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ブロデックの報告書 [文学 フランス]


ブロデックの報告書

ブロデックの報告書

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2009/01/08
  • メディア: 単行本



日本で入手可能な、フィリップ・クローデルの本で、私が読んでいなかった最後の本。
ある寒々しい村で起こった殺人事件の詳細を記録するように、主人公であり語り手であるブロデックが頼まれるところから物語は始まる。

物語が進むにつれて、ブロデックは強制収容所の生き残りであること、この寒村はかつて侵略者に支配されてしまうような感じになったことがあること。その支配者に逆らったものがたどった道、ブロデックの青春時代、恋人との出会い結婚、そして妻が巻き込まれた事件・・・。

とにかく、淡々とした中に非常に厳しい事象が入っている。人間の身勝手さ、周りに流されることで、つまり歯車の中に巻き込まれたと自分を納得することで、非人道的行為を正当化する愚かしさ、とにかく人間の弱い部分が、色々な正当化をされながら語れていく。

常にモヤのかかった感じだが、全ては明瞭に語られていく。

明らかにナチス・ドイツを意識した描写であり、そのナチス・ドイツの台頭を許したのが、我々の心なのだということを、静かにつきつけている書である。

非常に美しい作品だった。

p.75
「自分が残してきたものについてはよく覚えているものだが、戻ったときに何と再開するかはわからないからね。人々が長いこと狂気にとらわれていたときにはとくにそうだ。」

浦島太郎を彷彿とさせる意味の深い言葉。

p.169
「本当は、群衆こそが怪物なのだ。それは、意識のあるほかの無数の肉体からなる巨大なひとつの肉体となって自らを産み落とす。そして、僕は幸福な群衆などないことも知っている。穏健な群衆は存在しない。笑い、ほほえみ、リフレインの背後にさえ、湧き立つ血が、騒ぐ血が、おのずと回転し、その自分自身の渦の中で撹乱されて狂気へと赴く血があるのだ。」

この言葉にこの本の全てが凝縮されているとも言って良い群衆批判の言葉。

p.173
「勝つのはいつもムチだってことをわすれちゃいけないよ、ブロデック、知識なんかじゃないんだ。」

だからこそ、どんなに戦争の悲惨さを訴えても戦争はなくならない。もっと理性的に平和について、戦争について考えなければいけないのではないだろうか。

p.287
「殺しに手を染める者は、相手が動物であれ、人間であれ、自分の行為について冷静に考えることはほとんどない。」

p.298
「どちらが正しいのか、過ぎ去った時を闇に捨てないと心に決めた人と、自分に都合の悪いことはみな暗闇に沈めてしまう人とでは?」

後者のほうが幸せであることは間違いない・・・。
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