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鯨小学校 [文学 日本 松谷みよ子]


鯨小学校―おじさんの話 (偕成社の創作)

鯨小学校―おじさんの話 (偕成社の創作)

  • 作者: 松谷 みよ子
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2021/10/01
  • メディア: 単行本



「松谷みよ子」と言えば、赤ちゃん絵本『いないいないばあ』で有名だ。


いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)

いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)

  • 出版社/メーカー: 童心社
  • 発売日: 2021/10/01
  • メディア: 単行本



そしてあまり知られていないかもしれないが、民話の収集でも有名な人で、木下順二が作った「民話の会」の会員でもあった。松谷みよ子著、日本昔話みたいな本も、気づいていないが結構多くの人が読んでいるのではないだろうか。

ママお話きかせて 1 生きる力を育てるお話編 (松谷みよ子 かたりの昔話)

ママお話きかせて 1 生きる力を育てるお話編 (松谷みよ子 かたりの昔話)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/03/01
  • メディア: 大型本



そんな松谷みよ子が創作した『鯨小学校』。
おじさんが、こどもに、色々な話をしてあげる、という体裁をとった物語集。様々な民話や口承伝承の物語が収められており、小学校での読み聞かせや、夜の読み聞かせなどにもぴったりの作品だと思う。本当におもしろい話ばかりなのだが、恐らくこの本は絶版。安房直子、立原えりか作品などもそうなのだが、物語としても面白いしすごく心暖まる話ばかりなのに、瞬間的にパッと惹きつけるような派手さがないためにあまり売れずに市場から消えていってしまうのであろう。この辺に現代日本の精神の貧困さが見て取れる気がする。

全29話からなる。

1.「鯨小学校」
タイトルになっているだけあり、かなり面白い。出だしも素敵だ。
「おじさんの話ならおもしろい。ほんとうかうそか、わからないけれど、そこがおもしろい。」
科学一辺倒の現代、ほんとうかうそか、わからないからこそ面白いというこの感覚はきっと受けないのであろう。鯨の夫婦が信州の「小海」という場所をめがけてやってくる。鯨の夫婦は、そこが小さい海だと思ってやってきたのだ、という話。そうした話からはじまり、鯨が大量に浜にやってきて、彼らは皆海に帰れず、そのままその鯨たちで金を大量に設けた村人たちが、その金で鯨小学校という学校を立てた話で終わる。

他にも昔話にはよく出てくる、「てんぐ」「きつね」などが登場する話や、洪水から村を救った琵琶法師の話なども出てくる。

8.「くちびるをぬう」
この話は結構重い話。貧乏な家の娘が病気になる。病気の娘に白いコメと小豆を食べさせてやりたくて父親がそれらを盗む。すっかり良くなった娘は、元気になって小豆を食べられたことを元気に歌う。それによって父親は殺される。それから娘はすっかり喋らなくなってしまう。「沈黙は金かどうか」ということを考えさせる作品。おじさんがぼくに言った、次の一節が結構重い。

p.442
「おまえさんはまだ生まれていなかったから知るまいが、戦争はいやだ、と、ただそれだけいっただけで、牢屋にぶちこまれたもんだ。そんなときの沈黙は、金といえるだろうか」

ほかのも「おおかみ」の話、「いのしし」の話、「くま」の話なども出てくる。

11.「銀の矢、くるみの木の矢」
これも強烈な話だ。くるみを食べている僕に、おじさんは、くるみの皮は毒だから気をつけろ、という。そして毒を海に流し、魚を取る地方がある話になり、そこからイタイイタイ病の話になる。恐らく当時かなり問題になっていたのであろう。

13. 「からすの話」
これはいつか絵本で同じような話を読んだのだが、太平洋戦争中アジアに出征して現地で戦死してしまった人たちを弔うために黒い喪服を来たカラスたちが大量に飛んでいく話。かなり心が痛む作品だ。

他にも「かっぱ」の話、「貧乏神」の話なども出てくる。当時流行していたのであろう「ネッシー」の話なども面白い。

23. 「ゆうれい」
これは、広島、長崎など原爆によって死んでしまった人々が歳をとることなく幽霊として現れることを悼んだ作品。

雪女の話なども出てくる。

様々な昔話特有の動物や伝説上の生き物を登場させるとともに、戦争・社会問題も織り込んだこの本。かなりの名著だと思う。先にも書いたが、こうした良本はもっと市場に出回るべきだと思うのだが・・・。
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