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ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 [文学 日本 辻村深月]


ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/03
  • メディア: Kindle版



殺人事件と思わしき描写から始まる。しかも娘が母を殺したという。
犯人と思われる女性の「親友」だった女性が、真相を知るために色々な人に話を聞いて回るのが第一章。
犯人と思われる女性の語りが第二章となっている。

辻村深月得意の、同じストーリーを重層的に語らせ厚みを持たせ真相へと迫っていく形になっている。しかも現在から過去へたどっていくので、段々と色々なことがわかってくる。
よく『傲慢と善良』とともに語られるのがわかる気がした。

テーマは田舎の生活の狭さ、女性のコミュニティーでの掟、グループ内格差、などなど、確かにこの本を深化させたのが『傲慢と善良』という書評は納得できる。

とにかく一つ一つがよくわかる。表面上は仲良くしているが、学歴によって話が合わなかったり、馬鹿にしたり、敬遠したり、恐ろしい程に表面上の笑顔のしたの人間の醜い部分をえぐり出すような描写の部分がとても共感できた。

p181~
「公立の中学校から先の高校や大学は、自分で選んだ進学先だけあって、私と同じ程度の志向の、似た種類の人間が集まる。学力はもちろん、家庭環境、考える力までが釣り合っていたように思う。
 山梨に戻って、チエミたちと再開したとき、驚かされたのは、彼女たちの圧倒的な関心のなさ、考える力のなさだった。驚かされた、というよりは、思い出した、というべきか。中学校の頃と同じく、自分の身の回りの範囲と芸能ニュースにしか興味がないのだ。
 県議会議員と国会議員の区別がつかず、選挙があってたとえ投票しても、自分が今投じた票が、何を
決めるための選挙なのかがわからない。~中略~景気が悪い、と現状を嘆いていても、その原因がどこからくるのかは興味がない。」

この辺の描写は非常に共感できた。しかし、村上春樹や朝井リョウなどのキザで自意識過剰なエリート意識たっぷりのいやらしい感じではない。どちらが良い悪いではなく、結局どちらも自分の世界の中でしか生きていない傲慢な考え方なのだ、ということをちゃんと提示している。やはり上記の男性作家ふたりと違って、辻村深月は人間全体に対する、人の心に対する優しい視点がある。

長く、結構読みすすめるのがキツイ部分もあるが、名作だと思う。

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凍りのくじら [文学 日本 辻村深月]


凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/03
  • メディア: Kindle版



『ドラえもん』が登場する道具が結構出てくる作品ということで、『ドラえもん』にあまり興味がない私はあまり読む気がなかったのだが、それなりに評判の良い作品なので読んでみた。

頭が良く他人の観察眼にするどい主人公理帆子の視点で書かれた物語で、父親を早くに亡くし母親もガンで死にそうというのも影響しているのだろうが、結構覚めた視点で周りを観ており、解説にはあまり共感を得るタイプではない主人公とあったが、私はかなり共感できた。

p.30
「私の考える頭の良さというものは、多分その人の今までの読書量と比例する。 ~中略~ 私が普段遊んでいるこの子たちはほとんど本を読まないし、そのせいか、全ての場面で言葉が足りない。考え続けることに対する耐性がないのだ。ぱっと湧いた感情に飛びついて、それに正直に生きるだけ。」

p.252
「アイツ、何考えてるの。理帆子ちゃんほっとくなんて。だって、クリスマスも初詣も会わないってそういうことなんでしょう?
 ~中略~ 仕事が忙しくて会えないことを嘆いて罵る女がいるとよく聞くが、それってああ、そういうことかと気付いた。みんななんて頭が悪いんだろう。世の中で一番偉いのは、何も恋愛や彼氏彼女じゃないのだ。」

p.294
「頭がいい人間ってのは孤独だね。」
~中略~
「~人間っていうのは、頭の良さに伴って思考する能力を持てば持つ程、必然的に孤独にならざるを得ない。」

p.301
「精一杯、本当にギリギリのところまでやった人にしか、諦めることなんてできない。」


最終的にはこういった高慢な考え方は何となく否定され、周りを愛し同調していく方向へと行くのだが、私はこれらの言葉にかなり共感するし、中・高時代少なからずこうした考えを持っていた。そしてこれが言葉にできるということは恐らく辻村深月自身もこうした感情を心の中に抱き、生きづらさを感じていたのではないだろうか。

