっている作品で、悪くはないが、この7篇の中ではもう一歩か。読後感ももう一歩。

2は、美しい。自殺で夫をなくした女性が再婚をし、病気になってしまう話。その女性が再婚した男性を始め娘はあまりよく思っていないのだが、二人の馴れ初めを知り・・・。結構感動的な話。

3は、一番美しく素晴らしい。別の男性と再婚し捨てられてしまった姉・弟の話。育ての親と言えるおばさんとの心暖まる話。最後は涙が止まらなかった。

4は、才能豊かな「テン」という少年の話。藤岡陽子作品は常にそうだが、「天才=努力の人」というのがこの作品でも随所に現れている。

5は、奥さんのために着付けを習いに来たおじいさんの話。彼の一途な人柄が様々な人の心に与える影響をじんわりと描いている。

6は、アイドルの追っかけをするモテない男が美しい人に恋する話。思わぬ展開にちょっとびっくり。感動度合いは若干低いが面白い。

7は、医療の黒い部分を描いた作品。かなり極端に描かれているが、そこで紡がれる人間関係が暖かく読後感も爽やか。

彼女は長編も素晴らしいが、短編も美しい。かなり読みやすくオススメの作品だ。
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いつまでも白い羽根 [文学 日本 藤岡陽子]


いつまでも白い羽根 (光文社文庫)

いつまでも白い羽根 (光文社文庫)

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/02/13
  • メディア: 文庫



藤岡陽子さんのデビュー作であり、ドラマ化もされている作品を読み終わった。結構長く、文庫本で400ページ以上ある大作だった。

国公立大学しか受けられず、しかたなく滑り止めで受けた唯一の学校の看護学校へ行くことになった木崎瑠美の物語。

もともと友達が少なく、物静かな主人公が自分の信念を貫きながら生きていく。彼女が何故国公立以外の大学を受けられなかったのか、看護学校に入学してすぐ、何故心優しい千夏と友達になったのか、など、ひとりひとりの性格を細かく設定したり、背景をしっかりと構築していくことによって、説得力のある物語の展開にしているあたり、うまいなあと思う。

藤岡陽子作品の設定としてよくある、不遇な子供時代、両親の離婚などなどもうまく組み込まれていた。今回は、かなり読んでいて辛くなるような恋愛関係もあり、信念をそれぞれの登場人物が貫いたことによりそれぞれの未来がかなり辛いものになる、というエンディングで、彼女の作品にある、読み終わったあとの爽快感みたいなものが結構薄目の作品だったが、かなり重厚な作品で楽しめた。

人の良い友人の千夏に、普段真面目に授業を受けていない同級生が、テスト前に焦ってノートを借りにくる場面での言葉。
p145
「楽して乗り越えようなんて甘いのよ。正直者がばかをみるようなことを、少なくとも私は許さない」

p301
「自分を百パーセントさらけ出すことなんて不可能よ。肉親にも親友にも恋人にも夫にも、すべては見せられないわよ。だって自分自身でもわからない自分の感情や本質ってあるものでしょう」

p340
「私は瑠美さんみたいな人が、看護師になってほしいと思うから」
「私みたいって・・・・・・」
「感じた疑問を口にして、きちんと答えを求めるような人よ。おかしいことをおかしいと言える人。常識というのはその場にいる人間で作られるの。だから常識が正しいことだとは、限らない。その場の常識だとか雰囲気に流されないでいられる人は、とても貴重だと思う」

藤岡陽子さんの作品、読めば読むほど好きになる。決して明るい話ではないし面白おかしい話でもない。ストーリー的にとっても面白そうな感じではない。しかし何故か読むとかなりの満足感が得られ、またさらに読みたくなる。それは何故なのだろうと思っていたが、きっと彼女の中に上記のような信念があり、それが作品の中に投影されているからだろうと思うのだ。

私の信念と重なる部分が多い彼女の作品。もう少し色々と読んでみたいとこのデビュー作を読んで思った。
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跳べ、暁! [文学 日本 藤岡陽子]


跳べ、暁!

跳べ、暁!

