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岸辺のヤービ [文学 日本 梨木香歩]


岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)

岸辺のヤービ (福音館創作童話シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: ハードカバー



『岸辺のヤービ』を読み終わった。
一年くらい前、妻が購入したが、全然読まないので、もったいないので自分が読んだ。
舞台は恐らくイギリスをイメージしているのだろう。イギリスの大自然の中にある寄宿学校の先生と、その近くの湖沼に住むネズミのような、妖精のような小さい生物の話。

主人公(と言えるのかわからないが)、このストーリーの語り手の寄宿学校の先生が、夏休みボートに乗って本を静かに読んでいるところから、もう既に私好みの雰囲気。小さい生物たちがクラス模様を映描いている点で、ムーミンの世界観にも似ているが、ムーミンには人間たちは登場しないが、このヤービのお話には、「大きい人」という呼ばれ方で人間たちが登場する。彼らの世界に人間たちを登場させることで、人間が地球・自然に対しどれだけ自分勝手なことをしてしまっているのか、ということを際立たせている。その点、ムーミンは非常に抽象的な、言葉を通して、暗に人間を風刺しているので、わかりづらい。どちらかといえばわかりやすい物語が好きな私はこの『ヤービ』はとても良かった。

幸せに、色々なバランスの中で生活している、動物や妖精たちが、人間たちの生活のために、自分たちの住んでいる場所をだんだんと奪われ、生きるすべを奪われていく。生き物が生き物を食べることの罪深さのようなものもテーマとして描かれており、非常に考えさせられる作品となっている。

人間たちのために、自分たちの住む場所を変えざるを得ないような状況に追い込まれたヤービ族がどうすべきか、話している最後の場面が非常に印象的だった。

p.215
「わたしたちは、マッドガイド・ウォーター・ヤービです。ここをかんたんに見すてることはできない。できるところまで、やりくりして、なんとかやっていくしかない」
p.219
「でもぼくはやっぱり、マッドガイド・ウォーターを出たくないんです。だって、生まれてからずっと、ここにいたんだもの」

何か大変な事態が起こったとき、それをただ単に回避するのではなく、現状を改善した上で、善後策を講じることが重要なのではないだろうか。

人間の自分勝手さ、そして現状を変えようとする不断の意志、など色々なことが心に響く作品だった。

続巻もあるので、楽しみだ。
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