と、ここまで書いてなんだが、ストーリーは何となくグズグズと進み、かなりの終盤まであまり入り込めない。しかし最後の最後で一気に物語が動く。この場面はかなり衝撃的で惹き込まれはするのだが、やはりもう一歩。

面白くなくはないが、正直長さに見合っただけの圧倒的な感動みたいなものは得られない。
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鍵のない夢を見る [文学 日本 辻村深月]


鍵のない夢を見る (文春文庫)

鍵のない夢を見る (文春文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/07/10
  • メディア: Kindle版



辻村深月の直木賞受賞短編集。
全部で5作品からなる。

1. 仁志野町の泥棒
2. 石蕗南地区の放火
3. 美弥谷団地の逃亡者
4. 芹葉大学の夢と殺人
5. 君本家の誘拐

1は主婦の窃盗グセの話。2はストーカーの話と思いきや、自意識過剰な女の勘違いの話? 3はどうしようもない男に惹かれてしまった女と殺人事件。 4も3とテーマは似ている。 5は妊娠・出産・子育てに悩む女性の話。

どれもこれも女性視点で書かれており、最近読んだ『傲慢と善良』に近い、善良なんだけど結婚できない地方の女性たちが多く取り上げられている。

正直、自分の求める辻村深月らしさはあまりなく、ちょっとずれた主人公を描く、今村夏子作品に近いものを感じた。短編も得意ではない自分にとっては結構もう一歩な作品だった。
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傲慢と善良 [文学 日本 辻村深月]


傲慢と善良 (朝日文庫)

傲慢と善良 (朝日文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2022/09/07
  • メディア: Kindle版



ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』から題名をとっているのだろうなあというのがすぐわかる題名で、実際物語の中にこの作品が登場する。

婚活小説で、婚活アプリで知り合ったふたりが結婚することになるのだが、突然女性が姿を消してしまい、男性がそれを探すことによって、彼女の過去がわかってくるというもの。

前半は男性視点、後半は女性視点、と視点を変えるのは、『朝が来る』などでもおなじみに手法であるし、焦点を合わせる人物を変えることで、同じ物語でも違った視点で語ることで出来事が重層的に見えてくるというのも『スロウハイツの神様』などでもお馴染み。『島はぼくらと』『青空と逃げる』にも登場した人物たちが出てきたり、地方の活性化なども結構テーマとしてあり、かなり今までの辻村作品の集大成的な感じ。

主人公真美はとっても私は共感できた。彼女ははじめは善良そうに見えるが、段々と傲慢さが見えてくるという書評もあったりするのだが、私はそうは思わず、基本善良なのだろうと思った。

そしてキラキラして、平気で嘘をつく人たちに対する苦手意識などもとても共感できた。

確かに面白い作品であった。

ちなみに、本編とは全く関係がないのだが、文庫版は朝井リョウが解説を書いている。この朝井リョウという作家はかなり人気が高いらしく、あまり批判めいたものを目にしないのだが、私は大嫌いな作家だ。明らかに自分が勝ち組でありそれを誇らしく思っているのだが、そのことをなるべく見せないようにしているのだが、文章の端々からそれがにじみ出ている。弱者に対して寄り添うという感じがこの人には全くなく、まさに「傲慢」そのものというのが彼の書く文章からにじみ出ている。これは村上春樹にも言える。このふたりが人気作家であることがわたしにはよくわからない。
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青空と逃げる [文学 日本 辻村深月]


青空と逃げる (中公文庫)

青空と逃げる (中公文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/07/21
  • メディア: Kindle版



