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キッチン [文学 日本 Modern]


キッチン

キッチン

  • 作者: 吉本ばなな
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/10/26
  • メディア: Kindle版



名作として海外でも知られる吉本ばななの『キッチン』を読み終わった。
私は平成14年に発行された文庫版で読んだのだが、そのあとがきに次のようにある。
「この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。
  中略
 私の実感していた「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。~中略~ もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのには不可能ではない。」

この「あとがき」、私はすごく共感した。自分が何かを意図して行った発言が、違う形で受容される。例えば、自分が批判対象に上げているような人たちから共感される。Bruce Springsteenの「Born in the USA」も、極右派の政治家達を批判した作品だが、その人たちによって利用されたというのと同じ論理だ。

恐らく吉本ばななが言っている感受性の強さを持った人は、この世において少数なのだ。しかしその感受性の強さを持った人の心の痛みをわからない人たちが、吉本ばななのこの作品を受け入れることには何らかの暴力性がある。つまり、自分が人を傷つけていることを理解していないのに、理解した気になってそういった人々と接することになるのだ。

しかし吉本ばななは次のように続ける。

「必要としない人まで読んでくれてしまったことにおおらかな喜びを感じる許容量はとてもなかったのだと思う。
  ~中略~
 あれだけ読んでもらったんだから、ひとつの役目は果たした。もうあとは自由に、自分の好きなようにやっていいんだ」

文学作品はどのように読まれようと自由だ。だからこそ、吉本ばななもそれを徐々に受け入れられたのだと思う。

基本的には「死」というものがテーマにあり、身近な人の「死」に直面したとき、人はなかなかそこから立ち直れない。しかし日々は続いていく。お腹は空くし、眠らなくては生きていけないし、働かなくては生活できないし・・・。どんなにつらいことがあっても、そしてそうしたつらいことにたいして人一倍何かを感じてしまう人でも、いつかは日常性を取り戻す。それを教えてくれる作品。

確かに優しい雰囲気に満ちた作品ではあるし、魅了あふれる作品ではあるのだが、私の深い所に触れる作品ではなかった。

あまり関係ないのだが、有川浩『植物図鑑』、綿矢りさ『かわいそうだね』といった作品はこの『キッチン」にかなり影響されて作られた作品なのではないかと、読みながら思ってしまった。
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腹を空かせた勇者ども [文学 日本 Modern]


文藝 2021年春季号

文藝 2021年春季号

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/01/07
  • メディア: 雑誌



先週くらいに読んだ、雑誌『文藝』2021秋号の「狩りをやめない賢者ども」の前の話があることを知り、早速図書館で借りて読んだ。

主人公玲奈が何故筋トレをせっせとやっているのか、お母さんが実際どのような仕事をしていて、団体行動や反知性的な存在に対して嫌悪感を持っていること、コンビニバイトのイーイーとの関係性など色々謎だったことが解明できてよかった。

まっすぐでとても優しい中学生玲奈の人柄がとてもよかった。そして新型コロナ・ウィルスによる差別問題、それ以外の差別問題などもテーマとして取り上げられており、様々な人々の心の問題なども細かに描かれており本当に面白かった。

ぜひ文庫化して欲しい作品だ。
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狩りをやめない賢者ども [文学 日本 Modern]


文藝 2021年秋季号

文藝 2021年秋季号

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/07/07
  • メディア: 雑誌



東京新聞の書評欄みたいなところで、今年発表された戦争に関する文学作品の紹介文章の最後に、この作品も紹介されており、興味を持ち、図書館で借りて読んでみた。

金原ひとみはいままで一冊も読んだことがなく、綿矢りさと同時に芥川賞を受賞したということ以外何も情報はなかった。

文体はかなり淡々としており、女子中学生が主人公の作品ということもあり、イマドキの言葉も多用されており、ちょっと理解できない単語等も少なからずあったが、全体としてはとても面白かった。

女子高に通うイマドキ感満載の、ネットゲームを友達と楽しみ、バスケ部に所属し、家では筋トレなどにも励む中学三年生の女の子玲奈が主人公。恐らく2021年のコロナ禍での4~6月くらいを想定した作品なのであろう。彼女の両親がまた面白く、母親はバリバリのキャリアウーマンながら、家事もしっかりこなし一人娘をこよなく愛する人。しかしかなりの読書家でかなり知性があり、娘に対しても全く遠慮することなく社会に対する冷静なモノのみたかを教えながら会話をする。この母親かなり自分に近い感覚を持っており共感できる人だった。そして彼女は不倫をしており、そのことを知っていながら普通に生活しているやる気のない父親。この家庭の不安定ながらも安定している感じが面白かった。

人と人は根本の部分で分かり合えないこと。しかしその分かり合えなさを認めた上で人と人は関係を築いていくべきであること。他にも様々なテーマが散りばめられており、中学生高校生くらいの子どもが共感しながら深く物を考えるにはうってつけの素晴らしい作品だと思った。

p.273
「人は変わっていく生き物だよ。~中略~人は常に今の自分を否定し続けアップデートし続けていく生き物だよ。逆に言えば、常に自分を疑い続け、理想を追求し続けられる存在とも言えるわけだけど、人間には一貫性があると思い込んでる人が一定数いるこの社会では、過去の発言や行動を覆しようのない証拠として押さえられ、リンチされる可能性を極力軽減したほうがいいに決まってる。」

ネットに色々なことを投稿する娘に言った母親の言葉。かなりの箴言だ。

p.277
「人の考え方、価値観、生き方はそれぞれ違う。だから人が良かれと思ってしたことが相手を苦しめたり、傷つけたりするのはよくあることだよ。玲奈が思ってるよりも人と人とは違うし、人と人とは理解し合えない。まずはその前提に立たないとね。」

この前提に多くの人が立てばもう少し世の中良い方向へ行く気がする。

テーマがありすぎてうまく要約できないがかなり素晴らしい作品だと思う。
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東京プリズン [文学 日本 Modern]


東京プリズン

東京プリズン

  • 作者: 赤坂真理
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: Kindle版



私の卒論のテーマは、「戦争責任」であった。そして当然天皇Hirohitoは戦争責任についても色々と考えた。この『東京プリズン』はHirohitoの戦争責任を小説の中でテーマとして取り上げ、しかもアメリカの中に主人公を置くという面白い視点を提示している作品ということで数年前から興味はあったのだが、読めずにいた。

