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遠い野ばらの村 [文学 日本 安房直子]


遠い野ばらの村 (偕成社文庫)

遠い野ばらの村 (偕成社文庫)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2011/03/17
  • メディア: 単行本



安房直子童話集『遠い野ばらの村』を読み終わった。

1. 遠い野ばらの村
2. 初雪のふる日
3. ひぐれのお客
4. 海の館のひらめ
5. ふしぎなシャベル
6. 猫の結婚式
7. 秘密の発電所
8. 野の果ての国
9. エプロンをかけためんどり

1は非現実の自分の中の夢の世界を人に語っているうちに、それが現実と非現実の境目がわからなくなってしまったおばあさんの話。こういう人はたくさんいる。その人たちを「嘘つき」という言葉で一蹴することも可能なのだが、それを非常に暖かな優しい物語にしてしまう安房直子さんは素晴らしいと思う。

2は教科書にも掲載されたことのある有名な話(らしい)。初雪のふる日にうさぎの行列に吸い込まれそのまま連れ去られてしまいそうになるが、死んだおばあさんから昔聞いた話で助かる女の子のはなし。リズムも小気味良く、少し恐ろしさもあるが何故か明るく楽しい話。

3は、猫に頼まれた仕事をするうちに、一枚一枚の生地の違いがわかるようになる生地屋さんの話。宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』に似た世界観がある。私はこういった動物から本質を教わる話が結構好きである。

4は、一生懸命働くがなかなか目の出ないコックさんが、海の館のひらめのおかげで成功しお嫁さんまでもらう話。最後にふたりが世話になったひらめに感謝して終わるのも素敵だ。

5は、おばあさんんが猫と魚を売る話。ドキドキ感をずっと持ったまま読み進められ、最後はとっても暖かくなる話。

6は、福音館の『ひぐれのラッパ』にも収録されていた作品だが、並べられている作品の流れによって読み方が違ってくるのが面白かった。前回読んだ時より面白かった。

7は、発電所を営むカエルの子供の嫁入りの手伝いをしたことで、素晴らしいものをえた人の話。なんてことはないが、動物と人間の交流を描いた面白い話。

8はもう一歩か。眠い中読んだせいもあるが、印象に残っていない。

9は傑作。お母さんをなくした三人の子供とお父さんのもとに、昔世話をしていためんどりがエプロンをつけて手伝いに来てくれる。いろいろと助けてくれた後、お父さんの再婚とともに殺されてしまうのだが、最後はハッピーエンドで終わる。輪廻転生を描いた作品とも言えるのではないか。

派手な作品はないが、一つ一つが丁寧に作られており、とても良い作品集だった。
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白いおうむの森 [文学 日本 安房直子]


白いおうむの森―童話集 (偕成社文庫)

白いおうむの森―童話集 (偕成社文庫)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2006/07/01
  • メディア: 単行本



安房直子さん童話集『白いおうむの森』を読み終わった。
1. 雪窓
2. 白いオウムの森
3. 鶴の家
4. 野ばらの帽子
5. てまり
6. ながい灰色のスカート
7. 野の音

1は、彼女の代表作として取り上げられることもある作品。娘をなくした、おでん屋さんが、たぬきと出会い、二人でおでん屋を切り盛りしているあいだに、死んだ娘さんが、おでん屋にやってくる話。とても優しく心暖まる話。

2は、宝石店で働くインド人と、オウムと主人公のみずえと猫のミーが、死んだ人々の世界へ行く話。これも少し怖いが、最後はとっても少し切なくなってしまうが、何故だがポッと暖まる話。

3は、「鶴の恩返し」を何世代にもわたって広げたような話。自然を大切にすることもうったえているスケールの大きな話になっている。

4は、山中の野原で、偶然人間に化けた鹿と出会う話。安房直子さんは鹿を作品に取り上げることが多い作家。これも3同様、人間の自然に対する接し方を考えさせられる作品となっている。

