SSブログ

寡黙な死骸 みだらな弔い 短編⑥ [文学 日本 小川洋子 短編]


寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)

寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2003/03/01
  • メディア: 文庫



1.洋菓子屋の午後
何年も前に息子を失ってしまった女性がある洋菓子屋に入って自分の過去を回想する話。店に入っても店主がなかなか現れない。ふと気が付くと彼女は電話をしており、電話口で泣いている。かなりしんみりとした味わい深い作品。

2.果汁
高校時代図書館で、突然クラスの女の子から、「今度の日曜日、忙しい?」と声をかけられ、その日曜日彼女の本当の父親と三人でフランス料理を食べる話。数年後に彼は彼女に電話をかけるのだが・・・。これもかなり重いテーマなのだが、何故か読後感は悪くない。

3.老婆J
アパートの主の老婆Jと作家の女性の話。話好きでアパートに庭で家庭菜園をやっている。ある日菜園から手の形のニンジンが収穫され次から次へと出来る。最後は思いがけなく恐ろしい結末。

4.眠りの精
生みの母にすぐに死なれさみしく生きていた男の子に、10歳ぐらいの時に義理の母が出来る。彼女は控えめながらとても良いお母さんで少年と心を通わす。母は父に隠れて小説を書いている。結局数年で父は母離婚してしまいその後母と会うことはなかったのだが、母が書いていた小説が何かの賞を取り彼女のことを知る。青年になった男の子の彼女が出版社に勤めており、それによって義理の母が自殺したことを知る。そして彼女と共に母の葬儀に向かうという話。何となくしんみりと温かい雰囲気の話。

5.白衣
病院で働く二人の女性の会話で始まる。一人はマンションの508号室に住み、呼吸器内科の医師と不倫をしている。彼に離婚を迫るのだがなかなか彼は踏み切れない。そんな他愛もなさそうな会話を交わす女性二人。段々と緊張感が高まり、最後は・・・。とても予想外の最後にびっくりすると共に、本当にそういう結末?と3~4度最後の場面を読み直してしまった。

6.心臓の仮縫い
ある鞄職人の話。心臓が外に飛び出てしまった女性に、心臓を入れる鞄を作って欲しいと依頼され、それに熱中してしまう最後は・・・。という話。これも最後が意外過ぎるが、前話の流れがあったので結構あっさり受け入れられた。

7.拷問博物館
はじめの場面で、今までの話がかなり収斂されている。自分の住むマンションの上で殺人が起き、その取り調べを受けたことを、楽し気に彼に話したことで、彼に出ていかれてしまった女性の話。彼女は外へとあてもなく出ていき、そこで「拷問博物館」を見つける。そこにいた受付のおじいさんに案内され拷問博物館の中を見て回り終わる。

8.ギブスを売る人
拷問博物館にいたおじいさんの半生を、かれの甥っ子の視点で描いた作品。サギっぽいことを何度も行いながらも悪びれることなく嘘で固めた人生を送ってきた男性を描いている。こういう人いそう、と思ってしまった。

9.ベンガル虎の臨終
5の「白衣」で不倫をされた妻の視点で描いた作品。愛人に会いにいこうとするが途中で道に迷ってしまい、「拷問博物館」に迷い込み、7,8で登場した老人と会話をして終わる。

10.トマトと満月
フリーライターの男性があるホテルの紹介を雑誌にしようと、ホテルに訪れると、自分の泊まるべき部屋にある叔母さんがいる。はじめは嫌な気持ちがするが、何度も会ううちにだんだんと打ち解けてくる。彼女は、3,4で登場した女性で自称小説家。最終的には彼女の話がどこまで本当なのかわからないような感じで終わる。8の老人も含め、どこまでが本当でどこまでが嘘なのだがよくわからない。

11.毒草
体が不自由になってしまった高齢女性が、チャリティー・コンサートのパーティーで知り合った若い声楽家のパトロンになり、土曜日だけ一緒に夕食をとるという話。結局最後は自分のわがまま(?)のために若い男は自分から去っていってしまう。最後は結局どうなったの?と読者に疑問を抱かせる終わり方をしている。こちらもどこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからない話。

全体がつながりあいながら一つの作品となっており、短編作品集ながら、長編小説を読んでいる感じだった。グロテスクなものも多いが、そこまで嫌感じはせず、どこかやさしさのこもった感じが彼女らしくて良い。かなりおススメの作品。
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。