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七つの夜 [文学 その他]


七つの夜 (岩波文庫)

七つの夜 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/05/18
  • メディア: 文庫



ボルヘスの四作目。
これはブエノスアイレスで行われた講演集らしい。耳だけで話しを聞く人を対象にしているため、他作品に比べわかりやすい文章となっており、はじめてかなり楽しめた作品と言える。基本は、文学を語っているのだが、やはり彼のテーマは
1.世界は、時間や空間を統合した一つの文学である。
2.世界は、無限である。(神さまよりも前に、神さまを作った神さまがいて、その前にもその神さまを作った……)
3.文学は、物語として、そのもののストーリーを楽しむべきだ。

①ダンテの『新曲』から講演は始まる。ダンテの新曲は色々と解釈がされたり、アレゴリーを探したりされる作品ではあるが、とにかくストーリーとして面白い、というもの。私も初めて『新曲』を読んだときはイマイチわからなかったが、もう一度読んでみたくなった。
②『悪夢』もおもしろい。デカルト的な、いま自分が夢を見ているのか、現実なのかはわからない。そもそも世界全体で時間や空間を超えた存在がこの世界を捉えたとき、我々が生きていること自体が夢なのかもしれない。
③『千夜一夜物語』も刺激的だった。西洋と東洋の文化対比から始まり、口承伝統の尊さ、そしてオリジナリティの問題にも踏み込んでいる。
④『仏教』は確かに興味深くはあった。だが、彼が褒めている、日本の禅宗の、頽廃ぶりひどさを日々目にしている自分としてはイマイチ納得できない部分が多かった。そしてやはり仏陀はどうなんだろう???という感じがしてしまった。
⑤『詩について』は世界の文学・詩を様々に論じたもの。「読者の数だけ聖書がある」「図書館とは魔法にかかった魂をたくさん並べた魔法の部屋である」「私たちがそれ(本)を開くとき、本がその読者に出会うとき、初めて美学というものが生じます。そしてその同じ本は同じ読者に対してさえ変化する、何かを加えることができるのです」ということばは心に残った。
⑥『カバラ』はイマイチよくわからなかったが、口承伝承は、文字伝承よりも優れている、というのは共感する。我々は文字にして形あるものにしてしまうと、どうしてもそれが間違って解釈される可能性がある。というより、⑤にもあるとおり、読み手の数だけ解釈が生まれてしまう。そうした意味で、その場その場での対話の大切さというものが引き立つ。孔子、ソクラテス、イエス・キリスト皆、自分では文字として何かを残そうとはしなかった。それは直感的に文字文化の恐ろしさを知っていたからなのだろう。
⑦『盲目について』も興味深かった。我々は盲目の人は、黒の世界の中にいると思いがちだが、その世界はじつは、緑、青色がかっていること。そして目が見えないことで開ける世界があるということが語られていて結構刺激になった。

全体としてわかりやすい論理展開ではなく、読みやすくはないが、彼の思想がほか作品よりも見えやすく、彼の文学への愛が非常に伝わってきて良かった。
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