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魅せられたる魂(一) [文学 フランス]


魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)

魅せられたる魂〈1〉 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1989/11/16
  • メディア: 文庫



久しぶりに、ロマン・ロラン作品を読んだ。
名作といわれる『ジャン・クリストフ』が非常に読むのが困難で、面白くなく、もう彼の作品は読まなくても良いや、と思っていた。が、色々調べると、この『魅せられたる魂』は、ジャン・クリストフの女性版であり、新しい女性観を提示しており、『ジャン・クリストフ』よりも遙かに面白いという書評を多く目にした。さらにこの本は現在岩波で「品切重版未定」状態であり、偶然古本屋で見つけてしまい、これは買うしかないと思い、半年くらい前に買っておいた本だ。
400ページ以上あるかなり分厚い本で全5巻。それだけで引いてしまうそうだが、長編好きの私としては逆に読む気がぐんぐん沸いてい来る。

そして読み始めた。主人公は裕福な商人階級の金持ちの娘アンネット。父親が死去した後、父親が不倫して作った妹シルヴィがいることを知り、彼女と時間をかけて打ち解けあい、やがて一緒に住むようになる。そんな中、お年頃のアンネットはロジェという、政治家志望の格好いい金持ちと恋愛関係になる。結婚寸前まで行く。しかし、アンネットはここで不安に思う。

100年以上も前の話であり、ヨーロッパの話とはいえ、女性が男性の家に入るという社会風土であった。当然ロジェは、アンネットが自分の家に入り、彼は彼女の全存在を支えていくものというマッチョイムズに支配された考え方でアンネットに迫る。こう書くと、かなりロジェが強引に男性優位的にアンネットを支配下に置こうとしていたかのように思われるかもしれないが、そんなことはない。彼は非常に優しくジェントルに接する。しかし、アンネットはロジェのやさしさの根本に、マッチョイムズ、結婚したら身も心も一体になり、女性は男性に従うものであるという、考え方があるのを見抜く。

これは言葉に書き表すのは非常に難しい。私は男であるが、このアンネットの気持ちが非常にわかるのだ。男女間に関わらず、恋愛関係になると、どうしてもその人のすべてを知ったり、あらゆることを束縛しようとする人がいる。私にはこの感覚が全く分からない。恋愛関係だろうが、婚姻関係であろうが、魂の自由、つまり個人の自由はあくまで尊重されるべきなのだ。相手の自由を尊重することで、自分の自由も尊重される。しかし、相手を束縛しようと無意識に考え行動している人はこのことがわからない。そしてそういう人に限って、自分の自由を尊重するように相手に要求するのだ。こうした人に、「自分の自由を尊重してくれ」と訴えかけてもあまり意味がない。なぜなら、彼らは相手の自由を尊重していないとは、これっぽっちも思っていないからだ。

結局ロジェは、彼女に結婚を断られた直後、一時の欲望にかられ、アンネットと肉体関係を持つ。アンネットはそんな彼を受け入れるが、彼女の体をものにしたロジェは急激に彼女への思いが消えていく。しかし、責任を感じたロジェはあくまで彼女と結婚しようとするが、アンネットは彼の気持ちが覚めてしまったことを知り、あくまで結婚を固辞する。

この、肉体関係を持った瞬間冷めてしまう男性の感覚もわかる。結局これは、先の話ともリンクするが、相手を求める気持ちが、相手の全人格を求めていないということの証左となるのだ。

のちに、妊娠していたことをしり、彼女は未婚の母となる。
ここからまた彼女の苦難が続いていく。

その後、彼女はあるインテリの男性と結婚寸前まで行くが、正直に未婚の母になったいきさつを話すと彼はその潔癖の性格から彼女を拒絶する。このすべてを素直に話すというアンネットの姿勢も非常に心地よい。

ジャン・クリストフは全く共感できなかったが、このアンネットは非常に共感できることばかりで、読んでいてとても面白い。

退屈な描写も多々あるが、今回は最後まである程度楽しく読めそうだ。

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