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人質の朗読会 長編⑭ [文学 日本 小川洋子 長編]


人質の朗読会 (中公文庫)

人質の朗読会 (中公文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/02/22
  • メディア: 文庫



再読

ある国で武装集団に人質として捕らえられてしまった日本人8人が、捕らえられている場所で、それぞれの思い出話を紙に書いて発表しあう、という設定。長編小説とは言え、短編小説としても楽しめる。

始めて読んだときは、「彼女のほか作品に比べるともう一歩の感があった」という感想を持っていたようだが、再読して結構楽しめた。

第一夜:杖(53歳女性)
小さい頃、自分の家の前に工場があり、夏休みのある日、この工場に勤める男性が公園で足を挫いてしまって困っているのを助ける。大人になって、生死をさ迷う交通事故にあった時、夢でこの助けた男性が現れ自分の足を直してくれる。目が覚めると、切断寸前だった足を切らずにすんだことがわかる。

第二夜:やまびこビスケット(61歳女性)
あまりコミュニケーション能力が高くない彼女は、「やまびこビスケット」という本当にビスケットしか売っていないお菓子メーカーに勤める。彼女は工場近くの安アパートに部屋を借りるのだが、そこの大家さんがお金にがめつく、整理整頓を信条とする女性。ある日庭で転んでいる大家さんを助けたことがきっかけで、たまに工場で売ることが出来ずはねられたビスケットを1ヶ月に一度一緒に食べるようになる。ある日、大家さんが部屋で静かに心臓発作でなくなっているのが発見される。テーブルの上には、一緒に食べた「やまびこビスケット」が並んでいた。彼女はそのビスケットをそっと持っていき、お守りにする。

第三夜:B談話室(42歳男声)
ある日、外国人が道に迷っていたので、目的地の公民館に案内してあげる。帰ろうとすると、受付に座っている女性に手招きされ、B談話室で行われる会に参加するよう促される。そこは地球から絶滅しようとしている言語を救う友の会の会合らしい。その会合に出て不思議な体験をした後も、このB談話室で開かれる不思議な会合にそっと入って時間を過ごすようになる。ある日、子どもをなくした親の会の会合で何とも言えない体験をした彼は、その体験から作家になる。

第四夜:冬眠中のヤマネ(34歳男声)
売れない寂れたメガネ屋の息子が、目医者になるよう、母親に促され、私立の中高一貫高に入る。登校中、汚く不格好な手作りの動物のぬいぐるみを売っているおじいさんの出店を見つける。一番初めに立ち寄ったときに見た「冬眠中のヤマネ」ぬいぐるみがとても印象に残っているが購入することはなかった。
ある日曜日、クラブ活動で野球の練習試合で学校に向かう途中、おじいさんがいる店の周りでがやがやしているのを見つけ行ってみると、何かのイベントがあるらしい。そこで何故か、おじいさんを背負って階段を上る競争に参加することに。競争が終了するとおじいさんは感動してしまい、自分をおぶってくれたお礼に、「冬眠中のヤマネ」をプレゼントしてくれる。彼は目医者になった今も、ずっとお守りとしてそのぬいぐるみを大事にしている。

第五夜:コンソメスープ名人(49歳男声)
父親の経営する工場で突発的な事故が起こり、その対応に母親も行かねばならず、一人でお留守番をすることになった8歳の少年の話。玄関のベルがなっても、絶対にドアを開けない、という約束をし出て行く母親。その直後に、隣の亡くなった大学教授の娘が窓をコンコンと叩いてやってくる。自分の死にそうな母親のためにコンソメスープを作りたいのだが、家のガスレンジが壊れてしまって作れないので貸してほしいということだった。少年の家でコンソメスープを作るその娘さん。それを眺める少年。途中で鍋に温度計をさして持っている役目をする少年。最終的には黄金色のスープが出来上がり、少しもらって飲む。その3日後、娘さんの母親は亡くなる。

第六夜:やり投げの青年(59歳女性)
ある貿易会社の事務員として勤める女性。彼女は夫を病気で亡くし、それ以来一人で毎日同じリズムで広やかに暮らしている。そんなある日、電車にかなり長い棒のようなものを持った青年で入ってくる。周りの客は迷惑そうに彼を見る。彼が電車を降りる手助けを、人知れず行い、そのまま彼についていく。着いた先は陸上グランド。彼は槍投げの選手だった。彼の練習を半日間見る。それ以来彼には会っていないが、その日の思い出が彼女を支えている。

第七夜:死んだおばあさん(45歳女性)
バッティングセンター、バッティングをしていた時、ある男性に「あなた、僕の死んだおばあさんにそっくりなんです。」と話しかけられる。その後何度か偶然会った時、彼の死んだおばあさんの話を聞く。いつの間にか、彼とは合わなくなる。その後7年後、いきなり止まってしまったエレベーターの中で、偶然居合わせた女性から同じように、「死んだおばあさんにそっくりなんです」と言われ、彼女のおばあさんの話を聞く。その後も何度も同じように「死んだおばあさんそっくりなんです」と言われる。しかし彼女は決しておばあさんには、なれない。彼女には自分の子供ができないからだ。

第八夜:花束(28歳男声)
ある男性用スーツ専門店で働くアルバイトの男性。彼はあまり目立つことなく仕事をしていたが、あるお客さんに贔屓にしてもらう。その人は、葬儀屋につとめており、なくなった方の棺桶に入れる、新しいスーツを選んでいく。そんなバイトの彼が、バイトを辞める日、そのお客さんが訪ねてきてくれて大きな花束をくれる。その花束から、昔の自分の忘れられないひどい思い出を思い出してしまう。最後は道端にあった死者に送られた萎れてしまった花束を、取り除き、自分がもらった大きな花束を置いていって終わる。

第九夜:ハキリアリ(22歳男声)
武装軍団の動きを知るために盗聴していた現地政府軍の兵士の話。昔暮らしていた自分の家に、フィールドワークをしていた日本人の研究者三人が来て、日本人のノーベル賞受賞スピーチをラジオで聴かせて欲しいと頼まれた時の話。

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