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差異の政治学 [学術書]


差異の政治学 新版 (岩波現代文庫)

差異の政治学 新版 (岩波現代文庫)

  • 作者: 上野 千鶴子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫



『岩波講座現代社会学』や『日本のフェミニズム』など、全集本のようなもののまえがきとして書かれてようなものが多く収められており、その学問の大枠を説明していたり、歴史的な発展のようなものを説明していたり、言葉の細かい定義づけをしていたり、結構読みづらい作品集で、自分でも書いていたが、彼女の著作の中ではあまり読まれていない本らしい。

しかし読んでいるうちに、面白い視点がやはりいくつも提示され、今まで彼女が何度も問題意識として取り上げていた「家父長制」「ナショナリズム」「ジェンダー」の話がされ、「男性学」や「ゲイとフェミニズム」の話などはかなり興味深く読めた。

p.34
「ジェンダーに限らず、差違化は必ず「われわれ」と「かれら」、「内部」と「外部」に非対称な切断線を引くことで、カテゴリー相互の間にも、またカテゴリーの内部にも権力関係を持ち込む。したがって、政治的でないような差違化は存在しない。「差別のない区別」のような一見中立的な概念も存在しない。」

これは激しく同意する。「これは差別ではない、区別だ」とよく強者や権力者は言うが、私には昔から意味がわからなかった。「差別」的なものを含まない「区別」などこの世に存在するのかと。だからこの一節を読んだとき、思わず感動してしまった。


p.238
「田中美津は七〇年に書かれた「女性解放への個人的視点」と題する文章の中でこう書いている。
  弱肉強食のこの世は、生産性の論理をもって成立している。車優先の歩道橋ー
  老人、子ども、病人「障害者」無視のそれを思い浮かべればよい。企業にとって
  役に立つか立たないかをもって、ヒトの生命の尊厳を卑しめていくその論理は、
  あたしの生活を、意識を日常的に蝕んでいく。今回の優生保護法改悪案(中絶禁止法)
  のその改悪の方向は、むろん生産性の論理、その価値観をより強く女の意識に
  植え付けようとするものだ。」

これも深く同意した。生産性の論理で動くことの多いこの日本社会。コロナ禍になりその傾向はさらに強まっている。


p.271
「山崎は「フェミニズム以後」の同世代の女たちの過渡期の中途半端さにふりまわされる自分たちの世代の男のとまどいと憤懣を、率直かつユーモラスに描く。「権利を主張するフェミニスト」と「女らしさから利益を貪ろうとする打算的な女」が「ひとりの女の中に同居している」というかれの指摘には、苦笑してうなずく女性も多いだろう。」

これも激しく同意するとともに思わず笑ってしまった。私のもっとも苦手な女性は「女らしさから利益を貪ろうとする打算的な女」だ。


p.303
「多くの異性愛者は、異性愛を選択したわけではない。それは社会化による刷りこみや、文化的な条件づけや、社会規範の内面化によって、「気がついたら異性愛者だった」と後になって自覚されるようなものである。」

これは新しい発見であり、確かになあ、と思う反面、じゃあ性欲と愛情は違うのか?などなど結構解ききれない問題が自分の頭の中でどんどん出てきてしまった。

p.319
「異性愛者は、相手の性別が異性だと認知されたときに、性的欲望の掛け金がはずれるよう、プログラムされている。愛するか愛さないかは、相手の性別を確認してから決まる、というわけだ。もちろん異性なら誰でも愛するわけではないが、相手が異性だというだけで、発情装置の水位はあがる。
 それを不自由と、強制と、呼んでもいい。異性愛のコードのために、人類の半分を性愛の対象から失うのは、大きな損失だ、と言ってみてもいい。」

これもかなり考えさせられた箇所だった。自分のことを省みると確かに異性だと認知されて性的欲望の掛け金がはずれている気がする。同性に性的欲望を感じないのもやはり文化的にプログラムされたものなのだろうか?


p.337
「わたしが嫌悪した二つのもの、ミソジニー(女性嫌悪)とホモソーシャリティ――異質排除のマッチョ志向、すなわちファシズムに至る病――この二つが、「敵は誰か」というとわたしの敵であり、フェミニズムの敵であった。」

特にホモソーシャリティの説明、異質排除のマッチョ志向、ファシズムに至る病の部分は同感だ。日本社会はどこでもこの二つが溢れている。しかもそれを自覚せず、肯定的に捉える「おじさん」が多いのも本当に嫌だ。

初めは結構厳しかったが、読み進めるとやはり色々刺激的な本だった。
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