図書館にCDを返しに行ったら偶然見つけた作品。2018年発表ということでそれなりに最近の作品。
夫のせいで、ある組織から逃げなければならなくなった、妻の早苗と息子の力(ちから)の物語。様々な地域に逃げ、そこでの様々な人々との出会いを通して人間的に成長していく二人を描いた作品。

早苗視点、力視点が順々に出てくるので、物語が重層的に語られていくのも面白い。何より、どの地方に行っても人々が暖かく彼らを援助していく様子が、読んでいてとても心地よい。

『島はぼくらと」に登場したヨシノも出てきて面白い。彼女との絡みの中で出てくる描写で印象的な一節を。

p.384
「ヨシノに何かを言いたいと思ったけれど、何を言えばいいかわからなかった。被災して今も仮設住宅で暮らしている人がいる、ということを、頭では知っていても、実感したのは初めてだ。何を話しても軽はずみな言葉になってしまいそうに思えて、言葉が何も出てこない。ーそうやって反応できないこともなんだか悔しく、誰にともなく申し訳ないような気持ちがする。」

わたしもしょっちゅう上記のような感情を色々な人との関わり、会話の中で感じてきた。辻村深月というひとは本当に人の心に敏感なんだな、と感じさせる一節だった。

暖かくて良著だった。
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朝が来る [文学 日本 辻村深月]


朝が来る (文春文庫)

朝が来る (文春文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版



不妊治療の末、結局子供ができず養子をもらうことになった夫婦の話、という大体のあらすじを読んでいたので、その夫婦と子供を中心に物語が進むのかと思いきや、
第一章 子供が幼稚園の年長になった妻の現在
第二章 子供が夫婦のもとにやってくるまでの妻の過去
第三章 夫婦に子供を渡した、14歳で妊娠してしまった女の子の人生
第四章 女の子と夫婦が再び出会うまで。
と、後半が少女の話になっており、これがかなりのヴォリュームで読み応えがあった。
両親教師の固い家出育った少女は、初めて出来た彼氏と生理が来る前から肉体関係を持ち、子供を産み、家を出て、その後かなり悲惨な人生を歩んでいく。ゾラなどに代表されるフランスの自然主義文学を読んでいるようで結構途中苦しい感じだったのだが、最後はかなり希望あるさわやかな終わりで、さすが「白」辻村だと思った。

結構面白かった。
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本日は大安なり [文学 日本 辻村深月]


本日は大安なり (角川文庫)

本日は大安なり (角川文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/01/27
  • メディア: Kindle版



雑誌か何かで4回で連載されたものを、時系列的に並べなおして単行本かしたものらしい。
高級ホテルの結婚式場の話で、主人公らしきものはおらず、それぞれがそれぞれの立場からその日を語っていくというもの。

はじめは誰が誰なのかわからず結構読み進めるのが難しかったが、だんだんと話が見えてきて様々な出来事が重層的に語られていくので結構面白い。

結構ひどい人間がたくさん出てくるのだが、最後はハッピーエンドという感じになるので読後感はかなり良い。

特に結婚という人生の一大イヴェントを描いている作品だけあり、涙が流れそうになる部分も多々あった。

大傑作か、というとそこまでではないとは思うが、確かに面白い作品だった。
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この夏の星を見る [文学 日本 辻村深月]


この夏の星を見る (角川書店単行本)

この夏の星を見る (角川書店単行本)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/30
  • メディア: Kindle版



数年前、東京新聞で連載されていた物語。それまで辻村深月という作家は知っていたが、あまり読んでみようとは思っていなかった。しかし、この話が連載される前に、あらすじのようなものが掲載され面白そうだがらと読み始めた。はじめからその世界へにひきこまれ毎日この話を読むために新聞を開けているような感じになった。そして彼女のその他の作品も読んでみようと思った。連載が終わる時は非常に残念で、早く単行本化されないかな、と思っていたら、結構早く単行本化され、早速図書館で借りて読み直した。

