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深き心の底より エッセイ③ [文学 日本 小川洋子 エッセイ]


深き心の底より (PHP文芸文庫)

深き心の底より (PHP文芸文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2006/10/03
  • メディア: 文庫



作家デビューから約10年間のエッセイをまとめたものらしい。

大きく章立てされており
1.心の核を育てる
2.言葉の力に導かれて
3.死は生の隣にある
4.家族という不思議
5.旅の記憶は感性の預金
6.神の存在を感じるとき

2や3は彼女の作品と向き合う姿勢などが書かれており、4では彼女が飼うことになったラブラドール犬のことがユーモアたっぷりに書かれている。6は短く5つのエッセイしかないのでが、彼女が親しみ育った金光教のことが書かれており、神と人間の関係を生み出していく宗教である、というのは面白かった。宗教の本質を捉えたような教えで、他教を排除することもなく心穏やかに暮らせそうな宗教で確かに良い教えだと思った。

p.26
「その文学全集はとにかく重かった。確か表紙がオレンジっぽい色をしていた。寝転がると子供では支えきれず、右側のページを読むときは頭の左を下にし、左側のページを読むときは右をしたにして、一ページずつ値刈りを打たなければならなかった。」

これはすごくわかる。私は重くない本でも寝転がって読むときはよくやっている。

p.37.
「ギリギリの場所に立たなければ見えてこない美しさというものが、この世には必ずある。」

これも非常に良い言葉で、多くの卒業生や色々な人と接していると、ギリギリの場所に立ったことのある人とない人では、うまく言葉では表現できないのだが、持っているものが違う。なんとなく浅いなあと感じられる人というのは、やはりなんとなくレールに乗って生きてきただけの人が多い。

p.67
「読まなければ本はただの本にすぎないのだが、そこに書き付けられた言葉たちを一度でも味わったあとには、それは精神の一部になる。」

これも良い言葉で、良い本だなあと感じた本を、もう二度と読まないだろうと分かっていても手放せないのはこの感覚があるからなのではないだろうか。

p.132
「日本では1940年代にペニシリンが使われたのが抗生物質の始まりだが、すぐに耐性菌が現れ、それ以来ずっと耐性菌対抗生物質の戦いが続いているらしい。この戦いが長く続けば続くほど、菌の力は強くなっていくのではないか。薬の開発の方がいつかは追いつかなくなるのではないか、と心配になってくるのだ。」

これはいまのコロナ狂騒にも当てはまる。ワクチン、マスク、過度の殺菌、すべてがコロナが収束しない状況を作り出しているのではないだろうか。

p.245
「特別なハレの日を好まない性質は今も引き継がれていて、歳を重ねるごとにその傾向が強まっている。」
p.246
「お正月だからといってなぜ換気扇の油を落としたり、お風呂場のタイルを磨いたり、窓をふいたりしなければならないのか。」
「私のとっての理想のお正月とは、訪ねてくる人もなく、つまり掃除をする必要がなく、最新の製造年月日のものを食べられ、文句を言う夫も、うるさく騒ぐ子供もおらず、朝から晩まで好きなだけ小説を書くことができる・・・・・・そういう一日なのだ。」

最後の小説を「書く」を「読む」に変えればまさに私の言いたいことと一緒だ。

この感覚が私が小川洋子さんの作品が好きな理由なのだろうと思う。

私が約10年前、小川洋子さんの『猫を抱いて象と泳ぐ』を学校新聞で紹介した際の文章を載せておきたい。

「私はハレの世界が嫌いだ(晴れた日が嫌いなわけではない)。ビッグ・イベントが嫌いなのだ。多くの人間が楽しんでいるから、当然皆が楽しむべきだ、という考え方に腹が立つ。ケ(褻)の世界で静かに生きていたのだ。ハレの世界に参与しない人間を許さないこの社会で、「それでも良いんだよ」と優しく囁いてくれる小説。全編に流れる静謐な空気感。是非この冬、読んでもらいたい作品である。」

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版



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