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偶然の祝福 短編⑦ [文学 日本 小川洋子 短編]


偶然の祝福 (角川文庫)

偶然の祝福 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2004/01/23
  • メディア: 文庫



1. 失踪者たちの王国
2. 盗作
3. キリコさんの失敗
4. エーデルワイス
5. 涙腺水晶結石症
6. 時計工場
7. 蘇生

1は、自分の知り合いで失踪してしまう人が多い、小説家の話。「失踪」というとかなり深刻で大変な事態なのだが、かなり乾いた感じで淡々と語られている。

2は、弟が不良にからまれ殺されてしまったことを発端に様々な悲劇に襲われ、挙句車にひかれ全治三か月の重傷を負った小説家の話。リハビリで病院に行く途中で出会った女性の話を小説にし、プロデビューできたという話。母が宗教にはまっていること、弟が登場すること、主人公が病院に勤めていることなど、小川洋子特有の登場人物設定がこの話でもなされている。

3は、書く事が大好きな少女の家に来た、お手伝いさん、キリコさんの話。主人公の少女にあまり関心を寄せてくれない親に対して、彼女の「書く」という行為を「敬意」のようなものを持って見てくれていたキリコさん。少女に何か問題が起きるたびにその危機を救ってくれるが、キリコさん自体には次々に悲運が舞い込み、結局彼女は短い期間でお手伝いさんをやめてしまう。この少女は大人になり小説家になる(この本全体を読むとそういうことなんだと思う)のだが、そのきっかけを与えてくれたのが彼女だったという愛慕の気持ちから書かれたもののような体裁をとっている。

4は、小説家の前に突如現れた、彼女の小説の一ファンであり、弟の名乗る男の話。若干ストーカー気味なところもあるのだが、主人公の小説家は彼に対して段々と心安らぐ感覚を覚えていく。しかし最終的に彼は彼女の下から姿を消してしまう。ここまで読んでくると、この短編集が実は一人の女性小説家の一生の、様々な時期をクローズアップして描いたものなのではないかということがわかってくる。

5は、飼っている犬が急に体が悪くなってしまい、大雨の中を遠い動物病院へ連れて行く話。小さい息子をつれて大雨の中を歩いてびしょびしょになり、犬も歩けなくなる、という絶望的な状況の中、立派な黒い乗用車が通りかかりある紳士が動物病院へ連れて行ってくれそうになるが、その人自身が獣医だと名乗り、その場で直してくれる話。短いが結構良い話。

6は、不倫相手とのあるホテルの図書館での馴れ初めを語った話。破局へ向かうことがわかっているので読んでいて辛かった。

7は、息子と自分が相次いで体の中に水が溜まるという病気にかかり、挙句自分は声を失ってしまうが、最後は刺繍をしているおばあさんに心を救われる話。この「声を失う」「体のどこかに異常をきたす」「刺繍」というのは小川洋子がよく用いるモチーフだ。

全体的に悲しい話で、シングルマザーの辛い境遇の話なのだが、どこか暖かい雰囲気が漂っていて悪くない。
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