ことり 長編⑯ [文学 日本 小川洋子 長編]
再読
淡々と静かに穏やかな日常が描かれて終わる小説という印象だったが、後半が全く違い圧倒的だった。
幼稚園の鳥小屋の掃除を長年おこなっていることで、「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになった主人公と、11歳を超えたあたりから、人間の言葉ではなく、自分独自の言葉、ポーポー語を話すようになったお兄さんの話。
ポーポー語は、本人と鳥と弟だけがわかる言葉。何とかもとのことばを取り戻させたいと考える母親はありとあらゆる手を尽くすが、うまくいかず、兄弟が若い頃に血液の病気で死んでしまう。その後大学教授だった父親も、ゼミ合宿で海に溺れて死んでしまう。
二人になってしまった兄弟は、小さい商店だったのがいつからか薬局になってしまったお店で買う、「ポーポー」というキャンディを水曜日に買い、お昼には二人で決まったサンドイッチを食べ、夜にはラジオを聞き寝る・・・という規則正しい生活をして幸せに暮らしていた。
小鳥の小父さんも、ゲストハウスの管理人を勤めながら、毎日同じリズムで静かに繰り返される生活を営んでいた。しかし、お兄さんが、幼稚園の鳥小屋の前で死んでしまったことをきっかけに、小鳥の小父さんから平和な日常がどんどん奪われていく。
お兄さんがなくなってから通うようになった図書館で出会った、若い女性司書に対する淡く静かな思いも、突然司書がやめてしまったことで奪われてしまう。
ずっと勤めていたゲストハウスも、いつの間にか、誰でも入園可能なバラ園になってしまい、静かな空間ではなくなってしまう。
その後、幼女誘拐事件が起き、その犯人として疑われたことにより、お兄さんがなくなって以来続けていた幼稚園の鳥小屋の仕事も奪われてしまう。ずっと味方でいてくれた幼稚園の園長もすでにやめてしまっており、ボケてしまっているような状態らしい。
さらに、誇りを持って続けていたゲストハウスの管理人の職も奪われてしまう。
初めはゆっくりとした展開で、読み進めるのにも結構苦労したが、後半、どんどん平和な日常が奪われて行き始めると、悲劇的な感じなのに、ページを進む手が止められない状態になってしまった。
最後の、メジロの鳴き合わせ会で最後に取った小鳥の小父さんの行動が静かながら、感動的だった。
小父さんと図書館司書の暖かな心のふれあい、あっけない別れが、とても美しく切ない感じで良かった。
静かに生きることの美しさ、それを奪われていくことの悲しさ痛みを描いた、この作品。とても良かった。
2022-09-10 16:42
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