アーモンド入りチョコレートのワルツ [文学 日本 森絵都]
ピアノ曲を題材にした短編集。初めは8曲分作るつもりだったようだが、最終的には3曲の短編集。
1.シューマン トロイメライ
2.バッハ ゴルドベルグ変奏曲
3.サティ 童話音楽のメニュー
1は、従兄弟の子供たちだけで、夏の別荘で2週間を過ごすというもの。
一番年上でこの別荘の持ち主の息子である章くんに対して皆が反感を持つが・・・。
最後に章くんのいろいろなことがわかりめでたしめでたし。児童文学として結構ワクワク感もあり面白い。
2は、不眠症に悩む主人公が、同じ悩みを持つ(と思われていた)女の子と心の交流を持つが、実は・・・。という話。若干ミステリアスだが、最後は明るく終わるので悪くはない。
3は、ピアノ教室の独特の世界観を持つ女の先生と、彼女が呼んだこれまた独特の世界観を持つフランス人とふたりの女の子の生徒の交流を描いた作品。
どれも悪くはないが、やはり短編というのは自分にはあまり合わないきがする。
カラフル [文学 日本 森絵都]
名作と呼ばれ、小中学生の推薦図書として多く取り上げられる作品。一度は読んでおきたいなあと思いながらも今まで読まずに来た。
今日、この作品のミュージカルを見に行くので、せっかくなので予習してからと思い、図書館で借りて読んだ。
ある罪を犯して死んでしまった魂が、輪廻のサイクルに戻してもらうために、自殺してしまった少年の体を蘇らせ、その中に入り込んで自分がどのような罪を犯したのかを思い出す、というストーリー。
あらすじだけ見ると正直あまり面白くなさそうだし、はじめはあまり引き込まれず淡々と読んでいた。
自殺してしまった少年の家族や学校での状況は確かにひどいものだった。しかし、実際色々な経験をする中で、少年が見えていなかったであろう真実が色々と見えてくる。
少年の心の成長物語を、一度死なせ、面白い形で新たに体験させるという画期的な試みを持った作品。
圧倒的なおもしろさか、というとそうでもないが、確かにじんわり心にしみる作品ではある。
永遠の出口 [文学 日本 森絵都]
職場の国語の先生に進められて読んだ本。
岸本紀子というどこにでもいそうな、普通の女の子の小学校から高校までの出来事を、丁寧におった作品。
第二章の「黒い魔法とコッペパン」が昔流行した「女王の教室」というドラマのストーリにとても似ており、ドラマがパクったのでは?と話題になったらしい。
私は「女王の教室」が大好きでDVDも持っているくらいなのだが、確かに様々なエピソードはこの小説から抜いているのは間違いないのだが、世界観というか伝えたい内容は全く違う。この本を読んで改めてドラマ「女王の教室」は素晴らしいドラマだったと思った。
この小説だがとにかく読んでいて、自分の心が痛かった。正直あまり恋愛・青春を謳歌するみたいな児童・生徒時代を送ってこなかった自分にとってこの主人公や周りの人間が感じる心の痛みが自分の感じられなかった心の痛みのような感じでかなり嫌な感じだった。誰もが感じる青春時代の心を描いた作品などよく書かれるが、私はこういう感情を通ってこなかったことに、心の痛みを感じた。
読んでいてかなり疲れてしまった。
風に舞い上がるビニールシート [文学 日本 森絵都]
森絵都の直木賞受賞作品。6個の短編からなる。
1.器を探して
超売れっ子パティシエで、嘘つきで美人で人を振り回すがどこか憎めない店長についていく女性の話。あまりにも振り回されてしまうので、結婚を考えている彼氏に「自分を取るか、仕事を取るか」と迫られる話。最後の解決の仕方がとても清々しい。
2.犬の散歩
捨てられた犬たちの里親を探すボランティアを引き受け、その餌代を稼ぐために、スナックでバイトをすることを決めた主婦の話。夫、義母、義父、皆が皆優しい人たちで、最後は涙がこぼれそうになるとともに、自分の信じるものを金とは変えられるないとする心意気も素晴らしい話。
3.守護神
働きながら大学に通う男性の話。大学で学ぶ意味とはなんなのか、改めて考えさせてくれる名作。『伊勢物語』と『徒然草』に対する解釈の仕方など恐らく森絵都本人のものなのだろうが、とても新鮮で面白かった。
4.鐘の音
仏を掘る仕事仏師になりたかったが、自分の能力の限界を知り、仏を修復する仕事に従事したがと挫折した男性の話。最終的にその挫折のきっかけとなった仏に人生を好転させてもらえた、と考え前向きに終わる。
5.ジェネレーションX
出版社とその出版社に広告を依頼した玩具メーカーの男性二人の話。中年男性と新人類と呼ばれる若い社員が登場人物で、初めは中年が若い男性の傍若無人な振る舞いに若干腹を立てるが最後はお互い打ち解けある話。短いながらもドラマがある。若干ロードムービー的な要素もある。やはり私はロードムービー的な密室空間でのドラマが好きなんだなあと思う。
6.風に舞い上がるビニールシート
この作品が直木賞受賞作らしい。NHKでドラマ化されているので結構有名な作品なのだろう。国連難民高等弁務官の東京事務所に転職してそこで働くアメリカ人男性と結婚した女性の話。危ない機関で働いてそうだが、東京事務所という安全な場所に身を置く女性と、現地至上主義のような現場で働くことを生きがいにしている男性のすれ違いと愛の深さを描いた作品。途中までは何となく、退屈な感じだったが最後は一気に読み、感動してしまった話。
