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獄中からの手紙 [哲学書]


獄中からの手紙 (岩波文庫)

獄中からの手紙 (岩波文庫)

  • 作者: ローザ・ルクセンブルク
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/05/17
  • メディア: 文庫



ローザ・ルクセンブルクの『獄中からの手紙』を読み終わった。
ローザ・ルクセンブルクは興味があるものの、彼女の書いたものは基本的に経済系のものばかりで、なかなか読む機会がなかった。今回、岩波文庫からこの『獄中からの手紙』が復刊され、手紙ということで読みやすいだろうということ、さらに100ページ強で短いということもあり買って読んでみた。

革命を指揮した共産主義者、マルクス主義者の獄中からの手紙なので、さぞかし政治的・思想的に深い内容の込められた手紙ばかりなのだろうと思っていたのだが、ほとんど政治的・思想的な内容は含まれていなかった。まあ、当然看守の検閲等があるのだから、そんなに深い内容を手紙に記すことも出来ないのだろうが・・・。

手紙の送り先は、同士カール・リープクネヒトの妻ゾフィー。二人はとても仲が良かったことが手紙の端々から伝わってくる。
手紙の中身は、獄中で感じた自然の美しさを描写したものがほとんどで、あとは、彼女の好きな詩や文学作品を送ってくださいと依頼するもので文章が埋められている。もちろん、同士の誰々が捕まったこと、殺されたことなどが若干触れられたりするが、そうしたことにあまり気を揉まないようにというようなことをひたすらゾフィーには伝えている。
獄中の中で他にやることがなく、自然に目を向けるしかなかったということも当然あるのであろうが、とても自然に対する視線が優しく、細やかで、革命を指揮した女性というイメージとはほど遠い。次の文章などは、彼女の優しさ、心の美しさを示している箇所といえるだろう。

pp..34~35
「きのうは、ちょうどドイツの国から啼く小鳥達が姿を消していく原因に関するところを読みました。それは、合理的な森林管理法や、造園術や、それからまた農業技術などが次第に普及するようになったからであって、これらが進歩するにつれて、かれらが自然の中に求めていた巣ごもりや餌の諸条件~(中略)~が次々と奪われていく結果になったのです。これを読んだとき、わたしは我慢が出来ぬほど悲しくなりました。~(中略)~かれらは、まさしく一歩一歩、文明人の手によってその生まれ故郷から追い出され、無言のうちに陰惨な境遇へ陥ち込んでしまったのです。」

そして興味深い、人間、社会に対する冷静な視点も紹介したい。
p.48
「二万年あまりはつづいているとみてよい人類の全文化史は、物質的諸条件のうちに深い根をはっている「人間によるほかの人間に対する支配」を基盤として成り立っているのですよ。これを変革するのには、さらにいまひとつの、苦悩に満ちた発展を遂げなければなりません。」

ローザがなくなってから約100年。結局、「人間によるほかの人間に対する支配」は変革されないまま、人間は発展を遂げられないままだ。

期待していた内容とは大きく違っていたが、とても心洗われる美しい作品だった。
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