作者の赤坂真理さんは、芥川賞候補にも何度かなっているらしく、まさに芥川賞系統と言える、かなり読みづらい文体だった。現在洋書でフォークナーを読んでいるのだが、フォークナーや、南米作家バルガス=リョサのような、時代を行ったり来たりし、エピソードを積み重ねることで全体像を提示していく感じが興味深くはあった。

一つひとつ語られることは面白く、特に日本人がどんなに英語圏で暮らそうとも越えられない、直解の壁については非常に共感するところが多かった。特に数字のをパッと認識できないというところだったり、漢字でイメージしていたものが英語になると全然違う意味を帯びてきたり、作者自身がこの日本語⇔英語の体験の中で様々な苦労や体験をしているんだろうなあということがわかった。特に主人公の名前が「赤坂真理」というところにもそれが現れているように思われる。

この作品は、確かに見た目は「天皇の戦争責任」をテーマにしているのだろうが、本当のテーマは「天皇を免罪にしたことによる戦後日本の混沌状態、精神的病」というものなのだろうと思う。

敗北の理由を、「圧倒的な物量の差」とする日本人が多い。そして物量は仕方のなさを説明するには一番いい。それは諦めやすいからだ。だから日本人はなんでも数字に置き換えるようになった。数字が大きいほうが価値、それが価値、というような考えを主人公が持つp289の描写は圧巻だった。さらに、A級戦犯等のA,B,Cは罪の重さではなく、単なる種類の違いなんだということを、恥ずかしながらこの小説を読んで初めて知った。

「ヘラジカを猟で殺し食する」ということを通奏低音にして物語を展開していったり、興味深い部分が多い小説ではあったのだが、ファンタジー的な感じや、話があっちこっち飛んでしまうところがイマイチ入り込めなかったし、薀蓄があまりにも多く読んでいて嫌になってしまった。

そこまで人にオススメしたい作品ではない。
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ののはな通信 [文学 日本 Modern]


ののはな通信 (角川文庫)

ののはな通信 (角川文庫)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15
  • メディア: Kindle版



角川文庫の夏のオススメ「カドフェス2021」に紹介されていた本。三浦しをん作の面白そうな本だったので図書館で借りて読んでみた。

普通小説だと時代設定などがぼかされていることが多いのだが、(例えば198×のような)これは年代がはっきりと明示されており、その時代時代に実際起きたことがかなり小説に影響を与えている。特に最後の部分はかなり密接な関係性を持っている。

簡単に言えば、「のの」と「はな」の二人の女子高に通う女の子の手紙やメモのやり取りから始まり、大学に行った後の手紙のやり取り、約20年後のe-mailでのやり取りと、時代にあった二人の通信が一冊の本になっている。客観的な語りのような部分は一切なく、二人のやり取りだけで構成されているのがすごい。『若きウェルテルの悩み』を彷彿とさせる。

高校生の頃の仲の良い友達関係から、恋人関係になる心理描写が素晴らしかったのだが、このテンションで最後まで話を持っていけるのかと読みながら思っていた(結構厚い本で、第一部は全体の三分の一くらいか)。

恋人関係から友達関係になり、そしてかけがえのない存在へとなっていく過程が非常に細やかに描かれている。「あとがき」で辻村深月氏も書いているのだが、これは女と女の関係だから出来ることのような気がする。男女が実際に肉体関係を結んだら絶対にこのようなまさにプラトン・イックな関係に向上していかないだろうなあと思うのだ。

前半は甘酸っぱい禁断の恋愛もの、後半は思いもかけないような社会的なシリアスな展開になっていくストーリは、ドイツの現代的古典のような作品になったシュリンク作『朗読者』を思わせた。

正直、すらすら読めるという感じではなかったが、結構惹きつけられた。

おそらく三浦しをんがこの箇所のこの言葉を書きたいがために、この作品を構想し作ったんだろうなあと思った箇所を紹介して終わりたい。

p.498
「真に社会を変革し、人の心を打ってきたのは、実ははるか昔から、常識はずれな言動だったのではないかとも思う。古い考え方や規範に縛られていた人々の魂を解放し、「自由」の意味を更新し続けてきたのは、「突拍子もない」と評されるような行いをするひとだったのではないでしょうか。
 そう考えると、「誇り」という言葉が浮かんできます。ちっぽけな体面や、地位や名誉を守りたいがための自尊心とはまったく無縁な、もっと根源的な「誇り」です。真にひとを突き動かし、ひとの心を打つのは、金品や安寧ではなく、「誇り」に基づく選択や言動なのだと思えてなりません。」

この間読んだ、『図書館戦争』にもつながる思想だと思う。
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舟を編む [文学 日本 Modern]


舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/03/13
  • メディア: Kindle版



何年前だったろうか、仕事の関係で、『舟を編む』の映画の試写会に行った。正直、あらすじなどを見てもつまらなそうだなあ、と思っていたのだが、観たあとは感動の嵐であった。ひとつのことに真剣に取り組む人々のドラマにひき込まれてしまった。


舟を編む 通常版 [DVD]

舟を編む 通常版 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: DVD



それからずっと原作を読みたいと思っていたのだが、うちにある積読状態の本たちを片付けなければならない年月が続いたので(今も続いていなくはない…)読めなかった。
遂にうちにある、読んでいない文庫がなくなったので、図書館で借りて読んだ。

映画とは比べ物にならないくらい感動してしまった。映画は当然だが主人公の馬締光也にスポットが当てられている感じなのだが、本の中では登場人物たちそれぞれにスポットがあたっており、それぞれの心の悩み、成長が丁寧に描かれている。

「言葉」に対する思いや、「言葉」というものの大切さ、権威や権力と「言葉」の関係、「心」と「言葉」の関係など様々な視点で色々なことが描かれており、本当に笑ったり感動したり考えさせられたりしながら読んだ。

最後は読んでいて涙が止まらなかった。

『風が強く吹いている』を読んだ時も感じたが、ちょっとあざといくらいに登場人物たちの心のドラマを描き、読者を感動に導こうとしているのが読んでいてわかるのだが、それが重松清のような嫌味な感じがないのが良い。

