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りえ覚書 [文学 日本 松谷みよ子]


松谷みよ子の本 (第7巻) 小説・評論

松谷みよ子の本 (第7巻) 小説・評論

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/02/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



語り手が結核病院で出会って仲良くなった、津田りえという人の生まれてから初潮を迎えるまでの波乱万丈の人生を描いた作品。

戦前に生まれ、母親をなくし、父親が三度も妻を変え、祖母に引き取られ、満州に行き、そこで様々な体験をし、これから戦争も体験し大変なことになりそうだ、というところで終わる。

結構大変な人生が語られるのだが、淡々とした若干ユーモアのある語り口調なためかあまり暗さや辛さを感じさせない明るい雰囲気の作品。最後の方で反戦的な部分もあり、それなりに考えさせられる作品となっている。

p.349
「いわゆる盧溝橋事件といわれるこの事件の発端は、北京の郊外に駐屯していた日本軍が夜半、夜間演習を行ったが、終了後突然小銃の音がした。不安を感じた隊長がすぐさま点呼を命じると、兵した一人行方不明になっていた。
 それを理由に郡は行動をおこして、盧溝橋を占領したのである。
 もちろん中国側も応戦し、交戦が始まったが、その時にはすでに行方不明の兵士の所在はあきらかになっていたのである。兵士は用をたすために隊列をはなれたにすぎなかったのだ。
 だがこうした歴史の糸目は、血で彩られ、人間の平和な生活がくだけ去ったあとにみえてくることがなんと多いのだろう。国民が知りうることは、中国側が発砲した、兵士が行方不明になったということであって、日本軍が実弾を携帯していたこと、相手側に通知もせず真夜中に大演習を行うことの不当さ、兵士は本当はピンピンしていた、などということは知らされない。」

p.353
「そうなのだ。中国の人たちは戦争が始まったからといって、特にりえたちに敵意のこもった眼をむけてくるわけではないのだ。」

こういう文章を読むと、日本が世界中の人々とどのように接していかなければならないのかを、考えさせられる。

それなりに興味深い作品だった。
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