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 [文学 ドイツ]


城 (新潮文庫)

城 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1971/05/04
  • メディア: 文庫



新聞で何らかの形で紹介されていて興味を抱き、購入した本。

測量士Kが、ある村に新たに雇われることとなり、遠路からやってくる。しかし、村にやってくると、測量士など雇ったことがないという冷たい対応。その村を運営する城、そこで働く官僚、そうした官僚たちとどちらが立場が上なのかはわからない村長、村人たち、ほとんどすべての人から冷たい対応を受け、結局最後まで、自分を雇ったとされる官僚クラムとは会えずに終わるK。

一つ一つの会話が長く、段落分けも少なく、会話もつながりがあまりないものが多いので、非常に読みづらい本。

形式張って硬直した官僚組織、誰もが常に責任転嫁する構造、代替可能な個人、偉い人による横暴、村特有の村八分、差別など様々な要素を盛り込んだ作品で、興味深くはあるが、物語を楽しんで読み進めるといった類の本ではない。
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ギューゲスと彼の指輪 [文学 ドイツ]


ギューゲスと彼の指輪―他一篇 (岩波文庫 赤 420-3)

ギューゲスと彼の指輪―他一篇 (岩波文庫 赤 420-3)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/01/12
  • メディア: 文庫



古本屋を見ていたら、偶然見つけた本。プラトンの国家の中で、身につけた人を透明にすることができる指輪の話が出てきて、教科書などでもたまに取り上げられる題材で、戯曲化されたこの本も面白いかな、と思って購入してみた。

リディアの王、カンダウレスはインドから嫁がせた王妃であるロドーペの美しさを人に自慢したくてしょうがないが、ロドーペは、宗教上、親からの教育上?、夫以外の男性に自分の姿を決して見せようとしない。

そんな時、ギューゲスという若くて美しくて強いギリシア人から、自分を透明にしてくれる指輪をもらう。そして、ギューゲスを透明にして、自分の妻をこっそり覗かせ、その美しさを証明する人になってもらおうとする。

ギューゲスは断るが、最終的には実行することになる。

ギューゲスはあまりの王妃の美しさに心奪われるとともに、自分の行ったことの罪深さを感じ、その場で姿を表そうとするが、王妃がすこし感づいただけで、その場は何事も起こらない。

王妃は自分が誰かに見られてしまったことに、罪を感じ、それを王に打ち上げるが、それが実は王のしくんだ仕業だとわかる。

最後は・・・。

悲劇の典型のような感じで次々と人が死んでいくが、登場人物が、少し軽薄なだけで皆心の美しい人物ばかりで、読んでいてとても清々しい気持ちになる。

ストーリーも、あらすじだけ読むと無理矢理感があるが、読んでいるときはあまり違和感を感じない。

旧字体で読みづらい本ではあるが、面白かった。
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緑のハインリヒ(四) [文学 ドイツ]


緑のハインリヒ (4) (岩波文庫)

緑のハインリヒ (4) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 文庫



遂に『緑のハインリヒ』を読み終わった。
久しぶりにここまで読むのが大変な本に出会った。
とにかく進まない。一緒に読みすすめている洋書の方がはるかに読みやすかった。

最終巻は、ハインリヒが貧乏のどん底に陥り、ある古道具屋に絵を持ち込んだことにより、何とか生活を立て直し、ひょんなことから、大金を手にし、恋をし、生まれ故郷に帰り、母が死に、役人となり、最後はユーディトと良い関係を保ったまま終わる。

正直、つまらなかった。主人公の心の成長模様も全く見えないし、ただただつまらない一人の人間の人生を読まされた感じだった。

次に読む本は楽しいといいなあ。
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緑のハインリヒ(三) [文学 ドイツ]


緑のハインリヒ (3) (岩波文庫)

緑のハインリヒ (3) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/04/02
  • メディア: 文庫



『緑のハインリヒ』三巻をようやく読み終わった。

前半は、かなり暗い感じで進む。恋人アンナの体調が悪く今にも死にそうな様子でこの巻は始まる。本当の絵の師匠を見つけたかのように感じていたハインリヒだが、お金がらみのことでこの師匠レーマーの心を傷つけてしまい、失意のまま狂ったようになり、ハインリヒの前から姿を消す。その後、恋人アンナは死に、もうひとりの彼の身近な女性ユーディトもアメリカへわたり彼の下から去る。前半三分の一はほとんど「別れ」しかないと言ってもいい。しかしここがこの三巻までを読んだ中で最も面白かった。

その後、彼は実家に戻り数週間家に閉じこもったあと、絵画の学校へ行くために見知らぬドイツの街へ旅だつ。そこで彼は新たな二人の友人を見つけ、かなり仲良くなるが、謝肉祭での出来事をきっかけに友人の一人と喧嘩し、決闘沙汰にまでなってしまう。

正直、このハインリヒ、とにかく人と深く付き合っては、喧嘩別れのようになってしまう。相手をどうしても傷つけてしまう性格なのか?神経質そうに見えるが、読んでいると実に無神経な感じがある。

しかしとにかくつまらない。ここまで読んだので何とかあと一巻読み切ろうとは思うが・・・。

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緑のハインリヒ(二) [文学 ドイツ]


緑のハインリヒ (2) (岩波文庫)

緑のハインリヒ (2) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/03/21
  • メディア: 文庫



『緑のハインリヒ(二)』を読み終わった。
小学校時代の様々な出来事を描写した一巻よりは、恋愛ネタが増えたこの二巻の方がある程度楽しくは読めたが、やはりすごく面白い話ではなかった。登場人物同士で語られる教養めいた話もそこまで興味深いものでもないし、主人公ハインリヒと同年代の女性アンナ、年上の未亡人ユーディトとの関係性や会話もいまいち気持ちが入り込んでしまう感じではなく、淡々と読んでしまうのだ。

現在、
①『緑のハインリヒ』ケラー
②Desperate Remedies Thomas Hardy
③講談社青い鳥文庫

を並行して読んでいる中で、自分がその物語世界に入り込んでいけるかどうか、がその本を面白いと感じるかどうかの分かれ目なのだということに気が付いた。
Thomas Hardyの小説は当然英語で書かれているし、わかりづらい部分も多いのだが、主人公の気持ちや周りの人間たちの気持ちに入っていきやすく、本を開く前にやはり楽しみな気持ちで開ける。
講談社青い鳥文庫のシリーズは、小学校高学年から中学生向けに書かれているので、当然読みやすいし、ストーリーも面白い。だからどんどん読み進められる。
しかし、このケラー作は、海外の作品とはいえ、日本語に訳されており、日本語で読んでいるはずなのに全然読み進められない。哲学書や学術書であれば、論理展開を頭で整理しながら読んだりするので、進みがゆっくりなのもわかるのだが、この作品は一応小説なのだ。

まあ、なんにしろ、自伝&教養小説(主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く)という二大苦手な要素がつまった作品だけにしょうがないのか・・・。

主人公とアンナとユーディトの恋愛話がメインになり、物語がどんどん展開していくことを期待してあと二巻読み切りたいと思う。

が、全く楽しみではない・・・。
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緑のハインリヒ(一) [文学 ドイツ]


緑のハインリヒ (1) (岩波文庫)

