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Harry Potter & the Prisoner of Azkaban [文学 イギリス]


Harry Potter and the Prisoner of Azkaban

Harry Potter and the Prisoner of Azkaban

  • 作者: J.K. Rowling
  • 出版社/メーカー: Listening Library (Audio)
  • 発売日: 2000/02/01
  • メディア: CD



ハリー・ポッターの第三巻を聞き終わった。
無実の罪で囚われていたシリアス・ブラックが登場。ハリーとハーマイオニーの活躍で、シリアスを無事助ける。
ハリーの父親の人間像も見える巻でそれなりに面白かった。

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Middlemarch BOOK8 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



Middlemarchを遂に読み終わった。ほぼ3ヶ月かかった。正直、もっとかかるかとも思っていたので、それなりに速く読み終えられたかな、とも思う。

完全に、打つ手がなくなったRydgateにDorotheaが救いの手を差し伸べる。Rydgateと会ったことがあり、Rydgateという人間を信頼しているDorotheaは、彼に対して町の人がさまざまな悪い噂を流しても彼を信じ続ける。彼のことに対して彼女が発したことばはとても素敵だ。

p.603
’I feel convinced that his conduct has not been guilty: I believe that people are almost always better than their neighbours think they are,'
「私は彼が無実だと信じているわ。人というものは、その人に対して周りの人たちが思っている以上に、だいたい常に、いいものよ。」
つまり、人の噂なんぞ当てにならないということだ。すべての人がこうした心で人に接し行動していけたら、もっともっと平和な世界になっていくのに、と思う。

そして、Rydgateの妻、RosamondがRydgateととの結婚を悔やんでいる場面を第三者的に記した筆者の言葉がまた素晴らしい。

p.619
He(Will Ladislaw) would have made, she thought, a much more suitable husband for her than she had found in Lydgate. No notion could have been falser than this, for Rosamond's discontent in her marriage was due to the conditions of marriage itself, to its demand for self-suppression and tolerance, and not to the nature of her husband.

「彼(ラディスロー)は、夫リドゲイトよりも、もっと自分に合った夫であったであろう、と彼女は考えた。しかし、この考えほど間違った考えは無い。なぜなら、自分の結婚に対するロザモンドの不満は、結婚生活それ自身に起因する不満であり、自分を抑え我慢しなければならない、ということに対する不満であり、夫の性格に起因するものではないからである。」
これもすさまじい金言ではないだろうか。隣の芝は青い。結婚というものは他人と他人が一緒に生活することであり、かならずどこかで、自分を抑えなければならないし、我慢しなければならないのである。それはどんな人と結婚しようと同じことである。

同じようなことを言っている箇所があるので、もう一つ紹介したい。Dorotheaが語った言葉である。

p.654
'Marriage is so unlike everything else. There is something even awful in the nearness it brings. '
「結婚は、他のどんなものとも違う。結婚がもたらす近さというものの中には、ひどいものが含まれている。」

この後、結婚後に本当に愛している人がいることに気づいてももう手遅れだ、という発言が続き、これは法的なことをいっているんだとは思うのだが、その文脈を少しはずしてもこの文を解釈できると思う。先にも書いたが、結婚というものは他人と他人が一緒に生活する。そして、それは普通の友人関係とは違い、簡単にご破算にすることは出来ない。だからこそ多くの苦しみがそこから生じるのだ。

最終的にはこの物語はハッピーエンドで終わる。
Dorotheaは自分の思いのままLadislawと結婚し、幸せな生活を送る。
Maryも彼女の父の信頼を得たFredと結婚し、幸せな生活を送る。
RosamondとRydgateはLondonでうまく生活できるようになるが、Rydgateは50歳という若さで死ぬ。その後、かなり年上の医者と結婚したRosamondは幸せな生活を送る。

物語の最後だからおそらく、ハッピーエンドにしたのだろう。
しかし、細かく見れば、すべてがハッピーな結婚生活などありえない。そして、Ladislawと結婚して幸せになったと書かれているDorotheaもMr.Casaubonと結婚していなければLadislawと結婚することもなかったであろう。

さまざまな人の人生を、心理的側面に光を当てながら、描き、絡ませていく。たしかに、すばらしい小説だ。ある主人公がいて、その主人公にスポットを当てながら、分かりやすく話を展開させていき、悪者と善者が描き分けられているといった物語が好きな日本人には確かに受けない小説なのであろう。

幸せとは何か、本当に愛とは何か、信じるとは何か、さまざまな根源的な問を美しい物語を通して考えさせてくれるこの小説。本当に傑作だと思う。

ただ、個人的には、美しい心を持ったDorotheaとRydgateを最終的には結婚させて欲しかった。
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Middlemarch BOOK7 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



この巻は医者のRydgateを中心に話が進む。
Rosamondの無駄遣いのために、家計が窮地に追い込まれ、借金の返済に日々終われるRydgate。
家財道具などを売って、借金を返済しようとRosamondに提案するが、にべも無く断られる。しかも、彼女は裏で金を工面しようとするのだが、そのすべてが裏目に出る。なんだかんだあり、結局彼女は実家へ帰っていく。
正直、最低の女だと思う。Dorotheaは歳の離れた結婚で、不幸であったように描かれているが、前もかいたが、彼女は夫が生きているときは、本当に彼のことを愛していたように思われる。そして彼のために本当に頑張っていた。
が、このRosamondは自分の好きなことばかりやり、夫婦の危機にも積極的に対処しようとせず、大変になったら、さっさと逃げていく。この人には愛はもともとなかったのだ。金が無ければ成り立たない愛など愛ではないと思うのだ。

そしてこの巻はもう一つの話の流れがある。富豪で銀行家のBulstrodeは、現在の妻と結婚する際、裏で色々と手を回したことがあった。現在の妻の資産のおかげで今の地位を築くことが出来たのだが、その昔の話を元にゆすられることになってしまう。
そして、そのゆすっていた人間をうまく殺すことに成功する。その殺された人間の最期の数日、医者として診ていたのが、Rydgate。彼は的確な指示を出し、この男を救おうとしていたのだが、結局は死んでしまう。死因に不可解なことがあったものの、彼は特にそのことについてBulstrodeを問い詰めない。
しかし、その最期の数日の間に、RydgateはBulstrodeから無利子で金を借り、借金を返却する。別に彼自身殺人に関わっていたわけではないのだが、街の人々はそうは思わない。これによってRydgateはいままで以上に一層色々な意味で苦境に立たされる。

本当に美しい心を持ったRydgateがこんな状態になってしまうのがかわいそうでならない。
いよいよ後一巻。
RydgateとRosamond、Dorothea、FredとMaryがどうなるのか、楽しみだ。
本当に色々なことを複雑に絡ませながら、クライマックスに持っていくこのMiddlemarch。
素晴らしい作品だ。
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Harry Potter & the Chamber of Secret [文学 イギリス]


Harry Potter and the Chamber of Secrets (Harry Potter 2)

Harry Potter and the Chamber of Secrets (Harry Potter 2)

  • 作者: J. K. Rowling
  • 出版社/メーカー: Bloomsbury Childrens Books
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: CD



Harry Potterの2巻を聴き終わった。
ホグワーツに通うハーフブラッド(人間の親から生まれた子)が次々に何者かによって襲われる。
この事件の解決の過程で、再びハリーとヴォルデモートが対決する。

関係ないが、ギルドロイ・ロックハートというDefense against the Dark Artsの先生がいるのだが、この教師がとにかくどうしようもない。顔がいいだけで、全く使えない。人の行った偉業を横取りし、その人の記憶を喪失させ、さも自分がやったかのように、装い、それを本として売り出すという最低の人間なのだが、そんな人間を何故、偉大な魔法使いであるはずの、ダンブルドアが雇ったのかよくわからない。ホグワーツの人事は魔法省に握られているということか?

