青い糸 [文学 日本 安房直子 あ行]
みなしごで育ち、今は街の「かど屋」という宿屋の女中として働く千代の話。
彼女の好きな仕事は、店のガラス戸をみがくこと。
ある日ガラス戸をみがいていると、ふしぎな人かげがぼんやり映る。その人は馬に乗ってゆっくり片手を降っていたように見えた。しかし扉を開けると誰もいない。そんなことが続き、ついに千代は番頭の正吉じいさんに悩み事を相談する。じいさんは「春のかげろうか、かすみのいたずら」だと思うが、千代に少しでも幸せな気分になってもらいたいと思い、「あんたのいどころを、たずねまわってたのかもしれないなあ。」と言ってしまう。そして差出人不明のラブレターを彼女に出してしまう。ここのじいさんの気持ちの描写がなんとも切ない。
p.204
「正吉じいさんは、千代に手紙を書いたのです。ちょっとした恋文でした。やさしい、いい手紙でした。差出人の名を書くのはやめておきました。それを、正吉じいさんは、ほんものらしくするために、念入りにも、駅前のポストに入れたのです。
じいさんは、みなしごの千代に、ちょっとした身寄りをつくってやりたいと思っただけでした。ただただ、それだけのことだったのでした・・・・・・。」
結局一度しか手紙は届かず、千代は再びじいさんに相談に。するとじいさんは、「いっしょうけんめい働いて、いい娘でいさえしたら、そうさなあ、はたちになるころには、きっとまたあらわれるだろうよ」と言ってしまう。そんなに長く我慢できないと思った千代だが、セーターを編んで待つことに。
駅前の糸屋に青い糸を買いに行き、良いものを見つけ見せてもらって気に入って購入しようとして値札を見ると、一ヶ月分の給料よりも高額だった。店主がほかの客に対応しているあいだ、彼女はそれを持って逃げてしまう。つまり泥棒してしまう。
良心の呵責に苛まれながらも青のセーターを編み続けるが日毎にやつれていく。そんなある日、胸の中で様々なことをしまっておくことができなくなり「鳥になりたい」とつぶやき本当に青い唇の真っ白な鳥になって飛び立ってしまう。
~20年後~
母親が再婚し捨てられてしまい孤独に育ったカメラマンの男性が、「かど屋」に泊りに来る。宿はあまりにも混んでいたので、昔千代がいた屋根裏部屋に泊まることに。そこで昔、自分に優しくしてくれた女の人がしてくれたあやとり遊びを思い出す。偶然そこに編みかけの青いセーターを見つける。それを少しほどいてあやとり遊びをしていると、青い唇をした真っ白な鳥がやってきて、その糸をついばみもっていってしまう。何度かそのやりとりを行ったあと、その男性も鳥になってあやとりで作ったまどからあちらの世界へ行ってしまう。
ほんの出来心から生まれた盗み、孤児、貧困、様々な負の要素を描きながら何故か暖かい雰囲気で、さらに物語の先に見える世界も幸福感がある不思議な作品。
2022-07-18 14:41
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