とても面白く、まだまだ純粋な中高生にはぜひ読んでもらいたい。
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持続可能な魂の利用 [文学 日本 Modern]


持続可能な魂の利用

持続可能な魂の利用

  • 作者: 松田青子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: Kindle版



東京新聞の書評で紹介されていた本で、非常に面白そうだったので、図書館で予約し読んでみた。

「おじさん」と呼ばれる、女性に対して蔑視的な態度をとるとともに、女性を肉体を持ったものとしかみない、人々が支配する日本に違和感をもつ女性たちの連帯を描いた作品。最後は爽快感に溢れている。

p100に「おじさん」の定義がある。

 学校、職場、どこにいっても「おじさん」がいた。
 人生は、ある意味「おじさん」への知見を深める場だった。瞬時に「おじさん」かどうかを判断できるほどには、日本の女性は「おじさん」の性質に詳しかった。「おじさん」が気づいているよりもずっと、「おじさん」はわかられていた。

 一つ、「おじさん」に見た目は関係ない。だが、見た目で判別がつくことは確かに多い。特に目つき。特に、口元。座り方もたらしない。

 一つ、「おじさん」は話しはじめたらすぐにわかる。

 一つ、どれだけ本人が「おじさん」であることを隠そうとしても無駄な努力である。どこかで必ず化けの皮が剥がれる。けれど、「おじさん」であることを隠そうとする「おじさん」は実はそんなにいない。「おじさん」はなぜか自分に自信を持っている。

 一つ、「おじさん」に年齢は関係ない。いくら若くたって、もう内側に「おじさん」を搭載している場合もある。上の世代の「おじさん」が順当に死に絶えれば、「おじさん」が絶滅するというわけにはいかない。絶望的な事実。

 一つ、「おじさん」の中には、女性もいる。この社会は、女性にも「おじさん」になるよう推奨している。「おじさん」並の働きをする女性は、「おじさん」から褒め称えられ、評価される。

 非常に、うまい定義だ。こんなに権力と金と色欲にまみれた日本社会の恥部にいて偉そうにしている人々を描写したものはあまりないのではないだろうか。私の仕事場にも沢山こういった類の人間はいる。こういう人たちは、自分のことを批判されても、決して自分を変えようとはしない。自分が絶対に正しいと思っているのだ。昔、「オバタリアン」という「おばさん」化した女性たちを揶揄したテレビ番組が流行っていたが、こんどはこの「おじさん」をテーマにしたテレビ番組を作ってみて欲しい。しかし結局作られはしない。なぜならテレビ番組を作っている人間たちが「おじさん」ばかりだからだ。

 とにかく「おじさん」だらけの日本をひっくり返すことに成功した、非常に痛快な物語となっている。確かに夢物語なのであるが、是非ともこの日本社会から「おじさん」が少しでも消え、「おじさん」こそが生きづらい世の中になって欲しい。

そして自分も「おじさん」化しないように気をつけたいと思う。
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宮口しづえ童話全集2 ゲンと不動明王 [文学 日本 Modern]


宮口しづえ童話全集〈2〉ゲンと不動明王 (1979年)

宮口しづえ童話全集〈2〉ゲンと不動明王 (1979年)

  • 作者: 宮口 しづえ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/10/13
  • メディア: -



宮口しづえ童話全集2『ゲンと不動明王』を読み終わった。彼女の作品の中では一番有名で、代表作と言われているらしく、映画かもされているらしい。

おっちゃんと、ゲンとイズミが、本当の親子関係にあるのかどうかが、イマイチ初めはわからず、途中で、ゲンがほかのお寺の子供として引き取られていくのだが、それがなぜなのかもイマイチわからず。

同じ長野出身の、島崎藤村の流れを組む作家のようだが、正直あまり物語の世界に入り込めなかった。西洋の『大草原の小さな家』や『赤毛のアン』なども同じような系統の作品なのかもしれないが、開放感、思想的深さがやはり全然違う気がする。なんとなく暗く、スケールが小さい感じで残念な作品だった。
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宮口しづえ童話全集1 ミノスケのスキー帽 [文学 日本 Modern]


宮口しづえ童話全集 1 ミノスケのスキー帽

宮口しづえ童話全集 1 ミノスケのスキー帽

  • 作者: 宮口しづえ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/10/01
  • メディア: 単行本



安房直子さんが、対談で絶賛していた、宮口しづえの本を読んでみた。
長野出身ということで、ところどころ方言なども出てくる。昔の田舎の暮らしを描いた作品が多く、のんびりした印象。正直、こういった作品は個人的にはあまり面白いと思わない。

最後に収録されていた「弟」と教員と生徒のこころのふれあいを描いた「塩川先生」は若干面白くなくはなかったが、同じような主題で描かれた作品のほうが遥かに面白いのではと思ってしまった。

安房直子推奨ということで読んではみたが、若干残念な感じだった。
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カレーライス 教室で出会った重松清 [文学 日本 Modern]


カレーライス 教室で出会った重松清 (新潮文庫)

カレーライス 教室で出会った重松清 (新潮文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 文庫



最近、小学校の教科書で取り上げられる作家の作品にはまっている。あまんきみこ、安房直子もそうした関係で読み始めた。
そして、新潮文庫夏の100冊にこの本『カレーライス 教室で出会った重松清』がラインアップされているのを知り、買おうかどうか相当悩んだ末購入した。

全体的に、うまくまとまっており、確かに教科書で取り上げられるには良い作品なのだろうと思った。結構いじめなども真正面から取り上げており、これを教室で全員で読んだ際、教師はどのような授業を展開するのだろうかと少し心配になってしまった。

この人は、転校、吃音、全く違う性格を持った二人の友情、というものを根本的な小説テーマにしているんだろうなあ、と感じた。小学生の多くが悩むようなテーマを取り上げたものが多く、ストーリーにわかりやすく読みやすい。小学生が読むには確かに適した作品群だと感じた。

とはいえ、やはり私にとっては少し鼻につく感じで、この人のほかの作品を、短編にしろ、長編にしろ読んでみたいとは思わなかった。

ただ、ひとつ、とても心に残ったフレーズがあるので紹介して終わりたい。

p.212
「わたしは、一緒にいなくても寂しくない相手のこと、友だちって思うけど」

これは、非常に良い言葉だし、昔からずっと思っていた言葉だ。これは恋人関係にも言える。いつも会っているから友だち・恋人なんだろうか。いつも会いたいから友だち・恋人なのだろうか。心のどこかでつながっているからこそ本当の友だち・恋人なんじゃないだろうか、と思う。