まあ、とにかく、第3巻までMP3に移行できたので、この先も樂しんで聴いていきたい。

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Middlemarch BOOK6 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



BOOK6を読み終わった。
夫Mr. Casaubonを失ったDorotheaは妹Celiaの家に泊まり、生まれたばかりの赤ちゃんの面倒を見ることになる。しかし、何となく居心地の悪さを感じ、すぐに自分の家に戻る。そこに、Will Ladislawが現れ、Middlmarchを出て行くことをDorotheaに告げる。
しかし、色々有って結局数ヶ月彼は出て行かず、だらだらとDorotheaのことを思い続け、この巻の最後で再びDorotheaに会う。
結局、最後に二人は結ばれるっぽいのだが、何だかなあ、という感じ。あれだけ信心深く、前夫に尽くしていたDorotheaが、前夫が死んだ瞬間、Ladislawのことばかり考え始めるのもどうかと、いう感じだし、夫のいるRosamondと夫のいない間に音楽を楽しんだり、夫のいる頃のDorotheaの元を夫のいない間を見計らって何度も訪れていたLadislawもどうかと思うし。何で、あんなに美しい心を持っていたDorotheaがある意味プレーボーイで軽薄な男Ladislawに惹かれてしまうのかもわからない。非常に残念な展開だ。

もう一つの話の軸、Mr. RydgateとRosamond夫婦にも動きが現れる。Rosamondの消費癖のために、Rydgate家は借金苦に陥る。しかも、Rosamondの軽率な振る舞いのせいで、せっかくの赤ちゃんも流産してしまう。流産が落ち着いた時点で、Rydgateは借金の話を妻に打ち明け、宝石などを売る(返却するなどして)、一緒に解決しようとするが、そんなことをするなら自分は実家に変えるとRosamondは言い出す始末。Mr.Rydgateの志の高さ、心の美しさが非常に伝わってくる分、とってもかわいそうに思えてしまう。読んでいて苦しくなってしまった。

しかし、さらにもう一つの話の軸、Rosamondの兄FredとMaryの恋愛話は非常に美しい。どうしようもない生活に終止符を打とうとFredは大学に行き、牧師になろうとするが、大好きなMaryから大反対される。Businessの世界でもまれるべきだと言われ、牧師になるなら結婚しないとまで言われる。そこで、FredはMaryの父の元で働くようになり、文字の勉強なども始める。Maryの父がFredに言った言葉がとても素晴らしい。今でも通用する内容なので紹介したい。

p.461
You must be sure of two things:
○You must love your work, and not be always looking over the edge of it, wanting your play to begin.
○you must not be ashamed of your work,
 and think it would be more honourable to you to be doing something else.
You must have a pride in your own work and in learning to do it well,
and not be always saying, There's this and there's that.
No matter what a man is - I wouldn't give twopence for him whether he was the prime minister or the rick-thatcher, if he didn't do well what he undertook to do.

非常に素晴らしい言葉だ。

仕事をする際には二つのことが重要だ。
①自分の仕事を愛すること。
②自分の仕事に誇りを持つこと。
どんなに偉い人でも、自分の引き受けた仕事をちゃんとやらない人間はお金をもらうべきではない。

簡単に言うとこんなところだ。日本の多くの偉い人たちに読ませてやりたい部分だ。

さらにもう一箇所非常に共感できる部分。
p.449
If youth is the season of hope, it is often so only in the sense that our elders are hopeful about us; for no age is so apt as youth to think its emotions, partings, and resolves are the last of their kind. Each crisis seems final, simply because it is new.

「もし、若い時代は希望の時代だということばがあったとしても、それは大人が若い人々にそう望んでいるという意味でそうであるに過ぎない。というのもどんな世代の人間であれ、若い時代には、その時々の感情、別れ、決心などはその時々で最後のものと考えるからだ。つまり一つ一つの出来事は最後のように感じるのだ、なぜなら単純にそれは新しく経験するものだからだ。」
私は昔から、「若くて良いね。これから何でも出来るよね。」といわれるのが嫌いだった。当時から常に一生懸命生きてきた私としては、その瞬間その瞬間が大変だったし、将来何でも出来るなんて考える余裕も無かった。結局、何でも出来ると思うのは、成長した後振り返り、「あの時もう少し頑張っていれば(もしくはあの時頑張ったから)」というメタ・レベルに立って始めていえる言葉であり、その中にいる若者達には絶対に分からない感覚なのだ。

あと2巻。頑張って読みきりたい。
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Middlemarch BOOK5 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



遂に、二人の女主人公DorotheaとRosamondが顔を合わせる。
BOOK4で結婚した、RosamondとMr.Rydgate。Mr.Rydgateに診てもらっていたMr.Casaubon。夫であるMr.Casaubonの様態を気にして、一人Mr.Rydgateの家に向かったDorotheaがここでRosamondと顔を合わせるのだ。

せっかくMr.Rydgateのもとを訪れたものの彼は不在。しかしRosamondはここで、びっくり仰天の場面に遭遇する。なんと、DorotheaとWill Ladislawがここで二人で音楽を演奏していたのだ。ここで、自分とWillの今までの関係、夫であるMr.CasaubonのLadislawに対する態度をもう一度考えてみることになる。そのときの描写がとても綺麗だ。

p.358
Still there had been signs which perhaps she ought to have understood as implying that Mr. Casaubon did not like his cousin's visits during his own absence. 'Perhaps I have been mistaken in many things,' said poor Dorothea to herself, while the tears came rolling and she had to dry them quickly. She felt confusedly unhappy, and the image of Will which had been so clear to her before was mysteriously spoiled.

「夫が自分の不在時にやってくる彼の従兄弟(Will)をすきではないことを仄めかしたとき、それを理解すべき兆候はいくらでもあった。「恐らく私は多くのことを誤解してたのだわ」とかわいそうなDorotheaは思った。涙が流れたがすぐに拭わなければならなかった。彼女はひどく不幸を感じていた。Willのイメージが、以前持っていたものから大きく変わり崩れた瞬間だった。

この『ミドルマーチ』の書評やあらすじを見ると、Dorotheaは年齢違いの結婚をし、それに対し結婚後すぐに絶望し、その後は夫が死ぬまで、愛というよりは同情のような関係で夫と接するようになる、などと書いてあるものが多いのだが本当にそうなのだろうか。

どんな人間であれ、どんなに愛し合っている人間であれ、結婚後に違和感を感じない人間がこの世にいるのだろうか。そして結婚前の愛情がずっと続く人間がいるのであろうか。そして愛情というのは様々な形がある。Dorotheaのように、夫の思想に共感し、夫の仕事が少しでも役に立つように勉強し、おっとの仕事を助けるということが、本当の愛情ではないのだろうか。この後に出てくる様々な描写を見てもDorotheaは夫を心から愛し、尊敬し、幸せな結婚生活を送っていたのだと思う。この巻でMr.Casaubonは死んでしまうのだが、死にいたるまでのDorotheaの感情の動きはとても素晴らしく、うつくしく描かれている。是非、先入観なしにこの物語を読んで欲しい。どれだけDorotheaが妻を愛し、Casaubonも妻を愛し、だからこそ、Willの出現に嫌悪感をしめしたということが分かるであろう。

そしてこの夫の愛情が、死の間際、Dorotheaをひどく苦しめることになる。自分の死を悟ったCasaubonはDorotheaに自分が「自分が死んだ後自分の思うことを実行してくれるか?」と迫る。しかしそれにはすぐに答えられないDorothea。そのこころの揺れ動きもとても繊細な言葉でつづられる。

p.394
’Before I sleep, I have a request to make, Dorothea.'
'What is it?' said Dorothea, with a dread in her mind.
'It is that you will let me know, deliberately, whether, in case of my death, you will carry out my wishes: whether you will avoid doing what I should deprecate, and apply yourself to do what I should desire.'
「寝る前に頼みがあるんだよ。ドロシア」
「何ですか。」とドロシアは答えた。心の中は不安でいっぱいだった。
「教えておいて欲しいんだが、私が死んだとき、私の思いを実行してくれる気があるかい。つまり、私がして欲しくないことをしない、そして私が望むようにしてくれることを。」

p.396
the thought passed through her mind more than once, though she could not believe in it - might he not mean to demand something more from her than she had been able to imagine, since he wanted her pledge to carry out his wishes without telling her exactly what they were? No; his heart was bound up in his work only.
「彼女の心に一度ならず、次のような思いがよぎった。もちろんそんなことを信じることは出来なかったが。彼は自分が想像している以上のことを彼女に望んでいるのではないか。それが何だか伝えないことで、彼女にそれを実行させようとしているのではないか。いいやそんなことは無いはずよ。彼の心の中は仕事のことでいっぱいだもの」

求めることが何だかわからないのに、将来それを行うことを約束させられることほど恐ろしいことは無い。彼女は一晩まったく眠れず、ひどく悩んだ結果、結局Yesという決断をしたことを伝えるために、夫のもとに向かう。しかし、それを伝える前に、夫は死んでしまう。

愛情がなければ、ここまで悩むだろうか。別に適当な答えをしておいて、夫が死んだ後好きな人生をおくってもかまわない。その約束は二人にしか分からないのだから。ここにはもちろん信仰の問題も絡んでいるとは思う。が、Dorotheaの愛情がここに表れているのではないだろうか。

個人的には、この先も、DorotheaとWill Ladislawが結婚してくれないことを望む。
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Middlemarch BOOK4 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



MiddlemarchのBOOK4を読み終わった。
BOOK3の最後で、死にそうなPeter Featherstonの遺産を目当てに集まっていた人々の模様が描かれていたが、BOOK4の最初にPeterが死に、その遺書を巡って様々な意見が交わされる。正直、人間関係もいまいち頭の中で整理されておらず、結構退屈な箇所だった。

その後、Mr.RydgateとRosamondの結婚話に話は移る。市長の娘Rosamondは若くてハンサムな医者Rydgateと婚約するのだが、周りの人間達の猛反対にあう。Rydgateは財産がないから、というのが理由なのだ。正直「若くて有能な医者」で町中の人から信頼されているのであれば、現在であれば誰も反対しないであろう。現代においては高収入の筆頭に挙げられる職業である。昔と今で職業の見られ方がこんなに違うんだなあ、と興味深く読んだ。