ストーリーはコロナ禍の中高生の話。それぞれの悩みを持つ、長崎、茨城、東京(渋谷)の中高生たちが、様々な紆余曲折を経て、自分たちで望遠鏡を作って星を見るという「スターキャッチコンテスト」というのを自分たちの手でオンラインで連絡を取り合いながら作り上げるというストーリー。生徒を助ける先生たちもそれぞれ魅力的だし、登場人物ひとりひとりもとても暖かで優しく良い子ばかりだ。付き合うまでにはいたらないが、それぞれの恋模様も描かれており素晴らしい青春小説となっている。

私は中でも五島という長崎の島の高校生たちのストーリーが好きで、佐々野円華という一見おとなしいが様々なことを考える心優しい女の子と野球部のエース武藤のその後が気になる。

本当に素晴らしい作品だと思う。
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島はぼくらと [文学 日本 辻村深月]


島はぼくらと (講談社文庫)

島はぼくらと (講談社文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/12
  • メディア: Kindle版



ネットなどで、オススメ辻村深月作品を調べていると、『スロウハイツの神様』と共に、必ず上位に来る作品。

瀬戸内海に浮かぶ冴島という島の、同級生の高校生四人組の青春を描いた作品。有川浩の『県庁おもてなし課』に似たような、地域蘇生の物語でもある。しかし有川浩作品が、大人の視点から見たものなのに対し、こちらは完全に子どもたちの視点から描いたものであり、しかもこういう作品にありがちな、「頑固で封建的で伝統を重んじる大人」vs「自由を求めて外へ飛び出したい子ども」という対立構造ではなく、自分たちの島、というものをとても大事にして誇りに思っている子どもたちの内面が丁寧に描かれていてとてもよかった。全四章となっており、一応子どもたち一人一人の視点から描かれているのだが、一人称的なかたりと三人称的なかたりが混じったような感じになっているので、基本的には三人称的な語りに馴染むような感じで読む進められる。

初めは結構ゆったりとした平和な雰囲気で進むのだが、段々と色々な人の状況が明らかになっていき、子どもたちの抱える問題なども徐々に見えてきて、最後はすばらしく感動的なフィナーレとなる。後半数回涙が滲んで来ている自分がいた。

ミステリー要素も若干有り、『スロウハイツの神様』に登場していた人物も登場したりして非常に面白かった。

確かに文句なく面白く、中高生にオススメ出来る作品だ。
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ツナグ 想い人の心得 [文学 日本 辻村深月]


ツナグ 想い人の心得(新潮文庫)

ツナグ 想い人の心得(新潮文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/06/27
  • メディア: Kindle版



前作『ツナグ』から7年ぶりに書かれたものらしい。
現世に生きる人と、死んでしまった人を会わせる「使者(ツナグ)」の物語。
前作は現世に生きる人に焦点が当てられており、残されたものの苦悩のようなものを描いていた作品であったが、今回はスポットがどちらかというと、「使者」である渋谷歩美(男性)にあたっている気がする。前作では半人間のような、どちらかというと天の使い的なあまり人間味のない感じがあったが、今回は、人間渋谷歩美が前面に出ており、現世での仕事と、「使者」の仕事を通して、また仕事を通して出会った(現世、使者どちらにおいても)人々を通して彼が人間的に成長していく模様を描いている。

恋愛模様も有り、前回とは違ったテイストで楽しめた。展開的に次作も出版されそうなので楽しみに待ちたい。
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ツナグ [文学 日本 辻村深月]


ツナグ(新潮文庫)

ツナグ(新潮文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: Kindle版



新潮文庫のキャラクターが「Yonda?」くんが、昔から好きだった。店頭でもらえるしおりを集めたり、帯を切り取って送るともらえる「Yonda?」くんグッズもかなりもらった。いつのまにか、かわいいパンダがのっぺりしたパンダに変わり、興味が覚めていたのだが、数年前から「キュンタ」というキャラクターに変わった。夏の100冊を紹介する小冊子の物語も面白いし、キュンタしおりも可愛いので、毎年夏の100冊を楽しみにするようになった。しかし、新潮文庫の夏の100冊はあまりラインナップが代わり映えせず、読みたいと思える本がほとんどなくなってしまった。