とはいえ、やはり親しい人とは会って話がしたいとは思う。しかし、関係性があまりにも密接すぎて、会うことが目的なのか、心を通わすことが目的なのかわからなくなっている人が多い気がするのだ。SNSなどによってこの傾向は増している気がする。

人間関係の意味をもう一度考え直す時代になっているのではないだろうか。
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小説 四月は君の嘘 6人のエチュード [文学 日本 Modern]


小説 四月は君の嘘 6人のエチュード

小説 四月は君の嘘 6人のエチュード

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: 単行本



前にも書いたが、私はほとんど漫画を読まないし、保有していない。蔵書数が恐らく1000冊を超える中、漫画の蔵書は50冊に満たないと思われる。
一応自分の中の整理という点も含め、今あげてみたい。
①『あさきゆめみし』 全13巻
②『はだしのゲン』  全10巻
③『漫画日本の歴史』 全15巻
④『ベルサイユのばら』全5巻
⑤『オルフェウスの窓』全10巻
⑥『風の谷のナウシカ』全7巻
⑦『4月は君の嘘』   全11巻

他にも多少はあるので、50冊は嘘だった。とはいえ、100冊はないだろう。そう考えると、蔵書も2000冊くらいは実はあるのかもしれない・・・。

と話が逸れてしまったが、私の数少ない漫画蔵書の中に『4月は君の嘘』がある。これは、『ベルサイユのばら』と同等もしくは、それ以上の私の漫画愛読書。この作品の小説版があるのは知っていたが、著者も漫画版と違うし、と読まずにいた。

最近、次男をお昼寝させるために、図書館に自転車で連れていき、本をそこで借り、帰り道自転車をこぎながら眠りにつかせる、という手法を用いている。そのためほぼ毎日図書館に行き、新しい本を借りている。私は借りる必要がないのだが、次男の中では、「自分の本=5冊、父の本=1冊」という規定概念があるらしく、「今日は自分の分は何借りるの?」といつも聞かれ、棚を見まわしたらこの本が偶然置いてあったので、簡単に読めそうだし借りて読んだ。

内容としては、
1、宮園かをり
2、相座 武士
3、井川 絵見
4、澤部 椿
5、渡 亮太
6、宮園かをり
の視点から主人公「有馬 公生」を語る内容になっている。
特に、澤部椿の章は、公生の母親の死の部分が多くを占めており、読んでいて胸が締め付けられた。

この作品を読むと、それぞれの登場人物の心の模様が手に取るようにわかり、やはり小説というものは優れた形なんだな、と改めて思った。

公生とかをりが結ばれないまま終わる、この漫画、本当に悲しいが、物語とはこのようなものであり、そうだからこそ名作なのであろう。また漫画が読みたくなってしまった。
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すべてがFになる [文学 日本 Modern]


すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/12/11
  • メディア: 文庫



『すべてがFになる』を読み終わった。この本も仕事としてでなければ決して読まなかったであろう。
作者の森氏は元名古屋大学工学部の助教授だったらしく、ところどころ理系的な話しが出てくる。理系小説と呼ばれているらしい。

とはいえ、ストーリーは面白く、アガサ・クリスティーのようなテンポの速さ、犯人のわからなさ、以外さがあり、ミステリー作品としては良くできていると思う。が、何となく自分は物語の世界に入り込めなかった。湊かなえや宮部みゆきなどは、まだ現代世界、生活の中で起こりうる感じのミステリーになってて、それなりに感情移入が出来るのだが、結構この作品は非現実的な感じで、厳しかった。

密室殺人の種明かしも非情に数学的で、16進法なども出てきて、自分の理解を大きく超えた感じだった。

登場人物の西之園萌絵など、それなりに面白いキャラクターも出てくるのだが、やはりもう一歩だった。
このシリーズは10巻あるらしく、他にも様々なシリーズがあるようだが、おそらく読まないだろう。

中高時代であればもう少し楽しめたのかもしれない(アガサ・クリスティーにはまったように)。
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風の歌を聴け [文学 日本 Modern]


風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫



村上春樹の『風の歌を聴け』を読み終わった。
『1Q84』『ノルウェーの森』を読み、もう村上春樹は読まない、と思っていたのだが、仕事上読まざるを得なくなり読んだ。とはいえ、他の作品と違い、セックスシーンもなく、面白い、と多くの人に聞いたのでそれなりに楽しみにして読んだ。

が・・・。

根本の思想のところは変わらない、ということがわかった。
確かに露骨な性交を描いた場面はなかった。が、何人の女と今までにセックスしただの、ある期間に何回セックスしただの、といった内容が多々出てきた。
前にもかいたが、結局この人は男女関係を肉体的な交わりを伴ったもの以外では見られないのだと思った。そして、主要人物ではないが、理由がわからなくて死ぬ人間も多く出てくる。この人にとって「理由がわからない死」というものも大きなテーマなんだろうと思う。

村上春樹の作品はしばしば、「喪失感」という言葉で叙述されることが多い。が、その「喪失感」がただあるだけで、そこから何の発展性も見られない。

そして、この人得意の知識のひけらかしも多々見られた。ビーチボーイズやボブ・ディランが出てきたり、ベートーヴェンのピアノ協奏曲が出てきたりするのだが、ボブ・ディランは「ナッシュビル・スカイライン」というマイナーなアルバム、ベートーヴェンも5番の「皇帝」ではなく、3番という若干渋めの選択。どちらも若干マイナーだけど、通好み、という感じをいかにも狙っていてかなりあざといきがする。さらに、ベートーヴェンの演奏家を選択するときに、バックハウスかグールドがあがり、最終的にグールドを主人公は選択するのだが、この作品が描いた時代、1960~70年代、この2人以外の名盤も他にもあっただろうと思われるのだが・・・。とにかくお洒落感をひけらかしていていやだ。

私の思考が浅いのだとは思うが、人々が、この人の作品のどこに惹かれ、何を面白いと思うのか、さっぱりわからない。彼がノーベル賞を受賞する日は来るのだろうか。
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海峡の光 [文学 日本 Modern]


