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尺には尺を [文学 イギリス Shakespeare]


シェイクスピア全集 (〔26〕) (白水Uブックス (26))

シェイクスピア全集 (〔26〕) (白水Uブックス (26))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/01
  • メディア: 新書



シェイクスピア作『尺には尺を』を読んだ。以前読んだ時もかなり面白いと思ったが、かつての感想を裏切ることなく面白い作品だった。

この頃、シェイクスピアの関心が、性的な問題、女性の貞節感、にあったのか、当時の時代状況で、人々がこういうものに関心を寄せていたので、こういう作品を書いたのかはわからないが、『トロイラスとクレシダ』『終りよければすべてよし』そしてこの『尺には尺を』はすべて、女性の貞節感、一途な想いなどをテーマに書かれている。『トロイラスとクレシダ』は女性であるクレシダが男性を裏切るが、『終り~』と『尺~』はヒロインの女性含め周りの女性たちは貞節で一途な想いをもったものとして描かれている。

権力者が権力をふるって人びとを罰しているその裏では、自分が同じような(さらにひどい)犯罪を犯している、というのはどの世の中にもあることであろうし、特にこの日本社会では顕著だ。

権力につく前はいろいろ批判していたのに、権力についたらその批判していたことを自分がしているというのはよくあることだ。体育会系のクラブの後輩いびりや、「最近の若いものは」といった言説は同じような構造だろう。

自分の発言に誠実に行動するためにはどうしたらいいのか。自分の欲望に勝つためにはどうしたらいいのか。法律より重視されるものがあるのか。そして重視されるとしたらそれがどういう状況下なのか。などなど、色々と考えさせられる。

できちゃった結婚(おめでた婚)が当たり前になってきたこの日本において、倫理観の低い権力者が多いこの日本において、いまこそ読まれるべき本ではないだろうか。
シェイクスピア作品の中ではマイナーなこの作品、多くの人がぜひ手に取って色々と考えてみて欲しい。

終わりよければすべてよし [文学 イギリス Shakespeare]


シェイクスピア全集 (〔25〕) (白水Uブックス (25))

シェイクスピア全集 (〔25〕) (白水Uブックス (25))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/01
  • メディア: 新書



シェイクスピアの『終わりよければすべてよし』を読み終わった。身分違いの愛を描いた作品だが、身分の低い女性が、自分の誠実さと力だけを頼りに、問題を解決していき、自分の思いを遂げるというのは素晴らしい。主人公のヘレナというのはシェイクスピア劇のヒロインの中でも1、2位を争う魅力的な人物なのではないだろうか。ヘレナの策略に手を貸すダイアナや、ヘレナが想いを寄せるバートラムの母親ロシリオン伯爵夫人など、全体的に女性がとても魅力的かつ美しい心の持ち主として描かれている。
このヘレナは純潔の鏡のような人物として描かれているのだが、トロイ戦争の直接的な原因となった「ヘレン」と同じ名前をつけるあたりがまた面白い。実際道化を使って、この有名な作品をもじった詩をシェイクスピアは披露している。(第一幕第三場:p.30)
いくら暗いとは言え、ベッドの中で相手を間違えるか、という疑問や、妻がなくなったからといって、そんなにすぐに周りの人間が結婚を認めるのか(これは『から騒ぎ』でも同じだが)、こんなに素晴らしい性格のヘレナが、なぜこんなにどうしようもないバートラムをここまで愛するのか、などツッコミどころは満載なのだが、それはあくまでフィクション、劇であり、注目する部分を変えればかなり楽しめる。
前回の『トロイラスとクレシダ』やこの『終わりよければすべてよし』などはそこまで有名な作品ではないが、ストーリーも人物像などもすべてが4代悲劇や有名な喜劇に劣っていない。本当にシェイクスピア作品はマイナー作品でも素晴らしいなあと思う。 

トロイラスとクレシダ [文学 イギリス Shakespeare]


シェイクスピア全集 (〔24〕) (白水Uブックス (24))

シェイクスピア全集 (〔24〕) (白水Uブックス (24))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/01
  • メディア: 新書



仕事の関係で、シェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』を読むことになった。
この作品は昔、一度読み、BBCの映像も一度観ただけだったが、かなり面白いという印象があった。これを読んで観たために、トロイ戦争に興味を持ち、映画「トロイ」も買って観たし(あまり面白くなかったので結局売ってしまったが・・・)、ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』も読むことになったのだ。
久しぶりの再読だったがやはり面白く、かなり惹きつけられ一気に読み終わった。
トロイラスとヘクターの清廉潔白さ、とギリシア(スパルタ)勢の裏のある感じの対比が見事で面白く、クレシダの言葉では貞節っぽいふりをしているが、行動は伴わない部分など、素晴らしかった。
クレシダの描き方は特に面白く、人の心のうつろいやすさを、深く考えさせられる。

最終的に、最も心の美しいヘクターだけが汚いやり方で殺され、残りの人間たちは生きたまま戦場に残され幕となるあたりも、観客に考える余地を与えてくれており、そうした意味でもとても深い作品だ。

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