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目こぼし歌こぼし [文学 日本 児童書]


目こぼし歌こぼし (子どもの文学―青い海シリーズ)

目こぼし歌こぼし (子どもの文学―青い海シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 童話館出版
  • 発売日: 2015/01/01
  • メディア: 単行本



凄まじい傑作である。
平和で皆が楽しく幸せに生きていると思っているこの日本社会の暗部を「これでもか」とばかりにえぐり出した作品だ。

天皇を頂点とする、差別構造。部落差別、見て見ぬふりをする一般の人々、二枚舌を使って社会を成り立たせる政治家、とにかく日本社会をダメな社会にしているのだが、誰もメスを入れようとしない、メスを入れようとするとそれを残忍な形で潰してきた日本社会を見事にすばらしく描いている。

一応児童書ということなのかもしれないが、これは誰もが読むべき作品であり、この作品を読み、日本社会の暗部にしっかりと目を向け、是非多くの人がこの国を変える努力をして欲しいと思う。

p.46
「おまえの目と、善助の目と、どちらが確かだろう。おまえの目は、足柄七十郎というただのさむらいの目じゃ。しかしな、善助の目は、ただの下まわり、お使い番の目ではない。善助の目は、この御番所の目であり、わしの目でもあるのじゃ。ということはな、ひいては、殿さまの目でもあり、殿さまにかわって政治(まつりごと)をなさるびっきさまの目でもあるということになる。つまり、善助の目は、公の目じゃ。公の目の代表じゃ。その公の目が、何も見なかったといえば、これは、個人がいくら見たといっても、何も見なかったことになるのだぞ。」

どこかの国の、モリカケ事件のようだ。


p.118
「御番所頭というそのりっぱな肩書きを信じるだろう。世の中には、ほんとうのことよりも、見かけや肩書きを信用する人間の方が多いのだ。」

これもどこかの国の多くの人々のようだ。


p.267
「人をおさめる場合、一つの顔だけでは、なかなかうまくいきません。いかないものなんですよ。たとえば、わたしの場合ですが、わたしは代官だ。代官といえば、上手のものも、下手のものも、同じようにおそれます。どれほどおたがいに憎みあっていても、代官に対しては共通のおそれを持つものなのです。おそれを抱いているうちはいい。しかし、いつかは上手も下手も、一つになって、わたしを憎むようになりましょう。これは、政治をやるものにとっては、まずいことなのです。領内の人間を、一つにしてはなりません。一つにまとまらないようにすること。これが、政治をやるものの第一の心得です。」

グローバル化したこの世界。世界にいるたくさんの人々を支配するために考え出したのが、人を物理的に引き離す現在の・・・。


p.276
「国を守るのは、さむらいです。その国を守るということを忘れて、村人を守ろうとしたわけですな。ばかな男です。村人は国のためにあるのであって、村人自身のためにあるのではない。」

民主主義と言われる日本社会。しかし与党の中には上記のように考えている人も多いのではないだろうか。


p.290
「世の中にはね、悪人や善人しかいないと考える人もありますがね、そうじゃないんだなあ。~(中略)~ この世の中で一番多い人間は、どっちつかずの人間なのです。小人というのかな。いつも、いらいらしているか、くよくよしている人間ですよ。気が小さいといってもよい。自分一人じゃ何もできないくせに、いつも他人のやることにけちをつけている人間です。」


p.315
「国のために他人の命を犠牲にすることを七十郎は批難した。それでは、七十郎よ。おまえは、自分のために他人を絶対犠牲にしないのだろうな。それとも、国によって人間が犠牲にされることは許されないが、個人のためなら犠牲は許されるというのか。」

これはけっこう重い問いである。難しく、いろいろな状況を考えないとなかなか答えの出ない問いである。


p.328
「おれは化け物じゃないんだ。あんたと同じ人間さ。もちろん今は神さまだ。神さまだからなんでも許されるよ。そんな神さまにも、たった一つ許されないことがあるんだ。それは、ふつうの人間になることよ。それを考えると、神さまなんてつまらないものよ。」

これは明らかにある国のある制度を批判したものなのだと思う。


p.334
「世の中には、さむらいはえらくって、乞食は最低だなんて思っている人もいますが、それは大きなまちがいですな。さむらいと乞食は、まったく同じです。どちらも、自分で食いものをつくらないんですからな。つまり、他人さまのつくったものを食ってるわけでしょ。ずいぶんあつかましい商売ですよ。」

これは資本家批判なのだろう。


p.380
「それらはすべて一本の糸につながっている。そう思った。一本の糸とは、国のため、国の利益と平和のため・・・・・・という考え方である。いったい、そこまでしても守らなければならない国の利益とはなんだろうか。本当に国の値打ちというものは、一人の人間の命よりも大切なものなのだろうか。」


p.381
「わしは年とった気ちがい。それはよおわかっております。自分で、自分の狂うておることも気がつかず、自分に反対するものを気ちがい呼ばわりする人間は、どうすればいいのでございましょうな。近頃は、そう言う人がふえよりましたわい。」

この本を読み、民主制の大切さを考え、少しでも多くの人が人間的な生活ができる世の中になるよう行動できる人が増えると良いと思う。

本当に名作だと思う。
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