5は、他の作品集でも読んだことがあった。金持ちのお嬢さんが、貧しい心と「てまり」をもとに心通わせる作品。はしかという流行病を絡ませることで、生と死、貧富の差など様々な問題を絡ませている。これも非常に美しく面白い話。

6と7は、自然が人をさらっていってしまう話。非常に恐ろしい話なのだが、そこまで怖さを感じさせることなく、子供もすんなりよめ、更に深く考えさせられる内容になっているのは、さすがだと思う。


「死」と「自然」をテーマにした、非常に深く面白い作品集だった。
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ゆめみるトランク [文学 日本 安房直子]


ゆめみるトランク―北の町のかばん屋さんの話 (わくわくライブラリー)

ゆめみるトランク―北の町のかばん屋さんの話 (わくわくライブラリー)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/10/13
  • メディア: 単行本



安房直子『ゆめみるトランク』を読み終わった。
何かの本のあとがきで紹介されていて、面白そうで図書館で借りて読んでみた。

一郎さんという腕は良いけれどもあまり儲かっていない鞄作り職人が、自分の作ったトランクの助けにより、商売が軌道に乗り、素敵な妻を見つけ、動物たちや自然の精に素晴らしいカバンを作ってあげることで、ますます店が繁盛していくという話。

安房直子のほか作品のような、緊張感や美しさ優しさにあふれた作品ではないが、ほのぼのとして良い作品だった。
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風と木の歌 [文学 日本 安房直子]


風と木の歌―童話集 (偕成社文庫)

風と木の歌―童話集 (偕成社文庫)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2006/07/01
  • メディア: 単行本



安房直子さんの最初の短編集。
とにかく素晴らしかった。ほぼ全部つい最近『安房直子コレクション1』で読んだばかりなのだが、すべてが新鮮な感じでドキドキ感を持って読めた。

1.きつねの窓
2.さんしょっ子
3.空色のゆりいす
4.もぐらのほったふかい井戸
5.鳥
6.あまつぶさんとやさしい女の子
7.夕日の国
8.だれも知らない時間

1は言わずと知れた教科書にも載っているらしい名作。親を殺されたきつねが、人間をばかしながらも、ばかされている人間が、そのきつねによって自分の心の傷と向き合う話。全くハッピーエンドではなく、どことなく暗い感じで終わるのだが、心がすっきりする美しい作品。

2も言わずと知れた名作。人間の男性に恋をする、さんしょの木の精。最後は好きな男の子に裏切られるような感じになるのだが、こちらも、そのハッピーエンドとはいえない終わり方にしては、非常に読後感が良い。とにかく、ひたむきでまっすぐなさんしょっ子の心の美しさにひたすら心惹かれてしまう。

3も素晴らしい。目が見えないという障害を持って生まれた子がある男性によって前向きに生きていく話。こちらも美しい愛が描かれている。

4はイソップ童話的な、「自分のことばかり考えて行動するとよくないよ」という教訓めいた感じの話ではあるが、全く教訓臭さがなく、非常にすんなり受け入れられる。

5もとても素晴らしい。「ひみつ」を心から消したい女の子の話。こちらの終わりは非常に前向きな感じになっている。

6は、若干日本昔話的。意地悪な人はその報いを受ける、という話ではあるのだが、後日談的な部分が非常に美しい。

7は、ちょっと怖い話。悪いことをしたっぽい子供が出てくるのだが、それをうまくぼかし、前向きな感じで終わっているところが良い。

8も純愛を描いている。カメと人間の心の交流も描いており、非常に暖かい気持ちで終われる。

どれもこれも緊張感に溢れているとともに暖かさにも溢れており、とっても優しい気持ちになれる作品集だ。
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まほうをかけられた舌 [文学 日本 安房直子]


まほうをかけられた舌 (フォア文庫)

まほうをかけられた舌 (フォア文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 1979/10/01
  • メディア: 新書



これまた絶版になってしまっているフォア文庫の『まほうをかけられた舌』を読んだ。
フォア文庫というのは、児童文学出版社、岩崎書店・金の星社・童心社・理論社の協力出版文庫だということをこの本の後ろをみて、初めて知った。このフォア文庫かなり良書をいっぱい出しているので、もっと本屋に並んで欲しい。