DorotheaもMr. Casaubonとの結婚を周りの人間から猛反対される。このRosamondもMr.Rydgateとの結婚を周りから猛反対される。このBOOK4の時点で、Dorotheaは結婚生活に何となく息苦しさを感じており、Rosamondも、あらすじなどを読むと、今後不幸な結婚生活を送っていくことになるようである。そしてその様子が、周りの人間が反対していたその理由どおりになっていくらしい。

普通の文学作品であれば、周りの猛反対にあっても、二人の愛情でそれを乗り越え、幸せになっていく、という形で終わるか、猛反対にあい、駆け落ちかなんかをして野垂れ死にをするとか、どっちか一方が道徳的に腐敗していって誰かに殺されたり、死んでいく、といったような展開になる。が、この『ミドルマーチ』では、普通の結婚生活を送り、周りからみれば普通に幸せな生活をしているように見えるが、実は内面でひどく苦しんでいる、という、とてもじみ~な展開になる。

同僚と昨日話をしたときに気がついたのだが、ドラマティックでページを読む手が止まらないような本は一度目読んだときは面白くてしょうがないのだが、再読するとそうでもなかったりする。しかし、Jane Austenのような特別大きな事件がおこらないような作品を再読すると、様々な点に気がつき、何度でも読みたくなる。女流作家にこうした作風の人が多い気がする。

とにかく、このMiddlemarchはとても地味なのだが、面白い。長くて大変だが、あと半分楽しみながら読みたい。
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Middlemarch BOOK3 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



BOOK3を読み終わった。
借金を重ねる放蕩息子Fred Vincyと親戚のMary、そのRosamond VincyとDr. Lydgateの微妙な恋愛模様がこの巻のメイン。途中、DorotheaとMr.Casaubonの新婚生活(と呼べないほどの冷たいかんじの)様子が入る。あまりに研究に熱心なMr.Casaubonが倒れ、そこに医者としてやってきたDr.Lydgate。主役の二人、DorotheaとRosamondがつながるきっかけとなる巻でもある。

正直、Fredがどのように借金を重ねて言ったかと言った内容や、金持ちのMr.Featherstoneが死ぬ間際、遺産目当てに集まった人々の模様や会話など、退屈な描写が少なくないのは確かだが、様々な人の微妙な心の動きの描写などは相変わらず非常に素晴らしい。

これから一気に様々なストーリーが展開していきそうな感じなので、ますます楽しみだ。

最後にとっても共感できる箇所を紹介したい。

p.220
Lydgate, naturally, never thought of staying long with her(Rosamond), yet it seemed that the brief impersonal conversations they had together were creating that peculiar intimacy which consists in shyness.

「リドゲイトは当然、ロザモンドと長く一緒にいないよう心がけていたが、一緒に事務的な話を少しすることで、親密な関係が築き上げられていったようであった。当然それは節度をわきまえたものであったが。」

They were obliged to look at each other in speaking, and somehow the looking could not be carried through as the matter of course which it really was. Lydgate began to feel this sort of consciousness unpleasant, and one day looked down, or anywhere, like an ill-worked puppet. But this turned out badly: the next day, Rosamond looked down, and the consequence was that when their eyes met again, both were more conscious than before. There was no help for this in science.

「話をするときはお互い見つめあわざるを得なかった。そして何故だか、それは自然な感じで行われなかった。リドゲイトはどうしても何かを意識してしまうことにぎこちなさを感じ始めていた。そしてある日彼は視線をそらした。まるでうまく動かない操り人形のように。しかしこれがさらに自体を悪くした。次の日、ロザモンドも視線をそらした。結果として再びふたりの視線がぶつかったとき、以前よりももっとお互いを意識するようになってしまった。これは科学ではどうしようもないことなのだ。」

何でもなく普通に会話していた二人がある瞬間からお互いを意識し、ぎこちなくなってしまう。これもよくある出来事なのだが、ここまで詳細に美しく言葉であらわすことは難しい。とても素敵な箇所だ。

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Middlemarch BOOK2 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



ようやくBOOK2が読み終わった。ひとつのBOOKが約90ページなのだが、一日約10ページくらいしか読めないので、結局2週間近くかかってしまう。

この巻はDorotheaとCeliaの話がかわり、Middlemarchに新しくやってきた医者Mr. Lydgateに焦点があたる。BOOK1の最後の時点では、彼とRosamond Vincyの恋愛話で話は進むのかと思っていたのだが、二人はあまり交わらず、基本的にはMr. LydgateがどのようにしてMiddlemarchにたどり着いたのか、そして彼のそこでの人物関係を紹介することにページにほとんどは割かれる。医学をフランスで勉強していた時代の、彼の不倫まがいの恋のエピソードが非常に面白い。

既婚の舞台女優と恋に落ちるのだが(Lydgateの一方的な恋?)相手の女優が、舞台上で(誤って)、夫の男優を刺してしまうという事件が起こる。それは事件ではなく、事故ということで処理され、彼女はフランスをさるのだが、その去り際にふたりが交わした言葉が最高にゾクゾクする。

p.127
'And you planned to murder him?'
'I did not plan: it came to me in the play - I meant to do it.'
中略
’You are a good young man,' she said, 'But I do not like husbands. I will never have another.'
中略
henceforth he would take a strictly scientific view of woman, entertaining no expectations, but such as were justified beforehand.

計画的だったのかを聞いたところ、舞台上で『「殺そう!」とビビッと来た』と返されたのである。いくら小説とは言え、なかなかこの言葉は出せない。恐るべしGeorge Eliot。そしてこれをきっかけに、元々科学の道に邁進し、理性的な生活をしていた彼が、女性に対してさらに理想的なイメージを持たなくなっていく。そりゃあ、初恋の相手との経験がこれじゃあそうなるわな、と思わせる。

この巻の後半では、再びDorotheaが登場する。Mr. Casaubonとのローマへの新婚旅行中、彼の従兄弟の若い芸術家Will Ladislawと出会う。彼がDorotheaに惹かれていく心模様が非常に繊細に描かれる。このあたり(pp.156 ~ 187)もとても美しく大好きだ。

Dorotheaがローマの芸術に関して語った次の言葉も非常に印象的だ。

p.183
I should be quite willing to enjoy the art here, but there is so much that I don't know the reason of - so much that seems to me a consecration of ugliness rather than beauty. The painting and sculpture may be wonderful, but the feeling is often low and brutal, and sometimes even ridiculous.

「ここローマの芸術を楽しむべきなのだろうが、何でそんなにもてはやされるのか理解できない作品があまりにも多い。美しさというより醜さを強調しているようにしか見えないものが多すぎる。絵画にしても彫刻にしても、確かに素晴らしいが、情感があまりもなく、荒々しくて、時にはバカバカしくすらある。」

見た目や形、世間の評判に惑わされ、本質的な部分や心に目を向けない人々への痛烈な批判をしているとも言える。みんながもてはやす芸術やモノが本当に素晴らしいとは限らない、ということをこの文を読むと改めて考えさせられる。

まだまだ先は長いが、ゆっくり読みすすめたい。

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Middlemarch BOOK1 [文学 イギリス]


Middlemarch (Wordsworth Collection)

Middlemarch (Wordsworth Collection)

  • 作者: George Eliot
  • 出版社/メーカー: Wordsworth Editions Ltd
  • 発売日: 1998/01/01
  • メディア: ペーパーバック



George Elliot作MiddlemarchのBOOK1を読み終わった。英米の作家や、文学評論家がこぞって「素晴らしい小説」と絶賛するこの作品を読んでみようと思い、昨年の1月に買ったのだが、なにしろ分厚く(約700ページ=ジョイスの『ユリシーズ』並み)、読み始めるのに覚悟がいり、他の軽い(重量的に)作品を先に読んでいた。そして、今読んでいる和書『新エロイーズ』が比較的軽いので、カバンに2冊入れるのにちょうど良い、さらに新年度の始まりとしてもちょうど良いと思ってついに読み始めた。

ディケンズやオースティンといったイギリス文学の巨匠と比較的生年が近いことから、結構英語が難しいと思ってそれなりに構えて読み始めたのだが、彼らほど読みづらくはなく、それなりに読める。そしてオースティンと同様、大きな事件などは起こらず、Middlemarchという一つの町の中での人間模様をただ描いているだけなのだが、全く単調さは無く、一人一人の心理描写、様々な情景描写が非常に細やかで、美しく、読んでいてとても惹きこまれる。

