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夜明けの縁をさ迷う人々 短編⑪ [文学 日本 小川洋子 短編]


夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫)

夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/06/25
  • メディア: 文庫



1. 曲芸と野球
2. 教授宅の留守番
3. イービーのかなわぬ望み
4. お探しの物件
5. 涙売り
6. パラソルチョコレート
7. ラ・ヴェール嬢
8. 銀山の狩猟小屋
9. 再試合

1は、女曲芸師と野球少年の心の交流を描いた作品。河原?でやっている少年野球の傍らで女曲芸師が曲芸の練習をやっている話。少年野球のメンバーの一人、主人公はその女曲芸師のことがいつの頃からか気になりだし、彼女が練習している三塁側にボールがいかないようボールを打っているうちに、流し打ちしかできなくなる。ふとした会話がきっかけとなり二人は心を通わせるようになる。しかし少年の三振がもとで彼女は大怪我。そして・・・。若干悲劇的な結末なのだが、どこか暖かい。

2は、大学の、食堂の叔母さんと掃除婦が主人公の話。食堂の叔母さんの家が放火され、それがきっかけで海外赴任の大学教授宅にしばらく住まわせてもらうことに。そんな食堂の叔母さんが住まわせてもらっている大学教授宅に掃除婦のおばさんが遊びに行ったところ、教授の論文が賞を取ったという報告が入る。すると次々に花やら食べ物やら祝いの品が届く。最後には冷凍のでっかい魚が届く。あまりに大きいのでのこぎりで切って冷凍室に入れようとすることになるが・・・。最後は恐ろしい結末。どこかで似たような感じの結末を読んだことがある気はするが・・・。

3は、中華料理のビルで生まれてしまいそのままおぎざりにされ、そこのエレベーター・ボーイになったイービー(E・B)の話。完全にエレベーターという閉じられた空間でひっそり生活するという設定が、『猫を抱いて象と泳ぐ』『ことり』『琥珀のまたたき』の先駆的作品な気がする。最後に露と消えてしまう感じも何となく幻想的。

4は、客が家を探すのではなく、家が客を探すということで、いくつかの物件の歴史を記したもの。『沈黙博物館』に近い雰囲気がある。

5は、楽器のおとが良くなる自分の涙を売って、生活を立てる女性の話。そんな彼女がストリートパフォーマーの男性に恋をし、彼のためだけに自分の涙を使うようになり、最後は・・・。谷崎潤一郎の『春琴抄』や小川洋子さん自身の『密やかな結晶』に通じる世界観がある。

6は、姉弟とベビー・シッターさんの心の交流を描いた作品。霊的な世界も描いていながらエグさや恐ろしさがなく何故かほのぼのとしている。

7は、『ホテル・アイリス』に近い、マゾヒスティックな性愛を描いた作品。主人公は整体師の男性で、全15巻の全集も出版している作家の孫のおばあさんの足裏マッサージに毎週行っているという設定。その足裏マッサージをしている最中に、そのおばあさんとその作家の大ファンだという若い男性の性的行為を1時間聞くという設定。その性的行為は作家が物語で描いたそのままをしているということになっているのだが最後は・・・。どこまでが本当でどこまでが嘘かわからない、これまた小川洋子さん特有の展開となっている。

8は、別荘購入を勧められた、女声作家が秘書の男性をつれてその別荘を見に行き、そこで出会った不思議な男性との会話を中心にストーリーが展開する。サンバカツギという動物が出てきたり、これも最後はどこまでが本当なのかわからない感じ。

9は、数十年ぶりに甲子園出場を決めた学校の一女子生徒が語る物語。彼女はレフトを守る選手に恋をしており彼をずっと追いかけ、甲子園でも彼をじっと見つめ続ける。チームは決勝にまで行き、0-0のまま引き分け再試合。再試合も0-0のまま進む。最後はどうやって終わらせるのかとワクワクしながら読みすすめていると、「えっ、そう言うオチ?!」という感じで終わる。

後半ちょっと残念な感じになっていったが、全体的には彼女特有の世界観が味わえる読みやすい短編集となっている。
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