緑のハインリヒ (1) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫



昨年ケラーの『村のロメオとユリア』を読み、とても面白かった。
ちょうど読み終わった頃に近くで古本市をやっており、4巻セットでこの本が売っていて、品切れ重版未定作品だったので、これは購入するしかないと思い買っておいた。

これはケラーの自伝的作品らしい。私はあまり自伝的作品という類の小説があまり好きではない。なぜだかはわからないのだが、イマイチ入り込めないのだ。

実際読んでみてやはり面白くない・・・。
中勘助の『銀の匙』に非常に似た感じで、幼年時代から自分の身の回りで起きた出来事を事細かに描いてくれるのだが、これがつまらない。国語のテキストとして、そうした様々なことを細かく調べ、昔の情景などをイメージしながらゆっくり読み進めるというのであれば良いのかもしれないのだが、正直ストーリー重視の私には興ざめなのだ。結局自伝的作品は、ある程度自分のことを描いていけば良いので、様々な人物設定も杜撰になるのであろう。全くこの主人公の人となりが掴めない。

あと、三巻。これから恋愛模様も描かれるっぽいので少し面白くなるのかもしれないが・・・。

最後に、主人公がある事件の首謀者とされ、学校を退学となってしまう場面で主人公が考えたことが少し興味深かったので、紹介して終わりたい。

p.177
「死刑が正しいか否かについて絶えず深刻な論争が繰り返されるものならば、凶暴でない限りひとりの少年あるいは青年を、国家がその教育機関から締め出すことの可否も、また当然同時に論ぜられるべき筋合いのものであろう。」

この時代(1880年頃)から死刑の是非が深刻に論じられていたというのも面白かったし、公の教育機関において問題のある子供を、他の子供との関係上、どのように扱うべきなのか、というのも確かに真剣に考えられるべき問題である。

この部分だけは唯一面白かった。
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ホフマン短編集 [文学 ドイツ]


ホフマン短篇集 (岩波文庫)

ホフマン短篇集 (岩波文庫)

  • 作者: ホフマン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1984/09/17
  • メディア: 文庫



昨年、子供達と一緒に、よくバレエのDVDを観た。
子供たちのお気に入りは、「ドン・キホーテ」「コッペリア」「くるみ割り人形」。このうちの2作品、「コッペリア」と「くるみ割り人形」の原作を書いたのがホフマンだと知り、偶然ブック・オフで見つけて購入しておいた本。

全部で6作品収録されており、オペラ「ホフマン物語」とバレエ「コッペリア」の原作は「砂男」という題名で4作目に入っている。

ベッリーニのオペラや、様々な文学作品でも似たような傾向が見られるのだが、この時代、夢・夢遊病・幻想みたいなものが流行っていたのか、全体的に現実と非現実が交差し、ふしぎな世界観を醸し出している作品がほとんどだった。この本には収録されていないが「くるみ割り人形」も同じような感じの作品で、有名なバレエほどわかりやすくはなく、どこまでが現実でどこまでが非現実なのかがよくわからないような感じで物語は進んでいく。というより、何が現実で何が幻想なのかは本当はわからない、つまりデカルト的な本当の自分とは何なのか、といったことを問うている作品群なのかな、と感じた。

とてもわかりやすい、といった感じではないが、全くわからないということもなく、ミステリアスな部分が多いので、最後まで展開がわからず、なんとなくページをめくっていってしまう。

この間読んだ、『哲学のことば』にも書かれていたが、ホフマンも目、視覚、視線というものが持つ不思議な力、愛へと導く力、狂気へと導く力に注目していたのが興味深かった。

幻想的なミステリー作品に興味がある人(そんな人がいるのか)にはおススメの作品。
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ティル・オイゲンシュピーゲルの愉快ないたずら [文学 ドイツ]


ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら (岩波文庫)

ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/05/16
  • メディア: 文庫



この本もリヒャルト・シュトラウスの同名の交響詩で非常に有名な作品。だが、あまり本としては知られていない。本屋で見つけ、また品切れ重版未定状態になっても嫌だったので購入。

正直あまり面白くはなかった。
生まれつきいたずら大好きなティルが、成長し、様々な職人になりすまして、各地の人々を騙しながら金を儲け、生活し、最後には死ぬのだが、その死ぬ際も最後まで頓智が効いている。

ドイツ版一休さんで、一休さんよりもいたずらの程度がひどい。聖職者や知識人、有産階級批判の書であるのだろうが、若干やりすぎな感がある。糞が出てくるネタが多いのも・・・。

リヒャルト・シュトラウスの曲の解説等を読むと、若干この原作と最後の方が違うっぽい。

何にしろ、せっかくなのでR・シュトラウスの曲をゆっくり聴き直してみたい。
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村のロメオとユリア [文学 ドイツ]


村のロメオとユリア (岩波文庫 赤 425-5)

村のロメオとユリア (岩波文庫 赤 425-5)

  • 作者: ケラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1972/05/01
  • メディア: 文庫



今年は本当にオペラの原作をよく読んでいる。
この本もその中の一冊。
イギリスの作曲家ディーリアスがこの本を元にオペラを書いている。
最近イギリスの作曲家に若干はまっていて、ディーリアスの曲を色々眺めていたら興味がわいてきて、2014年夏に岩波から復刊されて、まさに品切れになろうとしているところを、ジュンク堂で見つけ購入した。
120ページ強の作品であっという間に読み終わった。

ある3つに分かれている農地があり、ひとつはマンツ、もう一つはマルチが耕作している。お互い仲良くうまくやっていた。彼らの中間にある農地は誰のものか定かではなく、はじめは放って置かれたが、段々とふたりが使っていき、遂にお互いの利害が対立し、裁判沙汰になる。それがきっかけで、二人は周りの人間にも騙されたりしてどんどん貧乏になっていく。

マンツには息子サリー、マルチには娘ヴレーンヘンがおり、二人は小さい頃から仲良くしていた。しかしこの裁判沙汰以来お互いあまり接触しなくなってしまう。しかしある事件をきっかけに二人は一気に距離が縮まるが、結局さまざまなことがありこの世で結ばれることは不可能と考えた二人は永遠に愛し合える場所へとふたりで旅立つ。

この話、舞台を街から村へ、身分を貴族から農民へとただ変えただけではない。人間の中にひそむ金への欲望。結局現世的な欲望が、純真な心を潰してしまうが、結局純真な者の心は、不純な者たちには理解できない、というメッセージが込められている。物語は、この二人の自殺を伝える新聞記事で終わるのだがそれがとても重い。

「これまた近来青年男女の情熱的放縦と道徳的頽廃のますます蔓延する一兆候であろう。」
結局、自分たちが道徳的に頽廃していると、それが頽廃とは分からず、自分たちよりも純粋なものを頽廃的なものとみなし批判する。

いつになっても時代は変わらない。基本的には確かに『ロミオとジュリエット』なのだろうが、そして確かにシェイクスピアの傑作にはとても及ばないが、メッセージ性の強さという点ではこちらの方が上かもしれない。

非常に様々なことを考えさせられる作品だった。
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フィエスコの叛乱 [文学 ドイツ]


フィエスコの叛乱 (1953年) (岩波文庫)

フィエスコの叛乱 (1953年) (岩波文庫)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1953/06/15
  • メディア: 文庫