海峡の光 (新潮文庫)

海峡の光 (新潮文庫)

  • 作者: 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/02/29
  • メディア: 文庫



辻仁成著『海峡の光』を読み終わった。

私は、お洒落な雰囲気を醸し出している文学作家というのか文学作品というのかわからないが、そういった類のものがあまり好きではない。だから村上春樹も昨年までは、話題にはなるので、少し読んでみようかなとは思うが、実際読んでみることはしなかった。森絵都や江國香織、そしてこの辻仁成も、自分の中ではそうした作家だった。

が、読まざるを得ない状況に追い込まれ、とりあえず読んだ。この作家、この『海峡の光』で芥川賞をとったらしい。

テーマは、「いじめ」と「罪」。勧善懲悪的な感じもなく、物語を完結させないで、様々な問題提起をしているという意味で、短いがとても良い作品だった。

村上春樹と違って、文体からきざな感じが全く伝わってこなかったので、とても良かった。
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釈迦 [文学 日本 Modern]


釈迦 (新潮文庫)

釈迦 (新潮文庫)

  • 作者: 瀬戸内 寂聴
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10/28
  • メディア: 文庫



瀬戸内寂聴の『釈迦』を読み終わった。
私はこの瀬戸内寂聴という人があまり好きではない。何となく押し付けがましい気がするし、色々経験してきた結果話しているこの私の言葉は重いでしょ、みたいな雰囲気が言葉の端々に感じられてとても嫌だった。

ということもあり、この人の作品は始めて読んだ。

とっても面白かった。釈迦のそばで25年間働いたアーナンダを一人称とし、釈迦の死の直前から死までを描いた作品なのだが、そこに様々なエピソードを交え、釈迦の一生がわかる、という構成になっている。
女性が描いた作品だけに、女性に対する視点もとても温かく、釈迦の一生がわかる、という意味でも、小説という意味でも、とても面白い作品だった。

風が強く吹いている [文学 日本 Modern]


風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/06/27
  • メディア: 文庫



『風が強く吹いている』を読み終わった。
箱根駅伝を描いた作品ということは知っており、陸上をやっていた関係で、何回か勧められた経験はあったのだが、いまいち読む気がせず、ずっと読まずにいた。

今回仕事で読まざるをえなかったので読んだのだが、とってもとってもよかった。

とにかくひとつひとつの描写が素晴らしく、電車の中で読みながら何度も何度も涙してしまった。

自分も中高大学とずっと陸上部に所属していた。短距離だったので、ここで描かれている長距離ランナーとは少し違うのではあるが、共感できるところが多かった。
中学高校時代よく友人に「走るだけの何がおもしろいの」「走るの好きなの」と何度も聞かれた。べつに走ること自体が面白いわけではない。走るのが好きなわけではない。しかし10年以上、陸上競技を続けてきた。
その間、「走る」とは何なのか、という問いに対する答えは出なかった。そして今も出ていない。

どんなスポーツでも同じだと思うが、上を見ればキリがない。オリンピックで金メダルを取ったとしても、それで満足するということはない。どこかでやはりさらに上を、何かの課題がみつかりその課題を超えていかなくては、と思ってしまう。

つまりスポーツとは自分との戦いなのだ。そして神に選ばれし優れた才能の持ち主ではなくても、そのスポーツのすばらしさの中に入ることはできる。真剣に取り組む人間だけが許される世界へ。結局真剣に取り組んでいない人間にはその世界がわからない。逆に真剣に取り組んだ人間であれば、それがオリンピックレベルであろうが、街のマラソン大会レベルであろうが、その世界にいるということは同じことなのだ。

とにかく「真剣に取り組む」「自分を超えていく」「仲間と素晴らしい瞬間を共有する」ということの美しさを、これでもか、とばかりに見せてくれる本当に素晴らしい作品だった。

『舟を編む』といい、何かに一途に取り組むことの素晴らしさを読者に見せてくれる作家だと思う。機会があれば他作品も読んでみたい。

桐島、部活やめるってよ [文学 日本 Modern]


桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

  • 作者: 朝井 リョウ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫



仕事の関係で、『桐島、部活やめるってよ』を読むことになった。
この軽そうなタイトル、世間でもてはやされていること、などから全く読む気がしなかったのだが、読まざるを得なかったので読んだ。

正直、はじめは、よく分からない描写が多く、かなり読み飛ばす感じになった。章毎に登場人物を変え、色んな角度から物事が捉えられ、物語が進んでいくのだが、これは結構日本の文学では使い古された手法な気がする。さらに、色々な角度から物事が見られるのだが、結局事象の確信に迫っていくことはなく、あまり重層的な感じがしない。タイトルから受けるとおりかなりサラッとした感じで終始物語は展開していく。

この作品は「スクール・カースト」つまり、格好いい男・かわいい女、運動が出来る男、男から好かれる女=上位カースト、暗い目立たない男・女=下位カーストといったものがテーマだと書いてあるものが多い。そしてその通りの内容だった。
このスクール・カースト最上位にいる、運動神経抜群だがクラブ活動は適当で、そのキャプテンに「試合だけでも出てくれ」と頼まれ、女にはモテモテという、格好いい男が、スクール・カースト最下位にいる映画部の、自分の夢・やりたいことにひたむきな男を、見て、心を入れ替えクラブに専念する、という結末。

正直くだらない。

恐らくこの作者は、田舎の学校でスクール・カースト上位の方にいた男なのだろう。正直、そうした人間が、「上から目線」で描いた、「カースト下位者達への賛歌」のような雰囲気で、読んでいる最中・読後もかなり嫌な感じだった。

物語としてもたいしたことがないし、細部もうまく描けていない。女子達の感情がよく描けているというが、これもスクール・カースト上位の男が色んな女と接している中で、感じ・知った女性の感情を描いたものに過ぎない。圧倒的にスクール・カースト下位の男女の心理描写がお粗末なのだ。

かなり残念な作品だった。

ノルウェーの森 下 [文学 日本 Modern]


ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: ペーパーバック



『ノルウェーの森』下巻を読み終わった。
途中からページをめくるスピードがどんどん速くなっていった。ページをめくる手を止められなくなった・・・。

と、書くと、途中からどんどん面白くなっていったかのような印象だが、まったく逆。『1Q84』と同じだ。後半からあまりにもつまらなく、話が冗長で、読む価値の無いような表現ばかりが連なっていたので、どんどん読み飛ばしてしまった。

