SSブログ
文学 日本 Classic ブログトップ
前の30件 | -

野菊の墓 [文学 日本 Classic]


野菊の墓 (新潮文庫)

野菊の墓 (新潮文庫)

  • 作者: 左千夫, 伊藤
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/05/08
  • メディア: 文庫



昔純愛小説を欲している時があり、ネットで調べたらこの作品が出てきて購入したきがする。

15歳の政夫こと主人公の僕と、従姉で政夫の母の体調が悪いので手伝いに来てくれていた17歳の民子の純愛物語。恋愛感情をあまり意識することなく小さい頃から仲良くしてきた二人が周りの人間が二人の中を危ぶみ引き離そうとしたことによって却って恋愛感情を芽生えさせてしまい、無理やり離されたことによって起こってしまった悲劇を描いた作品。

自然の描写、僕の感情描写、民子の人物のつくり方など、全てが素晴らしい。70ページに満たない作品であるが、内容はギュッと詰まっておりかなりお腹いっぱいの作品。

ほかに3篇掌編が収録されているが、どれももう一歩。
nice!(0)  コメント(0) 

現代日本文学館 森鴎外 [文学 日本 Classic]


舞姫 雁 阿部一族 山椒大夫―外八篇 文春文庫 (文春文庫 も 11-1 現代日本文学館)

舞姫 雁 阿部一族 山椒大夫―外八篇 文春文庫 (文春文庫 も 11-1 現代日本文学館)

  • 作者: 森 鴎外
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1998/05/01
  • メディア: 文庫



高校・浪人時代世界史を勉強し、様々な文化史を学び、そこで出てきた文学作品に興味を持ち、大学時代は岩波文庫・新潮文庫を中心とした、世界の古典文学や哲学作品を読みあさった。何かのきっかけでそろそろ日本の近代文学も読んでみなくては、と思っていたところにこの文春文庫の「現代日本文学館」シリーズに出会った。有名な文豪の名作が結構な量でコンパクトに収録されているのに惹かれて購入した。

十数年ぶりに再読してみた。

1.舞姫
言わずと知れた名作と呼ばれているもの。公費でドイツに留学した主人公が、そこで知り合った女優と恋に落ち子供まで作るが、それが政府高官に知られるところとなり、帰国を余儀なくされる。その近代的自我と近代的国家観の狭間で揺れ動く主人公の心を丹念に描いた作品ということで教科書に取り上げられているっぽいが、とにかく主人公が最低人間にしか思えない。最後エリスと別れたことも人のせいにするし・・・。

2.妄想
西洋と東洋を比較したり、当時の思想状況などを語った日記的作品。『三太郎の日記』を彷彿とさせる。
p.52
「食物改良の議論もあった。コメを食うことを廃めて、たくさん牛肉を食わせたいと云うのであった。その時自分は「米も魚もひどく消化のいいものだから、日本人の食物は昔のままがよかろう、もっとも牧畜を盛んにして、牛肉も食べるようにするのは勝手だ」と云った。
この辺を読んでも、鴎外は進んでいる人の中でもさらに進んでいる、周りに流されないしっかりとした考えを持っている人だったのだなあ、と思う。圧倒的な読書量がそうさせたのだろう。

3.雁
これは傑作。金貸し業を営む男性のところに、妾としてとついだ美しく純真な心を持った女性と、前途有望な純真な心を持った学生の、交わりそうで交わらない物語。かなり長く初めは結構読み進めるのが大変だが後半は一気に読める。最後の二人が交わらずに別れとなってしまう場面が悲しい。

4.かのように
キリスト教というのか宗教と科学の対比を描いた作品。結局「かのように」がどういった事象を指すのか私にはわからないままだった。

5.阿部一族
当主を殺された阿部一族の仇討ち物語。昔読んだ時はかなり面白かった印象だが、今回はイマイチ。武士道のなんたるかのようなものは教えてくれる。

6.護持院原の仇討ち
これも仇討ち物語。父親を殺された一家が仇討ちをするために日本全国を探しまわる物語。

7.山椒大夫
もっと牧歌的な感じをイメージしていたが、人が売られかなり苦労して逃げた結果・・・、という話し。最後は「え、そんな結論!」という感じ。昔読んだ印象と全く違った。

8.魚玄機
中国の美しい女性の嫉妬の物語。

9.じいさんばあさん
これは非常に美しい。武士道を貫いた男とその人に最後まで真心を捧げた女性の物語。

10.高瀬舟
短いが非常に心に残る、安楽死をテーマにした時代をかなり先取りした作品。

11.寒山拾得
なんだかよくわからない坊さんたちの話し。

12.都甲太兵衛
この話もよくわからない。

ものすごい面白いという類の作品は少ない気がするが、当時はかなり先を行っていた作品群なのだろう。現在あまり読まれない、ファンがすくないのもわかる。
nice!(0)  コメント(0) 

サド侯爵夫人 わが友ヒットラー [文学 日本 Classic]


サド侯爵夫人・わが友ヒットラー (新潮文庫)

サド侯爵夫人・わが友ヒットラー (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/28
  • メディア: 文庫



三島の戯曲に興味を持ち、それなりに有名な作品を読んでみたくなり読んだ本。

「サド侯爵夫人」は女性だけの6人劇
「わが友ヒットラー」は男性だけの4人激
二作品とも年代や時間は経過すれど、演じられる場所は変わらず、大掛かりなセットなども必要としない、演者の語りと演技がかなり重要な要素となる、私の大好きな種類の戯曲。セリフに込められた様々な感情・心理展開なども実に見事で、実際に舞台を観たらかなり楽しめる作品だと思う。

「わが友ヒットラー」の方は、レームの純粋さ愚直さが、まさに三島好みだろうなあ、と思いながら読んでいた。最後に付された三島自身の解説にも、「レームに私はもっとも感情移入をして、日本的心情主義で彼の性格を塗り込めた」(p.233)と書いてあった。

「サド侯爵夫人」はサドが実質上の主人公のような感じなのだが、そのサド自身は登場せず、ひたすら彼をめぐって6人の女性が語り合うという作りとしては素晴らしい作品。「ゴドーを待ちながら」的な要素もある。しかし、いつも書いているが、私はあまり「性的」な作品が好きではなく、とくに奇怪的な性嗜好のサドを描いた作品で、読んでいてあまり気持ちの良いものではない。

何にしろどちらもそれなりに面白く、三島の戯曲の代表作として取り上げられるのもわかる気がした。
nice!(0)  コメント(0) 