シラーは、戯曲を9作品しか書いていないらしい。その事実をこの本のあとがきを読んで始めて知った。

数えてみると、9作品中8作品はこれで読んだことになる。
1.群盗
2.たくみと恋
3.フィエスコの叛乱
4.ドン・カルロス
5.ヴァレンシュタイン
6.マリア・ストゥアルト
7.オルレアンの少女
8.メッシーナの花嫁
9.ヴィルヘルム・テル

この中で、圧倒的に有名なのは、1の『群盗』と9の『ヴィルヘルム・テル』であろう。しかし。どちらも展開が若干強引で、登場人物達の内面も細かく描写されておらずいまいちだった気がする。7の『オルレアンの少女』もジャンヌ・ダルクの本を色々読んでいるだけに、彼女の素晴らしい面を全く引き出していない気がしてもう一歩。5の『ヴァレンシュタイン』は悪くはないが非常に長く、印象が薄い。
2の『たくみと恋』4の『ドン・カルロス』6の『マリア・ストゥアルト』、特に4,6は圧倒的に面白かった。話の展開、登場人物の内面、共に無理がなく非常に流れもスムーズで、思想性も高く傑作だといえる。

そして今回の『フィエスコの叛乱』。
始めは登場人物の関係を整理するのに時間がかかったが、読んでいるうちに慣れてきて、一人一人の心の揺れもうまく描かれておりとても面白く読んでいた。あとがきにもあるように、シェイクスピアの『オテロ』並みの素晴らしさで、これもまた傑作か???と読み進めていた。

しかし、最後の展開が・・・。
色々なものが非常に強引で、情景が思い浮かべづらく、「何故そこでそのひとがそういう動きをするの?」という疑問の行動だらけ。正直、最後をシェイクスピアの悲劇のような形で無理やり終わらせようとして無理が出た感じになってしまっている。

もう少し結末をすっきり無理なく終わらせていたら、シラーの傑作となっていたであろう作品だけに非常に残念だ。

ちなみに私なりのシラーベスト3

1.ドン・カルロス
2.マリア・ストゥアルト
3.たくみと恋

こう考えると、全てオペラ化された作品だ。というより、シラー作品でオペラ化されていない作品は、『ヴァレンシュタイン』と『フィエスコの叛乱』、『メッシーナの花嫁』くらいか。ちなみにメッシーナの花嫁はシューマンが曲をつけているっぽい。
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マリア・ストゥアルト [文学 ドイツ]


マリア・ストゥアルト―悲劇 (岩波文庫 赤 410-6)

マリア・ストゥアルト―悲劇 (岩波文庫 赤 410-6)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/06/25
  • メディア: 文庫



今年は、オペラの原作本を多く読んでいる。
ドニゼッティが、この『マリア・ストゥアルト』を原作としてオペラを作曲している。非常に美しいメロディ満載でいつかはこの本を読みたいと思っていた。
待てど暮らせど岩波は復刊してくれない。ということで、Amazon中古市場で購入。

元フランス王妃であり、スコットランド王であり、いまはイギリスの地で囚われの身になっているマリア・ストゥアルトと、現イギリス王、マリアを囚われの身としたエリーザベトの対決を描いている。マリアが死刑になるまでのたった3日間のドラマなのだが、非常に、二人の心理が細かく描かれており、純粋に女性を愛する男達・政治的に女性を用いようとする男達・自分の利害を第一に考える男達・使命に忠実な男達、さまざまな人物が登場し、彼らの一つ一つの行動が、エリーザベトの心の揺れ・意思決定に大きく影響していく様が非常に面白い。

とにかく自分の思いのままに生きるある意味ロマン主義的なマリアに対して、常に政治的な利害関係を意識して行動する官僚的なエリーザベトの対比が面白い。結局死んでしまうマリアの周りには最終的に多くの人間が集まるのに、これから権力を握って高みに上っていくはずのエリーザベトのもとには最終的には誰も残らない、というのも非常に面白い。

『ドン・カルロス』とは違った意味で、とても面白い。

有名な『群盗』『ヴィルヘルム・テル』よりもはるかにこの二つの方が面白いし、構成等もしっかりしており優れているように思われる。何故、この『ドン・カルロス』『マリア・ストゥアルト』がシラーの代表作としてもっと市場に出回り、人々の間で読まれていかないのか謎だ。
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ドン・カルロス [文学 ドイツ]


ドン・カルロス―スペインの太子 (岩波文庫 赤 410-4)

ドン・カルロス―スペインの太子 (岩波文庫 赤 410-4)

  • 作者: シルレル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1955/01/05
  • メディア: 文庫



シラー作『ドン・カルロス』を読み終わった。

今年はオペラやバレエの原作を多く読んでいる。
今年に読んだ様々なそうした原作本を読む前までは、「映画や舞台芸術でアレンジされた作品は、決して原作を越えることはない」と思っていたのだが、結構原作を超えている作品が多かった。原作の持つ冗長さなどが、なくなりとてもしまったものになっていたり、ストーリーを少し改変することで、より分かりやすくなるなどしている作品が多かった。

そして、シラー作品も色々とこれまでに読んできたが、有名なわりにはもう一歩という印象の作品が多かった。
『オルレアンの少女』などは、ジャンヌ・ダルクがそもそも持つ人間的素晴らしさを完全に消してしまっているし、『群盗』や『ウイリアム・テル』などにしても、悪くないが、流れが強引だったり、ストーリーがぎこちなかったりした。『たくみと恋』などは結構素晴らしかったが、そこまで感動的なストーリーとまでは行かなかった。『ワレンシュタイン』なども若干光る台詞などもなくはないが、全体としてみるともう一歩な感じだった。

ということで、この『ドン・カルロス』も対して期待をせずに読み始めた。岩波文庫の復刊にありがちな旧字体の本で、読みづらかったが、読んでいるうちにどんどん引き込まれた。王子と、父王の妃の恋愛、父と子の確執をメインに据えたストーリーなのかと思いきや、テーマは完全に、「人類愛」&「人間の心の美しさ」。

お互いがお互い疑心暗鬼になっており、皆が心理戦を繰り広げており、その辺の緊張感もたまらなくよかった。シェイクスピアの『ハムレット』『ロミオとジュリエット』『オテロ』を融合したかのような作品で、非常に面白かった。

白眉となる場所が第三幕第十場の王とポーサ侯爵の対話。
完全に世俗的な権力欲丸出しで、人を疑ってばかりの王に対して、ポーサ侯爵の世界人・自由人としての人間的素晴らしさを対比させた場面だ。本当に素晴らしい。長いので引用はしないが、138ページのポーサ侯爵の、「何故王である自分に、官職を求めに来ないのか」という問に対して答えた箇所が非常に美しく素晴らしい。あまりにもすばらしいので、やはり最初の一文だけ引用しておきたい。

p.138
「実はーーーわたくしは、王侯の奴僕(ぬぼく)には成り兼ねるのでございまする。」
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オルレアンの少女 [文学 ドイツ]


オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)

オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)

  • 作者: シルレル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1951/01/20
  • メディア: 文庫



数年前、いや十年近く前か・・・、DVDでチャイコフスキー作曲、『オルレアンの少女』を観た。その音楽の素晴らしさに感動した。解説を読むと、原作はシラーの『オルレアンの少女』とあった(他の作品も参考にしているらしいが)。