しかし今年のしおりはプラスティック製でしっかりしているし、是非とも手に入れたいので必死で探した。この辻村深月の『ツナグ』もあらすじを読むとあまり面白そうではなく、私の読みたい本リストには全く入っていなかったのだが、この本の続編も100冊に入っており、評判も良さそうなので、しおり目当てに2冊同時に購入してみた。

読み始めて、すぐにその世界に引き込まれた。死んだ人と生きている人をツナグ物語ということで、正直対して話も広がらないだろうし、SFまがいな、ファンタジーまがいな感じがしていたのだが、すさまじく面白いし、胸が締め付けられた。
人生に前向きになれない目立たない女性が、死んでしまったアイドルと会う話、家父長制の中で役割を与えられ、不器用な生き方しかしてこられなかった男性、親友が死んでしまった女の子、結婚間近に相手の女性が失踪してしまった男性、そしてこの「ツナグ」という役割を与えられた男の子、それぞれがそれぞれの思いを抱え、その思いを死者と会うことで新しいものに変えていく。

辻村深月は、それぞれの話が最終的に回収されていくので、非常にカタルシスを得られ、読後感が非常に良い。

異化効果の強い小川洋子、ボロボロ涙を流させる心の中の感情をすべて外に出させる効果を持つ藤岡陽子、この二人とは全く違う形で素晴らしい読書体験を得られる作家だとこの本を読んで思った。

『かがみの孤城』も素晴らしかったし、是非彼女のほかの著作も読んでみたいと思った。
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スロウハイツの神様 下 [文学 日本 辻村深月]


スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/01/15
  • メディア: 文庫



微妙なバランスを保ちながら楽しくやっていたスロウハイツに住む人々の日常が段々と動き出す。住人の中に一人犯人がいる、といったようなミステリー要素や様々な恋愛模様、心の葛藤、心の成長などが描かれ、一気に読み終わった。特に今までの様々な人々の何気ない言葉が回収されていく最終章「二十代の千代田公輝は死にたかった」は圧巻。涙が出そうになった。

主人公二人の想いが重なりそうで重ならず、最後には・・・というラストも爽やかさがあってよかった。さらにもうひとつのカップルの最後がちょっと残念な感じだった。

多くの人が名作と言うこの作品。何故多くの人が好きなのかちょっとわかる気がした。

p.15
「ズルして手に入れた幸せは、長続きしたらいけないの。私はそんなの認めない」

p.257
「人間の行動の真意なんて、所詮は受け取る側の気持ち一つによる。そしてそれはきっと、どれもがどれもそれぞれに正しい。」

p.342
「それが叶う場合も、叶わない場合もある。けれどそれにより挫折し、諦め、折り合いをつけることは、嘘をついて手に入れた幸せや楽しみよりきっと価値がある。」
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スロウハイツの神様 上 [文学 日本 辻村深月]


スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

  • 作者: 辻村深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/03
  • メディア: Kindle版



にかいどう青さんの『すみっこ★読書クラブ』で紹介されていて興味を持ち読んだ本。表現者、クリエイターたちが一つのアパートで共同生活をする話。色々な書評などで、「前半はテンポが遅い、とか何も起こらない」みたいに書かれているのだが、そもそも小説とはそういうものなのではないだろうか。ドストエフスキー、トルストイしかり、ディケンズ、ユーゴーなど長編であればあるほど、初めは周りを固めていく意味で、物語がゆっくり進む。最近の人々は恐らく、刺激的なものに慣れすぎていて、ものごとをじっくり読んだり味わったりすることができないのだろう。ずっとジェットコースターのような小説など逆に、何が面白いのだろうと思ってしまうのだ。そして周りがしっかり固まっていればいるほど、後半の面白さが倍増していくのだ。

