あの世からの火 [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
直樹とゆう子のシリーズ五作目。最終作
最後は、前回出てきた従兄弟エリコが所有する山荘の管理人、みすずさんの朝鮮からの引き上げ話のテープをゆう子が書き起こすという設定。藤原ていの『流れる星は生きている』に近い作品ではあるが、もっと日本の戦争責任を追求した本になっている。
今までの四作と違い、ミステリー的な要素は薄く、ひとりの人間の半生をたどる作品になっている。しかし松谷みよ子特有の民話的要素も混じっており、結構楽しく、かつ考えさせられながら読めた。
かなり良いシリーズだと思う。
屋根裏部屋の秘密 [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
直樹とゆう子のシリーズ四作目。
1.『ふたりのイーダ』 広島の原爆
2.『死の国からのバトン』 公害問題
3.『私のアンネ=フランク』ナチス・ドイツのユダヤ人迫害
直樹とゆう子という子どもを主人公に置くことで、ある程度深刻な問題から距離を置きながら戦争や現代的な問題を考えていく、という手法を使ったこのシリーズ。かなりミステリー的要素もあり楽しめる。
今回は、731部隊というかなり有名だがあまり内容的には知られていない戦争犯罪がテーマとなっている。ゆう子のはとこエリコの優しいおじいちゃんが、なくなった。その際、別荘の屋根裏部屋にある品を託すと言われ、それをゆう子とエリコで探しに行く話。屋根裏部屋の鍵が見つからなかったり、せっかく見つかったと思ったら盗まれてしまっていたり、と色々なことが起こるが、最後はうまく解決する。
そして後半、日本の731部隊が中国でどのようなことを行っていたのか、かなり事細かに描写される。日本もナチス・ドイツと同じように、人間をガス室のようなところで大量に殺していたという事実を、恥ずかしながらこの歳でまともに知りかなり衝撃を受けた。
p.617
「人間がやさしいとか、いい人がらとか、そりゃ平和なときなら、だれだってやさしくなれまさ。わたしらの知ってる先生がたは、個人的にはみんないい人でしたよ。でも、戦争ってのは、狂気なんです。人間が狂うんです。」
p.628
「アウシュビッツだ、日本人も日本のアウシュビッツを持っていたんだ・・・・・・。
ぼくは心の中でつぶやいた。なんということだろう。遠いドイツのナチスがおこなった殺人工場、アウシュビッツ。どこか、ひとごとのように思っていたのに、日本人の手でも殺人工場はつくられていて、じじちゃまが、ぼくの親しい身内がそこにいたなんて・・・・・・。ということは、ぼくだって、戦争という巨大な歯車に巻きこまれたとき、そこに身をおかないとだれが約束できるだろう。」
今まで読んだ4冊の中では最も面白く読み応えのある作品だった。
私のアンネ・フランク [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
直樹とゆう子のシリーズ三作目。
今回は題名通りナチス・ドイツがテーマとなっている。
アンネ・フランクと同年に生まれた母蕗子。アンネ・フランクが日記を書き始めた13歳と同じ年齢のゆう子。この二人の日記が交互に登場し一冊の本になっている。最後の方で若干直樹の日記も出てくる。
この本は私が生まれた1978年の出来事として書かれており、自分の生まれたとき日本がどういう状況だったのかということも知ることができて結構面白かった。日本がどんどん戦争ができる国へと向かっていく真っ最中だったのがわかる。世界的にはネオ・ナチが台頭し、日本では相変わらず朝鮮人差別があり、ハーケンクロイツを平気で使用し、天皇制を賛美し、等など、この当時の状況から変わることなく、なんら問題を解決することなく日本は来てしまったのだなあと実感した本だった。
p.420
「あれはいつだったか、旅さきで読んだ地方新聞の随想。だれかが書いていた。
なにかがおこるとき、そのなにかはさりげなく、だれもそれと気がつかないうちに、人びとの前にさしだされ、たいしたことではないと思っているうちに、それは事実となっていくって。」
p.421
「明治、大正、昭和、その言葉になれ親しみ、その意味の重さを問うよりも、使いつけた茶わんの親しさ、あたたかさで放すまいとする心は私にもある。そして多くの人がそうであろう。
でも、でも、なぜそれほどまでに元号にこだわり、法律にしようとするのだろう。
反対をとなえた学者たちを、暴力で排除するようなことがほんとうにおこっているとしたらーー。」
p.471
「ヒトラー・ユーゲントに心をおどらせ、〈愛国行進曲〉を声かぎりに歌った十三歳のわたしも、背丈はまだ小さいけれど、にほんのかたすみでヒトラーをささえたひとりだったということも。そして、それがアンネ、あなたを死にいたらしめたのだということをも(わたしは知った)。」
p.481
「いま、日本はどんどん危険な方向へ進んでいる。戦争の足音がきこえる、って三人ともいっていました。」
この本の中のモチーフのように何度も登場する、民話の中に出てくる「鬼の目」というものが何のアナロジーとしてしようされているのか、最後までイマイチわからかなかったり、なんとなくもやっとした感じの多い作品ではあり、結構わかりづらい作品ではあるのが、伝えたいメッセージは明確で、現在にも通じるものがある。
死の国からのバトン [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
直樹とゆう子シリーズの第二巻。
今回は、直樹が主役。
お父さんの実家である日本海側にある阿陀野(あだの)へ、母とゆう子と遊びに行った直樹。
一面雪景色の中で、かつてそこに住んでいて今は死んでいる自分の先祖直七と会い、自分の先祖たちやその土地で生きていた人と交流する。
いっぽう現実の世界では、ネコがくるって暴れまわった末死んでしまったり、防腐剤を使用した豆腐を食べ過ぎて死んでしまった人が出たり、工場の垂れ流すものを餌にしていた魚を食べて死んでしまった人々などが続出する。
その二つの世界を行ったり来たりしながら様々なことを考える直樹。
松谷みよ子らしい、民話風の話もたくさん織り込まれるとともに、社会に対する批判もしっかりと組み込まれている。しかし、物語が若干入り組んでおり、筋を追いにくい。
死んだお父さんが、直樹に伝えた言葉が美しい。
p.328
「お父さんもお母さんも、二度と戦争をくりかえすまいということでは、同じ気持ちだった。そのためには、理不尽なものへしっかりと目を向けてたたかうことだと、そこでもおなじだった。そして、さまざまの運動にもくわわり、営々とはたらきつづけてきたつもりだった。」
p.329
「直樹、さあ、おまえにバトンタッチしたよ。しっかり走ってくれよ。お父さんができなかったことをしてくれよな。」
理不尽なことに対して声を上げ続けることの大切さをうったえかけるこの本。難しくはあるが、ぜひ多くの若い人に読んでもらいたい。
ふたりのイーダ [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
『松谷みよ子の本』全10巻で未読だった巻。この『直樹とゆう子の物語』全5巻を読みたくてこの全集を買ったようなものだった。なぜかこのシリーズの本は絶版になっているものが多く、さらに講談社と偕成社で出版社が分かれてしまっているのでキレイに揃わない。
分厚い本なのでなかなか気軽に読めず、ここまで来てしまったが、遂に第一巻『ふたりのイーダ』を読み始め、3日で読み終えた。
はじまりは結構平和な感じで始まる。シングルマザーと直樹とゆう子という二人の子どもがお母さんの実家に預けられそこで不思議な体験をし、広島の原爆について知る、という話。
若干ミステリー的な要素もあるし、さすが松谷みよ子という感じの物語のおもしろさもあるし、民話から引っ張ってきたエピソードも入ってくるし、かなり世界に引き込まれる本。