映像を見ると原作を読みたくなる私の性癖のため、この原作が欲しくてたまらなくなった。もちろん図書館等で借りて読めばよいのだが、本の収集癖もあるので、是が非でも手に入れたかった。が、もう岩波文庫版は品切れ重版未定状態。当時は、アマゾンやオークションで探す、などということを思ってもみなかったので、そのままほうっておいた。

昨年、ブックオフでこの本を発見。即購入。が、他に読むべき本がたまっており、積読状態。

そして、Mark TwainのPersonal Recollections of Joan of Arcを読むのと平行して読むことに。

マーク・トウェインのほうは、分厚い小説ということもあり、子供時代から有名な裁判まで、様々なエピソードを交えながら、結構詳細にジャンヌの人となりを描いてくれている。が、こちらのシラー作品は、戯曲ということもあり、話も結構飛び飛びで、ジャンヌが出てくる場面も少なく、あまりジャンヌ・ダルクを描いた作品とは言いがたい。

しかも、ジャンヌは実の父親に「魔女」と名指しされ、フランス陣営から追放され、最後も戦場で致命傷を受けて死ぬ、ということになっている。しかもテーマが、地上の愛 vs. 天上の愛、のような感じになっており、天からの使命を与えられたのに、地上で恋をしてしまい、その恋に悩んだことで身の破滅を招くが最後は天に再び心を向け、エンディングを迎えるといった内容で、ジャンヌ・ダルクを描く際、そのテーマはないだろう、という流れになっている。

正直、シラー作品はそれなりに楽しんで読んできていたので、この作品もかなり期待していただけに、非常に残念だった。
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ファウスト 第二部 [文学 ドイツ]


ファウスト 第二部 新訳決定版 (集英社文庫)

ファウスト 第二部 新訳決定版 (集英社文庫)

  • 作者: ゲーテ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/05/20
  • メディア: 文庫



『ファウスト 第二部』を読み終わった。

ある程度予想はしていたが、やはり読みづらかった。
とはいえ数年前に読んだときよりははるかに読めた。

この第二部が読みづらい理由としては、ギリシア神話・トロイア戦争関連からの引用が多い点が上げられる。特に、トロイア戦争が始まった直接的理由である、パリスとヘレナの関係、ヘレナが絶世の美女であったことなどが分かっていないとほとんど意味が分からない。10年ほど前、この作品を読んだとき、この辺の知識はほとんどなかった。ここ数年、かなりギリシア神話、トロイア戦争関連の本を読み漁ったので、今回は、少しはわかって読むことが出来た。

結局、『ファウスト』は全編に渡って、人間の欲望というものを、特に男の欲望というものを描いている作品なのだと思う。女・金・永遠の若さ(命)・力・権力、こうしたものを手に入れたいと思う男達の心と、それを取り巻く周りの人間達の様子を、ギリシア・ローマ神話、聖書の物語、シェイクスピアなどの西洋の古典と言われる作品を取り込みながら描いていった作品なのだろう。そう考えると、人間の普遍的な性質を描いているといえるが、やはり日本人が理解するには超えなければならない壁が多いのであろう。

私はまちがってもこの作品を中・高生に薦めたりはしない。そして安易に面白い作品として友人などに薦めることもできない。しかし、様々な古典を読み解き、人間の本質を真剣に考えている人々にとっては多くの示唆を与えてくれる作品だとは思う。そうした人々には是非オススメしたい作品だ。
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ファウスト 第一部 [文学 ドイツ]


ファウスト 第一部 新訳決定版 (集英社文庫)

ファウスト 第一部 新訳決定版 (集英社文庫)

  • 作者: ゲーテ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/05/20
  • メディア: 文庫



10年ほど前、ブックオフで、集英社から出ている新訳『ファウスト』全2巻のハードカバー・バージョンが500円で売られており、この作品に昔から興味があり、かつ読みやすそうだったので購入して読んでみた。が、正直全く意味が分からなかった。話の筋すらよく分からなかった。これは『若きウェルテルの悩み』を読んだときにも感じたもので、ゲーテは自分に合わないのであろうと思い、そのまま放っておいた。

が、やはり様々なところでゲーテの『ファウスト』は引用されたり取り上げたりしており、もう一度ちゃんと読まなくてはと思っていた。
そんな中、一年位前、本屋をぶらぶらしていると、あの『ファウスト』が文庫本になっているのを知り、購入しておいた。

そして、今回は多少時間がかかっても良いからじっくり読んでみようと思い、丁寧に読んでみた。それでもやはり、メフィストフェレスとファウストの会話以外は良くわからない部分が多かったが、後に付された解説も参考にしながら読み進めたところ結構よくわかり、楽しむことが出来た。

主人公のファウストは、多分医者。お父さんは町の人々にとても慕われていた医者でその後を継いでいるっぽい。さらにファウストは様々な学問も修めており、神学などにも精通している。まさに道徳的にも出来た知識人といった感じの、「教養人」の典型のような人物。

そこに、悪魔メフィストフェレスが登場する。「ファウストを誘惑できるか」という賭けを神としたのだ。

ファウストはメフィストが現れる前から、若干様々なものに懐疑的になっており、この世でなにかを極めても、神の視点から観ればたいしたことではない、とまさに信心深い人・知識人ならではの自己嫌悪に陥り自殺を考える。復活祭の騒ぎのおかげで自殺は思いとどまったものの、その心の隙間をメフィストに襲われ、地上での快楽と引き換えに魂を売る血の契約をしてしまう。

そのあと、若返りの薬を飲んだファウストは、町の敬虔で無垢なグレートフェンに恋をし、近づき、肉体関係を持ち、子どもを孕ます。グレートフェンとファウストの逢引のために、グレートフェンの母親と兄は死んでしまう。子供ができたことを知らないファウストはメフィストに誘われるまま遊びに明け暮れる。
一方のグレートフェンは‘婚前交渉=悪’という考え方の元、町の人々に冷たい目で見られ、子供を殺してしまう。その罪に問われ、彼女は牢屋に入れられる。グレートフェンが牢屋に入っていることを知ったファウストは彼女を助け出そうとするが、グレートフェンはかたくなに拒み、最後は魂の救済を得て天に召される。

とても素晴らしい様々な要素が入った作品だ。道徳人・知識人の苦悩。ヨブの苦難を彷彿とさせるような聖書のテーマ。個人と共同体。感情と理性。扱っているテーマは今にも通じるところであり、ファウスト、グレートフェンの持つ苦悩は、現代の男女でも同じように持つであろうものである。

結局ゲーテがこの作品を通して何を伝えたかったのかはわからないが、人間の心の弱さを描きたかったのであろうとは思う。本当に面白い作品だった。

第二部も少し読み始め、第一部とは全く違う雰囲気とテーマを持った作品っぽいが、人間の心の弱さを描いていることでは同じようである。こちらの第二部は前回読んだとき第一部以上に意味不明だったのでじっくり読みたい。
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ブリキの太鼓 第三部 [文学 ドイツ]


ブリキの太鼓 3 (集英社文庫 ク 2-4)

ブリキの太鼓 3 (集英社文庫 ク 2-4)

  • 作者: ギュンター・グラス
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1978/09/01
  • メディア: 文庫