鹿鳴館 [文学 日本 Classic]


鹿鳴館 (新潮文庫)

鹿鳴館 (新潮文庫)

  • 作者: 由紀夫, 三島
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/12/24
  • メディア: 文庫



辻村深月の作品『ツナグ』にも登場するし、三島の様々な戯曲を読み、彼の戯曲の傑作として知られる「鹿鳴館」も読んでみたくなり、購入し早速読んでみた。

岩波文庫『若人よ甦れ・黒蜥蜴』、河出文庫『オリジナル版 英霊の聲』があまりにも素晴らしいので、傑作と言われる「鹿鳴館」はさぞかし素晴らしい作品なのだろうと期待値が相当高い状態で読んだ。

・・・・・・。
明治時代の欧化政策をめぐる、賛成派と反対派の政治的対立、そのあいだに挟まれた恋愛模様を描いた作品で、よく舞台かもされているようだし、映画化、ドラマ化もされている作品らしいが、確かにぐいぐい引き込まれなくはないのだが、三島由紀夫独特の、精神の純粋さというか、美しさのようなものがあまり感じられず、人間のズルさというのか、政治的な側面があまりにも強調されており、わたし的にはもう一歩。

ほかに収録されている
「只ほど高いものはない」は、昔の夫の不倫相手が生活に困り、お手伝いさんとして家にやってきて、それを妻がいびるのだが、最終的にはそのお手伝いさんがいなくては家族全員の生活が成り立たなくなってしまうほど、彼女に依存する生活になってしまい、最終的には家を、夫を乗っ取られるような形になってしまうというもの。こちらも人間の醜い側面が、「これでもかっ」とばかりに描かれていて、読んでいてあまり気持ちの良いものではない。

「夜の向日葵」も、天然で人を疑うことを知らない未亡人を中心に、人々の醜い面がどんどんと溢れだされていく作品。最後はこの未亡人も自らの欲望に逆らえない感じの結末になっており、これまた読後感はすこぶる悪い。

最後に収録されている「朝の躑躅」も最悪の作品。ある子爵の館で夜通しパーティーをする子爵や男爵の面々。そんな中、彼らの多くがお金を預けているある銀行が潰れる。それを聞いて、自分たちの裕福な暮らしがなくなるのではとうろたえる面々。特にパーティーを主催している子爵の妻はあたふた。パーティーに参加していた成り上がりものの男はこの子爵の妻を、前から狙っていた。お金と引き換えに体を要求。妻はそれを受け入れる。しかし・・・。
人間の醜い面をこれでもかと描いた、本当に最低の作品。読後感は悪いなんてものではない。

正直、どの戯曲ももう一歩。もう一度読みたいという類の作品ではない。
nice!(0)  コメント(0) 

オリジナル版 英霊の聲 [文学 日本 Classic]


英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

英霊の聲 オリジナル版 (河出文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2005/10/05
  • メディア: 文庫



2・26事件を扱った3作品を集めた作品集
1.英霊の聲
2.憂国
3.十日の菊

1、2は小説で、3は戯曲。
1は、戦後神社で、祝詞を上げているとき、盲目の神主をつとめた若者の体を借りて、2・26事件で決起した若者たちの霊と、神風特攻隊で死んでいった霊が、天皇の裏切りを責める声をあげる。
文体が古く堅苦しいので読みづらい部分はあるが、かなり真に迫っており読み応えがある。

2は、素晴らしい作品。新婚ということで、2・26事件の決起から自分の知らない間に外されてしまい、仲間たちを捕まえなければならない立場に追い込まれた軍人が、妻とともに自害する作品。本当に短い時間を描いた作品なのだが、美しい性描写とこれ以上ない程美しく純粋で真っ直ぐな心を描いた文章に心打たれる。村上春樹の性描写は気持ち悪く読むに耐えないが、三島由紀夫のこの描写は本当に素晴らしい。三島由紀夫は右翼などと言われるが、全くそんなことはなく、天皇の戦争責任を追求し、天皇の名のもとに死んで至った若者たちの美しい心に敬意を抱いていたことが分かる。傑作。

3は、2・26事件で女中頭に助けられた大蔵大臣のその後を描いた作品。助けられた人間と助けた人間の心のあいだを埋めるものはない。結局特権階級で助けられる、仕えられることしかしらない人間は、そういう物の見方からしか物事を見られず、いつまでたっても自己本位で生きるしかない。しかし他者を助けるために自己を抑えたと思われる人間も、実は自分本位なのではないかと問いかける作品。若干ニーチェを彷彿とさせる。

『金閣寺』「仮面の告白』『潮騒』など、三島由紀夫の傑作と呼ばれる作品をいくつか読んだが、正直ぱっとしなかった。しかしこの作品集は素晴らしかった。三島の心の真っ直ぐさが分かる素晴らしい本だと思う。是非多くの人に読んでもらいたい。
nice!(0)  コメント(0) 

額田女王 [文学 日本 Classic]


額田女王 (新潮文庫)

額田女王 (新潮文庫)

  • 作者: 靖, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1972/11/01
  • メディア: 文庫



昔からずっと、百人一首を覚えようと思い続けてきたが、いつも最初の5つくらいで挫折してしまう。今年こそはと思い、今回は百人一首の漫画を買ってみた。


超訳マンガ 百人一首物語 全首収録版

超訳マンガ 百人一首物語 全首収録版

  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2017/10/24
  • メディア: 単行本



その第一首目
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露に濡れつつ

この首の漫画を読み、額田王に興味を持ち、私の好きな作家である井上靖に『額田女王』という作品があるのを知り購入し、この度読んでみた。

額田女王が、大海人皇子と中大兄皇子の兄弟二人に見初められ二人から言い寄られるはじめの場面に始まり、大海人皇子に梅見をだしに呼び出され、無理矢理連れ去られ関係を持たされるところを通過し、二人の子どもが生まれるところまでは本当に緊張感があり一気に読んでしまった。

その後は、当時の日本の状況を中心に話は進む。朝鮮出兵、白村江の戦い、敗戦、数々の遷都、天皇の死、人身の乱と、様々な事件が、二人の皇子と額田を中心に語られていく。

正直日本史は不得意で、漫画などを何度読んでもよくわからなかったが、やはりこういう物語のある小説を読んだり、古典文学作品を読んだりするといろいろな人物関係がわかり、頭に入ってくる。

