満天のゴール [文学 日本 藤岡陽子]
終末医療、過疎地の医療をテーマにした作品。
10年間幸せだと思って結婚生活を続けてきた専業主婦奈緒は、夫の不倫によって離婚を突きつけられ、京都の過疎地にある実家に戻る。ふとしたことからその過疎地唯一の病院で、看護師として働くことになる。そこで働く施設で育った三上高志という医師と共に訪問医療を行う中で様々な体験をしていく話。
あらすじだけ見るとあまり面白くなさそうなのだが、読み進めるにつれ色々と考えさせられ後半3分の1はひたすら涙が流れてしまった。本を読み終わった後、顔を洗ったくらいだ。
今日本では、病気にかかると手術をしたり、西洋医学的に治そうとアプローチをかける。しかし何もしないで死を静かに待つという選択肢もあるはずだ。そんな問題提起を、過疎地の訪問医療を物語として行っている作品と言える。
今回も心に響く言葉がたくさんあった。
p.32
「人生はどうして平坦ではないのだろう。けっして欲深く生きてきたわけではないのに、穏やかな暮らしが続かないのはなぜなのだろう。」
p.41
「蛇口を捻りコップに水を汲みながら、やっぱり田舎暮らしは不便だと二十四時間灯り続けるコンビニの青白い光が懐かしくなる。でも都会は都会で、誰かの便利のために、誰かが宵っ張りで働いているのだ。誰かがふと飲みたくなった夜中のビールのために、だれかの生活が昼夜逆転する。それは果たして便利という言葉だけで片付けていいのだろうか。」
p.154
「奈緒、一段一段や。仕事の上達は階段を上がるのと同じや。上がるのをやめてしまったらそこから先の景色は見えへんぞ。」
p.277
「知らないみたいだから教えてあげてるんです。たいていの母親はね、子供に救ってもらおうなんて、これっぽっちも思っていませんよ。」
本当に感動的な本だった。
2022-03-17 10:07
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