『ブリキの太鼓』全巻を読み終わった。
戦争が終わり、成長を始めたオスカルが大人として生きていく様子を描いたもの。
画家のモデルをしたり、墓石彫りをしたり、しながら安アパートに住み、その安アパートで知りあったフルート奏者とJazz Bandを結成してみたりと、様々な仕事をするオスカル。
結局、子どもの頃から叩いていた太鼓で大ヒットし、お金持ちになる。が、そこで豪勢な生活をするのかというと、そうではなく、その安アパートの同じ住人だった女性に恋をしていたオスカルは、その女性が忘れられず、女性がアパートを去った後もそのアパートに住み続ける。

第一部、第二部に比べて、よくわからない情景描写が少なく、読みやすかったが、やはり浮遊感をずっと抱きながら読まされた感じがする。

戦争の終結と彼の身体が大きくなり始めるのが重なるのが何か象徴的で面白い。
戦争が終わったことにより、責任ある大人として生きていくことが出来るような社会になったということなのだろうか。
しかし、大人として生きていたせいで、警察に捕まってしまう。結局最後の殺人事件の犯人は誰なのか、そして犬が何故殺された女性の指をくわえて持ってきたのか、様々なことは謎のまま読者に委ねられる。

ものすごく面白い作品ではない。そして世間で言われるほどの名作だとも個人的には思わない。とはいえ、様々なことを考えさせてくれる作品であることはまちがいない。
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ブリキの太鼓 第二部 [文学 ドイツ]


ブリキの太鼓 2 (集英社文庫 ク 2-3)

ブリキの太鼓 2 (集英社文庫 ク 2-3)

  • 作者: ギュンター・グラス
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1978/09/01
  • メディア: 文庫



『ブリキの太鼓』第二部を読み終わった。
青年期(身体の大きさは三歳のままだが・・・)、ちょうどナチスが台頭し没落するまでの時期を描いた作品。
ナチスの兵営で、前線慰問劇団として活動したり、ギャング達と街を破壊したり、ポーランド兵に襲撃された際、肉親を裏切ったりと、とにかくノンポリとしてむちゃくちゃな生活をしながら困難な時期をたくみに生き抜いていくオスカルの姿を描いている。

私は常々、人間は信念を持って生きなければならないと考えている。しかし信念を持って生きることは辛い。非常に困難なこと、理不尽なこと、悲しいことに出会うことが多い。しかし、それは大人だからこその苦難なのかもしれない。
私は子供時代「信念」などという観念を心に抱いたこともないし、そんなものに従って行動したことも無い。その時そのときの自分が「よい」と思ったことに従っていきていた。子どもだから許されたのだと思う。

まさに、この小説はその部分をうまく描いている。おそらく、ナチス時代、本当の意味で信念の元生きた人間は少ないのだろう。信念を持たずにただ流された幾多の人間達はそのことによって罰せられた。しかしそれは「大人=信念を持っているはずの人間」という図式があるからであろう。精神的には大人だが、身体は子どものオスカルは、戦中の混乱をうまく乗り越えていく。しかし精神的に大人である彼にはそれなりに心の葛藤があるはずである。それを乗り越える手段として、おそらくブリキの太鼓があるのであろう。

彼は色々なところに行くのであるが、そのたびごとに自分で作成したある書物を持っていく。それは、「ラスプーチン」と「ゲーテ」の作品をあわせたものだ。ラスプーチン=本能のままに生きる人間、ゲーテ=理性で自分を律する人間の象徴なのだと思う。人間にはかならずこの2面性がある。しかし大人になるとゲーテ的な側面を要求される。ラスプーチン的なものは隠さざるを得なくなる。しかし身体が子どものオスカルはこのバランスをうまくとって生きることが出来るのだ。

この本はずっと、主人公オスカルが、自分の過去を主観的かつ客観的に論じるというスタイルで描かれてきた。しかしこの巻の最後で、オスカルの看護士ブルーノーが、オスカルから聞いた話を叙述する場面がある。その中で、オスカルの話は一貫性がないところがある、と書いている。つまりオスカルがどんなに自分のことを客観的に論じたところで、それはあくまで主観的に描いているにすぎない、つまりここまで読んできた話もうさんくさいのではないか、と読者に思わせる仕掛けがなされているのだ。

そんなに面白いストーリーではない。が、さまざまなことを考えさせられる小説であることは間違いない。最後第三巻。頑張って読みきりたい。
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ブリキの太鼓 第一部 [文学 ドイツ]


ブリキの太鼓 1 (集英社文庫 ク 2-2)

ブリキの太鼓 1 (集英社文庫 ク 2-2)

  • 作者: ギュンター・グラス
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1978/09/01
  • メディア: 文庫



『ブリキの太鼓 第一部』を読み終わった。
私は、世界中の古典と呼ばれる本を全部読みたいと思っている。とはいえ、そういった類の本は数限りなく、名作と呼ばれるものは結構長かったりもし、全部読むなどは不可能だ。しかし、なるべく様々な作品に出会いたいとは思っている。昨年、色々生徒への推薦図書を色々な先生達と話し合って決めていた際、この本に興味を持ち(もちろん題名は知っていたが、読みたいと思ったことはなかった)、昨年購入し、ようやく読む機会が回ってきた。

物語は、生まれた瞬間から精神的に成熟しており、三歳の誕生日に自らの意思で肉体的に成長することをやめ、現在は精神病院に入院しているオスカルが、自分の過去を語るというものである。
自分の生まれたときからではなく、自分が生まれるにいたった過程、つまり自分の祖母が祖父と出会うところから語り始めているところが面白い。ユーモアを交えたその語り方が、プーシキンの『大尉の娘』を髣髴とさせた。

物語を読んでいて面白いと思ったところ。
①オスカルが自分の過去を語るとき、「ぼく」という表現をする場合と「オスカル」という表現をする場合があること。
②歳を重ねて、文字を習う部分が出てくるのだが、精神的に0歳のときから成熟していても、やはり文字を読むという行為は大変な作業なのだ、ということが分かること。

①に関して。これは過去を語る際、主観的かつ客観的に自分を見ているということがわかる。整っていない部分が、本当にその場で語っているような雰囲気を醸し出している。珍しい手法だと思う。
②に関して。おそらく、文字を読んだり書けたりしなくても普通に生きていける。これはパールバックのThe Good Earth『大地』を読んだときにも感じたのだが、結局読み書きが出来なくてもお金をもうけることが出来るし、幸せに生きることも出来るのだということ。しかし、この近代・現代社会においては、何かが足りない気がしてしまうということ。
文字を読み書きできるということが当たり前になってしまっている自分にとって、この②の描写はとても新鮮であり、色々と考えてしまった。

この見た目は子どものままである、ということにより、大人社会(ある意味において人間社会)に参加していない当事者が、他者の視点でその社会を見つめる、というこの手法、夏目漱石の『我輩は猫である』に近い気がして非常に興味深い。ある意味、先ほどの①の「ぼく(当事者性)」と「オスカル(他者性)」の混在と近いのではないだろうか。

色々と深く考えられたこの小説。まだまだ長いのでゆっくり楽しみたい。
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たくみと恋 [文学 ドイツ]


たくみと恋 (岩波文庫 赤 410-0)

たくみと恋 (岩波文庫 赤 410-0)

