SSブログ

サクラ咲く [文学 日本 辻村深月]


サクラ咲く (光文社文庫)

サクラ咲く (光文社文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/03/12
  • メディア: 文庫



講談社青い鳥文庫に『チェンジ!』という四つのシリーズの話が入った本がある。その中に、にかいどう青さんの『すみっこ★読書クラブ』という本の話が入っており、そこでこの辻村深月さんの『サクラ咲く』が紹介されていた。

進研ゼミの『中二講座』『中一講座』に連載されていたものも載っておりかなり読みやすかった。
①「約束の場所、約束の時間」
②「サクラ咲く」
③「世界で一番美しい宝石」
の3つの話からなる。

①は中学生の陸上部の男の子が主人公の話。話の序盤で、陸上の新人戦(中三が引退したあと、一年二年が選手として戦う大会)が描かれるのだが、ここが非現実的な描写ばかりでげんなりしてしまった。まず、暖かい気候の県ならありうるのかもしれないが、短距離の大会を寒い12月には基本的には行わない。けが人続出だろう。どんなに遅くても11月の中頃までのはずだ。さらに主人公は4x100mRのアンカーをつとめているのだが、自分のチームを最終コーナーから見ているのだが、1走が走り終わった時点で、現在三番目、などわかるなどということは、カーブから入るリレーにおいてはほとんどない。さらにいえば、スタートが「ヨーイ、スタート!」などという声で始まることは100%ない。さらに第三走者の三位までの先頭集団から一歩抜け出すなどということもカーブを走っている三走のところでもあまりわからない。さらにさらにバトンパスの場面で結構多くの言葉を交わすのだが、駅伝ならいざしらず、さらにマイルリレー(4x400mR)ならまだしも、4x100mRリレーでそんな言葉を交わすことなどほぼ不可能だ。さらにさらにさらに、一般の大会でゴールテープなど用意されていない。

ということでかなり、読む気が失せていたのだが、話が進むうちにそんな陸上の描写など気にならないほど感動的なストーリー展開になっていった。タイム・トラベルをテーマにしたストーリーで、実際タイム・トラベルが行われるのだが、この時間を超越することで深まる友情が感動的だ。メインキャラクターたちの性格がまっすぐ過ぎてとにかく良い。最後は希望に満ちて終わる。

②もクラスの目立たない自己主張が出来ない控えめな女の子が、友人たちとの関わりを通じて、自分を成長させていき、自己主張ができるようになり、さらに恋も成就させる。

③は、クラスの目立たない陰キャな映画同好会の男の子が、学校の図書館でいつも過ごしている美しい女性をヒロインとして映画に出てもらうえるよう口説き落とすストーリー。この過程で、その美しい女の子の心の葛藤なども見えてくる。学校の目立たない場所で過ごす子供たちへのエールとなっている素晴らしい作品。

p215
「クラスの中心にいるような目立つタイプの生徒の青春が、教師や大人たちに推奨され、世間一般にもいいって言われる。同じ学校に通ってても、俺たちみたいな映画や兄味の趣味を楽しむ層はどっちかっていうとマイナー扱いだ。
 映画部を作りたいと思ったのは、意地のような部分もあった。俺たちが学校の主役になれるような、ーー少なくとも、部内にいるあいだだけはそう感じることができるような場所を作ることが、入学した当初からの、俺の目標だった。」

この本には、にかいどう青の原点のような様子がたくさん詰まっている。タイム・トラベル、いじめ、いじめに打ち勝ち自分を成長させていくこと、自己主張できない自分を変えていくこと、クラスのマイナー・キャラにもスポットライトをあてること、しずかにそっと生きることを肯定すること、本好きな人、などなどとにかく面白かった。

藤岡陽子さんの『海とジィ』のような、それぞれの短編が微妙につながっているあたりもよかった。

非常に前向きになれる素晴らしい作品だった。
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。