井上靖らしい、美しく格調高い文章で、ストーリーも面白い。500ページを超える大作で、現代の軽い小説ほど読みやすくはないが、かなり楽しめた。
nice!(0)  コメント(0) 

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 [文学 日本 Classic]


若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇 (岩波文庫)

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇 (岩波文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/11/17
  • メディア: 文庫



妻は、美輪明宏の大ファンである。一時彼女の出演する「黒蜥蜴」にはまっていたので、去年の誕生日にこの本をプレゼントした。

三島由紀夫は自分にとってお気に入りの作家、というわけではないのだが、何となく気になる作家ではあった。『仮面の告白』『金閣寺』などは読んだが、すごくはまったという感じにもならず、色々読んでみようとも思わなかった。半藤一利の『日本のいちばん長い日』を読み、戦中・戦前の小説に少し興味を惹かれ、三島由紀夫の河出文庫から出ている『英霊の聲』を購入した。せっかく家にあるし、この岩波から出ている戯曲集も読んでみようと思った。

1.若人よ蘇れ
2.黒蜥蜴
3.喜びの琴

1は、終戦真近を描いた作品。病気などにより、特攻隊に取られることなく、海軍航空隊の研究員として働く、エリートの若者を描いたもの。
基本的に部隊が、大学学生寮に限られており、会話を通じて、登場人物たちの内面を描き出していく手法が取られており、終戦間際のエリート学生たちの心の葛藤、戦争=通常、平和=異例という反転した感じを持ってしまう感覚をリアルに描き出しており、嫌戦ムードも流れており、とても面白い戯曲だった。

2は、江戸川乱歩原作の、女性泥棒と明智小五郎の淡い恋を描いた作品。ミステリー自体があまり好きではなく、狂気的なものも好きではないので、この作品がこの本の白眉なのだろうが今一歩だった。

3は、安保闘争の後の、言論統制法を通すかと通さないかという、世間がざわざわしているなかの、公安警察の中を描いた作品。左翼と右翼の対立、スパイ、思想を大切に生きること、人を信じること、などさまざまなテーマが組み込まれた読み応え(見応え?)のある作品。

2はそれなりに舞台化されているようだが、1,3はほぼ舞台化されないらしい。しかしきな臭く戦争が出来る国家に邁進し、自分の気に食わない相手は徹底的につぶそうとするこの世の中において、こうした戯曲が演じられることに、とても意味があるのではないかと思うのだが・・・。

とにかく面白い作品集だった。

nice!(0)  コメント(0) 

南総里見八犬伝 四 八百比丘尼 [文学 日本 Classic]


南総里見八犬伝〈4〉八百比丘尼

南総里見八犬伝〈4〉八百比丘尼

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 単行本



遂に『南総里見八犬伝』を読み終わった。
最後に8人全員が安房で顔を合わせ、仇敵達を退ける。しかも戦いに勝った後、相手を殺すことなく生かして赦す。このように主人公たちが、強いだけではなく、高潔であることも、日本人には人気の秘訣なのかもしれない。

あとがきを読むと、この長い4巻本でも、原作の6分の一、から7分の一、さらに話も若干変えられているようである。それを知ると岩波文庫で全巻読みたくはなるが、現在品切れ重版未定中。さらにあとがきには、明治以降、この小説は坪内逍遥はじめ、様々な人に、勧善懲悪でつまらない、後半部分が冗長だ、といった批判を受け、その人気が上がったり下がったりしたらしい。

確かに主人公たちの心の悪い部分を描いていないといえばそうなのかもしれないが、そもそもが使命を持って生まれてきた人間。生まれ方からして普通の人間と違うのであるからしょうがない気がする。見方の女性たちも描かれ方が平凡とあるのだが、それも、悪役との対比ということで、良い気がする。普通の生活の中の人間を描いた小説ではなく、幽霊や怨霊までも登場するファンタジー小説なのだからこんなものなのだと思うのだ。

やはり何年も読み継がれているだけあり、一級のファンタジー小説だと思った。

機会があれば、原典をすべて読んでみたい。
nice!(0)  コメント(0) 

南総里見八犬伝 三 妖婦三人 [文学 日本 Classic]


南総里見八犬伝〈3〉妖婦三人

南総里見八犬伝〈3〉妖婦三人

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2002/03/01
  • メディア: 単行本



三巻を読み終わった。
この巻でも、また心美しい女性が一人なくなる。しかし、ひとりの女性が別の女性となって蘇る。しかも、昔の自分の思い出も心に保持したままで。
こんな設定を江戸時代に思いつき、小説化してしまう滝沢馬琴という人の想像力と創造力に感嘆してしまう。新しい犬士とも出会い、どんどん仲間は増えていく。というものの、皆バラバラにであったり離れたりを繰り返す。
いよいよ最終巻で、彼らが集結することになるのであろう。

若干登場人物も増えてきて、頭を整理しながら読むので、スピードが落ちてきたが、一気に最終巻を読みきりたい。
nice!(0)  コメント(0) 

南総里見八犬伝 二 五犬士走る [文学 日本 Classic]


南総里見八犬伝〈2〉五犬士走る

南総里見八犬伝〈2〉五犬士走る

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2002/03/01
  • メディア: 単行本



二巻が読み終わった。
前巻で、信乃を愛する浜路が亡くなり、その流れで、様々な犬士がつながっていく。この巻では合計6名の犬士が登場することになる。しかし、その過程でまたもや素晴らしい女性ぬいが亡くなる。悪者がバッタバッタと殺されていく場面はあまり嫌な感じはしないのだが、やはり、心がきれいな若い女性が亡くなると心が痛んでしまう。

そして、最後には、犬士に忠実であった老夫婦が犬士を救うために、命を犠牲にするのだが、その後、再び犬士を救うために幽霊となって登場するところは、「えっ、そういう展開」と思ってしまった。そもそも、怨念だとか、玉に魂がこもっているとか、若干ファンタジー感はあるにせよ、実際ここまで明確に幽霊が人間のように、動き生きた人間に話しかけると若干幻滅してしまう。

とはいえ、おもしろいことは間違いない。

次巻も楽しみだ。
nice!(0)  コメント(0) 

南総里見八犬伝 一 妖刀村雨丸 [文学 日本 Classic]