この文庫には5作品が収録されている。
1. 青い花
2. コロッケが五十二
3. ライラック通りのぼうし屋
4. 海からのおくりもの
5. まほうをかけられた舌

「青い花」は腕の良い傘職人の話。基本的には傘を修理することで生計を立てていたが、ある女の子との出会いによって、青い傘をつくるようになり、それが売れに売れる傘の修理はほとんどしなくなる。しかし青い傘の流行がさり、新しい傘が売れなくなった時に、再び女の子と出会い、傘の修理を始める。働くとは何か、真摯に仕事に向き合うとは何か、ということを伝えてくれるとても良い話。

「コロッケ~」はもう一歩。面白くはあるが、そこまで深い感じではなく、安房直子さん特有のジーンとくる感じがない。

「ライラック通りのぼうし屋」もとても暖かい話。羊に頼まれて作った帽子をきっかけに、自分の仕事への情熱と妻への愛情を取り戻すはなし。

「海からのおくりもの」ももう一歩か。こどもに親を思う一途な気持ちが最後に報われる暖かい話ではあるが、ほか作品が素晴らしいため、この本に収録されるともう一歩な感が否めない。

「まほうをかけられた舌」は最高だった。お父さんを亡くし、レストランを継いだ息子。力がなく困っていたところ、小人の助けで店は大繁盛。しかしはじめの時点でした小人との約束はすっかり忘れてしまっている。最終的には、それを思いだし、しっかりとした人生を歩むようになる。

確かに小学生が読むことがおおい話なのだろうが、ぜひ、中高生や就活中の大学生、仕事に疲れた中間管理職の人々に読んでもらいたい作品集だ。

復刊を心から望む。
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花のにおう町 [文学 日本 安房直子]


花のにおう町 (安房直子セレクション3)

花のにおう町 (安房直子セレクション3)

  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 1983/08/15
  • メディア: 単行本



もう絶版の本。『北風のわすれたハンカチ』の最後についていた、安房直子さんと神宮輝夫さんの対談で、神宮輝夫さんが、一番好きな作品と言っていたので是非とも読みたいと思い、アマゾンの中古で購入。

全部で6作収録されており、全てが何らかの形で「花」と関係している。
1の「小鳥とばら」は、ほかの本にも収録されており、非常に最近、一度読んではいたのだが、もう一度読むと違った見え方がして、前より面白く感じた。初めて読んだときは、鳥をそのままパイの中に入れて焼いてしまうところが若干恐ろしく感じたのだが、今回はそうでもなかった。

2は、「黄色いスカーフ」。おばあさんが、新聞で「外出にはスカーフがとても便利」という記事を読んで、昔使っていた黄色いスカーフを身につけて外に出る。しかし、外で自分の姿を鏡に映し出したところ、あまりにも自分ににあっておらず、外してしまってしまう。しかし、スカーフが「出してくれ」と騒ぎ出し、出してあげると様々な出来事が起こる。過去の出来事なども思い出され、最後はおばあさんも前向きになって終わる。

3は、「花のにおう町」。キンモクセイの精が女の子の姿になり、皆で自転車に乗り、少年の前を通り過ぎていく。キンモクセイの匂いは、私も大好きで、すごく心が穏やかになるので、この話も読みながらとても穏やかな気持ちになれた。

4は「ふしぎな文房具屋」。これもほかの作品集に収録されていて読んだ事があったが、並んでいる作品が違うと全く違う読み方になる。これも、猫を亡くし、こころを傷めた少女が心を回復させていく話でとてもよかった。

5は、「秋の音」。この作品集の中では、安房直子さんが一番すきな作品らしいが、私はこの中では一番ピンとこなkった。

6は、「ききょうの娘」。同じようなパターンの話が、安房直子さんのほかの作品でもあるが、貧しい頃に大事にしていたものを、金持ちになっても大事にしていかなくてはならないということを訴える非常に良い作品。彼女の本質の部分でこの思想があるのだろう。