それぞれの登場人物が丁寧に描かれており、内面描写なども丁寧で良い。「ラ・ボエーム」などに見られるような、登場人物がみんな売れず、みんなで夢を追いかける的な感じではなく、中には超売れっ子もいたり、才能あるけど営業ベタな子がいたり、純粋すぎて悪を描けない子がいたり、とみんな売れないよりかえってリアリティがあるところがまた良い。

p.300
「派手な事件を起こして、死んでしまわなければ、声を届けてはもらえませんか。生きているだけでは、ニュースになりませんか。何も問題が起こらないこと、今日も学校に行けることが「平和」だったり、「幸福」であるのなら、私は、死んだりせずに問題が起こっていない今の幸せがとても嬉しい。」

とても良い言葉だと思う。前にも書いたかもしれないが、この作家の弱者の視点、平凡であることを肯定する姿勢、さらに言えば積極的に評価する姿勢が非常に好感が持てる。

下巻も楽しみだ。
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サクラ咲く [文学 日本 辻村深月]


サクラ咲く (光文社文庫)

サクラ咲く (光文社文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/03/12
  • メディア: 文庫



講談社青い鳥文庫に『チェンジ!』という四つのシリーズの話が入った本がある。その中に、にかいどう青さんの『すみっこ★読書クラブ』という本の話が入っており、そこでこの辻村深月さんの『サクラ咲く』が紹介されていた。

進研ゼミの『中二講座』『中一講座』に連載されていたものも載っておりかなり読みやすかった。
①「約束の場所、約束の時間」
②「サクラ咲く」
③「世界で一番美しい宝石」
の3つの話からなる。

①は中学生の陸上部の男の子が主人公の話。話の序盤で、陸上の新人戦(中三が引退したあと、一年二年が選手として戦う大会)が描かれるのだが、ここが非現実的な描写ばかりでげんなりしてしまった。まず、暖かい気候の県ならありうるのかもしれないが、短距離の大会を寒い12月には基本的には行わない。けが人続出だろう。どんなに遅くても11月の中頃までのはずだ。さらに主人公は4x100mRのアンカーをつとめているのだが、自分のチームを最終コーナーから見ているのだが、1走が走り終わった時点で、現在三番目、などわかるなどということは、カーブから入るリレーにおいてはほとんどない。さらにいえば、スタートが「ヨーイ、スタート!」などという声で始まることは100%ない。さらに第三走者の三位までの先頭集団から一歩抜け出すなどということもカーブを走っている三走のところでもあまりわからない。さらにさらにバトンパスの場面で結構多くの言葉を交わすのだが、駅伝ならいざしらず、さらにマイルリレー(4x400mR)ならまだしも、4x100mRリレーでそんな言葉を交わすことなどほぼ不可能だ。さらにさらにさらに、一般の大会でゴールテープなど用意されていない。

ということでかなり、読む気が失せていたのだが、話が進むうちにそんな陸上の描写など気にならないほど感動的なストーリー展開になっていった。タイム・トラベルをテーマにしたストーリーで、実際タイム・トラベルが行われるのだが、この時間を超越することで深まる友情が感動的だ。メインキャラクターたちの性格がまっすぐ過ぎてとにかく良い。最後は希望に満ちて終わる。

②もクラスの目立たない自己主張が出来ない控えめな女の子が、友人たちとの関わりを通じて、自分を成長させていき、自己主張ができるようになり、さらに恋も成就させる。

③は、クラスの目立たない陰キャな映画同好会の男の子が、学校の図書館でいつも過ごしている美しい女性をヒロインとして映画に出てもらうえるよう口説き落とすストーリー。この過程で、その美しい女の子の心の葛藤なども見えてくる。学校の目立たない場所で過ごす子供たちへのエールとなっている素晴らしい作品。

p215
「クラスの中心にいるような目立つタイプの生徒の青春が、教師や大人たちに推奨され、世間一般にもいいって言われる。同じ学校に通ってても、俺たちみたいな映画や兄味の趣味を楽しむ層はどっちかっていうとマイナー扱いだ。
 映画部を作りたいと思ったのは、意地のような部分もあった。俺たちが学校の主役になれるような、ーー少なくとも、部内にいるあいだだけはそう感じることができるような場所を作ることが、入学した当初からの、俺の目標だった。」