南総里見八犬伝〈1〉妖刀村雨丸

南総里見八犬伝〈1〉妖刀村雨丸

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2002/03/01
  • メディア: 単行本



小学校の頃、『南総里見八犬伝』なる本があると知り、興味を惹かれたが買ってもらったり、借りたりして読むまでには至らなかった。大学受験の時、古文文学史でこの作品を再び目にし、再度興味を持ち、大学時代など読もうと考えることは少なくなかったが、結局読むには至らなかった。その後も、この作品に対する興味は抱き続けていたものの、岩波の黄色で読むのはちょっと大変だし、今のところ品切れ重版未定だし、他の現代語訳版も中途半端な抄訳が多いみたいだし、と結局読むには至らなかった。

偕成社の『西遊記』を知り、同じシリーズで、この『南総里見八犬伝』も出ていることを知り、巷の評判も良いようなので『西遊記』と共に買っておいた。

西遊記同様こちらも読んですぐに心惹かれた。
人の名前が馴染みのあるものではなく初めは結構誰が誰なのかよくわからないが、児童書ということもあり、登場人物の絵も多数盛り込まれており、ロシア文学を読んでいるような「これ誰だっけ?」といちいち前に戻るということが多いわけではない。

伏姫という女性と、その姫を慕う、八房という犬、その八房に影響を与えている玉梓という殺された妖婦、彼らが全員死んだ後、8つの球が飛び散り、そこからまた物語が始まる。ドラゴンボールの原形のような物語で、一人一人のキャラクターも非常に立っており、主人公たちは皆道徳観にあふれ、正義のために行動する人物たちなので、非常に読んでいて気持ちが良い。しかし、この一巻で早くも、八犬士の一人信乃を慕う一途な女性「浜路」が命を失ってしまうのが残念でならない。

とにかくどんどん読み進められる。
巷の評判通り、とても良い抄訳になっていると思う。
nice!(0)  コメント(0) 

二十四の瞳 [文学 日本 Classic]


二十四の瞳 (岩波文庫)

二十四の瞳 (岩波文庫)

  • 作者: 壺井 栄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/05/17
  • メディア: 文庫



ずっと前からその存在は知っており、読みたいとは思いながらも、あまりに映画として有名なこの作品をずっと敬遠してきた。

昨年の5月に岩波文庫初登場になったとき、「これはいい機会だ」と思い購入しようと思ったのだが、うちにあるたくさんの本を思い浮かべ、これ以上買わないほうが良いかな、と考え買うのを思いとどまった。
が、今年のお正月、ブックオフに足を運んだところ、この本が売られているのを目にし、もうすぐ期限切れになってしまう割引券があったこともあり、購入した。

物語はよく知られているように、教員と子ども達の心の交流を描いた、反戦思想の色濃く出た作品。
幸せな学校空間、戦争による悲劇、最後は涙で締めくくる、という確かにありきたりの小説なのだが、読んでいるうちに、当時と今とでは何が違うのだろうと感じながら読んでいた。

学校生活にも支障をきたしてしまうような貧困、権力者の目を気にしながら出ないと行えない教育活動、少し目立ったことをするとそれを排除しようとする小さな地域共同体、不条理な女性蔑視、本当にこの国は100年前から、その根本精神を大きく変えることなくここまできてしまったことを実感する。

私は、心は変えられると思っている。共同体のあり方は変えられると思っている。社会は変えられると思っている。国家は変えられると思っている。世界は変えられると思っている。しかし、それは簡単なことではない。不条理なこと・不合理なこと・不公正なこと・不公平なことに対して目を背けることなく、絶えず批判的にそこに目をむけ、正しいやり方でそれを変革するための努力を重ね、自分の内面を常に磨いていくために不断の努力をしていくことが必要なのだろう。

最近、世の中は「あきらめ」ムードが漂っている。見せ掛けの美しさ・華々しさに心を向けさせようとする権力者の考えがあらゆるところに行き渡っている。

本当に大切なものは何なのか、本当に残していかなければならないものは何なのか、本当に作っていかなければならない社会はどのようなものなのか、真剣に考えなければならない時期がきているのではないだろうか。

この本の中で描かれているような悲劇が二度と起こらないことを心から祈る。
nice!(0)  コメント(0) 

釈迦 [文学 日本 Classic]


釈迦 (岩波文庫)

釈迦 (岩波文庫)

  • 作者: 武者小路 実篤
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/05/17
  • メディア: 文庫



昨年買っていた『釈迦』をようやく読み終わった。
私は仏教系の学校で働いている。とはいえ、全く仏教に興味はないし、いい教えだとも思っていない。
坊主の同僚たちは欲にまみれていて、普通の人以上に道徳的に低い人ばかりだ。それは管理職も変わらない。

しかし、せっかく仏教の学校にいるので、少しは仏教に関する本もちょくちょく読んでいる。あの武者小路実篤が書いた小説『釈迦』であれば、きっと面白いであろう、さらに正統な感じであろうと思い購入した。

今まで釈迦の様々なエピソードは読んだり聴いたりして知ってはいたが、彼の生涯を描いた作品はなく、全体像がつかめなかった。が、この本は釈迦の誕生から死までをしっかりと時間軸で書いてくれており、重要なエピソードも満載でとても釈迦のことがよく分かり、ある程度全体像を掴むことが出来た。

この本の中で納得できない部分が数箇所あった。
一つ目(p.203)
阿那律という弟子があまりに疲れており、仏陀の説教中に居眠りしてしまったときに、そのことを仏陀が注意し、それからしばらくの間、阿那律は眠らなかった。これによって彼は失明してしまう。私
私は昔から体が弱く、どうしてもすぐに疲れて眠くなってしまう。これは生理現象であり、個人的にはしょうがないことだと思っている。映画や演劇を観ていても寝てしまうこともある。これは面白いかどうかなどとは無関係であることもある。相手の状況に鑑みることなく注意し、失明に至らしめさせてしまった仏陀。人間としてどうなのだろうか。

二つ目(p.344)
仏陀がもう少しで死にそうな時、弟子の阿難がどのように葬るべきかを訪ねたとき、仏陀は、結構豪華な葬り方を指示した。武者小路実篤はここで、「仏陀の自信と自覚が覗える。彼は自分の為に塔廟を求める男ではない。衆生の為に塔廟を求める男なのだ。」と書くが、真に悟った人間であれば、形ある権威がどれだけ人間に腐敗と厄罪を生み出すかをわかるはずだ。彼は結構様々な場面で師匠面する。しかし自分は偉いと思っている時点で偉くない。このへんで、所詮仏陀も人間なのだなあと感じてしまう。

仏陀の一生を手軽に知りたい人にはオススメ。

nice!(0)  コメント(0) 

江戸川乱歩名作選 [文学 日本 Classic]