とてもよい作品集だった。
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北風のわすれたハンカチ [文学 日本 安房直子]


北風のわすれたハンカチ (偕成社文庫)

北風のわすれたハンカチ (偕成社文庫)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2015/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



安房直子さんの作品は、偕成社から多く出版されている。『安房直子コレクション』も偕成社から出ている。彼女の作品集は、多くが偕成社文庫から出ており、まずはこの作品集から読んでみた。

最後に付された神宮輝夫さんとの対談もとても興味深かった。

この作品集は中編が結構入っており、
1. 北風のわすれたハンカチ
2. 小さいやさしい右手
3. 赤いばらの橋

1は、人間に家族をことごとく殺され一人で寂しくクラス熊のもとを、北風一家が時間をおいて訪ねる話。最後はハッピーエンドとはいかないが、未来に希望を持たせるとっても心が暖かくなる結末となっている。

2も結構シビア。人間の女の子優しくした鬼が、その行為によって、その女の子を快く思っていない彼女の継母によって、右手を切られてしまう。そうと知らず、自分が優しくした女の子に裏切られたと思った鬼は「しかえし」をしようとする。しかし、真相を知り、「しかえし」ではなく「ゆるし」てあげることを勧められた鬼は・・・。

これも心が痛むが、最後はとても前向きになれる。

3も傑作だ。子鬼と魔女の娘の心の交流を描いた作品であり、はじめは醜い魔女の娘の様子に嫌な感じをもっていた子鬼も、親しくなるうちに、魔女の娘をかわいいと感じるようになる。人が誰かを好きになるというのはこういうことなのだろう。そして人が人を美しいと思うのはこういうことなのだろうと思う。

本当に素晴らしい3作品だった。
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ひぐれのラッパ [文学 日本 安房直子]


ひぐれのラッパ (福音館創作童話シリーズ)

ひぐれのラッパ (福音館創作童話シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2010/09/20
  • メディア: 単行本



福音館書店から出ている安房直子作『ひぐれのラッパ』を読み終わった。
彼女の作品は、違う出版社の作品集で重なって収録されているものが多くあり、慎重に調べて、重なっている作品が多くない本を購入したつもりだったのだが、この『ひぐれのラッパ』に収録されている本は、偕成社の『安房直子コレクション3』や他の短編集にほぼ収録されていた。

すこし残念な気もしたが、装丁も綺麗だし、MICAOさんという人の絵もほのぼのした感じで良かったので結果としては買ってよかったきがする。

1.猫の結婚式
連作「とうふ家さんの話」より
2.ねずみの福引き
3.ひぐれのラッパ
4.きつね山の赤い花

5.うさぎ屋のひみつ
6.春の窓
7.トランプの中の家

表題作を除いて、どの作品も、人間と動物たちとの交流を描いている。
解説の神宮輝夫さんという人も書いているのだが、安房直子作品は、「ありえないけれど、それを読むと、これはほんとうのことかもしれないと思っていしまうーそういう物語です。」

他の作品集には収録されていない、食事をデリバリーする「うさぎ屋のひみつ」と、『不思議の国のアリス』を彷彿とさせながら、遥かに面白く、良く出来た「トランプの中の家」がとても良い。どちらも、食べ物が出てきており、読んでいるだけで、食欲がそそられる。

悲しい結末になりそうな感じでありながら、登場人物たちが未来を見据え、前向きに歩んでいこうとして終わる作品が多い。そういった意味でも、子供が読んで元気を与えられる作品と言えるのではないだろうか。

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夢の果て [文学 日本 安房直子]


夢の果て―安房直子十七の物語

夢の果て―安房直子十七の物語

  • 出版社/メーカー: 瑞雲舎
  • 発売日: 2020/09/21
  • メディア: 単行本



「詩とメルヘン」という、アンパンマンの作者やなせたかしが、編集長を務めていた雑誌に発表された安房直子作品集らしい。この雑誌に彼女が発表した作品はまだあるようだが、その中の主要な作品ということなのだろう。

