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ホイッスル [文学 日本 藤岡陽子]


ホイッスル (光文社文庫)

ホイッスル (光文社文庫)

  • 作者: 陽子, 藤岡
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: 文庫



藤岡陽子さんの『ホイッスル』を読み終わった。昨日一日で読み終わってしまった。彼女の作品を読むのは三作目。

あらすじを読むと、年老いた人の狂った恋愛で人生を狂わされた人々の話という感じではっきり言って面白くなさそうだし、この話からどうやって感動的な結末に持っていくのか、と思っていたが、素晴らしかったし何度か涙がこぼれそうになった。

とにかく登場人物一人ひとりが何らかの生きる上での困難さを抱えており、善側の人間のグループに入る役目の人々はそれぞれが何とか、その状況を受け入れながらも前向きに生きていこうとする姿が読んでいて何とも言えずジーンときてしまう。そして現役看護師だけあり、看護の世界、死に向き合う人の心などの描き方がとてもリアルで素晴らしい。

何個かとても共感できる言葉があったので紹介したい。(ページ数は単行本版)

大学時代の友達に会い、「もう少し自分の欲望のまま生きたら」と言われ、真面目に生きることに疑問を持った弁護士芳川が、事務員の沢井に電話をする場面。
p.117
芳川:「欲望を抑えて生きることは、つまらないことでしょうか?」
沢井:「他人や自分を傷つけるような欲望は、抑えるべきだと思います。それに・・・・・・理想を持って生きていたなら、欲望を抑えることができるのだと。立派なものでなくても自分なりの理想を持って生きることは、すごく大切なことだと思います」

p.215
幸せはじぶんしだいで増やせるものだと聡子は気づいた。
「不幸せの量はみんな同じ。幸せの量はそのひとそれぞれ」

またまた芳川と沢井のやりとり
p.279
芳川「沢井さんはどうしてそんなに真面目なのかなって。どうして他人のことをそれほど真面目に思いやれるのかなと、時々不思議に思います。」
沢井「まじめにやることが一番の近道だなって思うからです。私みたいな不器用な人間は特に。いえ、器用な人でもやっぱり、そうかもしれません。」

人間の「性と生」ということを主軸に据え、人々の醜い部分を描きながらも、真面目に誠実に生きることの大切さをそっと教えてくれるこの作品。素晴らしかった。
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