【Amazon.co.jp限定】 江戸川乱歩名作選 (特典:新潮文庫の100冊キュンタ 壁紙ダウンロード)

【Amazon.co.jp限定】 江戸川乱歩名作選 (特典:新潮文庫の100冊キュンタ 壁紙ダウンロード)

  • 作者: 江戸川 乱歩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/26
  • メディア: 文庫



『江戸川乱歩名作選』を読み終わった。
これも新潮文庫「キュンタ」のしおりを手に入れるために、熟慮を重ねて購入したもの。

私は、推理小説というものがあまり好きではない。
中学生の頃は、アガサ・クリスティーにはまって、何十冊と読んだ。数年前、英語の勉強を兼ねて、Sherlock Holmesの全作品を読んだ。宮部みゆき・東野圭吾・湊かなえ、なども数冊読んだが、確かに読むと面白いのだが、買って読むほどではないといつもおもってしまう。私は俗に言うネタバレは全然構わない。話の最後が知りたくて、解説から読むことすらある。なので、推理小説によくあるドキドキ・ワクワク感をあまり小説に求めていないのかもしれない。

と前置きが長くなったが、日本の推理小説の父のような存在のこの江戸川乱歩も正直全く、興味がわかなかった。とはいえ、もう古典と化しており、多くの人に親しまれているので、これを機会に読んでみても良いかなあ、と思い買ってみた。

推理小説ばかりなのかと思っていたが、そんなことはなく、幻想的な短編もあり、読者を惹きつける魅力を多分にもった、素晴らしい小説ばかりであった。さらに推理小説も、普通の推理小説をひとつ深くしており、捜査する、事件に関わるであろう人間の心理、傾向までも考えた上で、犯罪を犯す犯罪者や、最終的に誰が犯人なのかわからない、といった作品もあり、昨日まで読んでいた『ゲーデル、エッシャー、バッハ』をふと思い出すような感じの作風であった。

あまり先入観にとらわれず、素晴らしいストーリーをもった小説家として読めば、楽しめるのではないだろうか。
ある意味、これは彼のベスト作品集第二集にあたるらしく、第一集にあたる、『江戸川乱歩傑作選』も機会があれば読んでみたい。
nice!(0)  コメント(0) 

心に太陽を持て [文学 日本 Classic]


心に太陽を持て (新潮文庫)

心に太陽を持て (新潮文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/06/29
  • メディア: 文庫



新潮社は、毎年夏の100冊ということで、新潮文庫を売り出している。
かつては、Yonda?君というパンダのキャラを用いていて、しおりやパンダグッズをよく集めていた。
4年前から、「キュンタ」というロボットのキャラに変わり、100冊の紹介冊子が簡単な絵本のようになっており、子どもにそれを読み聞かせているうちに、子どもがキュンタを気に入ってしまい、毎年2冊~4冊の新潮文庫を買うことになってしまっている。

新潮文庫の夏の100冊はあまり、収録タイトルが変わらないので、そろそろ買うものがなくなってきてしまっているのだが、今年も何とか4冊購入した。

そして一番初めに読んだのが、この『心に太陽を持て』
山本有三が指揮を執り、いま何故か大流行している『君達はどう生きるか』の作者吉野源三郎などの協力も得て作成した「日本少国民文庫」の第一回配本らしい。

正直、『君達はどう生きるか』やこの本のような、明らかに、子どもの道徳教育のために作られたような本は読む気にならなかったのだが、読んでみるとその素晴らしさに感動してしまう。たしかに子どもの道徳教育のために作られた感がみえみえなのだが、説教臭さがまったくないのだ。おそらく、編集者達が本気で子ども達に、本の中に出てくるような子どもになってほしいと願い、自分達もそのような姿勢で生きていたからこそ、このような作品に仕上がっているのだろうと思うのだ。

この本は、様々な素晴らしい人物や出来事の紹介をしながら、どのように生きるべきなのかを我々に説いている。

なかでも、「スエズ運河物語」「キティの一生」「フリードリヒ大王と風車小屋」「エリザベスの疑問」が素晴らしい。人を信じること、人間の平等性、民主主義への信頼など、今読んでも決して色あせることのない作品が並んでいる。

まさに、現代に読まれるべき作品だと思う。
新潮社は素晴らしい作品を100冊に入れてくれたと思う。

是非、すべての小中高校生に読んでもらいたい本だ。
nice!(0)  コメント(0) 

死者の奢り・飼育 [文学 日本 Classic]


死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

  • 作者: 大江 健三郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1959/09/29
  • メディア: 文庫



大江健三郎作品を初めて読んだ。正確には、大江健三郎の小説を初めて読んだ。
岩波新書から出ているノーベル文学賞受賞時の講演を収めた『あいまいな日本の私』は読んだことがあったのだが、まったく何を言いたいかわからなかった。

この本は彼の初期の小説が収められているらしい。
読みにくい文体であることは間違いないが、読むすすめるとある程度は読めるようになってくる。
全部で6作収録されており、全て短編なので結構あっさり読めた。

彼のテーマは、戦争、弱者、傍観者といったところなのだろう。

社会のメインストリートを歩いていない人を描くという面では、小川洋子作品と若干似ているところがあるとは感じたが、小川洋子はある程度、精神的にメインであることについていけない人々の静かな日常を描いているのに対し、大江健三郎は、社会的にメインであることからはずれてしまった人が曝される暴力的状況の中で何を考え、その状況に周りがどれだけコミットしようとしないか、コミットしたとしても、一時的な自分の心を満足させるためだけの関わり方であり、所詮傍観者で無責任な立ち位置でしか関わっていない、ということを訴えている気がする。

私は、小川洋子の視点、クールな中にある優しさがとても好きで、彼女の作品を愛読しているのだが、大江作品にはあまり共感できなかった。

おそらく、彼の小説は今後読むことはないと思われる。

とはいえ、面白くないこともなかった。
nice!(0)  コメント(0) 

項羽と劉邦 下 [文学 日本 Classic]


項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)

項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/09/27
  • メディア: 文庫



遂に『項羽と劉邦』を読み終わった。下巻は、遂に項羽と劉邦の直接対決となる。そしてこの両者が相対しているあいだに、別働隊として活動していた韓信がどんどんと勝利していき、この二者を凌ぐほどの実力をつけていく様が描かれている。そしてこの巻になってようやく項羽の最愛の人虞美人が登場する。