彼女の作品はこの数ヶ月結構たくさん読んでいるのだが、その中でも、結構「死」「貧困」いった暗い側面にスポットを当てている作品のような気がする。

1作目の「ほたる」などは、(おそらく貧困生活のため)妹が東京のおばさんにもらわれていく話。その妹を見送りに行った駅で見つけた誰かが置いていったトランク。そこから出てきたほたるを追っていった主人公は、恐らく死んでしまう・・・。

2作目の「夢の果て」も結構恐ろしい。青い魅力的なアイシャドウを買った13歳の娘は、それを夜つけると、お会い花畑の夢を見るようになる。そこで見つけた素敵な人。その人に会うために毎晩のようにそのアイシャドウを付けるようになり、そのうちに、アイシャドウがなくなってしまい、品物に書かれた住所へ買いに行こうとすると、その人に出会い、そして二人は、・・・。

などなど、はじめの2作がとにかく衝撃的だった。他にも人殺しが出てきたり、戦時中の隣組で起こったスパイ話が出てきたり、不治の病に犯された少女が出てきたりと、どの作品も暗さがにじみ出ており、死の影がどこかつきまとっている。

12作目の「花の家は傑作だ。ある大きな屋敷に住むおじいさんのお世話をしている16歳の女の子。彼女はおじいさんの世話ばかりではなく、広大なお庭の世話も一手に引き受けている。そんなおじいさんが亡くなす寸前、彼女に次のような言葉を残す。

「私はこの庭に、黄金を、どっさり埋めておいたよ。世間の人間は、この広い土地や家のねうちを、あれこれとりざたするけれど、そんなものは、結局、消えてしまうものでね、私の一番大切な財産は、その黄金だ。私が死んだら、それをみんな、あんたにあげよう。」

こう言い残し、おじいさんは死んでいく。その後、身も知らない親戚がたくさんやってきて、みんなで遺産を取っていく。お屋敷も高いマンションに変える計画が進む。そして実際色々なものが取り壊されている最中、この少女はふしぎな声を聞くようになる。その声に従って、おじいさんの屋敷がもとあったところへいくと・・・。最後は非常に感動的だ。

今まで読んでいたとても心温かい、という感じの作品はあまり並んでいないが、やはりどこかで優しさが見える作品が並んでいる。そして彼女の作品の良いところは、夢の世界へと主人公が入っていくのだが、その夢の世界に入っていった感じで物語が終わり、現実に戻らないところが読後感を清々しいものにしているようなきがするのだ。

挿絵もとても素敵で、贈り物として最適な作品集と言える。
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花豆の煮えるまで [文学 日本 安房直子]


花豆の煮えるまで―小夜の物語 (偕成社ワンダーランド)

花豆の煮えるまで―小夜の物語 (偕成社ワンダーランド)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1993/03/01
  • メディア: 単行本



最近、安房直子にはまっている。

彼女の独特の温かく優しい世界観がとても良い。
晩年の作品、『花豆の煮えるまで』という物語が評判がよいので、あらすじなどを読むとそこまで魅力的に感じなかったが、せっかくなので読んでみた。

主人公は小夜という、山奥の温泉宿の女の子。彼女は、温泉宿の一人息子と、やまんばの娘の子供。
父親と母親がどのように出会い、母親がどのようにいなくなってしまったのか、ということを、おばあちゃんが、小夜に、「花豆が煮えるまで」のあいだに話して聞かせる物語が第一話。

やまんばが出てきたり、天狗が出てきたり、鬼の子が出てきたり、と次々に人間ではないものが登場するのだが、それが全く違和感なく、小夜の意識の中に入り込んでくる。安房直子は、動物と人間の恋を描いたり、人間以外の生き物と人間を、夢の中の世界などでとても自然に出会わせる。彼女自身が、精神的に自然の中に溶け込んでいたからこそ、このような物語がかけるのであろうと想像される。

とにかく、暖かい雰囲気で、読んでいてやっぱり心がほっこりしてしまう。

自分の本当の母親(やまんばの娘)と新しいお母さん(人間の継母)の間で、心が揺れ動き、最後に継母に愛情を感じた時の最後の言葉「やまんば、ごめんね」があまりにも切なく、優しすぎて感動してしまった。

