小鳥とばら [文学 日本 安房直子 か行]
ある春のまひる、同い年の二人の女の子がバトミントンをしていた。ひとりは背の高い大柄な子。もうひとりはやせた小さな子。大きな子が打つと、力強く跳ね返るが、小さな子が打つと、ふわりと花びらのように飛んでいく。大きな子は小さな子がしっかり打ち返さないことに対し起こりどなっていた。そのうちにバトミントンの羽が生垣の中に飛び込んでしまう。大きな子に文句を言われ、小さな子は生垣の中へ取りに行くことに。
中へ入っても簡単に羽は見つからずどんどん奥へ入っていく。ようやく見つけた羽は、なぜか一羽の小鳥となってさらに奥へと飛んでいく。小鳥を追ってどんどん中へ入っていくと、銃声がなり小鳥は撃ち落とされてしまう。そこへ少年が銃をもって現れる。彼は撃ち落とした鳥をもって、「いっしょね食べるかい?」と彼女を誘う。ばらの花びらと小鳥をパイにして一緒に焼くというのだ。彼の家まで歩いていく間、二人は話をする。その中で彼女は彼に次のようなことを言う。
「あたしねえ」
「体が小さくて、運動がへたで、気が弱くて、ほんとに、どうしようもない女の子なのよ」
これに対して少年は答える。
「いいさ、いいさ、そんな事。パイを食べれば、けろりとなおるさ」
この言葉に彼女は次のように思う。
”ああ、そうかもしれないと、少女は思います。ほんとに、そうかもしれない。ふしぎなパイを食べたら、あたし、きっとすてきな女の子になれるわ”
そして彼の家で小鳥とばらのパイをご馳走になる。食べ終わると眠くなってそのまま眠りそうになる。が、それを少年が起こす。
「眠っちゃいけない!」
「これは、母さんの魔法だよ。小鳥とばらのパイを食べて、そのまま眠ってしまった女の子は、ばらの花になってしまうんだ」
少女は急いで逃げ、生垣の外へ出る。そこで大きな女の子が待っていて羽はあったか聞くが彼女は次のように答える。
「あったわ。でも、私が食べてしまったわ」
その後彼女は友達をおいて走りさる。
最後の一文が美しすぎる。
”走りながら、小さい少女は、自分が、バラの花のようにきれいになって、小鳥のようにかるくなった事を、はっきりと感じていました。”
劣等感を持った子が、ある言葉がけ、なんてことはないあることをきっかけに劣等感を乗り越えられることを教えてくれる作品。安房直子さんも運動が苦手だったらしいが、そんな彼女のいろいろな体験からこの暖かい話は生まれているのではないだろうか。
2023-04-30 03:12
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