金の角持つ子どもたち [文学 日本 藤岡陽子]
藤岡陽子さんの作品は二作目。『手のひらの音符』を読み何度も涙を流してしまったが、この作品も何度も涙を流してしまった。
主人公は、小学校6年生までサッカーに打ち込んできた少年俊介。選抜チームに選ばれなかったことで、きっぱりサッカーの道を諦め、中学受験へ意識を変える。あらすじ等を読むとあまりにも突拍子もない感じに思えてしまうが、この決断に必然性があるようにうまく筋が考えられているのが素晴らしい。
俊介の母親、父親、難聴の妹、親友で同じ中学を目指す倫太郎、彼を支える塾講師加地、それぞれが過去の自分の行為に何らかの後悔を持ちそれを何とか払拭しようと努力している。それぞれの姿が純粋でしかも努力をしているのがとにかく読んでいて気持ちが良い。
塾講師加地が、塾随一の秀才の女の子に受験直前にかける言葉が美しい。恐らく東京大学入学式での上野千鶴子氏のスピーチを下地にしているんだとは思うが、物語の中で語られると涙が出てくる。
p.247
「美乃里、一つ頼みごとをしていいか」
~中略~
「なんですか」
~中略~
「おまえが大人になったら、その能力を他の人にもわけてほしいんだ」
~中略~
「おまえのようになりたくてもなれない人が、世の中にはたくさんいる。いろいろな理由で不本意な生き方しかできない人が、驚くほどたくさんいるんだ。~」
~中略~
「了解です、先生。私、賢くて、他人を思いやれる優しい人になります」
俊介の両親のその後、妹のその後など、描いて欲しい要素はたくさんあるが、とにかく最後は気持ちの良いエンディングだった。
『手のひらの音符』共々、多くの人に読んでもらいたい良作だ。
2021-12-26 17:33
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