『1Q84』でも感じたことなのだが、村上春樹という人は男女間の関係性を肉体関係という観点でしか考えられないのだろうか。もちろん、性的なもの、というのは人間が生きていくうえで、人間の精神にとって大きいものであることは否定はしないが、この人の本を読んでいると(まだ2冊しか読んでいないが・・・)、肉体関係でしか男女間の関係は成立しないように思えてしまう。

この本の中には色々な人物が登場し、色々な人物が自殺するのだが、前にも書いたが自殺するまでの心の動き、何故自殺したのか、ということの仄めかしすらほとんどない。そして周りにいる人間たちも、自殺した人間の心に寄り添うことをしようとしない。それぞれがそれぞれ勝手に考え勝手に生きているだけなのだ。

現代人はそういうもので、そういう現代人の心を小説の中で描き出している、という肯定的な捉え方も出来るかもしれない。しかし、そうはとうてい思えないのだ。これも前に書いたが、この本の中には様々な文学作品や音楽作品が出てくるが、まったく話の筋の中で、そこに登場させる必然性を感じないのだ。

もしかしたら私の頭が悪く、関連性を見抜けない鈍感な人間なのかもしれないが・・・。

等身大の現代人を描いている、などと称されているが、まったく等身大なんかではない。この人の描く人間にまったく魅力を感じないし、親近感を覚えない。

現代の日本人のどれほど多くの人間が、この人の書く作品を、本当に面白いとおもって読んでいるのだろうか。日本人特有の、「周りが面白いといっているから」というレベルで読み、たいしてチャント読んでもいないのに面白いとうそぶいているだけではないのだろうか。
たいしておいしくも無い料理店に、テレビや雑誌で騒がれているからという理由で、長蛇の列を作り、たいしておいしくも無いのに、「おいしい、おいしい」とのいっている人々と同じにおいを感じるのだが・・・。

ノルウェーの森 上 [文学 日本 Modern]


ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: ペーパーバック



超有名作村上春樹作『ノルウェーの森』を読んだ。

まだ上巻を読みおわったっだけだが、読後の感想は・・・。
正直、あれだけ騒がれた『1Q84』を読み、これはどうしようもない駄作だと思った。こんなのが何百万部も売れる意味がわからない。そして海外の人々に受け入れられる意味が。
様々な大きな事件の渦に主人公を巻き込みながら、何も解決せず、謎解きもせずに、終わる。何なんだろうと思った。

そして、この『ノルウェーの森』も同じにおいを感じる。
特に心に大きな傷を負っているわけではないが(高校時代親友のキズキが自殺してしまったことは確かに心の傷なのだろうが、彼はその前から孤独を好んだ人生を送っている)、人との接触をなるべく避けて生きている主人公ワタナベ君。彼の高校時代の親友キズキの恋人だった直子。大学の「演劇史Ⅱ」で知り合いになった緑。直子の病院の同室レイコ。
それぞれが、何らかの形で一般の世間、普通に生きている人々との折り合いがつけられず、何となく心が不安定な状態にある。そしてお互いがお互いを助け合いながら生きている、といった感じで話は進むのだが・・・。

文学は少数者、弱者に光を当てる、という側面が少なからずあると思う。しかし、村上春樹は弱者・少数者に光を当てているように見せかけて、自分の博識をひけらかし、男性優位主義、女性蔑視、弱者蔑視思想をうまく、やわらかく包み、隠し、面白くみえる文学に見せているだけのような気がする。

『1Q84』も『ノルウェーの森』も主人公たちに全く共感できないし、彼らの心的世界に入り込めないのである。とにかく性に奔放であり、愛の無い性行為を、さも正しいかのように描くのが好きなようだが、こういったあたりも読んでいて気分が悪い。ポップス、ジャズ、クラシック、様々なジャンルの音楽をストーリーの中に登場させるのだが、それぞれにあまり意味を感じないのだ。

私の身の回りに、村上春樹好きな人がいるのだが、彼らはだいたい決まって、知識が広くて浅い。そして「何となく格好良い」と思われるものにすぐ飛びつき、何が良いのかを滔々と述べるのだが、正直良くわからない。この村上春樹の小説、登場人物そっくりなのだ。まさしく、マックス・ウェーバーが言っていた「精神なき専門人」だ。

この本の中には、世界の古典本が出てきたりするのだが、それが『 』だったり「 」だったりする。この辺ももしかしたらわざとやっているのかも知れないが、何となくあほっぽい。
さらにこの人は何冊も翻訳本を出しているのだが、目を疑う英語表現が冒頭に出てくる。
ドイツ人のスチュワーデス(フライトアテンダント)と主人公の会話。

p8.
「大丈夫です、ありがとう。ちょっと哀しくなっただけだから」
とワタナベが心配してくれた彼女に伝えるのだが、その後の彼女の発言をわざわざ英語で書いているのだ。
が・・・。
「Well, I fee same way, same thing, ~」
・・・・・・・・
これ、本当はI feel the same way, じゃないんだろうか。多くの英語の本を読んできたが、sameの前にtheがないものを見たことがない。
とはいえ、私の英語の知識などたいしたものではないので、同僚のNativeや帰国子女の先生に聞いてみたがみなthe same wayだと答えた。

まあ、ドイツ人が話す英語だからわざと間違えさせたのだろうが・・・。

せっかく読み始めたので、全部読むが、正直村上春樹の「俺、お洒落で格好良いだろう」という思想が、そして彼の差別的思想が、似非ヒューマニズムが垣間見える作品で嫌な気持ちだ。

ソロモンの偽証 6 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: 文庫



『ソロモンの偽証』を完読。
素晴らしかった。4巻~5巻くらいで何となく予想していた事件の真相はだいたいその通りであった。

しかし、最後の弁護人神原の最終弁論は素晴らしかった。裁判を扱った文学作品は数多い。裁判というものは事実を明らかにする、という感情をなるべく廃して行われるべきものなのであろうが、それは人間が行うことなのでそこに必ず感情が入る。この微妙なバランスが本当に面白い。検事、弁護人、陪審員、判事、廷吏、すべての生徒たちの感情を細かく描き、一つの法廷を作り上げた、この作品、本当に傑作だと思う。

