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きのうのオレンジ [文学 日本 藤岡陽子]


きのうのオレンジ

きのうのオレンジ

  • 作者: 藤岡 陽子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/10/26
  • メディア: 単行本



藤岡陽子さんの面白そうな作品だけを読もうと思って、何冊か読んでいるうちに、出版された順にいつのまにか読みすすめてしまい、2020年10月に出版されたこの本までたどり着いてしまった。

主人公は、30歳代前半という若さで胃がんにかかってしまった笹本遼賀。都内でチェーン店のイタリア料理屋の店長をしている。物語はこの遼賀を、高校時代の同級生で偶然病院で再開した看護師の矢田泉、凌駕の店で働くアルバイトの高那、本当は従兄弟なのだが兄弟として育てられた弟の恭平、そして彼の母と祖母。それぞれが苦しい境遇を生きてきながら、けっして卑屈にならず前を向いて真っ直ぐに生きてきた。その中心にいたのが主人公凌駕。彼の優しさに多くの人間が助けられてきたのだが、本人はそれを意識していない。それを闘病生活を通してみんなが彼に伝えていく。暗く重いテーマなのに最期は爽快感がある。そして彼女の作品を読むといつもそうなのだが最後の50ページはひたすら涙を流して読んでしまった。とてもじんわりと心に染み入る作品だった。

p.162
弱音を吐かない人は、いつだってたったひとりで闘っている。

p.207
人の本気を嘲笑うやつに、頭を下げることはできない。
「浅井がこのままの性根で社会に出たならもっと酷いことになりますよ。自分に非があるにもかかわらず、そのことを上司に叱責されたら、そこでもまたパワハラだと訴えるんですか。悪いのは自分だ、だから叱られて当然だ。そういう思考を身につけないまま社会に出たら、泣きをみるのは浅井自身ですよ。」
世の中には自分の日を認めない人間が多すぎる。自分に不利なことが生じれば、すぐ他人のせいにする。「怖かった」「傷ついた」と訴えれば誰でも被害者の顔になる。

p.270
苦しい思いをして登ってきたからこそ、見える景色がある。


これらすべての言葉、ここに書かれているストーリーが自分の今までの人生を肯定してくれているようで、とても泣けてきた。
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