完璧な病室 短編② [文学 日本 小川洋子 短編]
再読
芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」を含む同名の短編集。
1.妊娠カレンダー
2.ドミトリイ
3.夕暮れの給食室と雨のプール
初期の小川洋子さんは、当たり前に存在する食べもの、当たり前に行われている食べ物を食べるという行為に対して、問題意識を向けていたように思われる。
1は、妊娠した姉を、妹が日記形式で描写した作品。非常に冷静な視点で、姉がつわりで苦しむ様子、精神科医に対しては何故か心を開いている様子、農薬まみれのアメリカ産グレープフルーツで作ったジャムが子どもの染色体に影響を与えるかもしれないのに、モリモリ食べる姉を冷静に見つめる様子、「妊娠カレンダー」という題名から想像される愛情深く、生命に対する尊厳みたいなものを全くてテーマにしていない感じがまた面白い。
2は、犬の名前なのかと思っていたが、学生寮のこと。私営の学生寮を経営する両手と片足がない男性が病気になり動けなくなるまでを、昔この学生寮でお世話になっていた女性の視点で描いた作品。夫がスウェーデンに転勤になり、一足先に生活の用意のためにスウェーデンに行ってしまって一人残された妻の、何となく不安で晴れない心を上手く描いた作品。
3は、結婚間近だが、これまた何となく心に引っかかるものがある女性と、ある宗教の勧誘を3歳の子どもとともに行う男性の交流を描いた作品。男性が昔経験した、給食室を見たときに感じてしまったトラウマとプールの授業で経験したトラウマが最後に語られるところは何となく物悲しい。
わかりづらいテーマの作品群であり、人間の残虐な心を結構克明に描いているが、何となく暖かい気持ちになる。
2022-03-25 17:14
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