  • 作者: シラア
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/03
  • メディア: 文庫



シラー作『たくみと恋』を読み終わった。
この作品も、『新エロイーズ』『令嬢ユリェ』と同じく、身分違いの恋を扱っている。しかし、今回は、男が貴族で女が平民という設定。
宰相の息子フェルディナントが、音楽家の娘ルイイゼに恋をしてしまうという話。

宰相は息子に政略結婚をさせようとしているため、この二人の恋に大反対。そこで、部下を巻き込んで、策略を練り、この二人を別れさせようとする。その策略に見事にはまり、息子フェルディナントはルイイゼを疑い、最終的に毒殺してしまう。

シェイクスピアを敬愛していたといわれるシラー。『ロミオとジュリエット』『オテロ』を彷彿とさせるプロットや心理描写は読んでいてとても惹きこまれた。今まで『ワレンシュタイン』『群盗』『ヴィルヘルム・テル』と様々なシラー作品を読んできたが、一番筋などにも無理が無く、ドラマ性に富み、しまった内容で、思想的にも深く、楽しむことが出来た。

以下、心に残った数節を紹介したい。

p.17
「今に、差別という垣根が倒れて、身分といふいやな殻がとれて、人間が只ありのままの人間になる時が来れば、その時こそはねえ。―その時わたしの持っているものは純潔というものだけですけど、でもお父さんが何度もおつしやつたじゃありませんか。神様が姿をお見せになれば、飾りとか立派な肩書とかいふものは値がやすくなって、心というものの値段があがるんだつて。そうなればわたしお金持になるわね。そのときには涙が手柄、美しい考へが家柄という風に値踏みされるのね。」
ヒロインであり、平民の心美しい女性ルイイゼの言葉である。本当に早く神様が姿を見せて欲しいものである。

p.57
「因習と自然との喰ひ違ひが深ければ深いほど、私の希望は益々高まっていきます。私の決心と周囲の偏見!―一時の風習が勝つかそれとも人道が勝つか、私は一つやって見ようと思うのです。」
貴族制(=くだらない伝統):因習、周囲の偏見、一時の風習
平等 (=目指すべき社会):自然、私の決心、人道(=身分違いの恋)
何年経っても、くだらない伝統は残っている。周囲の偏見というものは決して一時の風習ではない。いつになったらこのくだらない因習はなくなるのだろうか。

そして、最後にたくらみが明るみに出たときの、フェルディナントの父の宰相の言葉。

p.173
「(天に向かって烈しく腕を動かす)審きの神よ。この二人の魂を奪ったのはわしではない。わしではない。この男じゃ。(ヴルムに詰め寄る)」
最後の最後で、責任を部下に押し付けるこの姿。どこかの国の総理大臣、どこかの大学のアメフト部監督と全く同じである。本当に上にたつべき人間ではない人間が、どれだけ上にたっているのであろう。

この作品を読んで、あらためてあらためて、社会というものは変わらないのだなあと感じた。

まさに、現在の多くの日本に住む人々に読んでもらいたい傑作である。
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数の悪魔 算数・数学が楽しくなる12夜 [文学 ドイツ]


数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜

数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜

  • 作者: ハンス・マグヌス エンツェンスベルガー
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2000/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



一応ドイツ文学なのだろうが、純粋な文学作品とはいえない。『ソフィーの世界』は哲学とファンタジーを組み合わせた、哲学の世界へのいざないの書、といえるが、この本はその数学・算数版といえる。

出だしがあまりに唐突で、まさにファンタジー満載といった感じのはじまりなので、はじめ「これはつまらないか」と思ったが、後半どんどん面白くなっていった。とはいえ、もう少し、物語性が強く押し出されるともっと良い気がした。

この本は算数・数学の世界で問題とされるが、深く考えられることのない、「1」や「0」の概念、素数、無限、といったテーマを、楽しみながら考えられるようにうまく構成されている。算数・数学=計算という考え方を真っ向から否定する。まさに算数・数学=哲学という、感じを前面に押し出しており、算数や数学の楽しさ・奥深さが楽しみながらわかる作品となっている。特にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』と併読していたのでとても理解が深まった。

春のめざめ [文学 ドイツ]


春のめざめ (岩波文庫)

春のめざめ (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/15
  • メディア: 文庫



ドイツの劇作家ヴェーデキント作『春のめざめ』を読んだ。
この作品を知ったのは、劇団四季のミュージカル『春のめざめ』を見たときだった。
ギムナジウムに通う10代前半の若者たちの性に対する興味と困惑、生きることとは何なのかを真摯に問うた作品だ。
若者と大人の意識の違い、をかなり誇張的に大げさに描いており、観た後いろいろと考えさせられ原作を読んでみたいと思った。
原作は長崎出版というところからハードカバーで出ていたのだが、その当時他に読む本が色々あり、かわずにおいた。ある本屋で絶版になるということを目にし、即座に購入。そして読んだのだが・・・。
正直ちょっとミュージカルを観たときのような衝撃はなかった。そのまま意識からはかなり遠ざかっていたのだが、この4月、岩波書店から文庫化されて売り出された。
文庫本好きなのですぐに購入。そしてすぐ読んだ。

かなり面白かった。訳が新しくなったからなのか、自分の気持ちがちょうどあっていたのかわからないが、とても読みやすく、読みながらかなり様々な情景が思い浮かべられた。

同じ本、同じ訳者でも、読む時期が微妙に違うだけでこんなに楽しさが違うんだなあ、と実感した一冊だった。

現在とは時代も違い、様々な物的状況も違うが、若者が性に興味を持ち、それを実践してみたいという気持ち、自分たちの気持ちを理解しようとしてくれない大人に対する反感、など、時・場所を超越した内容なので、是非多くの人に読んでみてほしい。

ヴィルヘルム・テル [文学 ドイツ]


ヴィルヘルム・テル (岩波文庫 赤 410-3)

ヴィルヘルム・テル (岩波文庫 赤 410-3)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/09/05
  • メディア: 文庫



シラーという作家は、ヴィクトル・ユゴー同様、オペラでその作品が取り上げられることが多く、ずっと気になる作家だった。彼の作品は、岩波文庫のカタログには入っているものの、品切重版未定作品が多く、中々手に入らない。

一年前だったか、『群盗』が復刊されすぐに買った。すさまじく面白いというものでもなかったが、それなりに楽しめた。それより数年前、『ヴァレンシュタイン』という作品も復刊されたときも、ベートーヴェンのかの名作ピアノ・ソナタ「ワレンシュタイン」と関係があるのかと思い、買ってよんだ。結果ベートーヴェンとは無関係であり、結構複雑でわかりづらいところもあったがそれなりに楽しめた。

ユゴーと違い、作品がすごく長いわけではないので、その物語世界にどっぷりつかる感じではないので、満足感がものすごくあるわけではないが、読む読む作品何らかの得るものがある。なので今回の『ヴィルヘルム・テル』も、当然復刊されてすぐ購入した。しかもあの有名な、子供の頭の上の林檎を矢で射落とす場面が入っているこの作品。とても楽しみに読んだ。

が、林檎の場面も、テルが、頭の上の林檎を射落とす賭けを承諾するまではかなり綿密に描かれているのだが、射落とす場面はいとも簡単に終わってしまう。しかもスイスの英雄とされるテルの、英雄性がそこまで伝わってこなかった。

