あまんきみこセレクション 冬のおはなし [文学 日本 あまんきみこ]
教科書に採択された、あまんきみこさんの作品は全部収録されているというこの『あまんきみこセレクション』全5巻を、インターネット中古ストアで手に入れた。
『冬のおはなし』を次男と一緒に夜寝る前読みすすめた。最後の方は飽きてきてしまっていた。彼はあまんきみこさんより、安房直子さんの作品の方が好きらしい。
この本には、長男が図書室から借りてきて、あらためてあまんきみこさんの作品に注目するようになったタクシー運転手松井さんの話「くましんし」が収録されている。
★「松井さん」シリーズでは
①くましんし
②本日は雪天なり
③雪がふったら、ねこの市
④たぬき先生はじょうずです
が収録されている。
この中では、やはり①が出色の出来。
★「えっちゃん」シリーズでは
①ストーブのまえで
が収録。
ストーブの前で、編み物をするおかあさん、そして小さな女の子えっちゃん、子猫のミュウの暖かい団欒。そしてお父さんが仕事から帰ってきて、新しく一年生になるえっちゃんに素敵なプレゼントをする。
★みじかいおはなしでは
①ふたりのサンタおじいさん
②一回ばなし 一回だけ
③おにたのぼうし
④ちびっこちびおに
が収録。
この中ではやはり③が名作。『泣いた赤おに』にも通じる切なくも暖かな作品。
★すこし長いお話では
①すずかけ写真館
②花と終電車
③かまくらかまくら雪の家
が収録
★長いおはなしでは
①ねこん正月騒動記
②ふうたの雪まつり
③花のピアノ
が収録。
①は福岡の地方の言葉を題材にしたユーモアあふれる作品。
②はタクシー運転手松井さんの登場する、子きつねと松井さんの心の交流を描いた作品。長男のお気に入り。
③は安房直子にも通じる、絵画と現実の世界を行き来する話し。
☆あまんきみこの広がる世界へでは
①赤い凧
②うぬぼれ鏡
③北風を見た子
①は傑作。戦前満州へ行った日本人(あまんきみこも含む)に対する自己批判を描いた稀有な作品。
②も考えさせられる作品。善意の行為が達者に対して実は心を傷つけてしまっているかもしれない、というこちらも自己批判を描いた名作。
③は、松谷みよ子の民話の世界にも通じる、超感覚を描いた暖かい作品。
読後じっくり考えさせられる作品が多かった。
あまんきみこと教科書作品を語らう [文学 日本 あまんきみこ]
本屋で、『車のいろは空のいろ』の新装版を見つけ、筆者に再び興味が惹かれ図書館で借りてみた。
彼女は小学校の教科書で多くの作品が取り上げているらしく、インタビュー形式で彼女自身が自分の作品を語っている。
私の好きな「きつねのおきゃくさま」「ちいちゃんのかげおくり」「おにたのぼうし」の三作品が取り上げられ語られていてとても良かった。彼女の優しい人柄がこんな簡単なインタビューでも垣間見えた。
p.49
「作品というのは読む人の人生で読むのですから、書いた私がこう思っている、というのが正解ではないと考えています」
この言葉は素晴らしいと思う。受験に出題された問題で、実際書いた筆者はそう考えていないのに、こんな問題出すのはおかしい、などと言う人がいるが、それもおかしいと思うのだ。問題作成者はそう読んだ、ということで、それはそれでしょうがない。問題作成者がそう読んだとおりに答えを設定するのはおかしいかもしれないが、すべてが筆者の意図通り読むとは限らない。
この本も一緒に借りて流し読み。
p.16
「旧満州は、日本の傀儡国家であったことを知らずに楽しい子供時代を過ごしていたことに対して、あまんは常に「恥ずかしい」と語っており、これはあまん作品を読み解くにあたって欠かせない視点である。あまんはよく、「光の中にいながらほんの少しでいいから、影のことを思って、欲しいと思っています」と言う。これは、あまんの子ども時代に対する後悔の念がにじみ出た言葉だと思われる。」
p.58
「私の幸せ、子ども時代の幸せ、楽しい思い出をいっぱいしましたけど、そこは中国の人を日陰においやったんだなあって、思う。~中略~でもそのために日陰にいた人たちのことを、今、思わないでいられない。ずーっとずーっと思わないでいられない。多分、これはね、死ぬまで折り合いがつかないと思う。自分の中で解決できない、辛い思い出です。」
こうした真摯さ、自分に対する厳しさが作品ににじみ出ているのだと思う。
もう一度しっかりと、彼女の作品を読みたいと思った。
あまんきみこ童話集1 [文学 日本 あまんきみこ]
ポプラ社刊行の『あまんきみこ童話集』を全巻読み終わった。
この童話集1の一番最初に置かれた作品だけあり、「おにたのぼうし」は最高の作品だった。
p. 7
