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博士の愛した数式 長編⑨ [文学 日本 小川洋子 長編]


博士の愛した数式(新潮文庫)

博士の愛した数式(新潮文庫)

  • 作者: 小川洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: Kindle版



再読

一番初めにこの本を読んだとき、何故この本を手にとったのか全く覚えていない。題名だけ見れば全く興味を惹かれるものではないし、あらすじなどを読んでも全く面白そうでもない。もしかしたらTokyo FMの小川洋子さんの番組「メロディアス・ライブラリ」を聴いて彼女に興味を持ち、彼女の代表作のこの本を読んだのかもしれない。

とにかく彼女の著作との出会いがこの本で正解だった。初読の時もとても面白いと思った覚えがあるが改めて読んでみると非常に面白い。あの後、この本の誕生秘話のようなエッセイも幾つか読んだし、参考文献に挙げられている『数の悪魔』『フェルマーの最終定理』も仕事の関係で読んだし、あとがきを書いている藤原正彦さんの著作も読んだので、様々なエピソードや細かい描写をさらに楽しんで読むことができた。しかも、主人公の家政婦、その息子ルート、そして数学の博士が過ごした1992年が私の青春真っ只中で、自分もタイガースを応援していたということからもかなり楽しめる作品となっている。

私はこの作品を読んだあと、『ミーナの行進』『猫を抱いて象と泳ぐ』『薬指の標本』『やさしい訴え』『妊娠カレンダー』『凍りついた香り』『密やかな結晶』と読んでいったが、どれも美しさと優しさに溢れた作品ばかりだどんどん彼女の小説にはまっていった。

この作品、とにかく数学といい、物語の展開といい、タイガースの絡ませ方といい計算しつくされていて素晴らしい。皆が薦める気持ちもよくわかるし、第一回本屋大賞を獲得した理由もよくわかる。

p.121
「数学のひらめきも、最初から頭に数式が浮かぶ訳ではない。まず飛び込んでくるのは、数学的なイメージだ。輪郭は抽象的でも、手触りは明確に感じ取れるイメージなんだ。」

私は英語を教えているのだが、英文読解のポイントは書かれているものをどれくらい明確にイメージできるかが全てだと思っている。そういった意味で、すべての学問に通じる事なんじゃないかと思った。

p178
「実生活の役にたたないからこそ、数学の秩序は美しいのだ」
「素数の性質が明らかになったとしても、生活が便利になるわけでも、お金が儲かるわけでもない。もちろんいくら世界に背を向けようと、結果的に数学の発見が現実に応用される場合はいくらでもあるだろう。~中略~ 素数でさえ、暗号の基本となって戦争の片棒を担いでいる。醜いことだ。しかしそれは数学の目的ではない。真実を見出すことのみが目的なのだ。」

最近「産学協同」などといって産業界の論理が教育界にどんどん入り込んでいる。それを歓迎する論調はよく見かけるが、問題視するものはほとんどみかけない。なぜなのだろうか。お金儲けや産業界から独立しているからこそ教育とは価値あるものなのではないだろうか。

物語としてもおもしろさだけではなく、純粋に学ぶことの楽しさを教えてくれる素晴らしい作品だ。
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