スロウハイツの神様 上 [文学 日本 辻村深月]
にかいどう青さんの『すみっこ★読書クラブ』で紹介されていて興味を持ち読んだ本。表現者、クリエイターたちが一つのアパートで共同生活をする話。色々な書評などで、「前半はテンポが遅い、とか何も起こらない」みたいに書かれているのだが、そもそも小説とはそういうものなのではないだろうか。ドストエフスキー、トルストイしかり、ディケンズ、ユーゴーなど長編であればあるほど、初めは周りを固めていく意味で、物語がゆっくり進む。最近の人々は恐らく、刺激的なものに慣れすぎていて、ものごとをじっくり読んだり味わったりすることができないのだろう。ずっとジェットコースターのような小説など逆に、何が面白いのだろうと思ってしまうのだ。そして周りがしっかり固まっていればいるほど、後半の面白さが倍増していくのだ。
それぞれの登場人物が丁寧に描かれており、内面描写なども丁寧で良い。「ラ・ボエーム」などに見られるような、登場人物がみんな売れず、みんなで夢を追いかける的な感じではなく、中には超売れっ子もいたり、才能あるけど営業ベタな子がいたり、純粋すぎて悪を描けない子がいたり、とみんな売れないよりかえってリアリティがあるところがまた良い。
p.300
「派手な事件を起こして、死んでしまわなければ、声を届けてはもらえませんか。生きているだけでは、ニュースになりませんか。何も問題が起こらないこと、今日も学校に行けることが「平和」だったり、「幸福」であるのなら、私は、死んだりせずに問題が起こっていない今の幸せがとても嬉しい。」
とても良い言葉だと思う。前にも書いたかもしれないが、この作家の弱者の視点、平凡であることを肯定する姿勢、さらに言えば積極的に評価する姿勢が非常に好感が持てる。
下巻も楽しみだ。
2022-05-07 16:31
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