空にピース [文学 日本 藤岡陽子]
藤岡陽子さんの最新作を読んだ。前作は塾をテーマにした作品だが、今回は小学校をテーマにした作品。彼女の経歴の関係もあるとは思うのだが、看護師・病院もの、弁護士もの、スポーツものが多かったが、最近教育に興味があるのだろうかと思わせる作品が続いている。
話は、東京都内の比較的生活が苦しく、学力に関しても高くない児童が多い地域を舞台にしている。5年生の時問題のあるクラスで、担任が病気になってやめてしまい、そのあとを引き継ぐ形でそのクラスの担任になった澤木ひかりが主人公。とても優しく前向きで物事に真っ直ぐ取り組んでいく姿勢に、とても好感が持てる。周りの先生たちはこの地域・この学校の大変さに諦めムードで、最低限の三年間の任期が終わるのを静かに待っているという感じで、彼女は学校にあまりとけ込めない。そんな中ひとり救いの手を差し伸べてくれる養護教諭の水野。彼女のような存在を常に物語のなかに置くのが藤岡陽子さんの作品を安心して読めるものにしてくれていると思う。
5年で学級崩壊という話だったので、凄まじいクラスなのかと思って読み始めたが、そんなことはなく、素直な子も多く、結構真面目に授業にも参加している子が多いという設定。クラス運営の大変さ、というより、一人ひとりが持つ大変さに焦点を合わせたかったのだろうと思う。
結構凄まじい家庭環境で育っている子が多く、読んでいて辛くなる部分も多いが、最後はほろっとしてしまう美しい最後となっている。ミステリーの要素も混じっておりかなり楽しめる作品となっている。
p.53
「彼の手からゲーム機を取り上げて名前を呼ぶと、ようやくその目がひかりを見る。反抗的な光が宿っているのは、ゲームを中断されたからだ。この恨みがましい目にも、これまで何度か遭遇してきた。婚の時ひかりは、ゲームを開発した大人たちに憎しみを感じる。こんなにおもしろいものを作れば、子どもが夢中になるのは当たり前ではないか。感情のコントロールが未熟な年少者に与えるには危険すぎる玩具ではないか。大人たちの金儲けのために子どもの貴重な時間を奪わないでほしい。」
p130
「『あなたがこの世で見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい』
インド独立の父、マハトマ・カンディーの言葉だ。」
p241
「グエンくんは努力ができる人だよ。努力はきっと報われる。たとえいますぐ報われなくても、あなたの人生のどこかで、あの時頑張っておいてよかったと思える時が来る。だから絶対に諦めないでほしい。」
本当に良い作品だった。早く文庫化して欲しい。
2022-06-23 13:46
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