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沈黙博物館 長編⑦ [文学 日本 小川洋子 長編]


沈黙博物館 (ちくま文庫)

沈黙博物館 (ちくま文庫)

  • 作者: 小川洋子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: Kindle版



ちくま文庫から出ている長編ということで、かなり身構えて読み始めた。字もなんとなく詰まっている感じがするし、ページ数も370ページとかなりの多さなので読み進めるのに時間がかかるだろうなあと思っていたのだが、読み始めるとかなり読みやすく、初期にあったヒリヒリ感みたいなものもかなり薄れており、優しい雰囲気のある感じだった。

だが、読み進めるうちに、主人公が作ることを頼まれた博物館が死者の形見を残す博物館であり、爆発事件は起こるし、殺人事件は起こるし、ととにかく不穏な感じが常にあった。声を発しない伝道師、主人公が寝る前に読む『アンネの日記』、人が生きていたことを後世に残すためのもの、など明らかにナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人を意識した作品となっていることは間違いない。

色々な事件が起こり、色々なことがあるのだが、それぞれがつながっているのだが、様々なことが解決されないままに終わるあたりも彼女らしい。

かなり恐ろしい話なのだがどこか優しい雰囲気のある作品だった。

p.49
「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ。それがなければ、せっかくの生きた歳月の積み重ねが根底から崩れてしまうような、死の完結を永遠に阻止してしまうような何かなのだ。思い出などというおセンチな感情とは無関係。もちろん金銭的価値など論外じゃ」

p.262
「そこが大事なのさ。地味な作業を順番にこなすだけの辛抱が、皆できないんだ。」

p.363
「一体どうやって村人の肉体の証を保存したらいいんだい?僕らは足場を失って、世界の縁から滑り落ちてしまうだろうね。そして僕らがここに居た事実なんて、誰の心にも残らないんだ。誰にも収集されず、どんな博物館にも展示されず、地中のどこかに埋もれたまま朽ち果ててゆく瓦礫と同じさ。」

不可思議で深く、暖かい作品だった。
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