「人間っておかしいな。おにはわるいって、きめているんだから。おににも、いろいろあるのにな。人間も、いろいろいるみたいに。」
人間から嫌われている「おに」が、人間に良いことをし、それに対して、ひどい仕打ちを受けてしまう、という教科書に良く掲載される作品のパターンではある。しかし、嫌みっぽさや、押しつけがましさは全くなく、読後感もそんなに悪くない。
ある日起こった、「にわか雨」を3人の視点から、しかもそれぞれがファンタジーの世界にいざなわれていく話「きつねみちは天のみち」ととても美しく、清々しい作品だった。
心があったまる童話集だった。
あまんきみこ童話集2 [文学 日本 あまんきみこ]
あまんきみこ童話集3 [文学 日本 あまんきみこ]
あまんきみこの童話集3を読み終わった。
この本は、ほとんどが、主人公が「えっちゃん」の作品で埋められている。えっちゃんの友だち猫、あめ色の「ミュウ」も重要な役割を果たす。
この本は、見方を変えれば気分も変わる、ということを教えてくれる。
例えば、
「スキップ、スキップ」という作品の中で
「うれしいことがあるからスキップするんじゃなくって、スキップするから、うれしくなるのか。ふん、それなら、ぼくも、やってみよう」
という台詞が何度も登場する。これによって、えっちゃんによって始められたスキップが大行列になっていくのだ。大人は普通このようには考えない。
他にも、
「風船ばたけは、さあらさら」という作品の中で、次のような台詞が登場する。
p.116
「マジックペンで名前をかいたとき、かいたとたんにわかったの。これは、うめだえつこの風船じゃなくて、風船のうめだえつこさんだって。」
これは、本当にステキな考え方だ。自分のものだと考え、名前を書いた途端に、そのものが、自我を持って動き出す。まさに物語の始まる瞬間と言えるだろう。
子どもの頭の中はこんな夢のある世界でいっぱいだ。大人になって、こんな世界を描けるあまんきみこさんは、やはりすごいなあ、と思う。
あまんきみこ童話集4 [文学 日本 あまんきみこ]
あまんきみこさんの童話集4を読み終わった。
基本的に3つの話で構成されている。
①おっこちゃんとタンタンうさぎ
②きつねのかみさま
③おまけのじかん
基本的には6歳前後の主人公の女の子と、その弟もしくは妹、そして主人公の持っているぬいぐるみでストーリーは進んでいく。主人公が困ったりしたときに絶妙のタイミングでぬいぐるみが話しかけたり活躍したりする。現実と幻想を絶妙なバランス、タイミングで行き来している。
①「おっこちゃんとたんたんうさぎ」は、新しい街に引っ越してきてからの一年間を描いており、最後の「おわりのはなし」では、おっこちゃんとぬいぐるみのタンタンが、みんなから誕生日のお祝いをしてもらって終わる。
②「きつねのかみさま」は、昼間に遊んでいた縄跳びを公園においてきてしまい、それを弟と取りに行ったところ、その縄跳びで遊んでいたキツネと出会う話。
③「おまけのじかん」は最高にステキな話。自分の誕生日祝いを祝ってもらえると楽しみに待っていた妹。しかし母親の仕事の関係で、今日はお祝いできないということになる。それを主人公が「ぜんやさい」ということでお祝いしてあげる。さらにそれに妹のぬいぐるみも加わってお祝いしてあげるという話。ぬいぐるみが物語に入ってくる箇所が何の違和感もなくとても自然な感じだ。
どれもラストがとてもほのぼのとして暖かい。
だが、ひとつ気になった点が。基本的に皆幼稚園児&それより下の子たちなのだが、みんな平気でそのへんの公園まで自分たちで行って遊んだり、自分たちだけでお留守番をしている。昔は幼稚園児でも家で一人でいたりしていたということだろうか???
あまんきみこ童話集5 [文学 日本 あまんきみこ]
『ちいちゃんのかげおくり』で有名なあまんきみこさんの童話集を読んだ。
本当は1巻から読みたかったのだが、図書館に1巻がおいていなかったので、逆の5巻から読み始めた。
この巻は、戦争もの作品が多く収録されていると書かれているが、そこまで多くはなかった。
「ちいちゃんのかげおくり」
と
「おはじきの木」
が、戦争に直接的に関係する作品。特に「おはじきの木」は、なくなった娘と「にれの木」の近くで出会う作品。涙なしには読めない。彼女の作品が小学校の教科書で取り上げられるのがわかる。
とにかくどの作品も優しく暖かい。彼女の作品は、どことなく不安感や黒い影がつきまとっている。最後は幻想的な感じで終わり、現実的ではないのだが、なぜだがわからないが非現実的だとは思わない。現実的にはありえないのだが、こころのどこかで、そのように終わって欲しいという理想を、言葉にしているから読後感がとても心地良いものになっているのだろう。
本当に美しい作品ばかりだった。