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車輪の下 [文学 ドイツ]


車輪の下 (新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)

  • 作者: ヘルマン ヘッセ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1951/12/04
  • メディア: 文庫


約1ヶ月前、職場でとなりの人と哲学・文学・古典の話になった。仕事で困難な出来事にぶつかったとき、何故柔軟な対応を取ることができない人が多いのか、話をしていても、話題が広がったり、深まったりしていかないのは何故か、などといった話から、結局高校・大学時代にいわゆる古典作品をじっくり読み、じっくり考えるという経験をしてこなかったことが大きいのではないかという結論に達した。

その時出てきたのがこの『車輪の下』。かつては(今も?)高校生の読む必読書だったということだが、私は読んだことがなかった。
私はそもそもドイツ文学があまり好きではない。ゲーテも『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』は読んだが2作品とも読み進めるのにかなり苦労した。このヘルマン・ヘッセもトマス・マンなどもあらすじを読んでもそこまで惹かれなかった。
が、若者の必読書と言われては読まざるをえまい、と考え買って読んでみた。

訳の問題なのかもしれないが、センテンスが短く、事実を客観的に描写していく感じでテンポは悪くない。しかし、それがかえって物語に入り込みにくくさせており、読み進めるのに予想以上に時間がかかった。とはいえ、3日で読み終わったが・・・。文体としては井上靖に似ている感じを受けた。

物語は有名なので紹介するまでもないとは思うが一応。
普通の家庭に生まれたハンスは、かなり成績が良く様々な大人から将来を期待される。そして国費で将来牧師になれる学校を受験することになる。ハンスのいた田舎町では前代未聞の大変な出来事だった。様々な精神的プレッシャーを感じながらもハンスは見事に2番でテストに合格する。
入学までのあいだ羽を伸ばしてゆっくり暮らせばよいのであろうが、学校に入ってから困らないようにと校長や牧師がギリシャ語などを前もって教える。
学校に入ってからも真面目に勉学に励んでいたが、詩を愛し、規律正しい学校の雰囲気に反抗的な者と友達になる。その友人は他の学友を傷つけたことで学校を退学させらてしまう。そのあたりからハンスは精神を病むようになってしまい、結局学校をさることになる。
地元でしばらくゆっくりしていたが、失恋や仕事でうまくいかないなどが重なり、酒に酔ったある日、川に落ちたのか身を投げたのかはわからないが死んでしまう。

まさに現在の日本の教育状況そのものだ。せっかく上級の学校に入学してもそのあいだの時間を準備のための勉強にあてる。子供たちのやる気ではなく、大人たちの用意したものをひたすらやらせる。
しかし、このハンスは友人のおかげでこうした環境に違和感を感じるようになり、精神的にやんでしまったあたり、逆説的だが正常であったと言える。
今の日本の子供たちはその状況を受け入れてしまい、精神的葛藤もなく成長していく。そりゃあ、留学にも意識は向かないだろうし、大学で進んで勉強する気にもならないだろうし、就職して一生懸命働こうという気にもならないだろう。なんつったって内的なものをまったく育てようとしていないのだから。
「今の若者は」と政治家・メディア・教育評論家はこぞって批判する。しかしそうした若者を自分たちが作ってきたこと、そして彼らの行おうとしている制作はそうした若者をさらに作り出そうとしていることにそろそろ気づくべきなのではないだろうか。

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