韓信は連戦連勝で自分の領土を広げ、劉邦から王の名をもらいながらも、劉邦への忠誠心を捨てない。どんなに苦しい状況に置かれても、劉邦のもとを去らない、張良、蕭何。劉邦は自分が無能なだけに、周りに才能ある人物が集まってきたが故に天下を取れた、ということだが、その才能ある人間たちが欲が深くなく、物事を客観的に・冷静に判断し、常に自分の出来ることを精一杯行うことで彼に貢献したということがあるのではないだろうか。

結局才能ある人間が自分の利得や利益のために動き出したらすべてのバランスが崩れ出す。劉邦の周りにいた才能ある人物たちがみな、自分の持ち味を最大限に発揮しながら我欲を出さなかったことが劉邦を勝利に導いたのだと思う。

読んでいて本当に清々しい気持ちになれた。劉邦のその後の生臭い時代が描かれていないところがこの読後感をもたらしているのだろう。

とても良い作品だった。
nice!(0)  コメント(0) 

項羽と劉邦 中 [文学 日本 Classic]


項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)

項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/09/27
  • メディア: 文庫



『項羽と劉邦』中巻を読み終わった。
上巻は結構項羽側の話が多かった気がするが、中巻は圧倒的に劉邦側の話しが多かった気がする。
やられっぱなしの劉邦軍がいかに、危機を乗り越えたか、そしてその危機を乗り越える際に、素晴らしい働きをした人たちのことが細かく描かれており、劉邦がいかに徳があり、人々に愛されていたか、ということが良くわかった。

途中、読んでいて、登場人物達のあまりの人格の素晴らしさに涙が出そうになることも数度あった。

中巻は、張良や韓信が登場してそれなりの役割は果たすのだが、決定的な活躍を見せる場面があまりなかったので、下巻で活躍してくれることを期待している。
nice!(0)  コメント(0) 

項羽と劉邦 上 [文学 日本 Classic]


項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)

項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/09/27
  • メディア: 文庫



『項羽と劉邦』の上巻を読み終わった。
わたしはあまり歴史小説が好きではない。なので司馬遼太郎もほとんど読んだことがない。NHKで『坂の上の雲』をドラマ化したときに、少し興味があったので全8巻を読んだことがあるくらいだ。『坂の上の雲』もそれなりに面白いとは思ったが、様々な歴史的な事実の説明のところは退屈に思えたし、戦いの場面などはさらに退屈だった。

この『項羽と劉邦』も基本は同じだ。中国の地理的説明、その地域の文化的説明などが、ある人物を導入する際にされるのだが、これが、また退屈なのだ。本のはじめに中国の地図があるのだが、わざわざこれを開けて場所を確認しようとする気にも、結構こういった箇所は読み飛ばしながら進んだ。

わたしは高校・浪人時代、兄が所有していた「項羽と劉邦」に関する漫画を結構何度も読んでいて、大きな流れや登場人物などは頭に残っていたので、結構人物を頭にイメージしながら読み進められたが、何の背景知識もなく、この作品を読むと、登場人物を整理するだけでも大変なのではないかと思ってしまう。

とはいえ、さすがに、『項羽と劉邦』というとても面白い題材を扱った小説だけに、話しが進みだすと面白い。上巻でもうすでに、秦が滅ぼされようとしている。あと2巻(中・下)、どのように話しが進み、どこまでの内容が描かれるのか、楽しみだ。
nice!(0)  コメント(0) 

金閣寺 [文学 日本 Classic]


金閣寺 (1960年) (新潮文庫)

金閣寺 (1960年) (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1960
  • メディア: 文庫



三島由紀夫の『金閣寺』を読み終わった。三島由紀夫の代表作として取り上げられることの多い作品で、新潮文庫の「夏の100冊」等にも結構入ってくる作品だ。

が、正直、もう一歩だった。青年が金閣寺に放火するまでの、心的過程を丁寧に描き出しているのだが、丁寧すぎるというか、重厚すぎるというか、読んでいて疲れてしまった。

『仮面の告白』が完全に自叙伝かどうかはわからないが、あの本を読むと、おそらく彼は自分が性的に(女性に対して)不能であることをかなり悩んだのだと思う。男の中校時代の話題・頭の中など、性的なことが大半なので、その時代に彼が何らかの疎外感を持ったのは間違いなく、それが彼の作品に色濃く反映されているのだろうとおもう。

この『金閣寺』にも、金閣寺が、主人公と女性の性的関係を邪魔した(彼を性的関係に至らされる直前で不能した)、というようなことが書かれている。性欲というのは確かに小説のテーマとしてはよく取り上げられる作品なのだが、個人的には肉体的な性を扱った小説を読むのはあまり好きではない。

三島は(内面的に)社会の周縁に置かれた人間にスポットをあて、物語とすることが多いのだが、なんとなく描き方が、とても尖っていて温かみを感じない。その点、現代作家の小川洋子や三浦しをんなどには、周縁に置かれた人々をとても温かい目で描いており、とても安心して読める。

正直、この『金閣寺』、読んでいてかなりしんどいさくひんだった。
nice!(0)  コメント(0) 

源氏物語 [文学 日本 Classic]


源氏物語 (新装版) (講談社青い鳥文庫)

源氏物語 (新装版) (講談社青い鳥文庫)

  • 作者: 紫式部
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/11/11
  • メディア: 新書



浪人時代『あさきゆめみし』という源氏物語を描いた漫画を何十回と読んだ。源氏物語の美しい世界に魅了された。その後田辺聖子の『源氏がたり』という全3巻の、本を読んだ。これは筆者が、源氏物語の流れに沿ってこの小説を解説していくもので勉強になるとともにさらに興味をひかれた。そして社会人になって5年くらいたち、岩波文庫の黄色版(古語)で遂に、『源氏物語』を完読した。正直、古語なので、わからない部分も多かったが、読み進めるうちに古文にも慣れてきてどんどん読み勧められた。

そして今回、講談社青い鳥文庫バージョンの『源氏物語』を読んだ。中学生向けの本とは言え、結構本格的な本で、源氏物語(宇治十帖を除く)のメインとなるストーリー(光源氏の一生)を丁寧におっており、ところどころ人物関係なども整理してくれており、入門版としてはとても良い本だと思った。「講談社青い鳥文庫」は表紙が子供っぽくあまり心惹かれないシリーズだったのだが、悪くないなあと感じた。

君たちはどう生きるか [文学 日本 Classic]


君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

  • 作者: 吉野 源三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/11/16
  • メディア: 文庫



吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を読み終わった。
子供に対する推薦図書に必ずと言っていいほど入っている本なのだが、岩波文庫の青のライン(哲学)に入っていること、名前がとっても哲学的で小難しそうなこと、から今までずっと敬遠してきた。しかし、私の信頼する同僚から勧められ今回読むに至った。

とっても良い本であった。コペル君とあだ名された、今で言う中学2~3年生くらいの少年が、世界の仕組みを様々な経験から知り、自分の内面を、こちらも様々な体験から深めていく内容だ。ところどころに入る叔父さんからの手紙もとても良い味を出しており、子供が認識した世界を、大人の視点から分析してさらに考えを深めさせる、という形をとっている。

このような道徳の教科書的な本は、どうしても鼻持ちならない感じになるし、読んでいて鬱陶しい感じになるものが多い中、まったく嫌味な感じがなく、とても爽快な気持ちになりながら読み進めることができた。科学、歴史、道徳、認識論など、様々な切り口が面白い、無理のないストーリーの中に織り交ぜられており、本当にこの吉野源三郎という作者は、頭が良いし、心も豊かな人だったんだろうなあと思う。

本当に本当に素晴らしい本と出会えた。

多くの中・高生に読んでもらいたい本だ。

仮面の告白 [文学 日本 Classic]


仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/06
  • メディア: 文庫



三島由紀夫『仮面の告白』を読み終わった。女性に性的興味が持てない苦悩を描いた作品。確かに素晴らしい作品だった。中学生から大学生に至る男性コミュニティーにおける性的なものに対する反応は、今も昔も変わらないんだなあと思う一方、普通と言われているものと違う性的愛情を持つ人がどのような苦悩を持つのか、ということもとてもわかった。
最近クイア・スタディが発展し、LGBTという言葉が一般化したことにより、こうした性的マイノリティに対する視線が少しは温かくなっているのは素晴らしいことだと思う。

この作品が1950年前に発表されたということがすごいことだと思う。

古事記物語 [文学 日本 Classic]


古事記物語 (岩波少年文庫 (508))

古事記物語 (岩波少年文庫 (508))

  • 作者: 福永 武彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06/16
  • メディア: 単行本



岩波少年文庫『古事記物語』を読み終わった。こういった神話系の本はどうしてもストーリーが頭に入ってこない。なのでいつもだいたい途中で挫折して読まなくなってしまうのだが、今回は仕事の関係で一応全体に目を通す必要があるかと思い、全部に目を通した。

イザナミ・イザナギの物語、因幡の白兎の話、ヤマトタケルノミコトの話など興味深いものもいくつかあったが、いまいち話のつながりがなくよくわからないところが多かった。河出文庫で同じ作者の完訳本が出ているのでそちらをもう一度読みたいと思う。

読んだ感想としては、昔から日本人は小汚いやり方で色々なことをやってきたんだなあと思う。とにかく相手を倒すやり方がことごとく姑息。平家物語の、「壇ノ浦の戦い」で、一緒に乗っている船乗りを殺すことで戦いを有利に進めたり、といったこともそうだが、そうしたことが現代の日本にもつながっているのかなと少し思った。

潮騒 [文学 日本 Classic]


潮騒 (新潮文庫)

潮騒 (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 文庫



三島由紀夫はずっと気になっていた作家でいつかは読まなければならないと思いつつ、あらすじなどをよむとどの本もあまり興味を惹かれなかったでいままでずっと読まずにいた作家。

この本も業務上しかたなく読んだ。

孤島における、漁師と金持ち女性の純愛を描いた作品。よく「古代ギリシア的人間像にたいする情景が描かれた作品」などとあるが、いまいちどんな作品なんだろうと思って読んだが、読んで確かにと思った。
いわゆる人間の肉体美などを理想化し、二人の道徳的愛を美しく描いた作品。
武者小路実篤作品にも通する読んでいて清清しさを覚えるとても心洗われる恋愛作品だ。

とはいえものすごい名作なのかというと疑問だ。

風浪 蛙昇天 [文学 日本 Classic]


風浪・蛙昇天―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

風浪・蛙昇天―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

  • 作者: 木下 順二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/07/16
  • メディア: 文庫



木下順二戯曲選『風浪 蛙昇天』を読み終わった。
あらすじ等をほとんど読まずに読み始めたため、はじめは何を問題にしているのかさっぱりわからなかった。
「風浪」は方言が多く(というよりほぼ全て方言)なので、読みすすめるのにかなり時間がかかった。
出だし、女性数名が、家の前で平和な会話を交わしている。妾から、後妻、未亡人まで様々な人々が出てきて、正直どんな物語なのだろう、と思って読み進めたが、話は、段々と思想的な方向へ動いていく。幕末から明治に変わる激動の時代、人々がどのような思想の間で揺れ動き、行動していったのかが良くわかる。そして、男性と女性がどのような社会的役割を演じていたかの一端も見える。様々な視点で読める非常に内容の濃い作品だった。
「蛙昇天」も傑作であった。共産主義思想(赤・左)と国粋主義思想(青・右)を蛙(アカガエルとアオガエル)に置き換え戯曲化したもの。大多数の正しいと思われる意見が通らず、少数者の非人間的な意見が通っていく世界、まさに戦前・戦中の日本であり、現在の日本の姿だ。
 まさに安部政権下の日本人が読み、現在の世界が正しいのかを深く考える一助となるだろう。

これで、木下順二戯曲選は全部読み終わった。全てが示唆に富み、深い思考を求める素晴らしい作品たちであった。
その多くが品切れ重版未定になってしまっているこの戯曲選。ぜひ岩波書店には復刊し、常に市場に出回るようにしてもらいたい。この国の未来のために。

夕鶴・彦一ばなし [文学 日本 Classic]


夕鶴・彦市ばなし 他二篇―木下順二戯曲選〈2〉 (岩波文庫)

夕鶴・彦市ばなし 他二篇―木下順二戯曲選〈2〉 (岩波文庫)

  • 作者: 木下 順二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/08/16
  • メディア: 文庫