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 単行本



藤岡陽子さん、初の児童向け小説らしい。俗に言う、ヤング・アダルト小説というのだろうか。
それぞれに悩みを抱えた女子中学生4人を中心に、自分たちの力で新しく創設した女子バスケットボール部の物語。

それぞれの登場人物たちが真っ直ぐで、ひたむきで、今ある自分の置かれた状況に負けずに前向きに生きる姿が感動を呼ぶ。時には喧嘩もしながら、お互いのことを思いやる気持ちが非常に上手に描かれている。そしてお互いがお互いの持つ様々な才能に敬意を持ち合っている姿も良い。「みんな違ってみんな良い」みたいな言葉は、どこか空虚に響くのだが、この小説は全く空虚に響かない。この辺をイヤミなく描けるのが、この藤岡陽子さんのすごさだと思う。この筆者が本当にこの思想を信念として持っているからこそ、物語にそれが浮かび上がってくるのであろう。

p342
「努力はすべて報われる、とはいくら単純な自分でも思ってはいない。でも努力をしなければ絶対に手に入らないものがある。」

この言葉は本当に良い言葉だと思う。

最後が完全なるハッピーエンドではなく、何となく心に引っかかるのだが、爽快感があるのが、素晴らしい。

是非、多くの小中学生に読んでもらいたい佳作だ。
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テミスの休息 [文学 日本 藤岡陽子]


陽だまりのひと (祥伝社文庫)

陽だまりのひと (祥伝社文庫)

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2019/04/12
  • メディア: 文庫



テミスの休息

テミスの休息

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 単行本



藤岡陽子作品、4作品目を読み終わった。前回読んだ『ホイッスル』で登場した法律事務所芳川有仁と沢井涼子を主人公とした短編集。どれも結構悲惨な事件で、当事者は悩み苦しむのだが最後はどこか明るくそして何故か目に涙がうっすら出てきてしまうのは、この作者のうまさだなあと思う。

特に、自分が意図しない事件に巻き込まれ人生を狂わされてしまった若者の話、2作目の「もう一度、パスを」は読んでいて苦しくなってしまった。

芳川と沢井の恋愛も所々に入っており、真面目で誠実な二人が、不器用ながらも近づいていく様子が読んでいてとても微笑ましく、素晴らしかった。

私は短編集はあまり好きではないのだが、この短編集は流れがあり長編作品としても読め、とてもよかった。
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ホイッスル [文学 日本 藤岡陽子]


ホイッスル (光文社文庫)

ホイッスル (光文社文庫)

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: 文庫



藤岡陽子さんの『ホイッスル』を読み終わった。昨日一日で読み終わってしまった。彼女の作品を読むのは三作目。

あらすじを読むと、年老いた人の狂った恋愛で人生を狂わされた人々の話という感じではっきり言って面白くなさそうだし、この話からどうやって感動的な結末に持っていくのか、と思っていたが、素晴らしかったし何度か涙がこぼれそうになった。

とにかく登場人物一人ひとりが何らかの生きる上での困難さを抱えており、善側の人間のグループに入る役目の人々はそれぞれが何とか、その状況を受け入れながらも前向きに生きていこうとする姿が読んでいて何とも言えずジーンときてしまう。そして現役看護師だけあり、看護の世界、死に向き合う人の心などの描き方がとてもリアルで素晴らしい。

何個かとても共感できる言葉があったので紹介したい。(ページ数は単行本版)

大学時代の友達に会い、「もう少し自分の欲望のまま生きたら」と言われ、真面目に生きることに疑問を持った弁護士芳川が、事務員の沢井に電話をする場面。
p.117
芳川:「欲望を抑えて生きることは、つまらないことでしょうか?」
沢井:「他人や自分を傷つけるような欲望は、抑えるべきだと思います。それに・・・・・・理想を持って生きていたなら、欲望を抑えることができるのだと。立派なものでなくても自分なりの理想を持って生きることは、すごく大切なことだと思います」

p.215
幸せはじぶんしだいで増やせるものだと聡子は気づいた。
「不幸せの量はみんな同じ。幸せの量はそのひとそれぞれ」

またまた芳川と沢井のやりとり
p.279
芳川「沢井さんはどうしてそんなに真面目なのかなって。どうして他人のことをそれほど真面目に思いやれるのかなと、時々不思議に思います。」
沢井「まじめにやることが一番の近道だなって思うからです。私みたいな不器用な人間は特に。いえ、器用な人でもやっぱり、そうかもしれません。」