物語の最後は、これで良いの?と思うほどあっさりなのだが、文庫版につけられた、彼らの(というより藤野涼子)の20年後を描いた『負の方程式』という作品で私のもやもやは無くなった。正直話としてはそんなに面白いものではないのだが、この二人が恋人同士になって欲しい、と願った二人がちゃんと結婚しているのだ。

私は、『ソロモンの偽証』の最後の部分で、藤野涼子が彼に告白する、という形で終わって欲しいとずっと願ってこの作品を読んでいたので、『ソロモンの偽証』単体で考えると、少し残念なのだが、この『負の方程式』でモヤモヤ感がすっきしりた。

本当に面白かった。

ソロモンの偽証 5 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: 文庫



『ソロモンの偽証』第5巻を読み終わった。
いよいよ生徒による学校内裁判が始まった。お互いが調べた様々な新しい事実がどんどんと出てきて、面白い。そしてその裁判の様子を、様々な人物の視点から、順番に語らせる、という手法もとても面白い。
とにかく、検事・藤野涼子と弁護人・神原和彦の対決がおもしろいのだが、色々な人物の視点から語らさせることにより、普通では目が行かないであろうところにまで物語を広げている。
読み進めるうちに、何となく結末がわかってきた気がする。「ソロモン」の偽証という題名と絡めるとそういうことなんだろうなあと想像している。
その想像と大きく異なる結末を迎えるのか、今から最終巻が楽しみだ。

ソロモンの偽証 4 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/27
  • メディア: 文庫



『ソロモンの偽証』4巻を読み終わった。
何のために、学校内裁判をやるのか、よくわからなかったが、学校内裁判に関わっている当の生徒たちも手探り状態でやっているっぽく、現実離れしたストーリー展開も、かなり説得力のある感じになっている。

検事:藤野涼子、弁護人:神原和彦、をはじめとし、一人一人の性格も見事に描き分けられており、すべてがクラスにいそうな雰囲気を醸し出しており、本当に面白い。

さらにこの巻では、今回の事件と関係の有りそうで、関係のなさそうな事件が、次々と起き、周りの様々な大人を巻き込みながら話が進んでいく。

あとは裁判を描いた2冊を残すのみだ。非常に楽しみだ。

ソロモンの偽証 3 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/27
  • メディア: 文庫



遂に、生徒たちが自分たちで、学校内で起こった殺人事件の裁判をすることを決意した。
今まで、かなりリアリティがあった物語だったのだが、主人公藤野涼子が、「自分たちでこの殺人事件の真相を明らかにしたい」と決意し、両親に相談するあたりから、若干リアリティが欠けてきて、つまんなくなってくるかなあ、と思いながら読んでいるうちに、再びどんどん引き込まれた。

「実際、こんなふうにことは進展していかないだろう」と思いながらも、一人ひとりの内面を丁寧に描いているので、段々と普通のことのように読めるようになっていく。文化祭のようなありもしない事件の模擬裁判よりはよっぽどリアリティがあるのかもしれない。

そして、いままでほとんど描かれることがなかった、担任教諭森内先生の内面も少しずつ明らかにされていくあたりも面白い。

まだまだ先が楽しみな本だ。

ソロモンの偽証 2 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫



『ソロモンの偽証 2』を読み終わった。
生徒の自殺(他殺?)の件を巡り、メディアが色々と騒ぎ立てることで、さらなる事件が次々と起こる。

様々な人物の視点で語られるので、とても長いのだが、全く飽きない。そしておそらく主人公であろう藤野涼子がとても魅力的だ。こんな良く出来た女子中学生がいるのか、と思わせるとてもいい子であるのだが、何故彼女がここまで良い子なのかを、読者に納得させるよう、素晴らしい家庭環境を用意している。

これから先第二部に入り、さらに物語が展開していくようだ。

本当に面白い。

ソロモンの偽証 1 [文学 日本 Modern]


ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫



宮部みゆき作品に手を出してみた。

流行・人気作家ということで、一度は読んでみたいなあと思いながらも、手を出さなかった作家の一人。彼女の作品は膨大で、どれから読もうかと、いろいろあらすじを見ていて一番面白そうだったこの作品。
湊かなえの『高校入試』『告白』と同じように、学校が舞台の物語。やはり自分は学園モノに惹かれる傾向があるのか・・・。

ある雪の日に死んだ、中学生の死、をめぐってストーリーは展開されていく。
1巻は、この事件から始まり、周りの様々な人間たちの、家庭環境から性格描写までがこと細かに語られていく。かなりの量の登場人物が出てくるのだが、名前が特徴的だからなのか、一人ひとりの個性が立っているからなのかよくわからないが、「あれ、これ誰だっったけ?」と前に戻って確認する作業がほとんど必要ない。結構これは日本語だろうが英語だろうが珍しい。
一人ひとりの登場人物が、「こういう奴いるいる」という感じで、その人物たちの悩みなども妙にリアルで、確かにこういう環境で育ち、こういう性格なら、こういう悩みを抱くだろうなあ、という悩みを抱いており、すごく共感できる。

さすがに、人気作家だけあり面白い。6巻とかなりの長編だが、飽きずに読めそうだ。

さまよう刀 [文学 日本 Modern]


さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫



東野圭吾作『さまよう刀』を読み終わった。

強姦された娘の父親が、その犯人たちに復讐する物語。
犯人の2人以外の登場人物の心理描写がとても綿密で、ストーリー展開も良く、「復讐殺人」というテーマについて深く考えさせられる内容になっている。

被害者の家族、加害者の家族、マスコミ、大衆、ここまでであれば、「復讐殺人」ということに対して抱く感情としてよく取り上げられるが、この本で面白いのが、そのことに関して捜査する警察官の一人ひとりがどう考えているか、ということを細かく描いているところだ。

題名の「さまよう刀」というのもおそらく警察のことをさせているのだと思う。

そして最後の結末はこれ以外、読者を満足させる結末は無いだろうというくらい完璧な結末になっている(と個人的には思う)。

非常に面白かった。
もう一冊、有名な『百夜行』を読んでみても良いかな、と思った。

告白 [文学 日本 Modern]