始まりは、親を亡くし、親戚の家で暮らす2人姉妹、姉Dorotheaと妹Celiaが登場する。姉は非常に美しいがとても質素で信仰深い。妹は良家の娘そのものといった感じの愛らしい女性。そして、Mr. Casaubon, Sir James, Dorotheaの三角関係っぽい話になっていき、結婚話へと発展していく。このあたり非常にオースティンぽいなあ、と思いながら読んでいたのだが、途中でネットであらすじなどを見たところ、段々と他の人物たちも登場し始め話は結構複雑に展開し始めるっぽい。このBOOK1の最後では、Rosamondという美しい市長の娘と、若い医者Mr. Lydgateの恋愛模様も描かれ始める。様々な人間の持つ様々な感情・側面を描いている、という点で、オースティンというより、トルストイの『アンナ・カレーニナ』や『戦争と平和』に近い印象も持ち始めた。

BOOK2も非常に楽しみだ。

最後に、とても印象深い箇所を2箇所引用したい。
p.51
We mortals, men and women, devour many a disappointment between breakfast and dinner-time; keep back the tears and look a little pale about the lips, and in answer to inquiries say, 'Oh, nothing!' Pride helps us; and pride is not a bad thing when it only urges us to hide our own hurts - not to hurt others.
我々人間は、男性も女性も様々な絶望を感じる。そんな時、涙を押しとどめ、青ざめた顔をしながら、(どうした?)という問いに対して「なんでもないよ」と答える。プライドは私達を助ける。プライドは悪いものではない。それが自分の傷ついた心を隠すものであり、人を傷つけるものでなければ。

一応、プライド高く、なるべく人に弱みを見せないように生きてきたつもりの自分にとって、とても慰められる言葉だった。


p.97
Every nerve and muscle in Rosamond was adjusted to the consciousness that she was being looked at. She was by nature an actress of parts that entered into her physique: she even acted her own character, and so well, that she did not know it to be precisely her own.

Rosamondの中のすべての神経と筋肉が自分は見られているという意識に応じて動いている。彼女はうまりながらに、女優であり、自分の肉体に入っていくタイプの女優なのだ。何が言いたいかというと、彼女は自分自身という役を演じさえしてしまうのだ。そしてそれがあまりにもうますぎるので、完全に自分が自分を演じているということに気づかないほどなのだ。

たしかにこういう類の美しい女性はいるなあ、と思わされた。しかしこの表現とても面白く(訳として適切かはわからないが)、本当に人間観察がするどいなあ、と思わされた。
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Harry Potter & the Philosopher's stone [文学 イギリス]


Harry Potter and the Philosopher's Stone (Harry Potter 1)

Harry Potter and the Philosopher's Stone (Harry Potter 1)

  • 作者: Joanne K. Rowling
  • 出版社/メーカー: Bloomsbury Childrens Books
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: CD



Harry Potter & Philosopher's Stoneを読み終わった。というより聴き終わった。
今、3種類の本を一日に同時に読んでいる。
通勤電車 行き  洋書 Middle March
通勤電車 帰り  和書 新エロイーズ
通勤徒歩行き帰り audio Harry Potter series

という感じだ。なので、それぞれが進みがどうしても遅くなってしまうのだが、帰りの通勤で英語を読むのはかなり辛いので、このスタイルを取っている。

10何年前、英語の勉強にと思って、Harry Potter Seriesのカセットを買って聴いていた。が、時代が変わり、カセットもほとんど聴かなくなり、カセット・ウォークマンもほとんど売られなくなり、うちに大量にあるこのシリーズをどうしようかと思っていたところ、カセットをmp3に変換できる機械があることを知り、購入した。

が、とにかく時間がかかる。そして90分以上のカセットには使用しないで下さいとあるのだが、なんでだろうと思っていたら、録音している最中、片面45分を過ぎると急に再生スピードが落ち、46分くらいでいきなりとまってしまう。
ということで一つのカセットがほぼ90分以上のこのシリーズをmp3に移行しようと思うと、抜けてしまう部分が多々出てきてしまうのだが、まあそこは実際の本で補えばよい。とにかく、mp3に移行できてよかった。そして今のところ、3巻まで移行が終わった。

その移行作業と並行する形ではじめから聞き始めた。
昔はよく聞き取れなかった部分などもかなり聞き取れ、とても話しが良く理解できた。
心理描写、一人一人の個性の描き方のうまさ、ストーリー展開の面白さ、など、この作品を批判する児童文学の専門家などもいるようだが、過去の名作に引けをとらない面白さだと思う。ひたすら歩いて旅を続ける、トールキンの『指輪物語』シリーズよりも個人的にはよっぽど楽しめた。



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THE BURIED GIANT [文学 イギリス]


The Buried Giant

The Buried Giant

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber and Faber Ltd.
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: ペーパーバック



The Buried Giantを読み終わった。
確か、1月の最後の日から読み始めたので、ほぼ1ヶ月かかってしまった。
ちなみに、筆者のKazuo Ishiguroがノーベル文学賞を受賞したから買って読み始めたわけではない。
昨年の1月の段階で買っていたのだが、今まで読む時間がなく家に寝かせておいたのだ。
とはいえ、An Artist of the Floating WorldThe Remains of the DayNever Let me goといった作品ほど、あらすじを読んでも面白そうではなく、何故買ったのか良くわからない。おそらく、当時書評を読み、なにか感じるところがあったのだろう。

私は、あまり「ファンタジー」に分類される作品が好きではない。名作といわれている『はてしない物語』も結局完読出来なかったし、「指輪物語」のシリーズも苦手だ。「ゲド戦記」シリーズもよくわからない。いつか書いたと思うのだが、戦闘シーンの多く登場するものや、何かを求めて皆で旅を続けるといった、ゲームで言う、ロールプレーものが苦手なのだ。

まさにこの『忘れられた巨人』はそういった類の作品で、とにかく読み進めるのが困難だった。
主人公のBeatriceとAxlが出て行った息子を探すたびに出て、その過程で、仲間(のようなもの)が増えていき、最後は竜退治を行う、といったようなもので、あらすじだけ読むと全く面白そうな要素がない。
そんな中、旅を続けるうちに、それぞれの登場人物の過去が段々と分かっていき、面白いテーマが散発的に読者に提示される。民族紛争、虐殺、復讐、記憶などなどだ。それぞれが単発的に出てきて、Kazuo Ishiguroの見解が、じっくり語られるようなこともなく、読者に考えさせる、というような手法も読後に考えると、さすがだなと思うが、読んでいる最中は、もう少しこの部分を突っ込んで描写してよ、と思ってしまう場面が多かった。
途中、物語が突然1人称になるのも興味深く、様々な角度から物事を見る、ということからも面白かった。

彼の他の作品ほど、物語として面白かったわけではないが、やはり色々考えるところが多い作品で、結果的にはとても良い作品に出会えたと思っている。数年後ゆっくりまた再読してみたい。
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lord of the flies [文学 イギリス]


Lord of the Flies: New Educational Edition (Faber Educational Edition)

Lord of the Flies: New Educational Edition (Faber Educational Edition)

  • 作者: William Golding
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2012/06/01
  • メディア: ペーパーバック



William Golding作lord of the fliesを読み終わった。
この本は、今年の1月、紀伊国屋の洋書セールで購入したのだが、何故この本を買おうと思ったのかいまや覚えていない。
Suzanne Collins作のThe Hunger Games Trilogyのようなお互いが殺し合い、最後の一人が生き残る、みたいなものをイメージしていたのだが、全く違った。

テーマは、大人と子ども。規律と自由。文明と非文明。といったところだろうか。
子どもは、社会から与えられる規律を嫌い、自由を求める。もちろん文明化された社会環境を享受しながらも、非文明・自然を求めるところがある。
では、大人・規律・文明がなくなった社会で子どもがどのような共同体を作っていくのか、その思考実験だといえる。
最後の結論を読むと、Goldingが理性・文明というものを信じているんだろうなあ、というところが見て取れた。

この物語は男の子達だけの共同体ならどうなるか、というものだったが、ここに女の子がいたとしたらどうなるのか、この作者による、その共同体の物語も読んでみたいと思う。(まあ無理だが・・・)
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AND THEN THERE WERE NONE [文学 イギリス]


And Then There Were None

And Then There Were None

  • 作者: Agatha Christie
  • 出版社/メーカー: William Morrow
  • 発売日: 2011/03/29
  • メディア: マスマーケット



中学2年~3年の一時期、冬は寒いからという理由で、自転車通学を電車通学に変えていた時期が合った。電車の中なら本が読めるということで、この頃読み始めたのが、アガサ・クリスティ。初めて読んだ本が、このAND THEN THERE WERE NONE、『誰もいなくなった』だった。犯人が誰なのか、全く分からず、最後までどきどきしながら読んだ。そしてこの本によってアガサ・クリスティにはまり、その後何十冊もの彼女の本を読むことになった。

が、成長するにつれて、ミステリー作品に対する興味が減少していき、全く読まなくなり、引越しを繰り返すうちに、彼女の本も古本屋にどんどん売ってしまった。

が、今回、ひょんなことから、洋書でこの本を再読することになった。
はじめは、登場人物たちの導入が続き、正直、読み進めるのにかなり時間がかかり、誰が誰だかよくわからなかったが、最初の殺人事件が起き、人々が不安と猜疑心に満たされていき、物語はどんどん面白くなっていき、どんどん読み進め、あっという間に終わった。

