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制作 下 [文学 フランス ゾラ]


制作 (下) (岩波文庫)

制作 (下) (岩波文庫)

  • 作者: エミール・ゾラ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/16
  • メディア: 文庫



ゾラの『制作』を読み終わった。

ゾラ作品は読んでいて嫌になってくる作品が多い。私のあまり好きでない道徳的退廃、不道徳な性関係などが描かれているということもある。

しかしよくよく何が嫌になってくるのかと考えたとき、人間誰でもが恐らく持っているだろう、人間の暗部(欲望・安きに流れる心)を描きつくしているところが、彼の作品から目を背けたたくなる要因なのではないかと考えた。

今回のこの『制作』も下巻になるとどんどん暗くなっていく。若い希望に満ちた芸術家たちも世俗的な成功を求めて、それぞれが理想を捨てていき、安きに流れていく。青春時代を懐かしみながらも、理想を追い続ける人間をバカにするようになる。結局金を求めて運動するようになる。主人公クロード以外は多かれ少なかれこの流れに巻き込まれる。

しかし、主人公クロードだけは、芸術に埋没していく。しかし芸術に埋没することで、彼を愛してくれている妻クリスティーヌもほったらかしにしてしまう。

この作品は、純粋さを求めたあまり心が崩壊していく芸術家の暗部を描いているという意味で、他の『居酒屋』や『ナナ』とは異質の作品といえる。そして、暗部を描いているとはいえ、根底に純粋さがあり、彼の最も近き存在である妻クリスティーヌも一途に彼を愛し続けるということに、この作品の希望があり、美しさがある。

終始暗いが最後が希望にあふれている『ジェルミナール』ほど、読後感がすっきししたものではない。
しかし、なんとなく希望が持てるエンディングであることは間違いない。

19世紀のフランスの芸術界の暗部を描いているこの作品、色々な側面から楽しめる作品となっている。

最後に印象的な一節を紹介したい。

p.320
「彼は幸せものだ」ボングランが言った。「土の中で眠っているいまは、絵を描かなくてもいいんだ。・・・・・・われわれみたいに、いつもどこかに欠陥があり生命力のない作品を産み出すことにあくせくしているよりも、死んだ方がずっとましだよ」

生きることは苦悩の連続だ。
それを芸術家の言葉を借りて語ったこの言葉、非常に深い。
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