夏の夢 [文学 日本 安房直子 な行]
ある若者が公園のペンチで座っていると、ひとりの老人に話しかけられる。
「このごろ耳鳴りがしましてねえ」と。
よくよく聞くと、耳の中にメスのセミを入れているという。とうもろこしやの屋台をやっている若者は、老人の耳の中に入っていたセミを受け取ると自分も耳に入れてみる。すると耳の中からセミの静かな声が聞こえてきていつの間にか眠ってしまう。
「とうもろこし一本くださいな」という声が聞こえる。それは一人の少女だった。小学校五年生の時、引っ越してきて三ヶ月でまた引っ越してしまった女の子だった。彼女は言葉がしゃべれない(おし:原文ママ)子供たっだ。
ある朝、庭で水をやっているその女の子に手を振ると彼女も笑い返してくれた。彼女が話ができるようになったら良いなあと思い、外国航路から帰ってきたおじにもらった外国製のドロップをあげる。しかしその後すぐに彼女は引っ越してしまい、そのままずっと会えずじまいだった。
そんなことが思い出されているうちに、「とうもろこし、一本くださいな」という声はどんどん膨らみ、女の子の客がたくさん訪れる。男は女の子達にとうもろこしを売ろうと起き上がると、女の子たちは森の方へとうもろこしの話をしながら行ってしまう。彼女たちを追いかける男。森の奥まで追いかけていくと星のように輝く一本の木を見つける。よく見ると、木になっているのは、彼が彼女に昔あげた青いドロップ。
そしてその木の横に立つひとりの少女。彼女に話しかけると、彼女は声を出して答えてくれた。「このドロップを食べたため」に話せるようになった」と。
そしてそのまま二人は結婚式へ向かう。宴会の部屋のドアを開けると・・・。
目を覚ました若い男。さっきセミを貸してくれた老人に気がつき、よくよく見ると実は木だった。
自然と交流し、疲れてしまった心を取り戻す幻想的な話。
2023-09-21 10:24
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