告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫



湊かなえのデビュー作(?)、『告白』を読み終わった。
多くの人に薦められて読んだ『高校入試』がもう一歩だったのであまり期待せずに読み始めたのも良かったのかもしれないが、かなり楽しめた。

はじめの、先生の一人語りの部分が特に面白く引き込まれた。なんでもない話から入り、事件の核心にせまり、最後に落とす。この最初の一生だけでも一つの作品として成り立つのではないかと思うほど、この部分は素晴らしいと思う。

担任の先生の娘を殺した犯人を探していく話なのかと思っていたが、犯人ははじめの1章でもうわかっており、この事件に関して、先生・犯人・犯人の家族がどのように捉えているのかということが各章で語られていく。まあよくある手法といえばそれまでだが、この多角的なアプローチは読んでいてとても面白かった。

テーマは、それぞれの「心の中にある正義」ということなのだろう。登場人物それぞれが何らかの心の闇を抱えており、その心の闇を抱えることになった環境・背景もさりげないながらも丁寧に描かれており、彼らがもつ独自の正義感・考え方が、様々な行き違いから悲劇へと収斂していくさまが手に取るようにわかる仕組みになっている。

皆が皆自分が「善い」と信じることを行っているのだが、その行為の一つ一つが周りの「常識的」な考えからみると「異常」な行動なのだ。が、本当にその周りの「常識的」な考えが常識なのか、ということにも疑問を投げつけている作品といえる。

確かにこれは傑作だった。

高校入試 [文学 日本 Modern]


高校入試 (角川文庫)

高校入試 (角川文庫)

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/10
  • メディア: 文庫



村上春樹に続いて近年話題の作家、湊かなえさんの作品を読んでみた。
生徒たちが何人も私に勧めてくるので、取り合えず、読んでみようと思い読み始めた。
時間の流れに沿って、登場人物たちのそれぞれの視点から話が進み、そこにネットでの実況中継が混じってくる。形式としては面白い。しかし、イマイチ内容が空虚で、最後の結論のようなところも、高校入試の杜撰さ、教育業界の事勿れ主義を批判しているんだろうが、今一歩な気がした。まあ教員をやっているからそう思うのかもしれないが・・・。

人に勧められるほどは面白くなかった。

1Q84 [文学 日本 Modern]


1Q84 BOOK1-3 文庫 全6巻 完結セット (新潮文庫)

1Q84 BOOK1-3 文庫 全6巻 完結セット (新潮文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/05/28
  • メディア: 文庫



家にある読むべき手ごろな和書がなくなり、何を読もうかなあ、と考えていたところ、職場で村上春樹が話題となり、せっかくなので村上春樹でも読んでみるか、と思った。

せっかくなので有名作を、ということで、公立の図書館で、『ノルウェーの森』『風の歌を聴け』を探したが全部借りられており、『1Q84』を借りることにした。
本当は一冊読み終わるごとに感想を書いていこうと思っていたが、出張やらなんらやあり、最後まで読みきってしまった。

感想だが、う~ん、いまいち。

はじめは、主人公「青豆」と「天吾」という二人の視点を1章ずつ変えていくと形態や、話の展開なども面白かったのだが、4巻を過ぎたあたりから急激につまらなくなってきてしまった。
主人公青豆と天吾が二人の意図とは関係なく、「さきがけ」という宗教団体と関わってしまうようになる。そして色々な人が関わってくるのだが、結局最後は、青豆と天吾が結ばれて終わり、そのほかのことは何にも解決せず、ほったらかしで終わる。
「1984」から「1Q84」という架空の世界に入り込んでしまった二人が、最後に現実の「1984」に戻ってハッピーエンドで終わる、というファンタジー小説で、ファンタジーの部分はファンタジーなので解決させる必要が無い、といってしまえばそれまでなのだが、結局その宗教団体「さきがけ」の描写も中途半端だし、すべてが中途半端。「読者にその後の部分は委ねている」と主張する人もいるかもしれないが、それであれば、天吾と青豆の最後の部分も委ねるべきであろう。
色々なクラシック音楽やロック音楽が登場するのだが、その曲をそこに登場させる意味をあまり感じない。ただ「俺はこんないろいろ知っているんだぜ」と知識をひけらかしているようにしか見えない。

と色々書いたが、それなりには楽しかった。しかし、こんなのが「ノーベル文学賞」候補なの、と思ってしまった。一作品読んで、判断を下すのは申し訳ないので、もう少し読んでみようとは思う。

いちご同盟 [文学 日本 Modern]


いちご同盟 (集英社文庫)

いちご同盟 (集英社文庫)

  • 作者: 三田 誠広
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1991/10/18
  • メディア: 文庫



いつだったか、『四月は君の嘘』という漫画がアニメ化された当時、その広告に目を惹かれ、このアニメ・漫画に興味を持った。色々調べてはみたが、漫画を全巻買ったり、DVDを全巻購入するほどではなく、そのまま放っておいた。

今年の夏、『四月は君の嘘』が実写映画化された。もちろん観てはいないがまた少し興味が出てきた。この作品は三田誠広という芥川賞作家の『いちご同盟』という小説へのオマージュ作品だということは前から知っており、今、読む和書もないので、せっかくなので薄いし読んでみようということになった。

正直・・・。この作品は映画化もされたらしいが、まったく面白くなかった。
将来プロになれるのではと期待されている、野球部の徹也、その幼馴染で重い病気にかかり片足を切断し、病院に入院している直美、徹也の同級生で音楽科の高校に進もうか迷い、自殺に興味がある良一。徹也に誘われ直美をお見舞いに来た良一に、なぜか直美は恋心を抱く。その後数回数回良一は直美を見舞うのだが、ほとんど会話は交わされない。しかしお互い強く心を惹かれあっていく。そして直美は良一に「私と心中しない」と問いかける。が、その後二人は何も心中めいたこともしないし、二人の関係はほとんど発展していかない。

最後に直美は良一に「しぬほどすき」と言うのだが、そこまでの恋心に発展するまでの二人の内的な部分がまったく描かれていないため、まったく共感できない。最後に直美のお父さんが良一に語りかける場面があり、そこで二人ともナイーヴな性格であり、そこが惹かれあったところなのだろう、ということを示唆するのだが、しかしそれでも全く感情移入できない。
すご~く薄っぺらい感じのさらっとした小説で、正直残念だった。
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