風に舞い上がるビニールシート [文学 日本 森絵都]
森絵都の直木賞受賞作品。6個の短編からなる。
1.器を探して
超売れっ子パティシエで、嘘つきで美人で人を振り回すがどこか憎めない店長についていく女性の話。あまりにも振り回されてしまうので、結婚を考えている彼氏に「自分を取るか、仕事を取るか」と迫られる話。最後の解決の仕方がとても清々しい。
2.犬の散歩
捨てられた犬たちの里親を探すボランティアを引き受け、その餌代を稼ぐために、スナックでバイトをすることを決めた主婦の話。夫、義母、義父、皆が皆優しい人たちで、最後は涙がこぼれそうになるとともに、自分の信じるものを金とは変えられるないとする心意気も素晴らしい話。
3.守護神
働きながら大学に通う男性の話。大学で学ぶ意味とはなんなのか、改めて考えさせてくれる名作。『伊勢物語』と『徒然草』に対する解釈の仕方など恐らく森絵都本人のものなのだろうが、とても新鮮で面白かった。
4.鐘の音
仏を掘る仕事仏師になりたかったが、自分の能力の限界を知り、仏を修復する仕事に従事したがと挫折した男性の話。最終的にその挫折のきっかけとなった仏に人生を好転させてもらえた、と考え前向きに終わる。
5.ジェネレーションX
出版社とその出版社に広告を依頼した玩具メーカーの男性二人の話。中年男性と新人類と呼ばれる若い社員が登場人物で、初めは中年が若い男性の傍若無人な振る舞いに若干腹を立てるが最後はお互い打ち解けある話。短いながらもドラマがある。若干ロードムービー的な要素もある。やはり私はロードムービー的な密室空間でのドラマが好きなんだなあと思う。
6.風に舞い上がるビニールシート
この作品が直木賞受賞作らしい。NHKでドラマ化されているので結構有名な作品なのだろう。国連難民高等弁務官の東京事務所に転職してそこで働くアメリカ人男性と結婚した女性の話。危ない機関で働いてそうだが、東京事務所という安全な場所に身を置く女性と、現地至上主義のような現場で働くことを生きがいにしている男性のすれ違いと愛の深さを描いた作品。途中までは何となく、退屈な感じだったが最後は一気に読み、感動してしまった話。
どれも金では測れない自分の大切なものを追い求める人々のピュアな心を描いた作品。重松清と似たような雰囲気を持っており、どちらも中学受験でよく取り上げられる作家のようだが、森絵都作品は重松清作品と違い「あざとさ」や「わざとらしさ」がない。何故なのだろう。よくわからないが、おそらく本質的な心の違いなのだろう。重松清は読者が「感動するだろう」と思ってその手の物語を「造って」いる気がするのだが、森絵都は本気で自分が信じており、自分の内面から物語が「湧き上がって」来ているのではないだろうか。
重松清はもう読む気がしないが、森絵都は面白そうな作品があればまだまだ読んでみたいと思う。
2021-09-29 05:30
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