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エッセイ 旅に出る・暮らしのスケッチ・戦後人形劇史の証言ー太郎座の記録・昔話十二ヶ月 [文学 日本 松谷みよ子 エッセイ]


松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



松谷みよ子の日々の暮らし、彼女の夫瀬川拓男を中心にした人形劇集団「太郎座」の記録、昔話の文庫本のまえがき、など小品を中心に収録されたもの。

彼女の発言が、右翼からも左翼からも文句を言われることを伝えた作品、p519の「右と左に」が結構面白かった。「放射能」を批判するようなことを書いて右翼から蹴っ飛ばされ、「天皇」が死にそうな状態にあることを少し心配したようなことを書いただけで右翼から蹴っ飛ばされ、ということを冷静に伝えるもの。本当にくだらない世の中だと思う。

自分の生き方を考えた、p.525の「天人の素直さに」の一節も心に残った。
「あのころ、よく考えた。人間というのは知らないときにも人を傷つけているのだということ。
 たとえば全世界の人へ、愛に満ちたメッセージを夢想している人が、混んだ電車の中でふたり分の席をとって全然気が付かないでいる・・・・・・こういうこともふくめて、である。」

こういう文章を読むと、日々の自分の生活を常に見直しながら生きなくてはなあ、と思う。

これで、このエッセイの巻を全部読み終わった。エッセイを読んでいて、本当に丁寧に生きた人なんだなあということが実感できた。
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エッセイ 民話と私・本を読む [文学 日本 松谷みよ子 エッセイ]


松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



民話と彼女が読んできた本に関する話。
アンデルセンが好きだったらしく結構彼女は影響を受けているっぽい。

p.384
「私が童話をかきたいと思うようになったのも、子どものころにアンデルセンの、こうしたすぐれた芸術に接したからだと思います。そして、ソビエトでアンデルセンの作品を、子どもたちが人形劇にしているのを見たとき、この作家には国境がないのだなと思いました。もともと人間の心に国境はないのですから。」
彼女の作品を読んでいると、「人間の心に国境はない」ということを心から思っていた人だというのが伝わってくる。

彼女はトルストイも好きらしく、そのへんでも私の心が共鳴するのかもしれない。昔友人と「トルストイとドストエフスキーどっちが好きか」みたいな話になったとき、私は「トルストイ」と答えたのだが、その友人は「トルストイは浅い。ドストエフスキーのような思想的深さがない」と言い、そういう人が多いのだが、私はキリスト教思想を受けた、トルストイ作品はかなり深いと思うのだ。

ワイルダーの『長い冬』を語った章も面白かった。

p.397
「人間は何と現代のなかで、にくみあい、しらんかおをしあい、うわっつらでつきあっていることだろう。しかし、そうしたうすっぺらな生き方は、このきびしい自然の中にはもはや許されない。人と人とが心をよせあい、あたためあう。それこそが人間を生きさせる。」

何と深く、感動的な言葉だろう。

松谷さんは安房直子さんが好きらしく、彼女が安房直子さんに共感しつつ、都会にどっぷりの自分と自然の中に身をおく安房直子さんの違いを語るところも、どちらのファンでもある自分には感動的だった。
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エッセイ 創作の周辺 [文学 日本 松谷みよ子 エッセイ]


松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



松谷みよ子の自作に製作過程、制作秘話などを集めたエッセイ集。
『龍の子太郎』という作品に対してなされた批判、に対してなされた批判を書いた「私もひとことー『龍の子太郎』批判によせて」というエッセイが非常に面白かった。これも『デジタル・ファシズム』と同じで、「今だけ金だけ自分だけ」思想にとらわれた人からの批判を批判するものといえる。

pp.208~209
「社会主義になったとしても、次の日から矛盾は生まれ、権力は生まれます。いついかなる状況の中でも矛盾はあるのです。イワナ一匹でも百匹でも。しかし問題は、イワナ一匹の状況、百匹の状況の中で、何を為すべきかを考えることのできる人間、立ち向かう人間が必要なのではありませんか。~中略~戦争中に育った私たち世代は、戦後民主主義とあざけられようと、やはり二度と戦争は繰り返すまい、子供たちを飢えさせまいと、営々と戦って・・・・・・というのはおこがましいにしても、働きつづけてきました。しかし気がついてみればこのざまです。痛恨の思いは深く、新たなる出発点を求めて苦悩しているのが同時代の人々の現状と云えましょう。
 前おきが長くなりましたが、こうした愚かなる先輩どもの作品をハッシと斬る細谷さんの発想に、私は、細谷さん自身が否定してやまないGNP的時代、豊かさの時代に育った人間の発想とでもいうべきものを感じるのです。」

p.210
「しかし、細谷さんは、~中略~、知識で考えるんですね。心で感じられない。~中略~合理的であり打算的なんですね。」

文学不要論、芸術などの不要不急論と似たものを感じる。すぐに結果が出ないものは不要である、という非常に打算的つまり「今だけ金だけ自分だけ」思想がすみずみまで行き渡っているのだ。これが書かれたのは1975年らしいが、50年近く経った今、さらに社会はこうした細谷さんのような人間に溢れている。現状を見て松谷みよ子さんならばなんというのであろう。