本当に面白い本だ。『オリエント急行殺人事件』くらいはもう一回読んでも良いかなと思った。
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ユートピア [文学 イギリス]


ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

  • 作者: トマス・モア
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/10/07
  • メディア: 文庫



トマス・モアの名著、といわれている『ユートピア』を読み終わった。この本は妻が学生時代に買ったらしく、結婚してからずっと家にある。だいたいどんなところにも名著としてすすめられているので、一度は読まなくてはなあ、と思いながら、なんかむずかしそうだし・・・と思いながら、ずっと敬遠してきた。

が、今回、読まざるを得なかったので読んでみた。

非常に面白かった。古い岩波文庫特有の読者を圧倒するあの字体に始めは怖気づいていたが、読みすすめるとどんどん読めた。

この本の構成は

1、トマス・モアが「ユートピア」に行ったことがある、ヒスロディという哲学者(旅人)と出会い、彼と政治談話をする場面。
2、「ユートピア」とはどういう国かの説明
3、トマス・モアが友人に送った手紙。この本を公にして良いのかといった内容。

2がメインで、物語の大部分を占めているのだが、面白いのは、1だ。ヒスロディは頭もよく、色々なことを冷静に論理的に、正しく判断・行動できるので、政治の世界に入ったらどうか、とすすめられるのだが、自分が政治の世界に入っても、周りの人間は自分の意見を聞いてもくれないだろうと、実際の体験を元に話しをする。

結局権力者は、金や名誉、私利私欲のために動いており、それを脅かされるような意見を決して聞こうとはしないのだ。このシステムを解体したのが「ユートピア」である。

ユートピアは恐らくプラトンの「国家」をベースにしており、「金(きん、かね、どちらで読んでもよい)」を蔑視している。そして皆が平等に働き、平等に食す。さらに信仰の自由も完全に与えられている。おそらくマルクスが描いた共産主義社会に近いのではないか。(マルクスはそれを一国だけでは達成できないので、世界に広げていこうと考えたのだろうが)。そして宮崎駿が「風の谷のナウシカ」を作成する以前に作った「未来少年コナン」に出てくる共同体も、このユートピアを参考にしているだろう。

たしかに、理想的で、実現は難しいのかもしれないが、理想に近づくことこそ人間の使命であり、モアが描いたような世界を、我々は志向すべきなのではないかと考える。
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文学とは何か 下 [文学 イギリス]


文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫)

文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫)

  • 作者: テリー・イーグルトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/09/18
  • メディア: 文庫



『文学とは何か』の下巻を読み終わった。
下巻は、構造主義批評・精神分析批評を扱っており、構造主義・精神分析とは何か、という説明に多くのページが割かれており、文学批評とのかかわりはあまり言及されていない。なので、下巻は『文学とは何か』というよりは『現代思想の概観』といったほうが良い本となっている。とはいえ、その辺に転がっている現代思想の解説書よりもはるかに解りやすく、構造主義や精神分析というものが今まででいちばん理解できた(気がする)。

イーグルトンの結論(だと私が思った)としては、「政治性を帯びない文学批評はない」ということだ。結局文学批評をする際、何らかの問題意識を持ってその文学に取り組んでおり、そこには自然と政治性が含まれてしまう。まったくその通りだと思う。

大学時代、卒論を書く際に、どう書いてよいか悩んでいたとき、教授が、「自分の今の問題意識に照らしてテーマを考え、絞りなさい」といってくれ、ようやく卒論を書き始めることが出来た。
それ以来何かに取り組む際、常にこのことを考慮しながら物事を進めている。
「問題意識」なく、行動してもたいした結果は生まれないのだ。

イーグルトンは文学批評の歴史をたどり、そのどれもがその時々、その観点で何らかの問題意識を持っており、それぞれに良い面悪い面があり、どれがいちばん良いとはいえないといっている。しかし、彼が個人的に評価するのは、フェミニズム的批評であり、マルクス主義的批評だ。これはつまり弱者の視点に立った問題意識であり、私は非常にこの点にも共感を覚えた。

イーグルトンの作品は本当に面白く、読んでいるときはなるほど、と思いながらすいすい読めるのだが、後で人に説明しようと思うと、その論理を明確に伝えることが出来ない。

彼の作品を読むときはメモを取るべきだ、といつも思うのだが、読書時間が電車の中なのでなかなかそうも行かない。いつも思うことだが、ゆっくり家で時間をかけてメモを取りながら読み進めたいと思う稀有な作家だ。

文学とは何か 上 [文学 イギリス]


文学とは何か――現代批評理論への招待(上) (岩波文庫)

文学とは何か――現代批評理論への招待(上) (岩波文庫)

  • 作者: テリー・イーグルトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/08/20
  • メディア: 文庫



テリー・イーグルトンの『文学とは何か』上巻を読み終わった。
岩波文庫になる前からずっと気になっていた本ではあったのだが、単行本で買う気もせず、だからといって図書館で借りてまで読みたい本でもなく、ずっとそのままにしていた。
2014年の夏に岩波文庫で出たのだが、しばらく買わずにいた。
今年の2月、本を大量に買い込んだときに、買い、ついに読み始めた。

正直、この本が岩波の赤(小説系)のラインアップだったのに驚いた。題名に「文学」とついてはいるものの、小説ではないし、かといって青(哲学系)や白(社会科学系)でもないし。岩波書店としては迷った末の赤だったのか。
ある意味、岩波現代文庫のラインで出版されてもおかしくない本なのではないかと思ったりもした。

それはともかく、出だしから面白い。
テリー・イーグルトンらしく、「文学とは何か」を語るためには、「文学」を定義しなければならず、その定義づけが歴史上どのようになされてきたのか、ということから議論を始めていく。
そもそも、文学は「フィクション」とされるものだけを入れるべきなのか、哲学書と現在言われているものは文学ではないのか、などなど非常に面白い。上で私が書いた、岩波の赤・青・白といった区分がどうなのかと疑問を読者にまさに投げかけているといえる。

文学はかつては、上流階級のイデオロギーを下級階層に植えつけていくものだ、といったものや、宗教(キリスト教)が衰退していく中で、文学というものが庶民をコントロールする上で重要な役割を果たした、といった記述は非常に面白かった。
その後、文学批評の歴史的流れが紹介され、現象学・構造主義といった哲学的アプローチと並行する形で、文学批評が発展してきたという説明は非常に面白かったが、やはり抽象度が高く、解りづらいということもあって、若干飽きてしまった。もう少し、文学自体を例に取りながら説明してもらえると面白かったようにも思われる。

ピケティの『21世紀の資本』もそうだったのだが、序論に当たるようなところは結構色々な文学作品が扱われていて、解りやすく、興味深いのだが、本論に入ってくると具体例がぐっと減り、抽象度が増し、解りづらくなってくる。まあ、当然といえば当然なのだろう。私の頭が悪いということなのだろう・・・。

下巻を読むのも楽しみだ。

The Remains of the Day [文学 イギリス]


The Remains of the Day

The Remains of the Day

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2010/04/01
  • メディア: ペーパーバック



Kazuo Ishiguro The Remains of the Dayを読み終わった。
主人公のStevensはDarlington Hallという大豪邸のbutler(執事)。その主人公が、butlerとはどうあるべきか、理想のbutlerはどのようなものか、などなど考える中で、かつての自分の体験などを語っていく話。
一つ一つのエピソードが面白い。そして、このStevensとMiss Kentonという女中頭(?)の触れそうで完全には触れ合わない微妙な関係性が絶妙だ。
この大豪邸の主人Darlingtonは戦時中ナチスと関わっており、戦後それを糾弾されたのが物語の端々でにおわされるが直接的に描かれることはない。一時期は反ユダヤ主義思想ももっていたらしいことも、ユダヤ人の女中を二人、ユダヤ人というだけで解雇するというエピソードによって描かれる。
An Artist of the Floating Worldと同じような、第二時世界大戦中の軍部や政治家以外の人びとの戦争責任をかなり間接的に描いた作品。
平和で、ロマンチックな世界でありながら、緊張感が漂っており、不思議な雰囲気を持った本だった。

NEVER LET ME GO [文学 イギリス]


Never Let Me Go

Never Let Me Go

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2011/12
  • メディア: ペーパーバック



 Kazuo IshiguroのNEVER LET ME GOを読み終わった。
非常に、非常に良かった。はじめの出だしが "My name is Kathy H. I'm thirty-one years old, and I've been a carer now for~"と始まる。carerとは何なのか、まったくわからないまま読み始めるのだが、このcarerというものの正体がわかるのはずっと後なのだ。そしてHailshamということばも出てくるが、これが学校のようなものとわかるのも結構読んでからとなる。なので、はじめは非常に読みづらいが読み進めるうちにどんどんその世界に引き込まれる。
 物語は全部で3つのパートに分かれている。
Part1はHailshamという寄宿学校のような場所での生活。
Part2はCottagesという場所での、Missionまでのモラトリアム期間のような生活。
Par3でいよいよcarerの正体がわかり、登場人物たちがなぜHailshamという空間、Cottagesという空間で生活し、特別な形で育てられたのかがわかる。