人間の「性と生」ということを主軸に据え、人々の醜い部分を描きながらも、真面目に誠実に生きることの大切さをそっと教えてくれるこの作品。素晴らしかった。
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金の角持つ子どもたち [文学 日本 藤岡陽子]


金の角持つ子どもたち (集英社文庫)

金の角持つ子どもたち (集英社文庫)

  • 作者: 藤岡陽子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/07/01
  • メディア: Kindle版



藤岡陽子さんの作品は二作目。『手のひらの音符』を読み何度も涙を流してしまったが、この作品も何度も涙を流してしまった。

主人公は、小学校6年生までサッカーに打ち込んできた少年俊介。選抜チームに選ばれなかったことで、きっぱりサッカーの道を諦め、中学受験へ意識を変える。あらすじ等を読むとあまりにも突拍子もない感じに思えてしまうが、この決断に必然性があるようにうまく筋が考えられているのが素晴らしい。

俊介の母親、父親、難聴の妹、親友で同じ中学を目指す倫太郎、彼を支える塾講師加地、それぞれが過去の自分の行為に何らかの後悔を持ちそれを何とか払拭しようと努力している。それぞれの姿が純粋でしかも努力をしているのがとにかく読んでいて気持ちが良い。

塾講師加地が、塾随一の秀才の女の子に受験直前にかける言葉が美しい。恐らく東京大学入学式での上野千鶴子氏のスピーチを下地にしているんだとは思うが、物語の中で語られると涙が出てくる。

p.247
「美乃里、一つ頼みごとをしていいか」
~中略~
「なんですか」
~中略~
「おまえが大人になったら、その能力を他の人にもわけてほしいんだ」
~中略~
「おまえのようになりたくてもなれない人が、世の中にはたくさんいる。いろいろな理由で不本意な生き方しかできない人が、驚くほどたくさんいるんだ。~」
~中略~
「了解です、先生。私、賢くて、他人を思いやれる優しい人になります」

俊介の両親のその後、妹のその後など、描いて欲しい要素はたくさんあるが、とにかく最後は気持ちの良いエンディングだった。

『手のひらの音符』共々、多くの人に読んでもらいたい良作だ。
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手のひらの音符 [文学 日本 藤岡陽子]


手のひらの音符 (新潮文庫)

手のひらの音符 (新潮文庫)

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/08/27
  • メディア: 文庫



すばらしい小説だった。
様々な要素が詰め込まれた、本当に本当に感動的な小説だった。

私は小川洋子の小説が好きだ。メインから外れた、人々から注目されることのない人やモノにスポットをあて、当たり前に繰り返される毎日の大切さを改めて実感させてくれるその小説が。彼女の作品は我々の日常と少しずれたところを舞台とすることが多い。そんな若干異次元空間に身をおくことで、今の我々の位置を客観的に見直す、というところがある。なので、小説を読んでいるとき、その小説世界にどっぷりつかることはあっても、登場人物たちに感情移入したり、自分を投影したりすることはない。

この藤岡陽子の『手のひらの音符』は小川洋子作品と通底するものがある。社会のメイン・ストリートに入っていけないけれど、自分の世界観があり、それを非常に大切にしていきながら生きていく人々に非常に非常に優しい目を向けている。
この小説が小川洋子作品と違うのが、自分の身の回りに登場人物達がいそうであり、もしかしたらそれはそのまま自分なのでは、と思わせるところだ。あまりに読んでいる途中感情移入してしまい、電車の中で何度も泣きそうになってしまった。

この本は、子どもにキュンタのしおりをあげるために、買った本だ。私は基本的に古典作品ばかり買う。現代小説はほぼ図書館ですませてしまう。なので、この本は本当に買うのを迷った本だ。しかし、買ってよかった。本当に読後すがすがしい気持ちにさせてくれ、今日からまた頑張ろうという気にさせてくれた。

この本で扱われているテーマはあまりに重層的で、簡単にはいえないし、挙げきれない。いじめ、貧困、夢、個性、障害、やりがい、努力、仕事とは、他にもいろいろある。しかし、登場人物達の言葉を通じて語られる、筆者藤岡陽子さんの思想があまりに自分と違いものがあり、本当に吸い込まれてしまった。

とにかく、今様々なことで思い悩み、何かに踏み切れない人は是非、読んでみて欲しい。きっと何かのヒント、きっかけを与えてくれると思う。
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