彼女が反戦・嫌戦思想の持ち主であったのは彼女の作品を読めば分かる。しかし感情的な被害者意識からの反戦思想ではなく、加害の歴史にちゃんと向き合った人だったというのがエッセイのいろいろなところから垣間見える。

p273
「いままで引き揚げは戦争の被害者の視点が多く捉えられていたように思う。しかし加害者であった日本と、被害者である日本人の引き揚げは表裏一体としてとらえねばならないのだった。」

p291
「「当時のカナダ政府のとった行動はー戦争による緊張と恐怖と圧力と不合理によってとらえられたものとはいえー人間の権利の原則に関するカナダ伝統の公正さと貢献にとって汚点でありました。私たちはこの事を誇るものではなく・・・・・・。」
 私は原稿を閉じて、日本の首相がこのように率直に朝鮮人に対し、差別の歴史をふりかえって謝罪することがあろうかと思った。現体制がつづくかぎり、ありえない事であろう。日本人の一人として、私は恥じた。」

なかなか自分の非を認められない人がいる。特に権力者に多い。しかし自分の非を認めることでしか進んでいかないことが多い。

本当に平和で豊かになるために我々が本当に行うべきこと、制作、作り出すべき社会はなんなのか、こうした作品を読むことで多くの人に考えてもらいたいと思うのだが・・・。
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エッセイ 生きること・育てること [文学 日本 松谷みよ子 エッセイ]


松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



この章は、彼女の生きてきた道を綴ったもの。彼女の少女時代、戦争時代について書いたはじめの方の作品がかなり印象的だった。

「灰色の街の花屋さん」
少女時代から自分が何故物書きになったかまでを綴った作品だが、前章にも言及されていた父親の言葉が印象的。

p.131
「お父様はね、政治より芸術の方が上だっていうのよ。だからものを創る人間になれ、って。ただし、一流の人間にだぞ、って。」


「軍国少女の敗戦」
この作品は、彼女の戦時中の様子が事細かに書かれており、平和教育の題材にもなりうる素晴らしいエッセイだ。

p147~148
「その後、「民話の手帖」という雑誌で「現代民話考」を連載。そのなかで「軍隊」を集めた。この仕事を通じ、私は私の知り得なかった加害者としての戦争や軍隊というものの一端をようやく知り得たように思う。」
日本の平和教育は、空襲や原爆など、被害の側面をことさら強調し、その悲惨さを訴えるが、加害の歴史にちゃんと光を当てなくては、本当の意味で平和な世界を築いていける人間は育たないであろう。


「ひとつひとつの葉っぱが光る」
これは戦後、自らで「勉強」の意義を見つけ出したことに関するエッセイ。その中の印象的な一節。

p.150
「自分が他を冒していることに気がつかない人は鈍感です。そんなことはいやだ。私はひっこんでいる、とそう思って、ひっこんでいても、それはそれなりにその存在は、自らの意識しないところで他を冒しているかもしれません。」

この気持ちを持てるか持てないかが人間として生きていく上で非常に重要だと思う。


前半は、かなりシリアスなエッセイが多く、読み応えがあった。
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エッセイ 出会い [文学 日本 松谷みよ子 エッセイ]


松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

松谷みよ子の本 (第10巻) エッセイ

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



『松谷みよ子の本』第10巻は、エッセイ集。第一部は彼女の人生に影響を与えた様々な人物について語ったもの。

「母のこと」から始まり父親に関するエッセイに移っていく。母親は戦前の人としては珍しく、かなり自由な人だったようで、次のような言葉をよく松谷みよ子に言い聞かせていたらしい。

p.23
「家の仕事は嫁に行けば自然にできる。女は一生台所に立たねばならん。そやからいまのうちに本を読みなさい。本を読まんとばかになる。」
学校で実学をひたすら教えようとしている今の日本の教育を動かしている人々に聞かせてやりたい言葉だ。

父親も素晴らしい人だったようで、弁護士として、苦しんでいる人を助けたり、国と争ったりしていた人らしい。こうした両親に育てられたからこそ、あの素晴らしくメッセージ色のある物語が書けたのであろう。

他にも師匠の、児童文学者坪田譲治との思い出、壺井栄ほか様々な人との思い出が語られている。

自分の大好きな作家のエッセイを読むのは結構面白い。特に、人の心を打つような作品を書く作家のエッセイは。

このあとも、制作秘話、愛読書の話などもあるようで楽しみだ。
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