 簡単に言ってしまうと人間クローンの話で、病気で苦しむ人々のために人間クローンを作り、臓器を提供しようというプログラムなのだが、Cloneという単語が出てくるのもこの長い小説の中で一回だけで(私が認識した限り)、しかもかなり後半になってからこの言葉が用いられる。

 テーマは、クローンとして生まれてきた人間の、創造性、性愛、教育、個性、といったところだ。特に、性愛に関してはかなりの部分が当てられており、sexというものをどう捉えるのか、という部分がかなり踏み込んで描かれている。彼らはsexをしても子供ができない。sexとはそもそも子供を作るための行為なのだが、子供ができない彼らにとってsexという行為はどういう意味を持つのか。彼らを教育する人間たちにも興味深いテーマだったようで、彼らにsexに対してさまざまなアプローチをする。
 そして、クローンである以上、自分の元となった人間がいるはずで、その人間(possible)が誰なのか、ということに思い悩む姿も描かれている。まともな人間なのか、道徳的に退廃した人間なのか。主人公のKathyが時々どうしようもなく性欲が現れることに思い悩むのだが、それは実は自分のpossibleが売春婦だったのではないか、といってポルノ雑誌で自分のpossibleを探すという場面もある。
 そしてクローンとして生まれてきた者たちは人間なのか、という根源的なテーマが最後に現れる。彼らにも心があり、想像力があり、個性があるのだが、周りの人間たちはそうは見ない。この物語はほとんどクローン人間たちのコミュニティーで完結しており、人間たちとの接触がほとんど描かれていないので、回りの人間たちがクローンとして生まれてきた彼らをどのようにみなしているのか、という描写はほとんどない。
 この小説に出てきたほぼすべての問題は解決されぬまま、読者にゆだねられる。物事を深く考えさせ、読後も考えざるを得ない状況にさせる小説だ。本当に傑作だと思う。もう一度読みたい作品だ。

ドリトル先生アフリカゆき [文学 イギリス]


ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))

ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫 (021))

  • 作者: ヒュー・ロフティング
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06/16
  • メディア: 単行本



今教えているTextに「ドリトル先生」の話が出てきたので、家に妻が昔買った『ドリトル先生アフリカゆき』があったので、早速読んでみた。少年文庫で160ページ程度の本なのであっという間に読めた。
動物の言葉が分かるようになったドリトル先生は、アフリカの猿たちが病気で苦しんでいることを知り、動物の仲間たちとともに船でアフリカへ向かう。現地の王様に捕まえられたり、帰り道で海賊に襲われたり、と様々な出来事に遭遇するのだが、動物たちの機転と優しさによって、何とかそうした事件を乗り越え無事イギリスへと戻る。
なんということはない話なのだが、なんとなく心あたたまる素晴らしい話だった。
このシリーズは結構あるのだが、なんとなく続きが読みたくなる本だ。

atonement [文学 イギリス]


Atonement

Atonement

  • 作者: Ian McEwan
  • 出版社/メーカー: Vintage
  • 発売日: 2002/05/02
  • メディア: ペーパーバック



 イギリスの作家Ian McEwan(マキューアン)という人のAtonementという作品を読んだ。この作品は映画化もされており、新潮社のクレスト文庫でも評判になった作品で、普通の文庫化もされており、映画も本も評判がよく、あらすじ等読んでもかなり面白そうだったので、読んでみた。

 この話は全部で3部に分かれており、1部はある事件がおこる数日前(前日?)とその当日の登場人物たちの精神模様を緻密に描いた部分。2部は第二次世界大戦における登場人物たちの状況。3部は主人公のatonement(贖罪)の日記(?)というような形になっている。

 とにかく第一部は素晴らしかった。一章ごとにフォーカスされる登場人物が違っており、1章は主人公Briony、2章はその姉Cecilia、3章は再びBriony、4章はCecilia、とそのままこの形で行くのかと思いきや、母Emilyや、いとこのLoraや双子の兄弟、そして後にCeciliaの恋人となり、レイプ犯にでっち上げられるRobbieなどと様々な登場人物にスポットが当てられていく。
 使われている単語も難しく、かなり緻密な心理描写となっているので非常に読み進めるのに苦労したがかなり面白かった。しかも、同じ事件、事柄を様々な人物の視点から重層的に描いているので、ひとつの事件がかなり立体的になっていく。そしてどのような形で誤解が生まれていくのかも鮮やかにわかるようになっている。この第一部は非常によく出来た、文学的に優れた部だと思う。

 しかし、第2部になると急激につまらなくなる。レイプ犯にでっち上げられたRobbieの刑務所での様子が少し描かれたあと、彼が第二次世界大戦に兵士として行き、フランスで敗走し、最後にはイギリスに船で行き着くまでも書いているのだが、第一部とは大きく違い、出来事を詳細に述べているだけで、心理描写はすくなく、しかも、基本的にはRobbieを追っているだけなので、正直飽きてくるし、第二次世界大戦で敗走していた様子を事細かに述べられてもしょうがない。おそらくRobbieが犯人にされたせいでこれだけの苦労をしたんだということを描きたかったのだろうが、イマイチである。
 後半は、同じ時期Brionyがどう過ごしたかを描いているのだが、これもまたつまらない。看護師(看護婦)になるための見習い学校のようなところに行き、そこで傷ついた兵士たちを世話するところをこれも事細かに描いているのだが、正直面白くない。
 この第二部もRobbie、Cecilia、Brionyの時間軸を合わせながら、同じ時間にそれぞれがどういうことをやり、どのような思いで過ごしていたのか、そのズレのようなものを、第一部と同じ手法で描けば、物語に厚みがでて、もっともっと素晴らしい部になったのではないだろうか。

 そしてみなが絶賛する第三部なのだが、これも正直がっかり。結局Brionyの思い込み、そしてその思い込みにより偽証によりRobbieがレイプ犯にされるのだが、最終的にBrionyは自分が誤っていたことに気づき、真犯人もわかり、その偽証を撤回する。が、疑問が何点もある。
①何故未成年であるBrionyの証言一つで、レイプ犯になってしまうのか。たとえBrionyの証言があったところで、暗い中で見たことであるし、もっとちゃんと捜査をすれば本当にRobbieが犯人でなければ有罪にはならないはずである。
②Ceciliaは恋人であるRobbieが無実の罪を着せられそうなのに、何故ちゃんと意見を述べ彼の無実を証明しようとしなかったのか。彼女が自分たちの関係を公にしちゃんと話をすればRobbieは助かった可能性がかなり高い。そういった意味で、Brionyというより、Robbieを有罪にしたのはある意味Ceciliaなのではないか。
③Brionyが自分の証言は間違いだったということに気づくのだが、何故そのことに気づいたのかが明確にされていない。「大人になったから」というのだが、彼女が真犯人だという人物が何故そうなのか明確な理由は一切述べられない。
④本当にLoraはレイプされたのか。これはわざとうやむやにしているとところもあるのであろう。Loraは後に、Brionyが真犯人だと考えるPaulなる人物と結婚するのだが、これもよくわからない。いくら暗くて後ろから襲われたとは言え、誰が犯人かわからないということは普通に考えてありえない気がする。本当にPaulがレイプ犯で、その後結婚するのであれば、おそらくこれはレイプではなく合意の上での性行為だったのではないだろうか。その現場をBrionyに見られたLoraがそれを隠すためにレイプということにしたのではないか、とも考えられる。これは先にも書いたが、作者がわざと曖昧にしているのかもしれないが。

まあ、とにかく、評判の割には構成がイマイチな作品だった。長く、単語も難しい本だっただけに若干残念な気がした。


An Artist of the floating world [文学 イギリス]


An Artist of the Floating World (Faber Fiction Classics)

An Artist of the Floating World (Faber Fiction Classics)

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2001/04/09
  • メディア: ペーパーバック