とても面白い本だった。多くの人に勧めたい本だ。

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天の鹿 [文学 日本 安房直子]


天の鹿 (福音館文庫 物語)

天の鹿 (福音館文庫 物語)

  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2011/01/25
  • メディア: 単行本



安房直子作『天の鹿』を読んだ。
福音館ホームページによると、そろそろ品切になるということなので、急いで買った。

彼女の中では長い方の作品になるのではないだろうか。こどもの文庫、さらに挿絵が多く含まれているとは言え、140ページ近い本だ。

『三匹の子豚』『イワンの馬鹿』『長靴をはいた猫』など、三兄弟(姉妹)の一番下の子が一番心が美しく、最後は一番の幸せを得て終わる、というのは昔話によくある話だ。さらに、となりの爺さんの話しを聞いて欲を出した爺さんがよく丸出しで行って損をするのというのも、日本の昔話、教訓話でよく出てくるパターンだ。こうした西洋的・日本的昔話の形をベースに、安房直子流のアレンジを加えてとても素敵な作品が出来上がっている。

これは、文庫版ということで、最後に解説が載っているのだが、堀江敏幸のこの解説がまったく安房直子の作品を曲解している。一番下の娘みゆきは、自分がいつかは、父親が殺した鹿のもとへ行くことを心のどこかで感じている。しかしそこに、「さみしさ」という感情は微塵もないし、「張りつめた不安」なども全くない。最終的にみゆきは、死んだ鹿と違う世界へと旅立つのだが、その決断を、堀江敏幸は、「晴れ晴れとした気持ちが含まれていない。他のだれとも異なる、「さみしさに似たもの」だけが残されるのだ」と表現しているが、晴れ晴れとした気持ちという言葉が合うかどうかは別として、彼女は、自ら積極的に優しい気持ちでその選択をしているのだ。

堀江は、安房直子自身の育ちと重ね合わせる形でこの「読み」を提示しているが、全くこの物語の読みとしては的外れだ。

真面目に、真剣に、美しく、心優しいものは、必ず報われる。それは人間であるとは限らないし、一般的な幸せとは別なものでもあるのだ。結局、堀江は、現世的な幸せという狭い捉え方でしか、物事をみることができないからこそ、この曲解が生まれてしまっているのではないだろうか。

何にしろ、暖かい心を持ったもの同士が、お互いの世界を超えて、新しい世界へと一緒に旅立っていく素晴らしい物語だ。

途中までは、型にはまったつまらない感じなのか、と思っていたが、さすが最後はとても暖かい気持ちになれた。

とても良い作品だった。
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安房直子コレクション5 恋人たちの冒険 [文学 日本 安房直子]


恋人たちの冒険 (安房直子コレクション)

恋人たちの冒険 (安房直子コレクション)

  • 作者: 直子, 安房
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 単行本



安房直子コレクション5を読み終わった。
厳密に言うと、この中の一作品「天の鹿」は読んでいないのだが、教文館文庫から本が出ているとし、もうすぐ絶版になるとわかり、早速購入したので、あとでこの作品だけ読もうと思う。

この題名通りの作品が並んでいた。
1. 天の鹿
2. 熊の火
3. あるジャム屋の話
4. 鳥にさらわれた娘
5. べにはらホテルのお客

1は先にも書いたが未読だが、作品は全部基本的には人間が主人公。主人公がすこし困難な状況に陥り困っているところへ、熊であったり、鹿であったり、鳥(シギ)であったり、狐であったりが手助けをし、最終的には結婚するという話。人間と動物が結構するという話なので、意外なほど気持ち悪さ、グロテスクさはなく、本当にすんなりと受け入れられてしまう。しかも、そのふたりをいつまでも応援祝福したくなってしまうのだ。
恐らく、軽井沢の山の中をイメージしているだろう作品が並ぶ。すごく心が豊かになる作品ばかりだった。
手元に置いておきたいコレクションなのだが、もう絶版らしい。何故日本はこうした素晴らしい本がすぐに品切状態になってしまうのだろうか。