これも『群盗』同様、つまらなくはないが、すごく面白い作品ではなかった。もうシラーは良いかな、と思う一方、『たくみと恋』『マリア・ストゥアルト』等が復刊されたら即座に買ってしまうのだろう。

ニーベルンゲンの歌 後編 [文学 ドイツ]


ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1975/01
  • メディア: 文庫



『ニーベルンゲンの歌 後編』を読み終わった。夫ジーフリトを殺されたクリエムヒルトは十数年後再婚して一児を設ける。しかし、かつての夫ジーフリトを殺されたことが忘れられない彼女は、一族を自分の館に呼び寄せてジーフリトを殺したものを殺害しようとするがうまくいかない。そうこうするうちにお互い殺し合いが始まり、最終的には数名を残し、クリエムヒルトも含め皆死んでいく。シェイクスピアの悲劇を彷彿とさせる凄まじいまでの心理劇、クライマックスへと向かうスピード感、本当に中世の作品とは思えない素晴らしい作品だった。

ニーベルンゲンの歌 前編 [文学 ドイツ]


ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1975/01
  • メディア: 文庫


『ニーベルンゲンの歌 前編』を読み終わった。
この本も、妻が昔買って、買ったことすら忘れてしまい、本棚に飾ってあるだけになっているなかの一冊(二冊)だ。置いてあるだけではもったいないので、この度読むことにした。
中世に書かれた作品なので、非常に読みづらいのだろうと覚悟していたが、読み始めると全くそんなことはなく、内容も面白くスラスラと読め、たったの2日で読み終えてしまった。ギリシャ悲劇にも通じるようなちょっとした心の入れ違いから、家族内の争いに発展していく様を描いた作品。
ワーグナー作品の主人公と似たような名前がたくさん出てくるので、ストーリーがワーグナー作品と似ているのかと思っていたが、全くそんなことはなかった。
しかし、ジーフリト、ハゲネ、ブリュンヒルト、などワーグナーは間違いなくこの作品から自分のオペラの題材をとったであろうことは想像に難くない。
近現代の小説ほど凝ったストーリーでもないし、複雑な心理描写があるわけではないが、読んでいくうちにどんどんとその物語世界へと誘われていく力がこの作品にはある。
後編では夫ジーフリトを殺されたクリエムヒルトの復讐が始まるようである。
今から楽しみだ。

ヴォイツェック [文学 ドイツ]


ヴォイツェク ダントンの死 レンツ (岩波文庫)

ヴォイツェク ダントンの死 レンツ (岩波文庫)

  • 作者: ビューヒナー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/10/17
  • メディア: 文庫



若くして亡くなったドイツの作家ビューヒナーの書いた作品集を読んだ。短編小説レンツ、戯曲ヴォイツェク、ダントンの死の全3作品が収められている。
『レンツ』はレンツという精神に若干異常を来たした作家が、牧師の家に引き取られたときの様子を描いた作品。レンツは精神に異常をきたしているので、自殺を試みたり、意味のわからないことを言ったり、とフランスの自然文学とはまた違った意味で読んでいて辛い作品。
『ヴォイツェク』はアルバン・ベルクによってオペラ化された作品。実はこの作品が読みたくてこの本を買った。オペラのDVDも買って少し見たのだが、あまり集中して見られなかった+無調音楽なので、内容がいまいちよくわからなかった。
この戯曲を読み、ある程度筋はわかったが、そんなに楽しいものでもない。シェークスピアにかなり影響を受けていることは読み取れた。
フランス革命を描いた『ダントンの死』が一番面白かった。民衆に人気のダントンが、最終的には民衆の手によってギロチンにかけられる様子が、様々な人物の心の動きを追いながら描かれている。

とはいえ、全体を通してそこまで楽しめなかった。日本でそこまで有名にならないのもわかる気がした。

シッダールタ [文学 ドイツ]


シッダールタ (新潮文庫)

シッダールタ (新潮文庫)

  • 作者: ヘッセ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1959/05/04
  • メディア: 文庫


以前、『車輪の下』と同時に買っていたヘッセの『シッダールタ』を読み終えた。この本は、仏教の始祖仏陀の生涯を描いた作品なのかな、と思っていた。実際、読み始めて数十ページはそう思っていた。しかし、主人公のシッダールタとは別にゴータマ(仏陀)が出てきたので、シッダールタという名前を用いているだけで、仏教の始祖の仏陀とは関係ないことがわかった。

シッダールタはバラモンの子として生まれ、幼い頃から精神的にも優れており、友人のゴーヴィンダとともに仏陀の弟子になりそうになる。が、言葉では伝えきれないものこそが真理であるはず、という思いの元、仏陀の弟子にはならず、自分の力で心理を見出そうとする。
そんな折、遊女のカマーラと出会い、淫蕩・放蕩生活に陥り、金に溺れるようになる。
しかし、そんな自分に耐え切れなくなり、再び放浪生活に出る。
そして、かつて自分を運んでくれた渡し守のヴァズデーヴァに今までの話を打ち明けるうちに心が救われ、彼とともに生活するようになる。川から様々なことを教わるうちに、彼は真理を見出すことになる。
放蕩生活をしたことが彼を真理に近づけたというのが非常に面白いところだ。

これはキリスト教と仏教を融合させた、ヘッセなりの到達点なのだろうと思う。
知識は伝えられるが、知恵は言葉では伝えられない。まったくそのとおりだと思う。

短いが内容は濃く、様々なことを考えさせられる作品だ。

車輪の下 [文学 ドイツ]


車輪の下 (新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)

  • 作者: ヘルマン ヘッセ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1951/12/04
  • メディア: 文庫


約1ヶ月前、職場でとなりの人と哲学・文学・古典の話になった。仕事で困難な出来事にぶつかったとき、何故柔軟な対応を取ることができない人が多いのか、話をしていても、話題が広がったり、深まったりしていかないのは何故か、などといった話から、結局高校・大学時代にいわゆる古典作品をじっくり読み、じっくり考えるという経験をしてこなかったことが大きいのではないかという結論に達した。

その時出てきたのがこの『車輪の下』。かつては(今も?)高校生の読む必読書だったということだが、私は読んだことがなかった。
私はそもそもドイツ文学があまり好きではない。ゲーテも『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』は読んだが2作品とも読み進めるのにかなり苦労した。このヘルマン・ヘッセもトマス・マンなどもあらすじを読んでもそこまで惹かれなかった。
が、若者の必読書と言われては読まざるをえまい、と考え買って読んでみた。

訳の問題なのかもしれないが、センテンスが短く、事実を客観的に描写していく感じでテンポは悪くない。しかし、それがかえって物語に入り込みにくくさせており、読み進めるのに予想以上に時間がかかった。とはいえ、3日で読み終わったが・・・。文体としては井上靖に似ている感じを受けた。