Kazuo Ishiguroの2作目An Artist of the floating worldを読み終わった。
 主人公である、絵描きのOnoの語りで話は進む。はじめは、その土地の有名人の家を買い取る場面から始まり、娘の見合い話、孫との何気ないやりとりなど、とても平和な感じで話は進んでいく。次女の見合い話がうまくいかない、ということが関係しているのだろうが、谷崎潤一郎の『細雪』を彷彿とさせる。ことし朝日新聞に載っていたKazuo Ishiguroのインタビューで、谷崎にかなり影響を受けた、という内容があったので、おそらくある程度は細雪の影響があるのだと思う。しかも、これは戦後すぐの日本を舞台としており、戦前・戦中のことを主人公Onoが回想していくという形をとっている。戦中に反国家的だからという理由で出版できなかった『細雪』とこのへんでもリンクしているように思えるのは穿った見方をしすぎだろうか・・・。
 文体は非常に読みやすく、本当に淡々とページをめくる感じだ。若干の盛り上がりはあるものの、手に汗握るシーンのようなものはない。
 Onoは戦後、平穏な暮らしをしている。しかし、その暮らしが、次女Norikoの見合いがうまくいかないことによって乱される。その理由はOnoが戦前・戦中に描いていた絵にあるらしい、ということが、長女Setsukoや周りの様々な人間たちのほのめかしによって段々と分かっていく。何かのエピソードごとに、昔の回想が織り交ぜられるのだが、正直、Onoがどのような絵を描いていたのか、どれくらい彼の絵が一般国民の意識に影響を与えたのか、ということは、Onoの一人称語りのためにはっきりしない。そのへんが読んでいてかなりもどかしかった。
 最終的にはNorikoの見合いもうまくいき、見合いがうまくいく前は若干批判的・懐疑的だった、Setsukoの態度も変化し、「お父さんは自分が戦中にやったことを後悔することは全くない」と言う。Ono本人も、「自分はその時々ベストを尽くしたのだから」という結論で終わる。
 何となく、読後感は悪い。正直、この作品を読みながら、戦争責任ということの重さを考えた。どこまでの人間がかつての戦争に対して責任があるのか。かの有名な「アイヒマン裁判」でも、アイヒマンは「自分はただ命令されたことを忠実に実行しただけだ」と繰り返し述べている。しかし最終的に彼は罪に問われた。
 しかし、それなら、当時教員として軍国主義的な教育をしていた人間、戦意を煽るような芸術を作り出していた人間、さらに言えば、家庭内で軍国主義的な子供を育てていた人間、すべてが責任を問われなければならなくなるのではないか。
 法律的にどこまでが責任があり、どこまでが単なる道義的な部分なのか。さらに道義的な責任があるとしたら、その責任はどのような分野にまで及ぶのか。正直、簡単に答えは出せないし、けっして出ることもないだろう。
 読んでいて気持ち悪くなるくらい、深く考えてしまった。


Nocturnes Five Stories of Music and Nightfall [文学 イギリス]


Nocturnes: Five Stories of Music and Nightfall

Nocturnes: Five Stories of Music and Nightfall

  • 作者: Kazuo Ishiguro
  • 出版社/メーカー: Faber and Faber Ltd.
  • 発売日: 2010/01
  • メディア: ペーパーバック



Kazuo Ishiguroという作家に前から興味があった。興味はあったが、現代作家に手を伸ばすことをあまりしない私は、ずっと買うことをためらっていた。しかしいろいろなところで目にするようになり、なにか一冊とりあえず読んでみようと思い、どっぷりとその世界感に浸ってしまう、長編小説は避け、短編を集めたこのNocturnes Five Stories of Music and Nightfallを読んでみることにした。
4月には買っていたのだが、ほかの本がいろいろあり今月になってしまった。これは題名にもあるとおり5つの短編からなっている。それぞれは直接的には関係ないのだが、登場人物や場所が若干重なる部分があったりする。
1. Crooner
2. Come Rain or Come Shine
3. Malvern Hills
4. Nocturne
5. Cellists
どれも唐突な感じで登場人物が紹介され、読み進めるうちにはじめの部分の意味が段々わかってくるという形をとっている。こういう文体私は好きである。昔から文章を書くときは似たような手法を取ることが多い。
1はアメリカの有名な老歌手が、イタリアで、街中で音楽を聴かせるギタリストと知り合い、彼にお願いして、妻に川に浮かぶゴンドラからセレナードを聴かせるという一見とてもロマンティックな作品。なのだが、この老夫婦は幸せいっぱいなわけではなく・・・。という感じ。すごく美しい文体で、イタリアの美しい情景を常に思い浮かべながら読みすすめた。
2は大学時代の友人夫婦を、訪れる男の話。この友人夫婦もあまりうまくいっておらず、主人公は二人の間に挟まれさまざまな問題に巻き込まれる。コメディちっくで、1ほどしみじみとした感じはないが、それでもほのかに哀愁漂う感じはあり、面白い。
3はミュージシャンを目指す売れないギタリストが、姉夫婦の喫茶店を手伝う際に、ある老音楽家夫婦と出会う物語。この老夫婦も一見仲が良さそうなのだが、実は奥深いところではさまざまな葛藤があるらしい。
4はこれまた売れないSaxプレイヤーが事の成り行き上、整形手術を受けることになり、手術後ホテルに泊まっている際、超有名歌手(?、1に登場していた人物)の女性と出会い、彼女とそのホテル内でドタバタを繰り広げる話。ここでも「離婚」というものがかなり重要なテーマとなっている。
5は売れないチェリストの話。若いチェリストの男性が、自らを超絶技巧を持つチェリストと名乗る女性と出会い、彼女にレッスンを受け、技術を磨いていく話。恋愛に発展しそうでしないふたりの関係、決して実際にチェロをひこうとしない女性、本格的なクラシックとホテルでお客に聴かせる音楽家との狭間で苦悩するチェリストの姿など、いろいろと面白い。

私は短編があまり好きではないのだが、この作品集は非常に面白かった。一つ一つの物語の世界観にどっぷり浸かることができた。そしてどれもハッピーエンドではなく、苦悩する人々の心に寄り添う感じが素晴らしかった。

やはり彼の長編を読んでみるべきだと思った。

1984 [文学 イギリス]


1984 (Contemporanea (Debolsillo))

1984 (Contemporanea (Debolsillo))

  • 作者: George Orwell
  • 出版社/メーカー: Debolsillo
  • 発売日: 2013/07/16
  • メディア: ペーパーバック



George Orwell作1984を読み終わった。読む前はもっと近代的というのか、SF的というのか、ロボットが支配するような世界を描いた小説なのかと思っていたのだが、全く違った。
日本の、戦前・戦中の天皇制全体主義国家、ドイツの第三帝国、ソ連の共産主義国家をもっと徹底して、行き着くところまで行ったらどうなるのか、ということを描いた作品だった。

この中に描かれる国家”Oceania”の標語のようなものを紹介したい。
①WAR IS PEACE
②FREEDOM IS SLAVERY
③IGNORANCE IS STRENGTH
現在の日本のまさに安倍政権の目指しているものと一致する。
①積極的平和主義
②マスコミ・言論に対する圧力
③教育再生実行会議
恐ろしいほどぴったりだ。

この本は全部で3部に分かれており、時間を追って進んでいくのだが、結構この3部構成が考えられており面白い。
1部:管理国家Oceaniaの様子
2部:主人公Winston Smithと恋人Juliaが政府の目を盗み逢瀬を重ね、国家に反抗していく過程
3部:逮捕されたWinstonが拷問にかけられ、転向させられていく過程
という感じの構成になっている。これは
1部:客観
2部:主観
3部:真実
のような読み方も出来るのではないかと思っている。
ExtremeというバンドにⅢ sides to every storyというアルバムがある。これはどんなものにも3つの側面(客観・主観・真実)がある、ということをコンセプトに作られたアルバムで、曲のクオリティーも高く非常に面白い作品になっている。まさにこのアルバムを思い出してしまった。

やり方によっては過去も変えられるし、真実も変えられる、そして人の心すらも操ることが出来るようになることを示唆している。絵空事のように読む人が多いかもしれないが、現在の日本は本当にこの1984に描かれている世界に近いものとなっている。

主人公Winstonが転向させられて終わることもこの物語を恐ろしいものにさせている。
Animal Farmと共に古典とされている意味が非常によくわかった。確かにすばらしい名作だ。

Animal Farm [文学 イギリス]


Animal Farm : A Fairy Story (English Edition)

Animal Farm : A Fairy Story (English Edition)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: Kindle版



George OrwellのAnimal Farmを読み終わった。前から気になっていた作品ではあるのだが、そこまで読む気がしなかったのだが、来年度の授業の題材を探していたとき、読みやすい英文とあったので、使えるかもしれないと考え、読んだ。

この本は「共産主義批判の書」といわれることがよくあるのだが、共産主義批判の書では決してない。共産主義的な共同体からどのように独裁者が生まれ、独裁者がどのように独裁的な共同体を作っていき、最終的にはどのような世界が生まれるかを示した作品だ。

動物を用いることで、人間の無知・欲望・弱さなどを描いた作品と言える。
人間に反逆し、人間を駆逐し、動物たちの理想的な社会を作り出そうとしていたが、そのうちに独裁者が現れ、そのものが次々ともともとの約束を破っていくのだが、読み書きがあまりできないほかの動物たちは、彼の制作をおかしいと思いながらも、表立っては何も言えず、行動も起こせず、どんどんと息苦しい生活を強いられることになる。途中声をあげた動物たちはみな粛清されてしまうのだ。独裁者のいうことなすこと怪しげでおそらく嘘ばかりなのだろうが、真実はわからないまま、彼の言うことが真実ということでどんどん物事は進んでいってしまう。

