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琥珀のまたたき 長編⑱ [文学 日本 小川洋子 長編]


琥珀のまたたき (講談社文庫)

琥珀のまたたき (講談社文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: 単行本



再読 私が前に書いたのとほぼ同じ感想を持った。小川洋子さんという人は、犯罪的行為を描いても、どこか優しさを持って描いてしまう人なのだなあと改めて感じた。

前に書いたブログの内容。
実の母親に監禁される(外に出てはいけないと言われそれを忠実に守る)子供たちの物語。これだけを読むと非常に暗いイメージを持ってしまうのだが、読んでいて暗い印象は全くない。その閉じられた空間で、しかも限られた姉・弟・弟という三人の人物だけで、ここまで世界が広がっていくのか、とびっくりしてしまうほど広大な世界が広がっている。
しかし閉じられた空間というのはどうしても外部からのちょっとした侵入で壊れやすくなる。
草を狩るためにこの世界に連れてこられたロバ
前の住人に対して営業をかけていた男
彼らが入り込むことで絶妙に保たれていたバランスが見事に崩れ出す。

いつも書いていることだが、特別であること、グローバルであること、外の世界に開かれていることが賞賛されるこの世の中において、普通・平凡であること、同じことを繰り返すこと、閉じられていることなどの、美しさ・愛おしさにスポットをあて、ことさらそれを賞賛するでもなく、そっと読者に提示する、小川洋子さんの優しい世界が私は大好きである。

私が読んだ本は文庫なので、最後に解説が付いている。
大森静佳(歌人)さんという人が書いているのだが、その最後に次のような一節がある。本編ではないが、この作品のすばらしさを非常に簡潔に言い当てている文なので紹介したい。

「声の大きいひとの言うことが広く「真実」にされてしまいがちなこの現実において、『琥珀のまたたき』のような物語に耳を澄ませる時間が、どれほど貴重で、愛おしいか。この小説を読んで、私はまた少し、人間を、そして物語というものを好きになった気がする。」

今回読んで、死んでしまった四番目の女の子の存在が、この家族の中でとても大きな存在だったことに意識がかなり向いた。自分の子供が成長したことで、「子どもが死ぬ」ということに対する感じ方が少し変わったのかもしれない。そして、長女オパールに寄せる、淡い恋心に似た琥珀の気持ちも繊細に描かれており、興味深かった。さらに、この本の語り手(?)の、元伴奏ピアニストは誰なのか、という若干ミステリー的要素(結局最後まで明確にはわからないが・・・)も楽しめた。
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