木下順二戯曲選Ⅱ『夕鶴・彦一ばなし』を読んだ。
「彦一ばなし」はとんちの効いたお話で面白かった。
「夕鶴」は、さすが木下順二という感じだった。助けられた鶴が助けた人に恩返しをする、という話を、資本主義批判の作品に見事にしたて上げていた。「金」のためではなく行動する人の言葉は理解できるが、「金」のために行動する人の言葉は理解できない、という設定はとても面白かった。
「山脈(やまなみ)」は、太平洋戦争末期、自分の思いのままに行動した女性を描いた作品。イプセンの『人形の家』にも通ずるような作品。実際旧い家庭制度に縛られながらも自分の思いのままに行動した女性は少なくはないのだろうが、文学作品で取り上げられたり、実際そういった話が表に出ることは少ない。そういった意味でも貴重な作品と言える。
最後の「暗い花火」は綿密すぎていまいちよくわからなかった。戦後の知的な肉体労働者の苦悩、満州から帰ってきた人々の苦悩、労働組合などを描いた作品なのだろうが、理解しきれなかった。

それなりに面白い作品群だった。この本は、岩波文庫で現在「品切れ重版未定」となっており、私はネットの古本で探したのだが、こうした良本をぜひ市場にもっと出回らせてもらいたい。

小川未明童話集 [文学 日本 Classic]


小川未明童話集 (岩波文庫)

小川未明童話集 (岩波文庫)

  • 作者: 小川 未明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/07/16
  • メディア: 文庫



『小川未明童話集』を読み終わった。
全体的に、反資本主義、反近代化、反全体主義、反戦争、自然回帰の思想が打ち出されていて面白かった。
物語が完結せず、余韻を残すような作品が多く、読者は何となく不安定な気持ちにさせられ物事を考えなくてはいけないような状態に追いやられる。とてもうまいつくりになっていると思う。

童話集とはあるが、大人が読んでも十分楽しめる、とともに考えさせられる作品集だ。

とはいえ、やはり短編なので、もう一歩物語の世界の中に入り込めない。

子午線の祀り [文学 日本 Classic]


子午線の祀り・沖縄―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

子午線の祀り・沖縄―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

  • 作者: 木下 順二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/01/18
  • メディア: 文庫



木下順二の『子午線の祀り』を読み終わった。全部で3つの戯曲が収められており
①子午線の祀り
②龍が見える時
③沖縄
の3篇だ。
①は平家物語に題材をとった作品。正直日本史にまったく興味が無く、かなり知識が無いのだが、源氏と平家の争いを描いていることはわかった。元々隆盛を極めていた平家が、源氏にどんどん侵略され、滅びる直前を描いた作品だと思われる。作品中3種の神器等も出てきてそれなりにおもしろいのだが、やはりこの源平合戦にあまり興味がないのでそこまで入り込めなかった。
とはいえ、この作品を読み、やはり日本史を少しは勉強しなくては、と思ったので、きっかけ作りとしてはよい作品だった。

②は非常に短い作品。群読の試みらしい。昔話のような感じで結構面白かった。

③はかなり期待していた。アメリカ占領下の沖縄を描いた作品で、沖縄本島から少し離れた島の話。平和に暮らしていた島に、アメリカがやってくるという噂を聞いた島の人々が、対応をせまられる話。一人ひとりの、沖縄に対する様々な思いが描かれているのだが、もう少し突っ込んだ描写が欲しかった気がする。

『オットーと呼ばれる日本人』がかなり面白かっただけに、若干残念な感じだった。

オットーと呼ばれる日本人 [文学 日本 Classic]


オットーと呼ばれる日本人―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

オットーと呼ばれる日本人―他一篇 (岩波文庫―木下順二戯曲選)

  • 作者: 木下 順二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/09/16
  • メディア: 文庫



ふとしたことから木下順二に興味を持った。
岩波文庫から彼の戯曲集が4冊出ているので買おうと思ったが、3冊が「品切れ重版未定」状態だった。なのでアマゾン中古でその3冊を手に入れた。アマゾンは色々な意味で本当にありがたい。

そしてまずこの『オットーと呼ばれる日本人』から読み始めた。

中身は
1、オットーと呼ばれる日本人
2、神と人のあいだ

だ。1はゾルゲ事件を扱った作品らしいが、そういった類の解説がないとソルげ事件とはわからない。名前も色々と変えてある。しかも話の内容から彼らが共産主義者であり、何らかのスパイ行為をしているのであろうということはわかるが、ほとんど何も明示されない。が、そうした曖昧模糊としたセリフの中に、一人ひとりの思いがこめられており、非常に緊張感を持った劇が展開される。
彼らの「活動」がそろそろ終わりをつげようとするその時、彼らはつかまってしまう。捕まってしまった後、主人公の「男」が検事に詰問される場面があるのだが、基本的に何も話しをしない。とても引き締まった感動的な戯曲だ。

2は2部構成。一部はA級戦犯の東京裁判を扱ったもの。二部はC級戦犯の裁判を扱ったもの。
裁判を扱った文学は本当に面白い。『ソロモンの偽証』でも書いたかもしれないが、感情を廃したやりとりをなるべく行おうとする一方でそこに必ず感情が入ってしまうその微妙な加減が非常に面白い。
さらに、今回の「東京裁判」における、検事側の主張も、弁護側の主張も非常に説得力がある。読みながら心が何度も揺れてしまった。

C級戦犯をあつかった第2部も色々と考えさせられた。拷問やスパイ容疑者にたいする殺害について扱った裁判なのだが、戦時における一般的な手続きをとっていたということで、命令を与えていた上官に落ち度はなく、実際に手を下した下士官たちのやり方が議論の対象になっていく。

確かに彼らは実際に手を下したかもしれない。
が、命令されたことをやらず、良心に従って行動した人々は、戦時中どうなったのであろうか。暴行を加えられ、運が悪ければ牢獄に入れられ、下手すれば殺されたかもしれない。そうしたことに対する責任はないのだろうか。
戦争責任というのは考えれば考えるほど難しい。しかし、この本にも何度か出てくるが「上官の命を承ること、実は直ちにチン(昭和天皇)が(の)命令を承る義なりと心得よ」という言葉がある。これはおそらく何度も軍隊で聞かされた言葉なのであろう。政治的な力を実質上もっていなかったかどうか、真偽のほどはわからないが、なんいせよ形だけにせよ最高責任者だった人間が、なんにも裁かれず、裁判にもかけられず、戦後なぜだがわからないが平和の象徴のように崇められた、この現実。これは考えれば考えるほど不可解だ。

日本に住んでいて本当に不可解なことが多い。日本社会のひずみはあの時点から始まっているのではないだろうか。「美しい日本を取り戻す」のは結構なことだ。しかしその美しい日本とはなんなのか、取り戻すためにまずしなければならないことはなんなのか、ぜひ考えて言葉にし、行動して欲しい。
前の30件 | - 文学 日本 Classic ブログトップ