この本には、にかいどう青の原点のような様子がたくさん詰まっている。タイム・トラベル、いじめ、いじめに打ち勝ち自分を成長させていくこと、自己主張できない自分を変えていくこと、クラスのマイナー・キャラにもスポットライトをあてること、しずかにそっと生きることを肯定すること、本好きな人、などなどとにかく面白かった。

藤岡陽子さんの『海とジィ』のような、それぞれの短編が微妙につながっているあたりもよかった。

非常に前向きになれる素晴らしい作品だった。
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かがみの孤城 下 [文学 日本 辻村深月]


かがみの孤城 下 (ポプラキミノベル つ 1-2)

かがみの孤城 下 (ポプラキミノベル つ 1-2)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2022/03/16
  • メディア: 新書



下巻に入って一気に物語は動き始める。色々な事情で学校に行けていない男女7人が、それぞれの思いを持って前向きに進んでいこうとする。それぞれの持っている辛い状況が明かされていく場面は圧巻だった。そして皆が「かがみの孤城」を去る最後の場面も涙が出そうになる。種明かしの部分があまりに悲しくあまりに感動的だ。

さらにエピローグも爽やかで美しい。今までの辛く長い物語をとても綺麗にまとめている。

印象的な箇所を紹介したい。

pp.113~114
「言葉が通じないのはー、子どもだからとか、大人だからとか関係ないのだ。
 あの手紙を読んで、こころは相手に言葉が通じないことを圧倒的に思い知った。だけどそれは、あの子に限ったことじゃない。~中略~伊田先生の中ではそう言われることこそがお門違いでピンとこないのだ。自分がやったことを正しいと信じて、疑っていない。」

多くの人間が、自分が正しいと思っていて自分の正しさを疑っていない。一般的な社会人ならまだ良いのかもしれない。しかし子供を相手にした教師、特に繊細の子供と接する教員はそうではあってはならないと思うのだ。しかし責任ある地位に立つ~先生始め、多くの教員が自分の正しさを疑っていない。そういった教師たちが少しでも自分の正しさに自分の言動に疑問を持って反省する機会をもてたらもう少し学校は変わっていくのになあ、と思ったりする。

本屋大賞に選ばれるのもわかるし、多くの人が子供に勧めたい気持ちもわかる、素晴らしい小説だった。
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かがみの孤城 上 [文学 日本 辻村深月]


かがみの孤城 上【試し読み】 かがみの孤城【試し読み】 (ポプラキミノベル)

かがみの孤城 上【試し読み】 かがみの孤城【試し読み】 (ポプラキミノベル)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2022/03/15
  • メディア: Kindle版



今東京新聞の夕刊で、辻村深月の、コロナ禍での中高生達の生活を描いた小説が連載されている。前から少し気になっていた作家であり、結構その新聞小説も面白く、彼女のことを少し調べていたら、『かがみの孤城』という作品が面白いらしいという情報が多かった。機会があったら読んでみようと考えていたところに、創刊以来興味深い作品を多く刊行してきているポプラ社の「ポプラキミノベル」シリーズとして出ることを知った。

色々と読むものが多く(&子どもが読むかと思ったりもし)、購入してからしばらく寝かせておいた(のだが子どもも読まなかったので)、読み始めた。

テーマはいじめを受けた子どもたちが、ファンタジーの世界の助けを借りて、成長&苦難を乗り越えて行く物語(だろう、まだ上巻しか読んでいないのでわからないが・・・)。

3人の女の子と4人の男の子が、オオカミの仮面をかぶった女の子によって、ファンタジーの世界のお城に集められる。お城は自由に出入りできるが、平日の昼間しか来られないということから、自分たちが何らかの理由で、学校に行けていない子供達なんだ、ということがわかってくる。初めはお互い距離をとっていた7人だが、様々なことによって段々と心の距離を近づけていく。

ひとりひとりの性格なども細かく描き分けられており、かなり読み応えがあった。上巻の最後は下巻に向けて希望を持てる感じになっている。

本屋大賞を受賞し、作者自身も「自信作」と呼ぶことも分かるかなり読み応えのある作品。
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