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安房直子コレクション1 なくしてしまった魔法の時間 [文学 日本 安房直子]


なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)

なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)

  • 作者: 直子, 安房
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 単行本



あまんきみこさんと並行して、安房直子さんのコレクションも現在読んでいる。
偕成社から出ている(た)、何冊かは絶版・・・、コレクションを図書館で借りて読んでいる。

一巻目は、有名と思われる作品が目白押し。
さんしょっ子
きつねの窓
空色のゆりいす

雪窓
などなど

どれもこれも、とっても普通な感じで物語が始まりだすのだが、いつの間にかファンタジーの世界へと誘われていく。どれもこれもがハッピーエンドなわけではないが、何故かわからないがこころが温かく前向きになれる作品ばかりだ。

特に死んだ娘を思う父親の話、雪窓がすごくステキなエンディングで、これ以外の結末はない、という感じで終わる。彼女の物語は、どこか「死」というものをどのように受け入れるか、というテーマになっているものが多い。「死」というものは、体験した時点でもう生きられなくなってしまうので、恐ろしく神秘的なものだ。身近なものの死というものは、なかなか受け入れにくい。その受け入れにくさを物語を通して昇華していくことができるような感じになっている。

自然と人間の調和というところも非常にテーマとして描かれているきがする。現実と幻想を自由に行き来するところなど、非常に宮沢賢治と似通った世界観を感じる。

このコレクションには、彼女のエッセイも収録されている。印象に残ったフレーズをいくつか紹介したい。


p.310
「国語教育というものが、文学の教育と、言葉の教育に分けられるとしたら、私の作品は、どうか、なるべく、文学の教材として、あまり切りきざまずに、まるごと読まれてほしいと願っています。」

最近の国語教育は、文学と言葉のどちらでもない方向に舵を切ろうとしている・・・。

p.313
「今でも、よく耳にしますのは、子どもは外で元気に遊ばなければいけない、外遊びのできない子どもや、大勢で遊べない子どもは正常ではないと言われますが、私は必ずしも、そうは思いません。子どもには、それぞれ個性があって、ある程度は、「あるがままでよい」のではないかと思います。」

この思想が彼女の作品には強く出ているように思う。
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ゆきのひの だんまりうさぎ [文学 日本 安房直子]


ゆきのひのだんまりうさぎ (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)

ゆきのひのだんまりうさぎ (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 単行本



いまのところ、だんまりうさぎシリーズの最終巻。
雪が降って、おしゃべりうさぎと会えないだんまりうさぎ。
「ゆきがふったねえ」とただ一言伝えるために電話をしたいのだが、なかなかその電話もできず、いろいろウダウダ考えている様子も、とても共感できた。
そこへ、おしゃべりうさぎがやってくる。「わたし、おもいきり、口ぶえ、ふいたの、きこえた?」
という問いかけに対する、だんまりうさぎの心情の描写がとても素敵だ。

p.26
「だんまりうさぎは、ううんと、くびをふって、じぶんは、そのころ、でんわのことばかり、かんがえていたんだなと、すこし、はずかしくなりました。」

このあと、だんまりうさぎが作ったおいしいシチューをふたりで食べる描写もとても暖かい。

最後の話は、だんまりうさぎが、おしゃべりうさぎにプロポーズする話。
おしゃべりうさぎのために、ステキな椅子を作り、電話ではなく、手紙で想いを伝えるあたりが、本当に素晴らしい。

とても心暖まるステキな作品だった。
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だんまりうさぎ と おほしさま [文学 日本 安房直子]


だんまりうさぎとおほしさま (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)

だんまりうさぎとおほしさま (だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2018/05/23
  • メディア: 単行本