どれも金では測れない自分の大切なものを追い求める人々のピュアな心を描いた作品。重松清と似たような雰囲気を持っており、どちらも中学受験でよく取り上げられる作家のようだが、森絵都作品は重松清作品と違い「あざとさ」や「わざとらしさ」がない。何故なのだろう。よくわからないが、おそらく本質的な心の違いなのだろう。重松清は読者が「感動するだろう」と思ってその手の物語を「造って」いる気がするのだが、森絵都は本気で自分が信じており、自分の内面から物語が「湧き上がって」来ているのではないだろうか。
重松清はもう読む気がしないが、森絵都は面白そうな作品があればまだまだ読んでみたいと思う。
みかづき [文学 日本 森絵都]
私はひとりの作家を集中的に読む習性があり、森絵都作品で良い作品がないか探していたところ、結構面白そうだったので読んでみた。
戦後から平成末期までの期間、個人塾から始まり、規模を拡大させて進学塾となり、最終的には公教育で、土曜日に授業を担うようになった一家の3代にわたる物語。
戦後の教育の流れ、塾との関係性、どのような裏の目的があってその政策がなされてきたのかなどが結構わかりやすく描かれている。
本質的に学ぶとはなんなのか、生徒の内なるやる気を引き出すことが教育であり、すぐに結果のでない本質的に考える力を引き出すことこそが教育なんだという信念の元行動する人物が描かれている。成果主義との対立が常にテーマとしてあり、そのせめぎ合いを様々な人物の対立等で描き出しているのは本当にうまいと思う。
非常に印象に残った一節
p.592
「教育は、こどもをコントロールするためにあるんじゃない。不条理に抗う力、たやすくコントロールされないための力をさずけるためにあるんだー。
途中、若干集中力を切らす時もあったが基本的に楽しく読めた。こういう大河ドラマ的小説はあまり好きではないのだが、テーマが教育だけに結構面白かった。
森絵都は公教育の中で生きづらさを感じていて、常に、学ぶとは何か、ということを考えて生きてきたんだろうなあ、と今まで読んだ数作品を通じて思った。
クラスメイツ 後期 [文学 日本 森絵都]
前期から時間が進み、それぞれの人間関係なども深まったり、見えるようになる部分が増え、前期よりも話の密度、深刻さが濃いものが多かった気がする。前期で未解決だった問題、見えにくなった部分がかなり見えてきて、かなりすっきり。藤田先生の活躍する場面も多くとてもよかった。
そして前期にすでに登場し、私の結構気に入っていたキャラ里緒の活躍場面がかなりあり結構楽しめた。美人で清純そうなアリスが「そんなことに!!!」と若干残念な場面もあったが・・・。
印象的な言葉を最後に一つ。数学の先生が日向子という生徒に言う言葉。
p.65
「教育に必要なのは熱血教師じゃなくて、熱血生徒だ。」
普段自己満足の教育活動を行っている先生たちに聞かせてあげたい名言だ。
クラスメイツ 前期 [文学 日本 森絵都]
森絵都の『クラスメイツ』前期を読み終わった。
この本は元々児童書出版社の偕成社から出たものなので、YA小説と言える。
公立中学校に新しく入学した1年生の一年間を、それぞれの生徒24人をリレー形式で描いたもので、それぞれの話が絡み合いそれぞれの視点から物事が語られ結構面白い。
新しい学校に入るときの、友達ができるかどうか不安な気持ち、何か事件が起こったときのクラス内の微妙な心の揺れ、泊まり行事のドキドキ感、学校外であった時の印象の変化、異性への興味、友達との距離の取り方、などなどその頃の中学生が感じるであろうことがテーマとして取り上げられており、同年代の子供達であればかなり共感して読める気がする。
まだまだ事件が起こりそうな後期、様々な未解決なことが解決されることを願って読み進みたい。
リズム/ゴールド・フィッシュ [文学 日本 森絵都]
私の周りには森絵都のファンだという人が結構いる。
ずっと気にはなっていたが、そもそも現代文学、特に日本の文学をあまり読まない私はここまで読まずに来た。
この夏かなり集中的に現代日本女性作家の本を読んだので、せっかくなので読んでみた。
色々と調べたがとりあえずデビュー作である『リズム』が面白そうだと思い読んでみた。しかもこの角川文庫バージョンは『リズム』の後編である『ゴールド・フィッシュ』までついている。ということでちょっとお得な気分で読み始めた。
ページの中にかなり白い部分が多く、とても読みやすかった。あまり勉強が好きではなく毎日何となく生きている小学校一年生のさゆき。彼女の幼馴染でいつもおどおどしており、いじめられやすいテツ、さゆきのいとこで、高校には行かず、ロックバンドで成功することを夢見ている真ちゃん。この三人を軸に物語は展開されていく。
世間的に見て当たり前だとか、当然歩むべき道だ、ということをはみ出してしまった子供たちの、純粋な内面を丁寧に追いかけ、彼らの精神的成長を描いた作品。
夢を追い続けることの大切さ、自分を信じることの大切さ、などがメッセージとして伝えられており、現状に生きづらさを感じている子供たち、若者に受け入れられやすいのだとは思う。
これが、講談社青い鳥文庫のような児童用と言われるラインの本で読んだらまた違った印象になったのかもしれないが、やはり普通の作品としては若干の物足りなさを感じた。重松清ほどではないが、何となく押し付けがましさを感じてしまった。
とはいえそれなりに面白かったし悪くはないと思った。