物語は有名なので紹介するまでもないとは思うが一応。
普通の家庭に生まれたハンスは、かなり成績が良く様々な大人から将来を期待される。そして国費で将来牧師になれる学校を受験することになる。ハンスのいた田舎町では前代未聞の大変な出来事だった。様々な精神的プレッシャーを感じながらもハンスは見事に2番でテストに合格する。
入学までのあいだ羽を伸ばしてゆっくり暮らせばよいのであろうが、学校に入ってから困らないようにと校長や牧師がギリシャ語などを前もって教える。
学校に入ってからも真面目に勉学に励んでいたが、詩を愛し、規律正しい学校の雰囲気に反抗的な者と友達になる。その友人は他の学友を傷つけたことで学校を退学させらてしまう。そのあたりからハンスは精神を病むようになってしまい、結局学校をさることになる。
地元でしばらくゆっくりしていたが、失恋や仕事でうまくいかないなどが重なり、酒に酔ったある日、川に落ちたのか身を投げたのかはわからないが死んでしまう。

まさに現在の日本の教育状況そのものだ。せっかく上級の学校に入学してもそのあいだの時間を準備のための勉強にあてる。子供たちのやる気ではなく、大人たちの用意したものをひたすらやらせる。
しかし、このハンスは友人のおかげでこうした環境に違和感を感じるようになり、精神的にやんでしまったあたり、逆説的だが正常であったと言える。
今の日本の子供たちはその状況を受け入れてしまい、精神的葛藤もなく成長していく。そりゃあ、留学にも意識は向かないだろうし、大学で進んで勉強する気にもならないだろうし、就職して一生懸命働こうという気にもならないだろう。なんつったって内的なものをまったく育てようとしていないのだから。
「今の若者は」と政治家・メディア・教育評論家はこぞって批判する。しかしそうした若者を自分たちが作ってきたこと、そして彼らの行おうとしている制作はそうした若者をさらに作り出そうとしていることにそろそろ気づくべきなのではないだろうか。

アンネの日記 [文学 ドイツ]


アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 (文春文庫)

  • 作者: アンネ フランク
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 文庫


『アンネの日記』を2日前に読み終わった。
一人の少女が、隠れ家生活を通して精神的に成長していく様子が描かれている。特に1944年8月4日に捕まる前の数篇の日記は自分が捕まってしまうことを予期していたかのような崇高で感動的な言葉が綴られている。
 彼女の自由と平和を、そして女性の自立を求める言葉が書き記されている。以下心に残った言葉を引用しておきたいと思う。

p358 
 だれかがふさいだ気分でいるとき、おかあさんはこう助言します。「世界中のあらゆる不幸のことを思い、自分でそれとは無縁でいられれことに感謝なさい」って。
 それにひきかえ、わたしの助言はこうです。「外へ出るのよ。野原へ出て、自然と、日光の恵みとを楽しむのよ。自分自身の中にある幸福を、もう一度つかまえるように努めるのよ。あなたのなかと、あなたの周囲とにまだ残っている、あらゆる美しいもののことを考えるのよ。そうすればしあわせになれるわ!」

p479
 戦争の責任は、偉い人たちや政治家、資本家だけにあるのではありません。そうなんです、責任は名もない一般の人たちにもあるのです。そうでなかったら、世界中の人々はとうに立ち上がって、革命を起こしていたでしょうから。もともと人間には破壊本能が、殺戮の本能があります。~中略~ですから、全人類が一人の例外もなく心を入れかえるまでは、けっして戦争の絶えることはなく、それまでに築かれ、つちかわれ、はぐくまれてきたものは、ことごとく打ち倒され、傷つけられ、破壊されて、すべては一から新規巻き直しに始めなくっちゃならないでしょう。

p519
 いまや世の中の秩序は逆転してしまいました。もっとも尊敬されるべき人たちが、強制収容所や監獄、寂しい独房にほうりこまれ、残った人間のくずどもが、老若、貧富を問わず、国民全体を支配しています。

p543
 このところ、一つの疑問が一度ならず頭をもたげてき、けっして心に安らぎを与えてくれません。その疑問とは、どうしてこれほど多くの民族が過去において、そしてしばしば現在もなお、女性を男性より劣ったものとして扱ってきたのかということです。だれしもこれがいかに不当であるかを認めることでしょう。でも私には、それだけでは十分じゃありません。それと同時に、こういうおおいなる不法のまかりとおってきた、その根拠を知りたいんです。


ヴァレンシュタイン [文学 ドイツ]


ヴァレンシュタイン (岩波文庫)

ヴァレンシュタイン (岩波文庫)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/05/16
  • メディア: 文庫


シラー作『ヴァレンシュタイン』を読んだ。ベートーヴェンの交響曲第9番大4楽章の歌詞はシラーの頌歌を元に作られているということもあり、一度は読んでみたいとは思いながら、そんなに興味深い作品もなく、文庫化されているものも全然なかったので全く手をつけずにいた。
しかし先月、岩波文庫からこの『ヴァレンシュタイン』が復刊されるということで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ『ワルトシュタイン』に名前も似ているということで買ってみた。

全体は3部に分かれており
1部:ヴァレンシュタインの陣営
2部:ピコローミニ父子
3部:ヴァレンシュタインの死
となっている。
1部はその名のとおり、陣営内の様子を描いただけのものであり、ヴァレンシュタイン自身は登場しない。正直なくても良い気がするのだが・・・。
2部からが本番という感じ。ドイツの30年戦争時の話で、ヴァレンシュタイン最高司令官が最高権力者の神聖ローマ帝国皇帝の元を去り、独自の道を突き進もうとするが、内部の裏切りに遭い最後は殺される、という話だ。
争いでどちらが絶対に正しいということはあまりない。そうした中、ヴァレンシュタイン側につくのか、肯定側につくのか、という様々な人物の、心の葛藤とその先にある行動を、詳細に描いた作品。
様々な人物の心の動きを描いていること、戯曲なので原則的には彼らの言葉だけで構成されていること、からシラーの思想というものはこの作品からはかなり見えにくい。
おそらくシラーは、「正しいものとは何か。自分の信念のもと行動することの難しさ」ということを観衆に、読者に考えて欲しかったのではないかと思う。
こうした作品、私は好きである。がやはりわかりづらいので読むのに結構辛抱がいる作品であることは間違いない。


群盗 [文学 ドイツ]


群盗 (岩波文庫)

群盗 (岩波文庫)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1958/05/05
  • メディア: 文庫



シラー作『群盗』を読み終わった。疾風怒濤時代の名作のような言われたかたをし、受験時代もそのように覚えたが、いまいち疾風怒濤が何を意味するのか解らなかった。そして読後も良くわからない。

伯爵家の長男カールが若気の至りで、放蕩・家出し、その隙に次男フランツが嘘の手紙をでっち上げ、カールを陥れ、父親から伯爵領を相続する。兄の許婚のアマリアにも、「兄は死んだ」と嘘を言い、言い寄るが彼女はフランツを受け入れない。一方のカールは父親に勘当されたものと思い込み、盗賊の頭となる。

いろいろあり、自分の領土に戻ったカールは、フランツの悪行を知り、復讐することを決める。フランツを殺そうとしたときには、フランツは既に自害していた。再会したカールとアマリアは愛を確かめ合うが、もう既に盗賊の一味となり、そこを抜けないことを誓ったカールは、狂乱状態になり終わる。

まあ、それなりに面白くはあったが、期待したほどではなかった。随所にシェイクスピアの影響を感じさせた。
特に『ハムレット』『マクベス』などの悲劇作品からの影響を強く感じた。

ゲーテもそうなのだが、やはりドイツ文学はそこまで自分の肌に合わないのかもしれない。
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