だんまりうさぎシリーズの3作目。
夜、星を見上げながら、あるものを育てるだんまりうさぎ。その様子を見ていたおしゃべりうさぎは、何が出来るか興味津々。しばらくして、小豆(あずき)を育てていると知ったおしゃべりうさぎは、それを使ってスイーツをたくさん作ることを提案する。
でも、おしゃべりうさぎが小豆を育てていた目的は・・・。相変わらず心暖まるお話。しかも、やはり普通は食いしん坊=男、地道にコツコツ=女、といったジェンダー・バイアスを壊しているあたりが本当に素晴らしい。
二作目の、ふたりでお祭りに行き、わたあめを食べて次の日の朝までひたすら踊る話もとっても素敵だ。
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だんまりうさぎ と きいろいかさ [文学 日本 安房直子]


だんまりうさぎときいろいかさ (安房直子名作童話)

だんまりうさぎときいろいかさ (安房直子名作童話)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2017/05/24
  • メディア: 単行本



だんまりうさぎシリーズ第二作を読み終わった。
雨ばかりの毎日で退屈していただんまりうさぎは、おしゃべりうさぎに会いに行きたくなる。しかしかさがボロボロ。そこで、黄色いレインコートを分解し黄色い傘を手作りし、おしゃべりうさぎに会いに行くことに。最後は[ハート][雨][ハート]傘でだんまりうさぎの家まで戻り、ふたりで大きなホットケーキを作ってふたりで食べて幸せを感じる。
二つ目のお話は、おしゃべりうさぎがだんまりうさぎをピクニックに誘い、次の日にすべての用意を整えおしゃべりうさぎは、だんまりうさぎの家にやってくる。しかし庭仕事をしたいだんまりうさぎは断る。そこでおしゃべりうさぎはだんまりうさぎの庭仕事を手伝うことに。ふたりでたくさんの大根を引っこ抜き、最後はおしゃべりうさぎがピクニックのために作ってきたお弁当をふたりで美味しくいただくことに。

どちらも心がほっこり暖まる話。

この第二作目もとっても良かった。
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だんまりうさぎ と おしゃべりうさぎ [文学 日本 安房直子]


だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ (安房直子名作絵童話)

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ (安房直子名作絵童話)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2015/12/01
  • メディア: 単行本



安房直子という作家は前から気にはなっていたのだが、あまり読む機会もなくまともに読んでこなかった。図書館で偶然この本を見つけ、読みやすそうなので借りてみた。

大自然の中で一生懸命働くだんまりうさぎ。彼はしゃべったり歌ったりせず、友達もいない。自分の畑で取れた美味しい野菜を誰かに分けてあげたいと思うが、あげる友達がいないのだ。悶々としていると、スカートをはいたうさぎがやってくる。おもちと何かを交換して欲しいと言われるが、だんまりうさぎはうまく話せない。しかし、そのスカートをはいたおしゃべりうさぎの色々と話をしてくれるおかげで、どんどん仲良くなって、一緒にご飯を食べる。そして二人は仲良くなる。

だんまりうさぎは、自分の誕生日に大きなかぼちゃケーキをつくる。あまりにも大きいので招待状を8枚作るが、招待できる人は、おしゃべりうさぎしかいない。そこでおしゃべりうさぎに、全部の招待状を渡し、誰かを招待してくれるよう頼む。おしゃべりうさぎは、色々な動物を招待してくれてみんなでおいしいケーキを食べるが、最後までだんまりうさぎは今日が自分の誕生日だということは言わない。

この作品、非常に深い作品だ。まずは、色々なことに関して、「男性がリードしていくべきだ」という考えにchallengeしている。はっきりとだんまりうさぎ=男、おしゃべりうさぎ=女とは書かれていないが、描写からそれはある程度読み取れる。

さらに、最近は自分の意見をはっきり人前で発表できることばかりを評価する教育になってしまっているが、そういうことが得意ではなく、心の中でじっくり考え、自分の中で熟成させている子供たくさんいるのだ。そういう子供に、「そのままの自分でいいんだよ」と優しく伝えてくれる本でもある。

とても心が温かくなる本だった。
あまり有名な本ではないのかもしれないが、ぜひ多くの人に読んでもらいたい本だ。
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