民主的な手続きをとっているようでまったくその手続きに則っておらず、明文化されたものを勝手に解釈し、気づかれぬ間に勝手に条文をかえ、メディアなどを裏で操ることで言論を統制し、挙句の果てには行動までも統制しようとしている、どこかのN(J)国家の第二次A政権そっくりの世界が描かれている。

考えない、批判しない、行動しない、人間たちが集まることでどのような社会が作られていくのか。しかし、物事を考えることをしない人々にとっては、独裁国家の中にいて全てを人のせいにしながら生きていくほうがもしかしたら楽なのかもしれない(cf. エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』)。

まさに現在日本は、多くの人が「自由から逃走」しようとしているようにしか見えない。

短い作品で、熱中して読むという感じの本でないが、それなりに考えさせられる作品ではある。


フランバース屋敷の人びと 5 [文学 イギリス]


フランバーズ屋敷の人びと 5 愛ふたたび(下) (岩波少年文庫)

フランバーズ屋敷の人びと 5 愛ふたたび(下) (岩波少年文庫)

  • 作者: K.M.ペイトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 文庫



遂に、『フランバース屋敷の人びと』全巻を読み終わった。
3巻までで終了だったはずが、読者の熱い期待に応えて続編を書いたということだが、やはり続編は書かなかったほうが良かったのではと思ってしまう。

農民ディックと地主クリスチナの愛と心を大切にした階級を超えた結婚という綺麗な結末で終われば良かったのだ。
映画でも小説でも大体そうだが、物語は普通幸せが絶頂の、非日常の状態で終わる。しかしそのあと主人公たちは日常の生活に戻らなければならない。その日常を見なくて良いから映画も小説も気持ちよく読み終えられるのだが、この第4巻、第5巻は、ハッピーエンドの後日談となっており、ひたすら階級差を超えた結婚がどれだけ困難なものかという現実をひたすら読者に突きつける内容となっている。
特に主人公クリスチナの身勝手さが最後はひたすら描かれており、読んでみてひたすら嫌な気持ちになった。
作者ペイトンは古い慣習にしばられない自由な女性を描きたかったんだろうし、描いたつもりになっているのだろうが、ただ単に自分の感情に正直なだけのわがまま女に過ぎない。男を惹きつける魅力はあるのかもしれないがどうしようもないわがまま女であるトルストイが作り上げた「アンナ・カレーニナ」と似たような女性に成り下がってしまった。
夫であるディックの気持ちを考えず自分のやりたいことをひたすら追求し、その結果ふたりの子供を死なせてしまい、さらに夫が浮気したら「ラッキー」とばかりにこれで自分も自由になれると、勝手な行動をするこの女。最低である。はじめから自分がディックのために行動をしていれば決してそうはならなかったはずなのに自分の過ちに一切目を向けようとしないのだ。小説の中では「あなたは自分ばかりを責めている」とある男性に言われるのだが、本当の意味で自分を責めているとは言えない。

フランスの自然主義文学を彷彿とさせる後味の悪い小説だった。

フランバース屋敷の人びと 4 [文学 イギリス]


フランバーズ屋敷の人びと 4 愛ふたたび(上) (岩波少年文庫)

フランバーズ屋敷の人びと 4 愛ふたたび(上) (岩波少年文庫)

  • 作者: K.M.ペイトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 文庫



『フランバース屋敷の人びと』4巻を読み終わった。期待していなかっただけにかなり面白かった。
農夫ディックと結婚した大地主の娘クリスチナ。古いしきたり、意識を抜け出せない村人たちからは冷たい目で見られるクリスチナ。
それでも平和に暮らしていた二人であったが、そこに戦争で重傷を負ったマークが帰ってくる。
わがままでやりたい放題のマークの、真面目で仕事熱心のディックのあいだにはさまれ苦悩するクリスチナ。

私自身は平和で安定した人生を求めている。そしてわがままで周りの人間をふりまわす人間が好きではない。しかし多くの人間はわがままで人のことを考えない人間に惹きつけられていく。それにイライラすることが多い。
マークの出現に心乱されるディックの気持ちが痛いほどわかるので読んでいてかなりつらい本だった。
さらにあんなむちゃくちゃなマークに心惹かれるクリスチナの気持ちがよくわからなくてイライラさせられた。
最後の結末は全く予想できない。かなり最終巻の第5巻が楽しみになってきた。

フランバース屋敷の人びと 3 [文学 イギリス]


フランバーズ屋敷の人びと 3 めぐりくる夏 (岩波少年文庫)

フランバーズ屋敷の人びと 3 めぐりくる夏 (岩波少年文庫)

  • 作者: K.M.ペイトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/11/14
  • メディア: 文庫



『フランバース屋敷の人びと』第3巻を読み終わった。一応この作品で完結らしいのだが、読者の要望に応えて次の4巻、5巻が出たらしい。

2巻の最後で結婚したクリスチナとウィリアムの甘い、苦い生活が描かれるのかと思いきや、しょっぱなからウィルは死んでいる。フランバース屋敷に残ったクリスチナは屋敷の再建を行うとともに自分の人生の指針を見出す。
どのページも非常に高いテンションを保っているので読んでいて疲れるのであるが、それがまた面白くどんどん読めてしまう。
最後はハッピーエンドで終わる。
NHK朝の連ドラで用いられても良さそうなくらい波乱万丈の新しい時代を生きる女性の物語。
こういう物語の続編的なものはあまり良いものにならないので、4巻、5巻はあまり期待せずに読みたいと思う。

フランバース屋敷の人びと 2 [文学 イギリス]


フランバーズ屋敷の人びと2 雲のはて (岩波少年文庫)

フランバーズ屋敷の人びと2 雲のはて (岩波少年文庫)

  • 作者: K.M.ペイトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/10/17
  • メディア: 文庫



『フランバース屋敷の人びと〈2〉』を昨日読み終わった。さすがに少年文庫だけあり、読み慣れてしまえば、かなりのスピードで読めてしまう。
駆け落ちしたクリスチナとウイリアムは結婚し、自分たちで生計を立てていくために、それぞれ仕事を始める。ウイルアムは飛行機関係の仕事、クリスチナは彼の友人の恋人から紹介されたホテルの事務仕事。
とにかくウイリアムのやることなすこと、飛行機に関係することなので命懸けなのである。クリスチナはそんなウイリアムの命懸けの仕事に心配しっぱなしなのだが、読んでいるこちらもひたすらドキドキしたまま読まされるので結構疲れてしまった。
しかし取り乱す姿を恋人のウイリアムに見せまいと自分の感情を押し殺すクリスチナの姿が健気で美しい。新しい時代の幕開けとともに人々の精神も解放されて、自由になっていく過程がふたりの愛を中心に描かれており、興味深い。
いよいよ結婚できることになった二人だが第一次世界大戦が遂に始まってしまう。ここからが3巻だ。

フランバース屋敷の人びと 1 [文学 イギリス]


フランバーズ屋敷の人びと〈1〉愛の旅だち (岩波少年文庫)

フランバーズ屋敷の人びと〈1〉愛の旅だち (岩波少年文庫)

  • 作者: K.M. ペイトン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/09/16
  • メディア: 単行本



『フランバース屋敷の人びと〈1〉』を読み終わった。
妻が読んで、「面白い」と言っていたので、ずっと読みたいと思っていたのだが、なかなかタイミングが合わず読めなかったが、遂に読み始めることができた。全5巻と長い作品なのだが、読みやすい本なのでおそらくすぐに読み終えられるだろう。

内容は、クリスチナという孤児の女の子が、フランバース屋敷に引き取られ、そこに住む3人の男と繰り広げる愛の物語、という感じだろうか。

フランバース屋敷を仕切っているのが、ラッセルという伯父さん。狩猟狂で、息子たちにもそれを強要している。彼には2人の息子がいる。
1.マーク    顔はカッコ良いが粗暴な性格。狩猟ばかりしている。
2.ウィリアム  優しい性格で、狩猟で大怪我をおう。狩猟を嫌う。飛行士を志している。
3.ディック   馬の世話係の貧しい少年。

ヨーロッパの貴族小説にはよく出てくる狩猟なのだが、じつは私はこの狩猟の描写を読むのが得意ではない。戦いの場面と同じくらい読むのが困難だ。イメージを膨らますことが難しいからだ。
この本の前半部分はほとんどその狩猟の場面なので、かなり読み進めるのが困難だったのだが、話が段々と上記3人の男とクリスチナの恋愛話になっていき、心理描写が増えてくると一気に読むことができた。

身分違いの恋、伝統と革新の葛藤、そして形と心と文学が取り上げる様々なテーマを巧みに織り交ぜた素晴らしい小説だ。小説としては珍しく、年代も明記されており、そろそろ第一次世界大戦が始まろうとしているところで1巻は終わる。

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