晴れたらいいね [文学 日本 藤岡陽子]
これも看護師の話。夜勤中に地震に見舞われ、意識を失ってしまって、気がつくと、今まで看護していた女性の若い時代にタイムスリップしてしまっていた、という話。しかもその若い時代が戦争中で、場所はマニラ。
私はこういったタイムスリップものがあまり好きではない。SF系作品も好きではないし、あまり現実味がないので苦手なのだが、いろいろな人の感想を見ると結構感動作とあるので、あまり期待せず読んでみた。
現代と過去を比べて、現代を相対化する意味でのタイムスリップ、そして単純に今が戦時に比べて幸せで平和だ、ということを伝えたいのではない仕掛けやセリフがあり、本当に素晴らしかった。
「どうしてそんなに人のために尽くせるの」という主人公の問いに答えた親友の言葉が胸をうつ。
pp.209~210
「怒っているからよ」
中略
「こんな気持ちを誰にも打ち明けたことはないけれど、私は心底この戦争を憎んでいるの。」
自分は命が生まれる手伝いをする看護婦だ。だから、命を簡単に懸ける戦争を決して許さない。命を生み出し、そして育むのに、女たちがどれほどの時間と力を費やすのかを、男は知らない。
最高に美しく、最高に力強く、最高に心を打つ文章だ。
『手のひらの音符』とは全く違った種類だが、とにかく素晴らしい感動作だ。最後の50ページはひたすら涙が止まらなかった。この本は是非、手元に置いておきたいと思った。
2022-03-12 15:48
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