能・文楽・歌舞伎 [学術書]
ドナルド・キーン著『能・文楽・歌舞伎』を読み終わった。この3つの日本の伝統芸能を体系的に、対比などさせながら論じたものなのかと思っていたが、それぞれが別個に書かれたり、講演されたりしたものを、一つの本にしたものだったらしい。
とはいえ、一つ一つの章が非常に面白く、とても細かく調べ上げてあり、勉強になる面が多くあった。
ドナルド・キーンが非常に熱い思いでそれぞれの良さを論じているのだが、それを読んでもやはり「能」だけは面白いとは思えない。台本を見ながら出ないと理解が出来ないほど不明瞭かつ難解な台詞。感情を表に出さない演技、登場人物達の葛藤・対立などがない設定など、現代演劇の感覚からするとありえないような要素がこの「能」の本質らしい。やはり無理な気がする・・・。
一方、「文楽」は非常に面白そうである。分かりやすい台本、計算しつくされた人形の動き、太夫と呼ばれる朗読者の読み方など、現代演劇とは違った様々な面白さが秘められており、こちらは一度は見てみたい。
とにかく西洋の文化で育った著者による、日本の伝統芸能論だけあり、西洋の様々なものとの比較がふんだんにあり、理解がかなり深まった気がする。そして、p145~にもあるように、伝統を重んじながらも、非合理・不条理なあり方に対しては積極的に疑問を呈している部分も素晴らしい。世襲制(生まれ)によって役柄が決められてしまったり、楽師が板の間にじっと座り続けなければならないことにたいして、「やがて能力のあるものにすべての役柄が開かれることが必要となるかも知れず、さらに地謡の者のためにもより楽な坐り方が必要となろう。(p.146)」と言っている。
日本の伝統を愛しながらも、客観的にこうしたものを見られる人物の貴重な意見といえるだろう。
日本のスポーツ界、政治界、他様々なくだらない不条理・非合理な伝統を保持している団体はこの本を読んで、様々なことを考え、積極的に改革していくべきであろう。
2018-11-16 07:19
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